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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第17章 風の国ストムゼブブ『暴食』の大罪騒乱編
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第453話 草木の伐採と雨雲消し

 各小隊長が話し合って担当場所を決定。そして小隊の方でも草木を刈る係と、土を掘って埋める係を分担。

 バラけて草刈りが開始された。


 私は手に風魔法を纏わせて手刀で草を刈る。鎌のような刃を用意した方が良いかと思っていたが、これが面白いようによく切れる。まあ動物を解体できる (第3話参照)ぐらいだし草刈るくらい造作も無い。

 草程度のものなら風魔法で切ってしまった方が時間も短縮できそうだ。


 騎士団員たちはそれぞれ剣とは別に短剣を持っているため、それを使って草を刈る。

 風魔法を得意な者が多いと言っていたため、短剣に風の魔力を纏わせてより切れ味を高めているようだ。


 レッドドラゴンたちについては、そういった刃の類を持たないためどうするか観察していたところ、フレアハルトが以前やっていたことと同じく自身のウロコを引き抜いて、刃に仕立てていた。 (第400話参照)

 あの時のように拳でガンガン殴って成形していたため、切れ味としてはイマイチではないかと思ったが、彼ら一人一人の腕力が凄いため草を刈るには全く問題が無かった。


 それぞれが思い思いの方法で草を刈り取り、少ししてから質問が来た。


「木はどうしますか? 乱立しているところもありますが……」


 沢山立っているところは視界を確保しておきたいところだ。


「木が密集しているところと、通行の邪魔になりそうなところは伐採をお願い。少ない本数の場合は判断をお任せするよ。ただ、枝が伸びて視界が悪くなりそうなら枝打ちだけはしっかりしておいて。あと切り倒したままだと戦闘になった時に邪魔になるかもしれないからなるべく細かくして刈った草と一緒に処分を」


 風魔法使えれば木をバラバラにすることくらい造作も無いだろう。


「ジャイアントアントが出現した時に一刻でも早く見つけられないと、キノコ岩を登って街へ侵入されてしまう可能性があるから、とにかく視界の確保を!」

「了解」


 最初『ボレアースが襲撃されるなんて信じられない』という表情の者が多かったが、作業を続けるとそちらに意識を取られるようで、特に不満も言わず言うことを聞いてくれるようになった。


   ◇


 しばらく伐採作業を続け、私から見える範囲は随分見通しが良くなった。

 これなら野生生物が隠れられるところも少なくなっただろう。アリが出現しても幾分か見つけ易くなったと思う。


「次はこのちょっと柔らかい地面を乾燥させて地固めしよう!」


 土に湿り気があると戦闘中に足を取られるかもしれないし。

 こういう時にあの魔道具が役に立つ。『地面乾燥くん』 (第288話参照)


「アルトラ部隊長、何ですかそれ?」

「地面を乾かす魔道具」

「地面を乾かす? そんなピンポイントな魔道具何に使うんですか?」

「田んぼの稲を刈り取る時とかに土を乾かすのに結構便利なのよ。時間効率を考えるなら、乾くのを待つより乾かす方が良いから」


 ここに少し改良を加えて、湿ってる方へ移動する機能を付けた。

 地面へ転がしておけば、自動的に移動して行く先々で適度に乾かしてくれる。

 もし魔道具を固定させて置いておくと、カラッカラに乾かしてしまうかもしれない。そうなると土が強風で舞い上がってボレアースの街に環境的な被害を生みかねないから“適度に”とね。

 おっとタイムリミットも設定しておかないと谷底全体がカラッカラになってしまうかもしれない。五時間くらいで同じところに戻ってくるようにしておくか。草刈り終わったくらいに戻って来る設定にと。あと川周辺の水分は吸わない設定にして。

 『地面乾燥くん』を転がした。


   ◇


 五時間かけて広範囲の地面が乾き、足の踏ん張りも利くくらいの固さになった。乾燥くんも回収。


「よし、これで雨が降らなければフィールドコンディションはバッチリかな」

「残念ながら明日は雨です」

「え……?」


 ウィンダルシアの一言。


「嘘でしょ!? 今乾かしたばかりなのに!」

「ボレアースは標高の高いところにありますので、天気は変わりやすいのですよ。ヒトが住む場所としては世界の頂に次ぐ標高で、七大国中で最も高い場所ですから」

「それはまずいね……雨の中襲撃されるなんてことになったらかなり不利になると思う。あなたたち、雨が降ると飛びにくくなるでしょ?」


 いかに体力的・身体的能力に優れた怪鳥種と言えど、羽が濡れてしまえば本来の能力を発揮できなくなってしまうだろう。


「そうですね……羽が濡れてしまえば緊急離脱などは難しくなるかもしれません」

「わたくしたちも雨に濡れると戦力ダウンしてしまいます」

「炎吐いても雨で威力が激減するでしょうしね」


 と、アリサとレイア。


「寒さに強くなったのに炎の威力までダウンするの?」

「やはり身体が冷えるとその分パフォーマンスにも影響が出ますので」


 精神性とかイメージとかの問題かな?

 火が水で消えるとかそういうイメージを持ってしまうと放出する魔法にまで影響が出るとか。


「よし分かった! 私が雨雲消し飛ばしてくる!」

「そんなこと可能なのですか!?」

「以前、やったことがあるから大丈夫! じゃあちょっと行ってくるから」 (第203話参照)


 その場に居たアリサとレイア、ウィンダルシア、その他騎士たちに言伝して西の空へ飛ぶ。


「どうやって雨雲を消すのか興味があります。僭越ながらその方法を見学させていただいてもよろしいでしょうか?」

「うわっ!? つ、付いて来たの!?」


 ウィンダルシアが空まで付いて来ていた。

 ビックリしたぁ……空飛んでる最中に後ろから声を掛けられたのは初めてだったから……


   ◇


 ボレアースと少し離れた場所まで飛ぶと、雨が降っている場所に遭遇。

 あれが数時間後にはボレアースまで流れて行くわけか。


「どうするのですか?」

「雨雲をまとめてから直接消し飛ばす。【大気吸引(サクション・エア)】」

「これは……雨雲が吸引されている!?」


 冷風を圧縮した風を雨雲へ向かって投げつけ、疑似的な超低気圧を作って雨雲を引き寄せて小さくし――


「【炸裂する爆炎(エクスプロージョン)】!」


 ――その中心で炎を広範囲に炸裂させ膨大な熱エネルギーで圧縮した雨雲を燃焼、焼失させる。


「………………!?」

「よし! これで【炸裂する爆炎(エクスプロージョン)】の余熱と乾燥でしばらくの間この辺り一帯の水分も蒸発するから一日二日は雨雲にならないと思う」

「い、以前もこんな方法で雨雲を消してたのですか!?」

「あまりやると環境に悪そうだから、次の日に絶対に雨降ってほしくないって時だけやってるんだけどね。火と氷と風魔法を使える魔術師なら同じことができるんじゃないかな」

「まずその三つを高精度で使える者がほとんどいませんが……それに加えて空まで飛べる種族となると……」


 そういえば風の国には火魔法の使い手があまりいないって言ってたっけ。


「さあ、雨雲も処理できたし帰りましょうか」


 ゲートでキノコ岩崖下(がいか)へ帰還。


   ◇


「お帰りなさいませアルトラ様、ウィンダルシアさんも」

「お帰りなさいアルトラ様。それで雨はどうだったんですか?」

「この先一日二日は降らないように処理したよ。これでジャイアントアントを迎え撃つ準備は出来た。じゃあ明日に備えて、今日の伐採作業は終了としましょう」

「では夕御飯の支度と致しましょう。みんな炊き出しの準備を」


 一時間後――

 ご飯の時間がやってきた。


「おお! カレー!?」


 水の国で食べて以来久しぶり食べる! (第87話参照)

 スパイスも手に入って今ハンバームちゃんに頼んで試作してもらってるけど、まだアルトレリアでも出来てないから。


「こういった大人数に行き渡るようにするには最適なメニューですので」

「魔界でもそういう文化なんだね」

「いえ、随分前に亡者から伝わったことだったと思います」

「へぇ~」

「ところで、部隊長は『鉄の乙女(アイアンメイデン)』と呼ばれているとか」

鉄の乙女(アイアンメイデン)? それって誰が言ってるの?」

「違うのですか? ティナリス団長がデスキラービー駆除作戦から帰って来て以来、あちらこちらで言いふらしてましたが……」


 噂の出所元はティナリスだったか……

 地球ではあまり付けられたくない名前なんだけど……元ネタは“血を吸う鉄の棺桶”の名前よ?

 とは言え、否定したところで言いふらした本人がいないのだから仕方がない。

 その後も多少の雑談を交えて、ご飯を頂く。


「誰か今何時か分かる?」

「五時半ですね」

「ん?」


 聞き違えたか?

 日にち跨いでるように聞こえたが……


「ごめん、もう一回」

「五時三十四分です」


 聞き違いじゃなかった!


「もう日を跨いでるの!?」


 もうそんな時間だったのか。いや、アルトレリアを出たのが十五時回った後だったから、そこから会議して、谷底の下見して、騎士たちを集めて、伐採作業って言ったらそれくらい経っててもおかしくないか。

 太陽が無いから時間間隔が狂うわ……カイベルに依れば今日の出現確率は十二パーセント。明日は五十五パーセント、低確率ながらもう今日には出現する可能性があるわけだ。


「ウィンダルシア! これからのこと指示するから急いで全員を集めて!」

「了解しました」


   ◇


 そして全員集められる。


「草刈りも粗方終えたので作業は終了とします。各自休息を取ってください。その前に、この中に感知能力に長けたヒトはどれくらいいますか?」


 まばらに手が上がる。

 人数は二十人ほど。


「我々はまだまだ訓練兵上がりですので長けているとまではいきませんが、多少感知能力が高いと自負しています」

「感知できるのはどれくらいですか?」

「調子の良い時で一キロ程度でしょうか。確実に感知できるのは七百メートルとか八百メートルとか」


 う~ん……樹の国の感知能力者に比べたら半分くらいの能力しかないな……


「他の者は?」

「私は一.五から二キロくらいを感知できます」

「おお! 凄い! あなたは……土の精霊?」

「はい」


 精霊種はやっぱり感知能力に優れてるのね。

 熟練したヒトはもっと長距離を感知できるのかな?


「他にそれに匹敵するくらい感知範囲が広い者はいる?」

「いえ、ほとんどは一キロ以下に収まると思います」

「そっか……」


 ちょっと心許ない。


「あなたたちは感知能力高かったよね?」


 と、レッドドラゴン五人に訊ねる。


「全員大体二キロから三キロ程度というところですね」

「じゃあ、あなたたちに感知役の主要部分をやってもらいたい。あなたたちをボレアースのある首都崖下(がいか)の中心部分へ配備します」


「「「「「 はい 」」」」」


「五人を三キロ間隔で一列に配備。私は城の直下で見張る。他の者は五人の届かない範囲を埋めるように周囲へ配備します」

「首都があるキノコ岩崖下(がいか)に感知能力者を分散させて、網を張っておくということですか?」

「その通り。今回のアリはどこから出てくるか分からないから、魔力感知の網に引っ掛かるように配備します。ですので感知能力者は近くの担当者と二交代制で交互に休息してください」


 待てよ……そういえば穴を掘るアリ以外の目撃情報もあったって言ってたな。


「空飛ぶアリとか潜水するアリがいるそうなので、谷底を流れる川にも注意を払っておいてください。有翼人は首都へ行き、空の警戒を。地中を進むタイプと比べれば恐らく数はそれほど多くはないと考えられるので、もし羽アリが飛来した場合は住民を逃がしつつ対処をお願いします。では、感知能力者には通信機を配っておきます」

「通信機? この場所は風が強いので電波の類ではノイズが酷くて通信できませんよ?」

「想定内です。これを感知能力者全員に渡します」


 シール状になった紋章術符を渡した。


「何かの魔道具ですか?」

「これが通信機なんですか?」

「そう。そのシールを利き手じゃない方の手のひらや手の甲に貼り付けておいてください」


 アルトレリアを離れる際、カイベルから女帝蟻の対処法を聞いた時に一緒に持たせてくれたカイベルお手製の紋章術シール。

 親シールと子シールがあり、親⇔子で通信できる。ヘパイトスさんがラジオに貼り付けてくれた送受信シールが一方通行だったから、それの上位互換のような性能。 (第439話参照)


「皆さんに配ったシールと私が手の甲に貼っているシールには通信の紋章術が刻んであって、魔力を流すことにより私のシールに繋がります。私以外の全部のシールは私のシールに繋がっており、私からは一斉に全てのシールに通信できるようになっています。これは電波を介さないため直接通信が可能です」

「おお! なるほど! これなら電波ではないので風に邪魔されませんな!」

「首都の方へ行っていても通信できるんですか?」

「問題無いはずです」


 カイベルお手製だからそんなに有効距離が短いはずがない。


「谷底のいずれかで異常があった時には、そのシールに話しかけて私を呼んでください。ただし首都防衛部隊には恐らく手が回らないと考えられるので余程大群で襲撃された場合でなければそちらで対処をお願いします」


 もしこの場にトロル族だけしかいなかったなら『転送玉』で瞬時に移動する手段があったけど (第38話参照)、あれは本来なら魔界に存在しないはずの空間魔法系の魔道具に当たるからここで使うのはまずい。 (存在の有無については第293話参照)

 『ゼロ距離ドア』と『一進五退装置』以外に空間魔法系の魔道具が登場したとあっては、フリアマギアさんにどう詰められるか分かったものじゃない。

 しかも『転送玉』は消耗品だから、仮に『古代遺跡で出土したものなんです』なんて言い訳したところで、『何でそんな貴重なものをホイホイ使うんですか!?』とか言われて確実に私を問い詰めに来るはずだ。下手したらそこから周辺国にもバレてアルトレリア自体が狙われる可能性まである。またルシファーからの過激なアプローチに発展するかもしれないし。

 以上の理由で『転送玉』は使えない。


「ではボレアースのマップを頼りに担当場所を決めましょう。感知能力者は集まってください。その他の者は解散して良し」


 感知能力者だけを集め、ボレアースのマップで地域を『魔界文字アルファベット』の縦軸と『魔界文字数字』の横軸に分けてマス目を引き、感知区域の担当を決める。

 『A-1にアリ出現』などと報告してもらうつもり。

 正直言って、感知能力があると言っても多くの者は範囲が狭すぎるから、アリが通行した時に感知範囲の端にでも引っかかれば良いという感じで決める。

 まあ、そう言っている私もそれほど得意じゃないから彼らより感知能力では劣るのだが……

 ただ、流石に二十五人をバラけて配置すれば、いずこかには引っかかるだろう。街に行かれさえしなければ良いから、キノコ岩を登って首都へ侵入される前に見つけ次第素早く叩く算段。


「よし、じゃあみんなそういうことでよろしくお願い! 各担当場所へ移動し、感知しつつ休息を取ってください」

 天候操作できるって良いですね。


 次回は3月14日の20時から21時頃の投稿を予定しています。

  第453話【予見されていた第三のはぐれジャイアントアント】

 次話は木曜日投稿予定です。

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