56:異国へ
ボオオ……と出発の合図がなり、大きな船が出港します。
その甲板で、私とシエルは今まで暮らしていた国を見つめていました。
やはり、人間は珍しいようで。さっきからチラチラと周囲の視線を感じます。
シエルに買ってもらった可愛らしい白い帽子と、同じく白いレースのワンピースを着た私は、遠ざかる景色を見ながら、新しい居場所を見つけた他の人間達のことを考えていました。
彼等の行き先はシエルから聞いています。皆、環境の良い新しい居場所で元気にやっているとのことでした。
新しい王様の娘に引き取られたショコラは、当初は反発していたものの、最近は飼い主に懐くそぶりを見せているらしいです。
また皆に会えるといいな……
そんなことを思いながら、私は船に揺られています。
船の周囲には、カモメ……ではなく、羽の生えたタツノオトシゴのような生き物が飛び回っていました。やはり、不思議な世界です。
「ネージュ、船の中に戻る?」
「いいえ、もう少しだけ。外の景色を眺めていたいのです」
私がそう言うと、シエルは私の体が冷えないように自分の上着を掛けてくれました。
「ありがとうございます。でも、これだとシエルの体が冷えてしまいますよ」
「優しいね、ネージュは。じゃあ、こうしよう」
笑みを浮かべたシエルは私を抱きしめ、上着で自分ごと私の体をすっぽりと包み込みます。なんだか、ちょっと照れますね。
晴れて恋人同士になった私達ですが、関係は今までとあまり変わらず……たまに、シエルが唇にキスするくらいでしょうか。
でも、お互いに意識し始めたせいか、今まで平気だった全てのことにドキドキしてしまいます……現に、今も。
獣人の世界での生活は、人間にとって制限のかかる生活です。自由に外出もできないし、仕事もできない。飼い主が命綱です。
けれど、私はこの世界に来れて良かったと思っています。
シエルに出会えたから——
私はここで、もう一度人生をやり直すのです。




