47:飼い主を介抱
「ちょっと! どういうことなのよ!」
私の部屋に運び込まれたシエルを介抱していると、部屋の扉が勢い良く開かれました。
「な、何ですか……ロシェ?」
現れたのは、怒りの形相のロシェです。
柔らかい真っ赤な絨毯を踏みしめて、ズカズカと大股でこちらへ歩いてきます。
「ネージュはちょっと黙ってて! 私はあなたの飼い主に用があるの」
「えっ。シエルにですか?」
彼女は怒りの形相で、私の横を通り過ぎました。
「そうよ、あなた、どういうつもりなの!」
ロシェがシエルのベッドへ近づいて行きます。
「どうって?」
「陛下に無理をさせて……ただでさえ最近体調が悪いというのに」
どうやら先程、王様が担架で運ばれて帰って行った事に対する苦情の様です。
……御尤もなご意見。
シエルが我が儘を言って申し訳ありません。
私も、止める事が出来れば良かったのですが。
私がシエルの病室へ行った所為で、却って彼の行動を助長させてしまった様な気がします。
「あなたが騒ぎを起こした所為で、また陛下の調子が悪くなってしまったら……いくら優秀な魔法使いでネージュの彼氏だからって、そんな傍若無人な振る舞いが許されると思わないで! 陛下に何かあったら絶対に許さないんだから!」
そう言い捨てると、ロシェは出口へと走り去り、そのまま乱暴にドアを閉めて部屋を出て行ってしまいました。
……とても憤慨しています。
ロシェも王様の事を大切に思っているのですよね。私がシエルを大事に思うように。
「……彼氏」
「何やら誤解がある様ですね」
ロシェとソルは私とネージュの間柄を恋人同士だと誤解し続けています。
ちなみに、アナナさんも……。
きっと、その所為でしょう。
「ふふ、僕は嬉しいかな。ネージュの恋人だなんて」
「う、嬉しい……ですか?」
ペットと恋人なんて言われて。
私はポチオが恋人だなんて言われたら、しょっぱい気持ちになりますが。
「当たり前じゃない。こんな可愛い恋人がいるなんてさ」
「そ、そうですか」
シエルは私との仲を誤解されても嫌がってはいなさそうです。
アナナさんのお話にもありましたし……そういう考えも、こちらの世界ではありなのでしょう。
少し、くすぐったくてソワソワしてしまいます。
「シエル、体調が回復するまでは、ここでゆっくりして下さいね。至らない点もあるかと思いますが、私もお世話します」
「ありがとう、ネージュ」
くすくすと、シエルは嬉しそうに笑っています。
「喉は乾いていませんか? お腹はすいていませんか?」
「大丈夫だよ、ネージュは優しいね。本当によく出来たペットだ」
そのまま、私に向かっておいでおいでをしてきたので、私は素直にシエルの所まで移動しました。
「ふふ、可愛い」
そのまま、私の額にキスします。
動じたりはしません。
彼に取って、この程度のスキンシップは日常茶飯事ですから。
「そんなに心配しなくても良いよ。獣人は人間よりもずっと回復が早いから」
「そうなのですか……?」
「うん。この程度ならあと三日程で何とかなる」
「……少し、安心しました」
彼が怪我をして運ばれてきたと聞いた時は、本当に怖くて、とても心配でした。
でも、もう大丈夫ですよね。
安心したら、少しだけ眠くなってきました。
今まで、ずっと緊張の糸が張っていた様です。
緊張が緩んだ瞬間に眠くなってくるなんて、何だか子供みたいで情けないですね。
「ネージュ、眠いならこっちへおいで」
シエルが、自分の隣へ来るようにと、布団を捲ってベッドをポンポンと叩いて指し示します。
「ダメですよ。寝ている間にシエルの傷口にぶつかるといけません」
「平気だよ、ネージュとくっ付いていた方が、早く直る気がするんだ」
「……それは、容認しかねます。シエルもちゃんと休んで下さい」
私がスタスタとベッドから離れるのを、シエルは名残惜しげに眺めていました。
そんな目で見ても、怪我が治るまでは絆されませんからね!




