第59話 レッドドラゴン・プリンス、ババ抜きに興じる
フレアハルトがお風呂から帰って来た。
まだ予約時間まで三時間くらいあるなぁ……【千里眼】で地球のテレビ番組でも見せて暇をつぶしてもらおうか?
いや、でもテレビって色々やってて面白いから一度見せてしまったら長居してしまうかもしれない。と言うか、間違いなく居つく!
しょっちゅう家に来られるだけでも、私の一人の時間が侵されて困るのに、テレビなんか見せた日には……私の居場所が無くなるかもしれない!
トランプでも作ってゲームでもするか。紙はまだこの地域で作られてないけど……これくらいのオーバーテクノロジーならバレても大丈夫でしょ。
「ババ抜きでもする?」
「何だそれは?」
「聞いたことない言葉ですね」
「ババって何? 何を抜くの?」
「トランプっていうのを使って遊ぶゲームでね、このカードを――」
「何だそれは!?」
「薄っぺらい……なにこれ?」
「見たこともありません! それにこの大きさにこんな精密な絵柄! 裏の模様も凄いです!」
そうか! この場所にはまだ紙が無い!
紙、ましてやトランプなんて見たことないからこんな反応になるんだ!
しまった、また面倒事を増やしてしまったかもしれない……こんな些細なオーバーテクノロジーでも彼らにとっては驚きのタネになるんだ。
「どこで手に入れたのだ! 我も欲しい!」
「いや、これあなたたちが家に持って帰ったら燃えて無くなるから……」
しまった~……面倒事がまた増えた……
「と、とりあえずこれで遊びましょう」
「これは玩具なのか?」
「とりあえず説明するから。ここに数字が書いてあるんでしょ? これを二つ揃えたらそのカードを捨てていくの。それでジョーカーが――」
ババ抜きのルールを教えた。
そして実際にプレイ!
◇
二十回やった結果――
フレアハルトとレイアがとにかく弱い、圧倒的に弱い!
この二人、ポーカーフェイスが全く出来てないから、ジョーカーの場所が一目で分かる。
特にフレアハルトが顔に出やすいから、二十回中半分以上、十二回がビリで終わっている。残りは、七回がレイア。奇跡が起こって一回だけ私が負けた。アリサはゼロ回。大抵最後はフレアハルトとレイアの一騎打ちだ。
私が負けた一回は、フレアハルトが八回負けて、テンション爆下がりで表情が全く変化しなかった時。しかしその一回の勝利で息を吹き返したのか、また表情がコロコロ変わるようになったため連続で負け続けている。
アリサはフレアハルトの無茶振りを涼しい顔で応えてるだけあって、常にクールフェイス。加えてフレアハルトの性格を知り尽くしているため完全に手玉に取っている。
結果、勝ち数はアリサが一位、順に私、レイア、フレアハルトの順となった。
「ぐぬぬぬ……なぜ勝てんのだ!!」
面白いから、「その表情だからよ」とは教えてあげない。
「フレハル様は顔に出るからどこにジョーカーがあるのか分かるんですよ」
おおっと、敵に塩を送るか~?
レイアもどっこいどっこいだけど。
「ふっ、ふははははは! 何だそんなことだったのか! アルトラ! もう一回勝負だ!」
「え~……もう予約の時間近いけど……」
「もう一回だ!!」
「……仕方ない」
もう予約の時間も差し迫っているから最後の一勝負。
さっきに比べればちょっとだけ改善はしたが……私が右のカードに手を伸ばすと、眉がピクッと上がる。左のカードに手を伸ばすとちょっとニヤっとする。
これではまだしばらく私には勝てないな。
「ジョーカーは……こっちだぁっ!」
「ぐおおぉぉ! なぜ勝てんのだ!!」
「さてもう食べに行こうか」
「帰って来たらもう一回だ!」
「いや、食べたら帰れよ」
予約時間の五時になったからハンバームちゃんのいる避難所の食堂へ行く。
「無理言ってごめんね~」
「いえ、アルトラ様のお願いですので、それにその方々大事なご友人なのですよね?」
大事……大事かどうかは今はわからないな。気を使う必要は無さそうな相手にはなってしまった気がするけど……
チラッとフレアハルトの方を見る。
う~ん……これだけフランクに対応してると本当に王子なのかどうかさえ疑問に思えてきた。一度王宮のようなところに招待してもらわないと信じられない。
「アルトラ様?」
「あ、うん、大事な客なんだ、よろしくお願いね」
◇
今日のご飯は、ガルムのハンバーグ。奇しくも二日続けてのハンバーグだ。
「美味いな! 昨日も似たようなものを食ったが、あれより美味いぞ!」
作った本人を前にしてこの発言。相変わらずデリカシーの無い男だ……
でも――
「ホントだ、美味しいよこのハンバーグ!」
「あ、あのこれは『ガルムのひき肉焼き』って名前にしようと思ってたんですけど……」
「あ、ごめんね、この料理、転生前に私の住んでいたところではハンバーグって名前で呼ばれてたもんだから」
「私の名前とそっくりですね!」
「この料理名にしとく?」
「アルトラ様が言うなら……この料理名をハンバーグにします!」
しかし、カトブレパス肉使った私のハンバーグより、ガルムの肉で作ったハンバーグの方が美味しいとは……流石この村の筆頭料理人。
「フレハル、添え物!」
「う……うむ……」
残そうとしていたらしきキュウリとトマトを指さす。
この王子は監視してないとすぐ野菜を残そうとする。
そんなこんなで三人体制のフレハル監視による食事は終わった。
「ハンバームちゃん、ごちそうさま!」
「美味かったぞ!」
「良いお味でした」
「ごちそうさまね!」
「さて、じゃあまた火山に送るよ」
トランプの話題が出る前に先手を打つ。
「ババ抜きは?」
先手は効かなかった……
ああ……これはまた後日我が家にやって来るな……私の一人の時間が……
結局テレビ見せなかったとしても、単純でも目新しいものを見せられるとハマってしまうことがある。
子供の頃は単純なことでも同じことを繰り返しやってたしなぁ……フレアハルトはまさに今その状態なのだ。
「それはまた今度で!」
少々強引に言い放って【ゲート】を開く。
「そういえば昨日の屋根の上の魔力はなんだったのだ?」
それも覚えてたか! 忘れてれば良いと思ってたんだけど……
何もいなかったことにしておけば大丈夫だろう。
「あの後探したけど何もいなかったよ」
「そうか……なら良いのだが……確かに今日は気配を感じなかったな」
よし! 『自然漏出する魔力を隠匿する機能』はちゃんと機能してるみたいだ。午前中に来た魔王であるレヴィアタンですら気付かなかったし、きっと世界一見つけにくい本が出来ただろう。