第582話 二回目のお正月(餅つき体験で問題が露呈……)
「餅つきの準備が整いましたので、今から餅つきを開始致します」
そうこうしてるうちに餅つきの準備ができてイチトスからのアナウンス。
『あれで何するの!?』
「もち米で出来たご飯からお餅を作るのよ。近くで見てみたら? 段々丸くなっていくのが分かるから」
『リディア~、このままじゃ見えないから抱っこしてもらえるかしら!?』
「おお、良いゾ」
再び髪の毛を触手に変え、ネッココを抱える。
「リディアちゃん、あんなことできるようになってたんですか?」
「最近できるようになったらしいよ」
餅つきが始まった。
突き手がイチトス、返し手がルークだ。
「ハイ!」
「ハイ、どうぞ!」
「ハイ!」
「ハイ、どうぞ!」
「ハイ!」
「ハイ、どうぞ!」
「ハイ!」
「ハイ、どうぞ!」
去年ぎこちないことが判明してしまったため (第208話参照)、今年は練習してきたのか随分スムースにもち米が丸くなっていく。
『お~、どんどん丸くなっていくわ! ルークは触ってるだけに見えるけど何やってるの!?』
あ、これ去年私がリディアから質問されたやつだ。 (第208話参照)
「あれはご飯を上手く叩けるように叩きやすいところに移動させるんだヨ。裏側を叩くためにひっくり返したりとかナ」
『へぇ~、そうなんだ……! でも私は食べられないから残念だわ……!』
去年私が教えたことをきちんと覚えてたわけね。
しばらく餅つきの光景を見ているうちに、去年よりも随分早く餅が出来た。
「さあ、皆様、新年のお年玉です。よろしければ出来立てのお餅をご賞味ください」
「味付けは、醤油、味噌、砂糖醤油、きなこ、あんこなどがございます」
去年より味付けのラインナップが増えてるわ。
イチトスとルークのアナウンスで、餅つきを見ていた参拝客が動き出す。
「よろしければ餅つきの体験もできるようになっております」
それを聞いたネッココが――
『アルトラアルトラ! 私もあれやってみたい!』
――と言い出した。
「ん? う~ん……ネッココにはちょっと無理かもしれない……」
『何で!?』
「杵が持ち上げられるかどうか……」
大晦日の掃除で鉢を引きずることもできなかったネッココだ。大人用の杵はどう考えても持てない。
体験用に子供用の杵の用意もあるようだが……
「シンヌイ~、子供用の杵貸してもらえる?」
「そこにあるのでご自由にどうぞ」
それを拾ってネッココに渡してみる。
『重った! こ、これは私には無理だわ……!』
流石に諦めたらしい。
これ多分一.五キロくらいしかないと思うけど……ネッココは貧弱過ぎるな……背が低いし植物の根っこだから仕方ない部分はあるが……
ネッココが諦めたかと思ったら後ろでロミネルちゃんの声がする。
「お兄しゃま! 私もあれやってみたいのです!」
「おお、良いぞ。何事も経験だ」
「ではわたくしが返し手をやりましょう」
名乗りを上げたのはアリサ。
フレアハルトが大人用の杵を渡す。
「フレアハルト、それで良いの? 子供用もあるけど」
「あれでは我らには軽すぎるだろ。大人用の方が良い」
まあ兄がそう言うなら……
臼の前に立ち、杵を振り上げるロミネルちゃん。
「そぉーーれぇ!」
の掛け声で振り下ろしたところ――
バキバキバキッ!
――という音を立てて、持っていた杵と臼がそれぞれ二つに割れた!
「「「 いいぃッッ!? 」」」
周囲の参拝客と神社関係者が幼女がやることだからと微笑ましく見ていたら、杵と臼が砕けるという突然の出来事に、見ていた者のほぼ全員が驚愕した声を上げた。
もちろん……私も含めてである……
それどころか、妹の力量を一番知ってなければならないはずのフレアハルトまでもが目が点になっていた。
返し手として目の前で見ていたアリサ、他の参拝客と共に見ていたレイアも開いた口が塞がらない。
「あ…………お……おおおおお兄しゃま……どど、どうちたらいい……?」
に、二歳だよね……? 人間とは違うから身体の大きさを考慮しても五、六歳程度……
か、加減ができてないって言ったって、臼壊せるなんて……末恐ろしい……
人間じゃ大人がやったって臼壊せる人なんか居ないのに……
「うぅ……うっ……」
あ、涙ぐみ始めた。ここは人間の子供と変わらないみたいだ。壊してしまった罪悪感とどうしたら良いか分からないという思いが心の中で交錯してるんだろう。
すぐにフレアハルトが駆け寄ってあやす。
「おお……よしよし、知らなかったのだから仕方が無い。――」
え゛っ!?
故意ではなかったとは言え、餅つきセット一式壊してしまったんだからその対応はどうかと思うが?
と、思ったら続く言葉があった。
「――だが、他人の物を壊してしまったのは悪いことだ。わざとやったわけでなくても、謝らなければならない」
「……だ、だれに……?」
「持ち主はシンヌイだからな、シンヌイに向かって謝ると良いぞ。そこの神主だ」
フレアハルトに促され、シンヌイを見るロミネルちゃん。
「こ、こわしてしまいまちた……ご、ごめんなしゃい……」
「我からも妹がすまぬ」
シンヌイに向かって深々と頭を下げるフレアハルトとロミネルちゃん。
フレアハルト、出会った当時はプライドが高かったのに、随分と実る稲穂になったものだ。 (第42話辺りを参照)
今後も亜人と共生していくという態度が見られて、私としても嬉しい。
「あ、ああ、だ、大丈夫ですよ。ははは……」
呆けていたがシンヌイも謝罪の言葉には反応。だが彼自身もまだ混乱しているようだ。
「さて、ロミネル。お主はこれを機に力の加減を身に付けねばならない。そのままでは学校で友達が出来ても怪我をさせてしまうからな」
「わ、わかりまちた!」
溜めていた涙を拭う。
「ま、まあ杵と臼は一つだけではありませんので、餅つき体験を続けましょう」
イチトスのアナウンスで餅つき体験は再開。
流石にロミネルちゃんは気持ちが沈んだまま近寄ることもしなかった。
見かねて声をかける。
「ロミネルちゃん」
「アルトラしゃま……」
「大丈夫よ。今から力の加減を覚えて行けば、次はこんなこと起こらなくなるから」
このままでは確かに危険だが、学校始まる前に先んじて能力を知れて良かった。
それと、物を壊しただけで『悪いことをしてしまった……』と思えるような心根が優しい子だったのが幸いした。
もし、やんちゃなタイプのレッドドラゴンの子供だったら、他の子に取り返しのつかない怪我をさせてからやっと理解するくらいだったかもしれない。
とは言え……
「フレアハルト……ちょっと良い?」
「言いたいことは分かっておる。ロミネルの持て余している力のことだろ?」
「分かってるなら良いわ。レッドドラゴンの子供ってみんなあんな感じなの?」
「た、多分な……我も知らんかった。大晦日に掃除の手伝いした時には『多少重い物を運んでいた』程度の認識であったからな」
「知らないって何で?」
「多分、周りにレッドドラゴンしかおらんからではないか? ちょっと強く押したところで、相手も同じレッドドラゴンだから大した怪我はせんのだろう」
なるほど。筋力で遥かに劣る亜人のコミュニティーだったために、その異質さが浮き彫りになったわけか。
「ロミネルちゃんのことについてはもちろんだけど、もし今後レッドドラゴンの子供がアルトレリアの学校へ入りたいってことになった場合、力を制御する指導・監督者をフレアハルトにお願いできないかしら? 強い力で殴らないように厳命してもらわないと下手したら死人が出る」
「わ、分かった。我が請け負おう」
「ところで、あなたはどうやって力を制御してるの? 力が強過ぎると生卵すら上手く割れないでしょ?」
「体重と筋力を操作しておる。レッドドラゴンの大人は例外無く自然にできるようになる。そうでないと火山内部でも壁や地面を壊しながら生活することになるからな」
そう言えば、フレアハルトの人型時の筋力は、推定でドラゴン形態の百分の一くらいなんだよね……これも筋力操作の範疇なのかな? (筋力については第249話参照)
「もしかして何でも屋の業務中と普段の時って筋力の使い方が違ってる?」
「まあ、そうだな。仕事中は重い物を運ぶことが多いから、少し出力多めで活動しておる。今言ったように、あまり強い力を出すと身体が重くなるから地面を抉りながら移動しなければならんからな」
「ってことは、筋力の出力と体重って連動してるの?」
「そうだな。おおよそ相関関係があると考えて良い」
ってことは、私が筋力強化してる時って、体重増えてるのかな……?
知らずに使ってたけど。
「恐らくだがリディアも似たようなことやってると思うぞ?」
「ホントに!?」
「本人に聞いてみると良い」
一緒に暮らしてて、全然気付かなかったわ……
「と言うより、人型以外の形態を持ってる者はほとんどそうだと思うのだが……我の場合、ドラゴン形態の体重と筋力をそのまま人型形態に持ってくると、足を一歩踏み出すだけで地面に穴が開くくらいの重圧があるだろうからな」
確かに……推定四トンで踏み出すと考えると、ドラゴン形態より人型形態の足の方が範囲が狭い分威力が一極集中してその分鋭く抉れると考えられる。
「それらを我らは変身に際して自然に制御をしている」
「へぇ~、なるほどね」
つまり自身の質量をある程度変えられるってわけか。
まあ……地球人からすると理由聞いても、おかしいのは変わらないのだが……
その“本来あるべき質量”はどこへ行ってしまっているのか説明付かないわけだし。
ん?
ロミネルちゃんって、まだ操作能力が未熟だから臼壊すほどの怪力になってるってことなんだよね?
体重と筋力に相関関係があるってことは……?
「ってことは、もしかしてロミネルちゃんって、今見た目よりかなり体重あったりする? 例えば百キロとか二百キロとか」
「抱いた感じだと多分二百五十キロくらいあると思うが」
「重たッ!! マジ!? あの小さい身体で!?」
見た目幼女なのに、中身は相撲取りじゃないか! しかもかなり重量級の。
臼壊したのも納得だ……
それを片手で抱えられるフレアハルトも凄いが……
「そ、早々に筋力操作の習得をお願いしたいわ」
「分かった」
ウロコを服に変化させるより、まず筋力の方をやっておいてほしかった……
そう言えば、ロミネルちゃんはまだツノと尻尾が隠せていない不完全な人型をしている。
「もしかして、不完全な人型への変身と意図しない怪力って連動してる?」
「考えたこともなかったが……大人が自然にしていることだから可能性はある」
ってことは、完全なる人型を習得すれば自然に力の制御もできるようになるってことかな?
「じゃあ早いとこ完全なる人型を習得させてあげて」
「学校に入る頃には完璧な状態になっておると思う」
「お願いね」
本当に学校始まる前に知れて良かった……
「それにしても二百五十キロで家の中歩いてよく壊れないね」
「実はミシミシ言っておる。二階には立ち入らせないようにしている、床が抜けるかもしれんし」
「…………それは不便だね……早々に完全なる人型になれるようにしてあげて。………………あ!」
これを聞いて思い出したことがある。
そう言えば先日ロミネルちゃんを紹介に来た時、彼らが帰った後に床に亀裂があったことを。
あれはやっぱり尻尾を打ち付けたことによって床にダメージがあったからだったのか。 (第565話参照)
「どうした?」
「いや……何でもない」
この後特訓してくれるって言うし、特に言わなくても良いだろ。
◇
フレアハルトとロミネルちゃんの対応について話をしていたところ、ロミネルちゃんはみんなにあやされ、既に機嫌が直ってお餅を食べていた。
「お兄しゃま! おもちもおいしいのです!」
「良かったな」
「つぎはあんこをいただくのです!」
餅が食べられないネッココはどうしてるかと見回すと……
何か啜ってる。
「何食べてるの?」
『おしるこよ!』
餅つき前に用意されていたらしきおしるこを食べていた。
「それ食べて大丈夫なの? 固形物でしょ?」
『ドロドロの部分だし、残ってたちょっと大きめの小豆もカイベルが取り除いてくれたから大丈夫!』
相変わらず凄いことやってるなカイベル……さすカイ。
『でも少量にしておけってカイベルに言われたけどね!』
おしるこは糖分多いしね。
『「これならお腹壊すこともないでしょう」って言われてるから多分大丈夫よ!』
まあ、こっちはカイベルがきちんと気を回してくれてるから良いでしょう。
さて、もう一人の要注意人物のナナトスは、と……
何だか慎重に餅を食べている。あれなら今年は大丈夫か。
そして、リディアやクリューも餅を頂いており、和やかに食事の時間が過ぎる。
「それじゃ、お餅もいただいたし、私たちは帰るわ」
私、リディア、ネッココ、クリューが立ち上がる。カイベルはずっと立っていた。
「もう? 帰って何するんスか?」
「今日はもう帰ってすぐゴロゴロだね。この着物ってやつがキツイの疲れるのって……早く脱ぎたい」
「じゃあ何で着て来るんスか」
「一年に一回しか無いからよ」
「クリューさんも帰るんですか?」
「ええ、アルトラが帰るんなら私も帰ろうかなと。ここに居てもやることないですし (アルトラ邸なら地球のテレビも見れるし)」
と考えているであろうことは私には分かる。
しかし、そのクリューの一言でまたも一同微妙な雰囲気に。
「わ、私とは何も無いからね?」
「まだ何も言ってないッスけど……」
「そ、そう? じゃ、まあそういうわけで、みんな今年もよろしくね」
一言残し、その場を後にした。
そして階段を降りようとしたところ、またもネッココの問題。
ネッココが階段の端に立って下を見たところ――
『怖い……!』
――と一言こぼした。
脚が短いし、一歩踏み外したら転がり落ちて行きそうだ。
「どうすル? また後ろに乗ってくカ?」
『ま、またお願いするわ!』
「わかっタ」
『ここへは一人では来れなさそうだわ……!』
「最近新設された別の階段なら、段幅が広めに取ってあるから歩きやすいかもよ?」
『でも家へ帰るまでの道は遠くなるんでしょ!? 私、脚短いんだから、歩く量も多いんだからね!』
「そ、そうだね」
再びリディアに背負われて階段下まで行き、鳥居を出て神社方向へ一拝して帰路に着いた。
明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願い致します!
今年最初の投稿です。
次回は2026年1月16日の投稿を予定しています。
第583話【二回目のお正月(動き出す影)】
次話は来週の金曜日投稿予定です。投稿時間は二十一時付近までのいずれかの時間になります。




