第485話 魔法合戦の果てに……
「だったらお望み通り、魔法を使ってあげる! 【過包囲灼熱爆弾】」
高熱に燃え盛る炎の球体を多量に女帝の周囲に張り巡らせた。
そして、指をパチンと弾くと同時に――
「爆破!」
――の一言で、一斉にそれらが爆破、誘爆を起こす。
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオォォォォォッッッンンンン!!!
普通の生物ならこれだけの爆破を喰らえば、跡形も無いはずだが……
「ふぅ……ビックリしたぞ……咄嗟に変身したが、亜人形態で喰らっておれば大怪我は免れなかっただろうな」
煙が晴れて出て来たのは、火の精霊形態に変身した女帝蟻。
「その姿になるのはズルくない?」
ちょっと時間を与え過ぎたか。設置して即座に爆破ならいくらかダメージを与えられたかもしれない。
「炎そのものが効かんそなたが言うことか?」
「それならこれでどう! 【石神像の連撃掌】」
石の巨大ゴーレムを作り出し、パンチの連打を浴びせる。
ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!
という重いパンチを浴びせるけたたましい音が響く。
が――
「ハッハッハッハ! なんの! この程度では全く効かぬぞ!」
――何と! 腕だけ何らかの堅そうな生物の腕に変化させ、ゴーレムのパンチラッシュに自身のパンチを合わせ、ゴーレムの拳がどんどん削っていく!
「な、何なのあの硬さ!? 魔王になるとあそこまで強靭になるの? いち生物の能力とは思えない……」
物理攻撃がほぼ効かない私が言うのも変かもしれないが……
そして、ひとしきりゴーレムを破壊して満足したのか、女帝の目が再びこちらに向く。
「今度はこっちから行くぞ?」
言い終わった後また目の前から消え、再び頭をワシ掴みにされた。
また髪の毛を持って振り回されるのかと思いきや、全身が一瞬で氷に包まれた。
「お? これなら効くのか? ならあとはこれを壊すだけで終いじゃな」
氷像状態となった私に、容赦なく蹴りを浴びせる。
が、氷耐性Lv10の私は当然表層しか凍っておらず、氷像から蹴り出されて平原に突っ伏し、顔面からズザザッと地面を滑る。
「ぐくっ……」
もう何度地面を舐めさせられたか分からない。
「ううむ……やはり身体の芯までは凍っておらんかったか……火も効かぬ、氷でも凍らぬと、本当に訳の分からん身体じゃな……」
ダ、ダメだ、このままじゃ埒が明かない。
スキル【分身体】で手数を増やそう。手数で圧倒してやる!
『分身体』を作り出し、戦線に加える。
「おお! そなたは本当に退屈させぬ女じゃな!」
『真剣斬丸Ver.3』を作って分身体に放り投げて渡す。
「二人同時の剣戟はどうかしらね?」
【次元歩行】を使い、女帝蟻の後ろへ瞬間移動。
そして背後から胴への不意打ちの一閃。
「うおっ!?」
と驚かれながらも、小ジャンプして横半回転で避けられた……
何でこんなに勘が良いの! 全然当たらん!
上手い具合に前後に挟み撃ちになったため、前と後ろから刀による乱撃。
前後から二人同時に攻撃しているのだが、一人の時と比べれば楽々ではなかったものの、それでも余裕を持って避けられてしまう。
が、『カスッ!』、『カスッ!』と僅かながらかすり傷を負わせる音がしてきた。徐々に当たるようになってきてるらしい。
女帝が避けながら逃げるのを、追う形で更に追撃を続ける。
もっと早い攻撃を!
そう思考した瞬間、分身体ともども同時に閃いた。
「「 そうだ! 悪魔の羽だ! 」」
分身体と二人顔を見合わせる。
羽を出した時に魔力が上がる感覚がある。六枚全て解放すれば女帝蟻に少しでも追随できるかもしれない!
二人同時に戦闘力を上げる方法を思いつき、自身の身体に備わっている白い羽二枚、黒い羽四枚、六枚全て出現させた。頭上には天使の輪が輝く。
「ほほう……頭上の輪の光が増したぞ。今度はどう楽しませてくれる?」
『光が増した』ってことは、やっぱり魔王だから最初から見えてたわけか。
「ここからはもう一段速度が上がるよ!」
「楽しんでもらえたら幸いだわ」
二人同時の真剣斬丸での攻撃。
動きが早くなったために女帝蟻に避ける余裕が無くなり、両腕を硬質化させて剣戟に対応し始めた。
『キンキンキキンキンキキンキンキンキキンッ!!』と聞き取れないほど早い刀と硬質化されたツメが交錯する金属音が鳴り響く。
その合間に――
ザシュッ!
ドシュッ!
ブシュッ!
――という肉が斬り裂かれる音。
徐々に私たちの速度が女帝蟻に追いつきダメージを与え始めた。
更に、羽の優位性をフルに使い、横の攻撃だけでなく頭上からの縦の攻撃も取り入れる。
「ぬうぅ……いい加減鬱陶しい!」
女帝が一度着地して大ジャンプ、上空から広範囲への竜巻攻撃を放つ。分身体共々上空へ巻き上げられてしまった。
しかもこの竜巻により、かすり傷を負わせられ分身体も傷を負って弾けて水となって消えた。
私の分身体は、通常の魔法では消えることが無いくらい耐久力が高いはずだが、予想していた通り女帝の風属性Lv11により簡単に防御性能を破壊されてしまったらしい。
「ヤ、ヤバイヤバイ、再度【分身体】を発動しないと! 傷を負ったことがバレたら、風魔法の特質性に気付かれてしまう!」
上空に飛ばされている間に、【分身体】の再発動と自身が負ったかすり傷を治すための【自己再生魔法】をかけ、瞬時に傷を癒す。
そして再発動した分身体と同時に地面に着地。
間髪入れずに空間魔法を発動。
「【超重力】!」
この場の重力を五十倍に引き上げた――
「何じゃこれは? 身体が重い? いや……気のせいか?」
――が、一瞬で無効化された?
「じゃあこれならどうだ! 【時間遅延】!」
対象の周囲の時間を遅くする魔法。
【時間停止】で時間を停止して一方的に攻撃したかったところだが、あの魔法は対象の時間が停止する代わりに、こちらからの攻撃も一切無効化してしまう能力だということを瞬時に思い出し、遅延魔法に切り替えた。
しかし……遅くする魔法もほぼ効果が無い。一瞬だけ遅くなったように感じたもののすぐに解除されてしまった。
「何だ今のは? 一瞬だけ動きが鈍くなったが……」
ダメだ……魔力の総量が違いすぎるのか、魔王か元天使の特性なのか、空間魔法も時間魔法もほぼ効果が無い……
しかし、次の攻撃の布石のために、何としても動きを止めたい。
「そなた……変わった攻撃をするな……だが、動きを制限される攻撃は好かん」
女帝蟻が巨岩を放ってきたため、風魔法で切れ味を増した真剣斬丸で斬り飛ばし、次の魔法を発動する。
「【影縛り】」
「ぬっ!? また動きを制限する魔法か!!」
斬り飛ばした岩石の欠片を目隠しにし、女帝を影のツタで縛り上げた。
よし! ほんの少しだが拘束の時間が稼げた!
続いて、女帝蟻を左右から挟み込み――
「【水牢瀑布陣】!」
「【氷結棺】!」
――水魔法で作った水の牢獄に氷魔法を重ね合わせて氷の巨柱に閉じ込めた。
「ぐっ……動けぬ……」
今だ! 脱出される前にケリを付ける!
二人で魔力を練り上げ、極大の火魔法を放つ。六枚の羽を広げた正真正銘全力の火魔法だ!
「「 【二つの灼熱照射砲】 」」
分身体と同時に放つ二つの炎のレーザー。
以前、フレアハルトの【インフェルノ・ブレス】を押し返した魔法。 (第42話参照)
しかも今回は二人分の上に私に備わった身体能力をフルに使っている。事前に闇魔法で縛り上げ、氷の牢獄に閉じ込めて動けなくしている。直撃すればいくら魔王と言えどただでは済まないはず。
「くそ! こんなもの砕いて! …………間に合わん! ぐわぁぁぁぁ……!!」
女帝は炎のレーザーに押され、この場から消え去った。
眼前には【灼熱照射砲】で地肌がドロドロに溶け、旧約聖書のモーセの海割りのような形に抉られた地面。
女帝蟻を凍り付かせていた巨柱は、熱で跡形も無く蒸発している。
近くに魔力は感じられない。遠いところまで吹っ飛んで行ったか、直撃して消し炭になって消えたか。
死んでくれているのが一番ありがたいが……
「やったかな?」
「分からない……いずれにしてもしばらく警戒は解かない方が良さそう」
腕を傷付けただけで、ブチギレた女帝だ。今度は炎の直撃を喰らってるのだからブチギレどころでは済まないかもしれない。
女帝蟻が視界内に見えないとほんの少し気が緩んだところ突然、強い突風が吹いた。
そして次の瞬間、分身体が割れて水になって消え、六枚の羽が全て切り裂かれて霧散し、その突風に乗って“誰かの腕”が後方へ飛んで行くのが見えた。
「…………えっ?」
それを目にした直後、左腕に灼熱を当てたような熱さと痛みが広がる。
恐る恐る左下に目を向けると、肘の下辺りから先が無かった!
「ガッッアアアァァァァッッッ!!!」
視認した直後に激痛が脳に伝わる感覚を味わった。
い、痛い! 痛い!痛い!痛い!
魔界に来て味わったこともないような強い痛みだ!
ひ、左腕が! 左腕が切断された!
そして一瞬で急激な気分の悪さを覚え、吐き気を催す。冷や汗まで大量に出てきた!
左肘付近を強く押さえたまま痛みで一歩も動けない!
「ほう……やはりそなたを殺せるのはこの風の魔法か。さっき一瞬だが竜巻で分身が消えるのを見ておったぞ。分身が消えたからもしやと思ったが……鋭い風が苦手なのだな」
私の後ろに女帝が立っていた。
「な、何で……周りに気配は無かったのに……」
あ、あんな遠くまで飛ばされて、一瞬消えただけの分身体を見ていたのか……!?
それよりどうやって気配も無く私の背後に……?
「答えを教えてやろう。実はなもっと素早く動ける形態があるのだ。速過ぎて普段使いはできぬ形態だがな。それでそなたに気付かれる前に切り裂いた、それだけのことよ」
エ、エルフ形態より速い動きができる形態があるってこと……?
「全く恐ろしいことをしてくれる。全力で受け流さねば死んでおったかもな。左腕が消し炭になってしまったではないか」
見れば確かに左腕全体が炭化して無くなっている。両手を使って防いだのか右手も無傷ではない上に、胴体部分にも深い火傷の痕がある。
しかし……再び火の精霊の姿になり、傷が再生。
「ふむ……今度のは回復までに少々時間がかかったな……それだけ強力な攻撃だったということか。さて、そなたに効く攻撃が分かった今、ここからは処刑の時間じゃな」
「うぅ……」
左手からの出血の所為か、凄い勢いで身体が冷えるのが分かる。同時にだるさを覚え、動きが鈍くなるのを感じた。
「【分身体】!」
再び『分身体』を出現させるも――
――風の刃の一閃で消滅。
「くそっ!」
ならばと、右手に炎の魔力を溜める仕草を見せた瞬間、今度は右腕を切り裂かれた。
「キャアアァァッッッ!!」
それと同時に両腿を切り裂かれ、草原に勢いよく倒れ込んだ。
「うああああぁぁ……くぅぅぅ……あぁかぁぁ……!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いッッ!!!
み、右手が! あ、脚が熱い! 痛い!
私は何でこんなことになってるの!!? 何でこんなことされなきゃいけないの!!?
……血が……身体がどんどん冷えていく……息が詰まる……!
「ふむ……流石にもう終わりか? 四肢を破壊されてしまえばな」
「うう……」
四肢全てに深手を負わされてしまった……左腕はどこかへ飛んで行った。右手は指は動かせるから辛うじて神経は繋がってるらしい。でも指以外は動かせないからこの手ではもう回復魔法がかけられない……
両足は切断はされてないけど傷が深く大量に出血している……今の状態ではもう動けそうもない……
出血量がさっきの比じゃない……このまま時間が経過すればトドメを刺されなくても失血死……
もう万事休すか……
そ……そうだ! 再生! フレアハルトが『悪魔の羽』を出したら怪我が再生されてたって…… (第104話参照)
さっき消されてしまったけど、もう一度羽を出せば……
六枚の羽を再び出現させる。
「お? まだ何かやるつもりか? まだ楽しませるつもりがあるなら少し待とうではないか」
が…………少ししか回復できていない……ちょ、超速回復するには何か条件があるのか……!?
「………………羽を出したまでは良いが、動けんのか? 羽を出した時にはまだ何かやるのかと少々期待したが……もう終わりか……」
血が流れ過ぎたのか痛みも少し緩和してきた……それと引き換えに急激な眠気。意識が朦朧とする……
ダ、ダメだ……もうこの羽も保っていられない……
そう思った瞬間、六枚の羽と天使の輪は光と共に霧散してしまった……
「…………やはりもう終いのようじゃな。では、そなたを殺そうと思うのだが、最後にもう一度聞いておこう。わらわの下に付く気は無いか? 僕になると言うなら生かしておいてやるぞ?」
動けない私にとって本当の本当に最後の質問なのだろう。
『この痛いのが終わるならそれも良いか』……そんなことを僅かに考えたが、アルトレリアのみんなの顔が思い浮かび、その考えをかき消した。
そして、質問に返答する。
「な、無い……」
『あなたたちが亜人を食料としてしか見てないなら、私が折れることはあり得ない』
そこまで言いたかったが、もう声を出す気力が無かった……
「そうか……そなたは面白い生物だったが残念じゃ……名を名乗れ。せめてわらわの記憶に刻んでおいてやろう」
「…………アルトラ……」
「そうか、ではアルトラ、これで終いじゃな。そなたの身体は硬くて食べられそうもないが、食べられそうなところはきちんといただく、安心してそなたらが言うあの世とやらに行くが良い」
風を纏った刃のように変化させた腕が振り上げられる。
「本当に最期だ、何か言い残すことはあるか?」
「………………」
ほぼ無敵の身体だったから今まではこんな大怪我負うなんて思ってなかった……危機感が足りなかったんだ……
魔王相手でも何とかなるんじゃないかって思ってた……甘い考えだった……
みんな……ごめん……
「もはやしゃべる気力も無いか……ではさらばだ!」
そして、風の刃が振り下ろされる――
アルトラが負ったかつてないダメージ!
次回は7月8日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第486話【絶望の中訪れた希望】
次話は来週の月曜日投稿予定です。




