第597話 学校開校
そして四月五日、開校の日が訪れた――
学校校舎前に集まる、大量の新入生とその親御さん。
中には小学校の入学とは思えないくらい大きい子も居るが、現在のアルトレリアでは小中一貫……この言葉が適切かは分からないが、十五歳までの子が学べるような制度になっている。
ただ……学校の無かったところでの一斉入学なので、六歳だろうが十五歳だろうが、小学校一年生相当からの教育である。
私も保護者として参加。
普段着ないスーツは窮屈だわ……
「アルトラ!」
開門するのを待っていると、フレアハルトが声をかけて来た。
「お? 来たわね。…………それにしても……スーツ似合わないわねぇ……」
筋肉でパッツンパッツンだ。
「フッ……ヒトのこと言えた義理か? お主も大して似合っておらんぞ?」
鼻で笑われた上に、お前も似合ってないと返された……
分かってるわよ……このちんちくりんな身体じゃあね……せめて生前の大人の身体なら……
「はは……まあ自覚してるわ……」
こう軽い憎まれ口言い合える関係も良いものだ。
気を取り直してロミネルちゃんの方向を向く。
「ロミネルちゃん、よろしくね」
「ロミネル、よろしくナ」
『私、同じクラスだからよろしくしてよね!』
「皆しゃま、よろしくお願いします」
舌足らずが少しだけ改善している!
しかも、ツノも尻尾も無くなって、完全人型化も修得できたようだ。
それに、身長がちょっと伸びてる!
満三歳とは思えない大きさだ。ネッココより大分大きい。
そしてフレアハルトから少し遅れてやって来たのが……
族長さん……と、誰だっけ?
「お主とは直接対面したことは無かったな。我が母のイグニシアだ」
えっ!? 族長夫人!?
そう言えば耐冷バフかけに行った時に薄っすら顔を見た記憶はある。 (第281話から第284話参照)
それにしても見た目若っ! 人間なら三十代くらいに見える! 四百歳代とは思えない!
「ちょ、ちょっとフレアハルト!」
フレアハルトを引き寄せ小声で話す。
「……お、お母さまってあなたの葬儀の時には居た?」 (第496話参照)
「……居らんかった。あの頃はまだロミネルが手のひらに乗るくらい小さかったから来ておらんかったのだろう。あの後、御山に帰ったら生きて帰って来たことに号泣された」
おお……そうだったのか……
「お久しゅうアルトラ様、この度は娘を合格にしていただきありがとう存じます」
と言うお母上の目は笑っていない……
「母上、そんなに威圧しないでください……我が決めたことですから。きっと今後のロミネルの竜生にも役にも立ちますから」
「全く……あなたもすっかり亜人の生活に毒されてしまって……」
やっぱりあまり良くは思われてないみたいだな……
そしてフレアハルトと話していたかと思ったら、こちらにキッと向き直り……
「アルトラ様!」
「は、はい!」
「フレアハルトは一度言い出したら強情です。優秀なこの子たっての願い故、仕方のなしにロミネルを貴女の町へ預けます。良きに計らっていただきますよう」
「は、はい……」
こんなに威圧されるとは……
立場的には一応私の方が上なのだが……非公式ながら、私、レッドドラゴンの主だし……
それにしても……『優秀』?
族長さんも以前『優秀』って言ってたけど、私は普段誰を目にしてるのかしら……? (第145話参照)
それとも私の前でだけふざけてる? いや、もしかしたら親の前では優秀を演じてる?
「ま、まあまあ、イグニシア、そのくらいにしておけ。今日はロミネルの特別な日なのだろう?」
レッドドラゴンのオーラでも出ているのか、威圧感が周りにも伝わっているようで、ガヤガヤとしていた周囲の子供や親御さんまで黙ってしまう事態に……
見かねてか、族長さんが窘めに入ってくれた。
「しかしあなた! こんなにすぐに娘が巣立ってしまうのですよ!? まだ二歳! 二歳ですよ!? フレアハルトなど二百年以上わたくしたちの庇護下に居たと言うのに! この女……ゴホン、アルトラ様が来たことによって……」
二百年親離れしないのもどうかと思うが……
「も、もう良いでしょう母上! ロミネルも少々委縮しておりますよ!」
と言われてロミネルちゃんの方を見ると、確かに縮こまっている……
「アルトラが来たことによって利もあったではないですか! レッドドラゴンの町にも家を建てられるようになりましたし、――」
あ、燃えない木、ちゃんと建材として使われているんだな。 (第176話から第177話参照)
フレアハルトは何でも屋で建築関係にも行ってたりするから、彼が建て方を教えているのかもしれない。
「――我らも寒さを気にせず気兼ねなく御山の外に出られるようになりましたし!」
「それは……そうですが……」
「さあ、も、もう良いであろう。あちらで少し気を落ち着かせよう。な!」
少しトーンが下がったところに、すかさず族長さんのフォローが入り、フェードアウトしていった。
「すまぬな、ああ言ったが言うほどお主を疎ましく思っておるわけではない。母上もロミネルと別々に暮らすのが寂しいのだろう」
「あ、ああ……まあそれは分かるわ」
そして、もう二人気になる人物。後ろに控えていたのは……
「ああ、こやつらも紹介しておかねばな。ロミネルの側近護衛兼世話係に就いたフィアルマとフランマースだ。本来なら幼竜を脱したもっと後になってから就くのだが、ロミネルが外に出るのに護衛がおらんと不便だからな。異例の抜擢だ」
「あなたは確か……ジャイアントアントの時にも協力してくれた」
『聖炎耐火の儀』 (第103話参照)の祭司の紅一点だった女性のレッドドラゴン・フィアルマさんだ。このヒトはジャイアントアント討伐にも参加してもらった。 (第450話参照)
「ご無沙汰しておりますアルトラ様。フィアルマ、長ければフィアとお呼びください」
「あ、はい。分かりました」
もう片方は新顔だ。
「フランマースです。アルトラ様、お久しぶりです。私もフランマース、よろしければフランマとお呼びください」
久しぶり?
「ごめんなさい、いつ会いましたっけ?」
「冷気への耐性を付与された時に……」
あ、顔会わせたことは無いのか。
確かに、あの時なら全員に耐冷バフ効果を付与してるから、レッドドラゴン族全員に会ってることになるわ。
「今後ともよろしくお願いいたします」
「あ、はい。よろしくお願いします」
そう言えば、ロミネルちゃんと側近二人が増えるって言ってたっけ。
ここに側近二人が訪れてることによって、一つの疑問が湧き、フレアハルトに尋ねる。
「あのさ、まさかこの二人を学校内にまで帯同させるつもりじゃないよね?」
「そうだが? 何か問題があるか?」
やっぱりか!
「大アリよ! 大人は基本的に学校内には留まらないルールだから! 待機するにしても子供たちの目に入らないところに居てもらう」
「な、なに!? なぜだ!?」
「大人が居ると、ただそれだけで子供たちに威圧感を与えてしまうからね」
教室に先生以外の大人が居るというのは違和感にしかならない。
「し、しかし、心配ではないか! まだ二歳なのだぞ!?」
「入学年齢は七歳なのに、二歳でも学校に入れたいって言ったのはあなたじゃない!」
「そ、それはそうだが……」
それに、レッドドラゴンなんだから、そうそう危ないことなんか無いやろ……
杵と臼叩き割ったような子は、そうそう簡単に怪我せんわい。 (第582話参照)
「そもそも学校って児童や生徒の自立を促す場所だから、お世話するヒトが周りに居ちゃダメなのよ。それを認めちゃうと、他の親御さんも『私も私も!』ってことになりかねないし……」
実際のところは仕事している親が多いし、旧トロル村の住民って放任主義多いし、そんな事態は少ないだろうが、あり得ない話ではない。
漫画たアニメに出てくる凄っごいお金持ちでも、執事が教室内に常駐してることなんてないしね。
あ、でもこの二人が校内に居てくれるなら、子供たちの安全は守られることになるかもしれない。優秀な警備員ゲット?
「そうなのか……」
そう説明したところ、しゃがんで目線をロミネルちゃんに合わせ、両肩を掴んで諭すように言う。
「では、ロミネル、ここからは一人で生きていかねばならんらしい。頑張るのだぞ!」
「お兄しゃま……」
それを聞いたロミネルちゃんは不安そうだ。
そして、そのままの姿勢で私の方を向くフレアハルト。
「…………なぁ……一人くらい帯同することはできぬのか? 見ろロミネルのこの寂しそうな表情を」
お前が一番不安そうな顔じゃねぇか!
親バカならぬ兄バカが出てきたな……
「…………そんなに大袈裟にしなくても大丈夫だって。学校入って怪我したり死んだりすることなんか無いんだからさ」
思えば、親や兄と離れるのは初めてだもんな……不安になるのも分からなくはない。
私なんて、四歳で保育園に放り込まれた時、初日は大泣きして母親引き留めたし、その後も一週間くらいは保育園に行く度に母と離れるのが嫌で大泣きしてたと思う。
それを考えると、ロミネルちゃんは不安そうになってるだけで泣き喚かないから、私の幼少期より全然マシだ。
問題はむしろ過保護気味なフレアハルトの方。
そうこう話をしてると別方向から声が聞こえた。
「アルトラ様、フレアハルト殿とそのお連れの方、こんにちは」
「こんにちは。皆様、今後ともよろしくお願い致しますね」
「リーヴァント、セレナミリアさん、こんにちは。今日から保護者仲間だけどよろしくお願いしますね」
リーヴァントとその奥さんのセレナミリアさん。 (第421話参照)
そしてその息子の――
「――レイヴァレンくんもこんにちは」
「こんにちはアルトラ様ぁ! リディアも、これからよろしくな!」
「おうヨ!」
「ネッココもな!」
『よろしく頼むわね! 私は違うクラスだけど!』
遊び仲間だけに、リディアとリーヴァントの息子・レイヴァレンくん。たまに喧嘩して泣いて帰って来たりするものの関係性は出来ている。
ネッココも既に知り合いらしいから、この子らは放っておいても心配無さそうだ。
フレアハルトがリーヴァントをじっと見て一言。
「お主もスーツが似合わんな……筋肉でパンパンだ」
「ははは、フレハルさんもヒトのこと言えませんよ」
トロル族は栄養さえしっかり摂れる環境なら筋肉が付き易いらしく、余程だらけてなければ太らないため筋肉質の者が多い。
肉体労働より頭脳労働が多いリーヴァントですら筋肉質だ。
つまり、ここに集った保護者は私含め、全員スーツが似合わないってわけだ。
そして、開門時間になり、風の国より来てくれた先生方、トロルの仮教員として教職に就いてくれた先生方が学校前のドアに花道を作る。
そして、校長を担ってくれているルミナリス先生が、集まったみんなに第一声をかける。
「みなさん、おはようございます! さあ! ただ今より開校です! アルトレリア第一小学校の歴史を共に刻んでいきましょう!」
「開門!」
マッチョ・ヴォルガルド先生の合図により校舎の扉が開かれ、ルミナリス先生による光輝く演出と、ラフィミィナ先生による爽やかな風の演出。
「「「 わぁー! 」」」
校舎前で待っていた児童生徒・保護者から歓声が上がる。
演出が終わると、校舎内で待っていたトロルの先生方により、児童生徒たちが各クラスへ案内される。
「じゃあ、リディアにネッココ、私たちはあっちだから、しっかりね!」
入学式の行われる体育館の方を指さす。
「おお、任せとけヨ!」
『さ、ロミネルも行きましょ!』
「お姉さんたちがいるから大丈夫だゾ」
ネッココ、リディアが不安そうなロミネルちゃんの手を引き、校舎内に入って行った。その後をレイヴァレンくんが続く。
これなら大丈夫そうだ。
が、大丈夫そうでない者が三人。
フレアハルトとフィアルマ、フランマースである。
校舎に入って行くロミネルちゃんを寂しそうな顔で見送っている。
「あんたたち……そんなに心配しなくても大丈夫だって。さっ、今から入学式だから、私たちは保護者席に行きましょうか。族長さんとイグニシアさんも」
私から離れて奥さんを諫めていた族長さんたちにも声をかけ、体育館へと移動した。
◇
今年入学する児童生徒は、リディア、ネッココ、ロミネルちゃん、レイヴァレンくん以外も当然いる。
見知った顔は、建築部のトーリョとその娘のラナとリアの双子、農林水産部のメイフィーとその弟のオウガスくんなどは、私の知り合いの子ということで知っている。
それとレッドトロル族のニックエディーくんとそのお母さんらしきヒトを見かけた。 (第430話から第432話、第503話参照)
他にもどうやら他国の大使や外交官の子供も入学するらしく、人魚族、魚人族、ドワーフ族、鳥人族など、少ないながらも異種族が混じり合うような状態になってきた。
来ている保護者は大抵、お母さんだけが来ており、お父さんは少なめ。昔の日本のようだ。
族長夫人、いつ出そういつ出そうと思ってましたが、今回ロミネルの入学式ってことで「ここだ!」と思ってねじ込みました。
思えば、フレアハルトの葬儀 (第496話参照)にも来てないっておかしいですよね……まあ、ロミネルが(レッドドラゴン基準で)まだ幼すぎて弱かったってことで納得いただけるとありがたいです(^^;
次回は2026年5月8日の投稿を予定しています。
第598話【入学式】
次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は21時付近までのいずれかの時間になります。




