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49:嵐の前触れ

 王様の容態が、また急変したようです。

 シエルの病室事件があってから、一時的に持ち直してしばらく元気に過ごしていた王様ですが……

 それから三日経った今は意識がないらしいのです。

 王様は、現在特別な病室へと移されていました。

 城の人間達も皆、不安そうな顔をしています。彼等は、王様のことが大好きですからね。

 しかし、人間は病室には入ることが出来ないので、所在無さげに外の廊下をウロウロしているしかないのです。

 私達は、今、王様の病室の外に集まっています。


「アルト……」

「陛下だって、我が儘を言ってくれればいいのに。人間達と一緒がいいって」


 以前はシエルに苦情を申し立てていたロシェが、ポツリと呟きました。


「いつもいつも、周りの獣人達のことばかり考えている。私、知っているのよ。陛下のお陰で、ここ数年は隣国との争いが必要最小限に収まっているって……」

「ロシェ」

「彼のことを「人間王」だなんて揶揄する者達もいるわ。でも、彼は獣人達にとっても良い王なのよ」


 彼女の飼い主である王様。

 やはりロシェも他の人間達と同様に、王様を愛しているようです。

 そんな彼女の後ろでは、ミエル一家が不安げに視線を交わし合っていました。


「陛下に何かあれば、私達はどうすればいいの」


 ミエルの母親であるフラジエさんが、不安そうに囁きます。

 彼女の言葉に夫のミラネさんも深く頷きました。


「……家族が離ればなれになることだけは、避けたい」


 重々しい空気が廊下を包み込んでいます。

 石造りの廊下が、更に寒々しく感じられました。



「陛下が……」

「……そんな!」

「ああ、なんということだ!」


 にわかに、病室の中が騒がしくなりました。

 獣人達が慌ただしく何やら動き回っています。

 王様の病室にいたシエルが扉の中から出てきたので、私は彼に駆け寄って尋ねました。


「王様は?」

「……」

「シエル?」

「駄目だった。医者が手を尽くしたけれど……」


 シエルの目元は少し赤くなっていました。

 病室の中で、王様となにかやり取りをしていたのでしょうか。


「では、王様は……」


 私の問いかけに、シエルは沈んだ表情で頷いたのでした。



 その日、王様が崩御されたとの知らせが、城中を駆け巡りました。

 これから、お城はどうなるのでしょうか。

 シエルは? 人間達は?


 平和で穏やかな日常が突然崩れ……

 私達ペットは、突然訪れた嵐の中で枯れ葉のように翻弄されることしか出来ませんでした。

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