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気づかなかった真実  作者: まとやまと


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男爵令嬢、リリアナ・フローラル

不妊についての記述がありますがあくまで架空世界でのお話です。

そこのところだけセンシティブな内容になるのでご注意ください

 男爵令嬢、リリアナ・フローラル。


 フローラル男爵家は商業貴族だ。代々食品の卸問屋を経営しており、国の食文化の一端を担ってきた。

 なかなか子に恵まれなかった夫妻の待望の第一子がリリアナだ。

 リリアナはふわふわとした砂糖菓子のような容姿と性格で、幼い頃から男爵家の天使として両親と使用人に可愛がられて育ってきた。

 そんなリリアナは幼い頃から不思議な事を言う子であった。


「おまめさんをね、おふろにいれてね、まほうをかけてからいっぱいいっぱいおねんねさせるとね、おしょうゆやおみそができるのよ」

「ごまをぎゅうぎゅうしたらいいにおいのあぶらがでてくるわ」


 男爵は子供の戯言と一蹴せずリリアナの言葉をよく聞き、試行錯誤の末醤油や味噌、ごま油など新しい調味料を作り出した。

 その後も新しい調味料を使った料理を開発したり、新しい食材を発見したりなど男爵家に多大な利益をもたらした小さな天使。

そんな天使ことリリアナが“純真無垢の才媛“と呼ばれるようになる最大のきっかけは、不妊に悩んでいた母親にある助言をしたからである。


 子に恵まれなかった母親のミレーヌは没落したアレッタ男爵家の出身だ。

当時の当主同士が友人であり、その息子であるクラウス・フローラルとは幼い頃からよく遊んでもらっていた所謂幼馴染の関係だった。

幼い頃から結婚の約束をする程の仲良しぶりでもあったので、両家は成長したら婚約させましょうかと軽い口約束もしていた。


 しかしミレーヌが十歳の頃、アレッタ男爵家は事業の失敗で莫大な借金を抱え爵位と領地を手放し、一家離散となってしまう。

散り散りになったアレッタ男爵一家はそのまま行方知れずとなり、クラウスは嘆き悲しんだ。



 そんなクラウスと再会したのは、とある商家に住み込み使用人として働いていた時のことだ。

 給仕として客人にお茶を出しに行くとそこにいたのは商談に訪れていたクラウスだった。クラウスは家督を継ぐ前の修行として「実地で商いを学んでこい」と言われ、この時は初めて一人で商談に挑んでいたのだ。

 ミレーヌの事を忘れられず婚約の話を蹴り続けていたクラウスは思わぬ再会に涙を流し、その後商談を爆速で成立させた後も商家に通い続けミレーヌを口説き続けた。

没落した自分に男爵夫人は務まらないと、最初は拒んでいたものの、次第に絆されていき、商家の当主夫妻の後押しもあり結婚を承諾した。

 その時のクラウスの喜びっぷりはあの場にいたもの達の間では今でも語り草だ。

「あれは本当に嬉しすぎて死ぬんじゃないかと思った」と、今でも酒の席で蒸し返される笑い話になっている。



 ミレーヌは家族と離れてから一人で生活していた。今まで貴族の娘として不自由なく暮らしていた為、なかなか雇ってくれる所がなく数年は衣食住に困ることが多かった。

日雇いの簡単な仕事でわずかな金をもらいスラム街の廃墟で雨をしのぐ生活。

唯一の救いはガリガリに痩せこけた姿だったせいか、裏社会の人間に目をつけられることなく綺麗なまま成人できた事だろうか。

 年齢も十八となった時、下女の仕事であればなんとか職に就けるくらいには成長したミレーヌ。たまたま面接を受けた商家の当主夫妻はあまりに不憫な境遇に同情し、あまり給金は少ないが住み込みの雑用係でもいいならと仕事と共に衣食住を提供してくれたのだ。

 勤め始めた時はまだガリガリで人前に出すには気の毒な体つきだった為、しばらくは裏方の雑務を任されていた。大した仕事をしていないのに、それでも三食欠かさず与えてくれた当主夫妻には感謝しかない。

 男爵と再会した頃にはそれなりの体型にはなっていたが、栄養不足状態が長かったせいか結婚してから数年、子になかなか恵まれず、諦めかけていた時に授かったのがリリアナだ。


「えいようはだいじなの。からだがねうれしいうれしいってえがおになるんだよ!だからね、おにくとおやさいをばらんすよくたべるとあかちゃんもにっこりえがおになるんだよ」


 リリアナが何気なく言っていた栄養についての知識が気になった夫人は自分なりに調べた。飢える事は無くなったが自身にはまだ栄養が足りていないせいではないのかと。

そしてそれを取り入れ食生活を改善していった結果、不順だった月のものが徐々に正常に戻り、すぐに第二子を授かった。第二子出産から翌年には第三子とポンポンと産まれたのだ。長男と次男の誕生だ。

 奇跡が起きたと狂喜乱舞のクラウスにミレーヌがリリアナのおかげよと告げると溺愛ぶりはさらに加速した。

ちなみにミレーヌに付き合って健康的な食生活をしていたクラウスも無駄な贅肉が落ちていき、病気知らずな頑丈な身体になっていた。リリアナとミレーヌは父のぽよぽよしたお腹が大好きだったため、少し残念に思った事は二人だけの秘密だ。

長男と次男もよく食べ、よく遊び、よく眠るので、他所の子より体格が一回りくらい大きくなっている。

 やはり食べることは正義なのだ!とリリアナは食への情熱を更に燃やすのであった。





 そんな“純真無垢な才媛“であるリリアナは実は転生者だ。

 幼い頃は朧げな記憶の中からこんなのあったような……と思いつくまま声に出していただけであったが、十歳の時、木の上で降りられなくなっていた猫を助けようと自らよじ登り、足を滑らせた瞬間、前世の記憶をはっきりすっきりと思い出した。


「あ、私転生してる?」


 前世は食べることが大好きな普通の女子大生だった。食に関わる知識は雑学から論文まで読み漁るというちょっとした変人ぶりを発揮していた前世のリリアナ。

 将来は食に関わる仕事がしたいと大手の食品会社に就職が決まっていた所までは覚えているが、何で死んでしまったのかは思い出せない。しかし、今現在食品関係の家で育っている為まあいいかと持ち前のポジティブさを発揮した。

 大学受験の息抜きに読んでいたネット小説の知識もあり、異世界転生というものに抵抗もなくすんなり受け入れたリリアナはさらなる食の追求に走るのであった。

 その結果、フローラル男爵家は王国の食を一手に引き受けるまでの大商会に成長した。

その急成長ぶりに陞爵の話はあるものの、なるべく平民に近しい存在でいたいとしてクラウスは断り続けているという。

リリアナは高位だろうが低位だろうが平民だろうが美味しいものが食べられればそれでよかった。




 さて、そんなフローラル男爵家は末端ではあるが立派な貴族。そのためリリアナは十五歳からの三年間は貴族学院に入学する事が義務付けられていた。

 食材が豊富にある実家から離れなければならない不満はあったものの、都会のご飯に興味津々だった。





 この国の貴族学院は小さな社交場だ。今まで家庭教師から習った事をこの学院生活でお披露目していくのだ。

将来社交場に出るための実践経験をする場所、それがグランステラ王立学院なのだ。

 世代によっては王族や高位貴族もいる為、同じ年代に生まれた低位貴族たちの生涯の自慢話に追加されるのでここでの卒業は一種のステータスのようなものだ。




 入学式の日、リリアナは広大な学院内をもの珍しげに眺めながら歩いていたらいつの間にか迷子になっていた。

「どこよ、ここ……」

 入学式まで半刻は切っているはずだ。焦りながらウロウロしていると曲がり角で人とぶつかってしまった。


「きゃっ」

「すまない、大丈夫か?」


 尻餅をついたリリアナに手を差し伸べた人物を見たリリアナは固まってしまった。

 肩より少し長めの黒髪はひとつに束ねられ、その透き通った肌はまるで陶器のようにも見えた。そして少し切れ長のとても澄んだアメジストの瞳。

 黒髪と紫の瞳は王族の証だ。




(このシチュエーション、もしかして乙女ゲームの世界なの?)




 よくある学院での偶然の出会いから交流、密かに愛を育み、王子の婚約者からのイジメに耐え、卒業式にその婚約者を断罪するという王道ストーリー。

もしかしたら頭が足りない王子様でこっちがざまぁされるっていうパターンという場合もあるかも知れない。



(……ざまぁは嫌だ)



 リリアナは前世でこういう系統の小説を幾つか読んだことはあるが、この世界の話は読んだ記憶がない。記憶がない以上必要以上の接触は避けた方が無難かもしれない。



 なんとか頭をフル回転させ、目の前の差し出された手を握り立ち上がるリリアナ。

 王族にぶつかってしまったことに少し焦りながら目の前の人物の表情に怒りがないのを確認すると、家庭教師に褒められたカーテシーを披露する。


「王太子殿下におかれましてはごきげん麗しゅう。私はフローラル男爵家長女、リリアナ・フローラルと申します。まさか人がいるとは思わずぶつかってしまい申し訳ございません」


 本来爵位が上のものから声掛けをされて名乗ることができるのだが、この場をどうやって切り抜けようか焦っていた為そんなことは頭からすっぽ抜けてしまっていた。

 目の前の人物は上擦った声で挨拶をするリリアナに苦笑し、声をかけた。


「そんなにかしこまらなくても大丈夫。知っているようだが私はアストリウス王国王太子、セドリック・アストリウスだ。私の方こそよそ見をしていたのだ。お互い様なのだから謝罪は不要だよ」


 頭を上げてと言われ正面に向き直ると、綺麗な微笑みを湛えたセドリックが肩をすくめて見せた。


「フローラル男爵家の者か。男爵には珍しい食材をよく献上してもらっている。おかげで父は少し太ってしまったな」

 国王の姿を思い出しているだろうセドリックはにこやかに笑いリリアナに手を差し出す。キョトンとしながらその手と顔を交互に見るリリアナが面白いのかセドリックはとうとう吹き出してしまった。

「今から入学式だろう。早く行かないと遅刻するよ。案内するからほら」

 セドリックはリリアナの手を掴み歩き出した。引っ張られるままに付いていくリリアナはセドリックのもう片方の手に握られている紙に気づいた。

「……殿下は新入生代表の挨拶をなさるのですか?」

「あぁ、そうだよ。大勢の前に立つことはあってもスピーチは初めてだから緊張してるんだ」

 振り向き、紙をヒラヒラさせながら眉をハの字にして笑うセドリックはとても綺麗で美しかった。

「でも君のおかげで少しはほぐれたかな。ありがとう」

 はにかんだ笑顔が太陽の光に照らされてキラキラと輝いて見えた。その姿は正に天使と呼ぶに相応しいものだった。






 その笑顔を見た瞬間、リリアナの時が止まった。脳内で教会の鐘が鳴り響き天使の羽が舞い上がる。












(これは……惚れてまうやろーーーーー!!)







 ———リリアナの恋愛対象はずっと“食”だった。少なくとも今までは。



 不覚にもキュンとしてしまったリリアナの頭の中にいつぞやに流行った芸人の言葉が頭をよぎっていった。

食のオタク、リリアナちゃんは面食いの称号を手に入れた!


架空中世くらいの時代の設定です。そんな時代的に栄養学とかなさそうという偏見で書いてます。なので食も偏っていそうなのでバランスよくは食べてなさそう。しっかり食べてても必要な栄養取れてないっていう。

貴族は見た目の美しさと食材の高価さを重視で、平民はお腹いっぱい食べれたらいいみたいな。調味料も塩くらいしかない感じなので味はお察し。一部特権階級だけがスパイスとか砂糖使ってる。

リリアナのおかげで男爵領にてんさい畑ができて砂糖が安価に流通するようになったとか。


男爵夫人は成長期の栄養不足と偏った食生活(現代日本と比べて)で月のものの不順があり妊娠しづらい身体であったというのが影響してて、それを改善したらある程度良くなったというような感じです。ご実家が没落してなければ悩まなかった問題かも。

実際問題原因は色々あるのでそれで解決できるかといえば微妙ではあるけどあくまで架空のお話、ご都合主義ということで

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