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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第17章 風の国ストムゼブブ『暴食』の大罪騒乱編

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第477話 世界中に出現したジャイアントアント その5(カイベルの思惑)

 カイベルから()()うの(てい) (※)で自身の産み落とされた巣穴へと逃げ帰った漆黒アリ――

   (※()()うの(てい):大変な目に合って、やっとのことで逃げる様子)


「クソッ! クソッ! クソッ! 何ダアノ生物ハ! 亜人ナドニ! コノ私ガ! 負ケルハズガ! 無インダ! 次ニ遭ッタ時ヲ覚エテイロヨ! 絶対ニ殺シテヤルカラナーーー!」


 特殊個体は人型に近くなった所為か、銀色アリ、赤黒色アリなどと同様に感情が豊かになる傾向があった。怒り易くなったのもその傾向の一つである。

 憤慨し、怒りの行き場を探していたところ、自身の肩から何かが落下。


「ン? コ、コレハ……」


 その直後に地面に転がったカイベルの左手に気付く。


「ハ…………ハハハハハハ!! あいつノ左手カ! 私ノ空間転移ニ 巻キ込マレテ 切断シタンダナ!? ザマアミロ!」


 切断されたカイベルの左手を拾い上げ、


「フンッ、働きアリノ栄養分ニデモ シテヤロウカ。イヤイヤ、無様ニ 切断サレタ左手トシテ、私ノ部屋ニデモ 飾ッテ置イテヤル!」


 この言葉は、亜人よりも遥かに上の能力を持っているはずと自負していたプライドを、カイベルによってズタズタに傷付けられたためその相手に深手を負わせたという事実を再確認することでプライドの回復を図ろうとして出た言葉だった。

 が、拾い上げた左手が動き出した。


「ウ、ウワァッ!!? ナ、何ダコノ手ハ!?」


 驚き、拾い上げた左手を再び投げ捨てる。


「ニ、人間トイウ種族ノ手ハ 我ラノ手ト同ジデ 切断シテモ動クノカ!?」


 その直後、漆黒アリの目の前に空間の裂け目が出現する。

 そこから出現したのは……カイベルであった。


「巣穴へのご案内ありがとうございます」

「ナ、ナナナナナ、何デ オ前ガココニ!? ク、空間魔法ハ 一度行ッタコトガアル場所ニシカ 行ケナインジャナイノカ!?」


 自身の能力を何度も試したのだろう、漆黒アリも『一度行ったことのある場所にしか行けない』という認識を得ていた。

 もちろん、漆黒アリがカイベルを自身の生まれた巣穴に案内するはずがない。

 しかし、彼女はどういうわけか一度も行ったことがない巣穴にも関わらず空間転移魔法によって、いとも簡単に漆黒アリの居場所を突き止めてしまった。

 一度は解放されたと思っていた死の影が再び自身に降りかかり、漆黒アリは戦慄を覚える。


「ええ、ですから切断された左手から漏れ出る魔力の残滓(ざんし)辿(たど)るために、左手を持って行ってもらったのです。逃げる時にはあなたが最も落ち着ける巣穴へ九十三パーセントの確率で逃げ帰ると思っていましたから」

「タ、辿(タド)ッタ……ダト?」


 手を切断などせずとも、アルトラがやっていたように『魔力マーキング』を貼り付ければ追跡することはできるのだが、この方法には二つ欠点があった。

 一つ目は、この『魔力マーキング』は位置を把握する空間魔法の一種であるため、同じ空間魔術師である漆黒アリには気付かれて消されてしまう可能性があること。そうなるともう魔力残滓(ざんし)辿(たど)ることはできなくなる。

 そして二つ目は、短い距離でしか効果が無いため、もし超長距離を空間転移されてしまえば追跡が不可能になることである。アルトレリアの海岸とアリの巣穴のある風の国との距離は数百キロから数千キロ離れているためこの条件を外れてしまう。

 それら二つのことを考慮した結果、自身の左手を切断してその魔力残滓(ざんし)辿(たど)る方法を選んだのだ。これならば自身の身体の一部が現地へ移動しているため、【ゲート】の条件を満たすことができた。


 カイベルが左手を拾い上げ、左腕の切断面にくっ付けると、切断された傷が瞬く間に塞がる。

 その様を見た漆黒アリは、『コイツに傷を付けても瞬時に回復される』と誤認し、更なる恐怖を刻み付けられる。もはや逃げること以外考えられなくなってしまった。


「オオオ、オ前タチ! あ、あいつヲ足止メシロ! 私ガ逃ゲル時間ヲ稼ゲ!」


 巣穴に居た働きアリ多数がカイベルに襲い掛かるが、先ほど同様時間魔法を発動させ、カイベルに届く前に塵になって消えた。


 働きアリたちをけしかけ、必死に逃げようとする漆黒アリだったが、カイベルとの会話によりまぎれていた恐怖心が、会話が途切れたことにより湧きあがり全身が震えだす。もし亜人の肉体であったのなら大量に冷や汗をかいていただろう。


「ク、クソッ! ア、脚ガ震エテ動カン……グワッ!」


 脚がもつれ尻もちをつく漆黒アリ。

 恐怖心で痙攣するのも、フォルムが人型に近くなり生態が亜人に近付いたために獲得した自己防衛機能であったが、事この場に至っては逃げることを邪魔する機能となってしまい獲得したことが裏目に出る。

 座り込んでいる漆黒アリの顔面に、ずいっと自身の顔を近付けるカイベル。


「ヒ、ヒィィッ!!」


 身長はカイベルより頭二つほど高い漆黒アリ。先ほどはカイベルを見下ろしていたが、今は立場が逆転し、見下ろされる立場に。

 もはや漆黒アリにとって、カイベルは恐怖の対象でしかない。相手が亜人であれば右手の一振りで首を飛ばせる距離に居るというのに抵抗する気力すら消え失せていた。


「さて、ここで一つあなたに選択肢を与えます」

「セセセ、選択肢!?」

「今ここで殺されるか、他の巣穴に案内するか選んでください」

「ス、巣穴ニ!? ソ、ソンナコトヲシタラ 女王ニ殺サレル!」

「では、ここですぐさま殺します」


 右手を構えるカイベル。


「マママ、待テ! 待ッテクレ! ア、案内スレバ 私ノコトダケハ 助ケテクレルノカ?」

「ええ、『助け』ます。さあ、連れて行ってください」


 そう言いながら、震えて立てない漆黒アリを持ち上げ、強制的に立たせる。


  ◇


 その後、空間転移魔法で三ヶ所の巣穴に案内させ――


「ス、巣穴ハ コレデ全部ダ」

「他にもありますよね?」

「エッ!?」

「まだ、あと二ヶ所主要なアリの卵を孵化させる場所があるはずです」


 過去発生したジャイアントアントとは違い、今回発生したものの巣穴の中には、銀色アリ、赤黒色アリ、ゴムアリ、成長アリなど特殊能力を持った個体が育てられている巣穴が存在している。

 そして、その特殊個体の孵化を待つ卵はまだ残っており、それを破壊しなければ再び災害級のアリが出現してしまう。

 その特殊個体が孵化する巣穴の場所をしゃべらずに黙っていたのである。


「シ、知ラナイナァ……」


 シラを切り通そうとする漆黒アリだったが……

 全ての巣穴の場所を把握しているカイベルに誤魔化しは効かない。


「そうですか、ではご案内ご苦労様でした。ここで死んでもらいましょう」

「マママ、待テ! ワ、ワカッタ!」


 再び恐怖心を煽り、更に二ヶ所を案内させる。


「コ、コレデ全部ダ。コレデ私ハ助ケテモラエルンダヨナ?」

「はい、ではお助けします――」


 その直後、【次元断(ディメンション・キル)】で漆黒アリを左肩から斜めに切り裂いた。


「ナ……何デ……『殺サナイ』ッテ 言ッタジャナイカ……」

「はい、『助ける』とは言いましたが、『殺さない』とは一言も言っておりません。私の独自解釈で、あなたを『アリの“自由にならない生”から助ける』と解釈しました。それに先ほども申しましたが元々あなたは生かしておくつもりは毛頭ありません。ここで逃がせば間違い無く後々の世の災害になり得ますから」

「ク、クソ……キ、貴様ダケデモ道連(ミチヅ)レニシテヤル……」


 斜めに切断された肩から下部分の方に残された左手を動かし、カイベルの背後から最期の空間の断裂で攻撃するものの――

 カイベルはそれを一瞥(いちべつ) (※)することすらなく回避。

   (※一瞥(いちべつ):ちらっと見ること)


「バ、化ケ物メ……貴様ニサエ遭ワナケレバ……モットモット亜人ヲ殺セタモノヲ……」


 その一言を残して事切れる。


「ここまで巣穴のご案内に貢献していただけたのでせめてあの世への道案内をしてさしあげましょう。では()い死後をお過ごしください。【昇天魔法(リターン・ヘヴン)】」


 生命活動を停止した漆黒アリに昇天魔法をかけ、魂を速やかにあの世へ送る。


「次は亜人に生まれ変わってヒトの生を楽しめるように私から閻魔様にお願いしておきます。女王に縛られたジャイアントアントの生より余程楽しく生きられると思いますよ。もっとも……お願いを聞いて下さるかどうかは閻魔様次第ですが」


 その後、漆黒アリに案内させた五ヶ所の巣穴を全て破壊。特殊個体を孕んだ卵も破壊した。

 騙して案内させる卑怯とも取れるカイベルの行動だったが、彼女はそれでも冷酷にこなす。

 先述のように漆黒アリに案内させずとも、カイベルには巣穴がどこにあるか分かっていたが、その巣穴一つ一つは離れた場所にあり、その距離は数百キロにも及ぶ。空間転移能力のある漆黒アリに案内させた方が効率的と考えたために出した手段の一つに過ぎなかった。


「さて、後顧(こうこ)の憂いは断てましたし、次の行動に移りましょうか……」


 こうして風の国全域に分布していた巣穴はカイベルの暗躍によって破壊され、残すは女帝蟻とその周囲のみとなった。


 なお、七大国の中で、氷の国だけ唯一今回のジャイアントアントの騒動とは無関係だった。

 これはカイベルが事前に予想した通り、低温度下でアリの活動が鈍ってしまうため、寒い方へ行かなかったからである。

 ただし、火を克服した赤黒色アリのようなものもいるため、今後女帝蟻が氷に関する生物を生み出せば、侵攻が無いとは言い切れない。

 左手切断して持って行ってもらうなんて方法は、生物じゃないから可能なことですね。


 次回は6月10日の20時から21時頃の投稿を予定しています。

  第478話【首都ボレアース崖下に出現した特殊個体】

 次話は来週の月曜日投稿予定です。

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