勇者、魔王討伐後の世界で考える
「これで最後だっー!」
魔王に渾身の一撃を与える。
幾千の敗走、レベリング、ダンジョン攻略、魔王軍との激戦。
ああ、これでようやく終わるんだ。
僕は視界が真っ白になる中、そんなことを思っていた。
誰かが叫びながら僕の身体を揺らしている。
僕は魔王を倒し意識を失ったのか。
もう良いだろ。倒すべき敵は倒した。もう少し寝ていたい。
そう思って意識を更に深く落とそうとした時、とんでもない痛みが腹に走る!
強制的に意識が戻されいたたたたたたっ!!!
「うぉいネール!僕の腹に肘をめりこませるな!っていたぁっぁぁぁい!」
僕は飛び起きて腹にめり込んでる肘を必死に持ち上げた。
「やっと起きたの?3時間ぐらい意識が戻らないから心配で」
「うるさいよ。魔王を倒した後に爆発食らって意識飛んでる勇者の腹に肘をめりこませるな」
僕の腹に肘をめりこませるめちゃくちゃな女の子はネールだ。
魔法使いで年齢不詳で黒髪ロングで人間兵器な凶器だ。
なぜか魔法職のくせに常時肉体強化のバフがかかっており通常攻撃ではダメージが通らない。
「爆発のダメージはどう?体調は良い?」
「ん。魔王の攻撃より君に攻撃された腹筋のほうがよっぽど痛いよ」
「アナタは防御耐性が低いんだから気をつけてよね!」
いや、ネールが異常なんだって。僕もそれなりに防御耐性あるって。
そんな僕とネールのやり取りを見て爆笑しているアホ面2名も視界に収めた。
「お前、魔王が眼の前で大爆発したのによく五体満足で生きてたな!」
あいつは戦士のタベルだ。
アホなんだよ。脳筋と言ったらこいつだ。
戦士のくせに全く前線で戦わない。たまに身代わりになる。
「お陰様で。多分、オキールが防御魔法を展開してたんじゃないか?」
「正解!君は絶対に魔王に突っ込むと思っていたからね!」
オキールは僧侶だ。
優秀な僧侶で全面的にサポートしてくれるんだけど、ちゃらいんだよね。
街に行くと一晩帰ってこないし。僕たちの銀貨使って女の子の店行くし。
そんな僕たち勇者一行は魔王を倒し世界を救った英雄となったんだ。
そりゃ気持ちよかったよ?
魔王城から凱旋して色々な街に立ち寄った。
皆からチヤホヤされ、飲食はタダだし。
ビール飲み放題で毎日パーティーで世界が平和になったことを実感したんだ。
そして勇者として旅立った街、アーイチが目前に迫っていたんだ。
そんな時、ネールが僕に話しかけてきた。
「ねぇ、アナタはアーイチに戻ったらどうするの?」
「そうだね、まだ発生するモンスターを狩るモンスターハンターになろうかな」
「そんなことの為にアナタの能力を使うのもったいないよー」
タベルも続けて僕に話しかける。
「お前の力は特別なんだぞ?勇者特権だ。もっと有意義に使えよ」
ネールの言う僕の能力。
そう、僕は勇者だ。勇者には「限界突破」という能力がある。
通常の成長曲線だと頭打ちになるが僕にはそれが無い。
つまり勇者はレベル上限がないことにより攻撃力などが無限に上昇する。
当然レベリングは必要だけど。
そしてタベルの言う勇者特権。
それは全魔法、特技が使えるという特権である。
そりゃ専門職と比べたらランクは下る。
でも使えると使えないでは便利さが違うのだ。
「僕なら絶対に勇者特権が自慢してドヤってするのにー」
「オキールはいいじゃないか。かっこいいし。もっとモテたいの?」
「そりゃもっとモテたいよーw全世界の女性を手中に収めたい」
やめろオキール。
ネールがすごい顔でこっちを睨んでるぞ。
その話題はやめるんだ。
正直、僕はこの世界を救った勇者で英雄だ。
習得できるスキルはすべて持っている。
倒せる敵はすべて薙ぎ払える。
魔王さえ倒せる力。
僕が魔王になれば暇つぶしできるかもね。
なんてぼんやり考えていた。
あれ?ネールがなにか叫んでる。
珍しいな。
オキールが必死に呪文を詠唱してる。
おいおい、魔王戦の時だってそんな必死に呪文詠唱しなかっただろ。
タベルはどこ見てるの?上?
あ。
これヤバいやつだ。
眼の前が真っ暗になり意識が途切れた。
覚えてるのは皆の必死な顔と一瞬だけど強烈な痛みなんだよな。




