第436話 アルトラの身体に異変!? その3(クリューとの特訓)
散々炎が近くを通り過ぎた所為か、身体全体が熱い……
「水魔法や氷魔法で身体を冷やして、火傷の回復もしておいてください。これをどうぞ、私が作った特製のポーションドリンクです」
「あ、ありがとう……」
渡されたドリンクをがぶ飲み。
くあぁ~~~身体に染み渡るぅ~~!
自身の身体を【癒しの水球】で包んで、身体の熱を下げると同時に回復を図る。あぁ……眠くなってきた……
「アルトラ様、寝るとパフォーマンスが落ちるのでまだ寝ないでください。寝るのは全部終わった後です」
無理矢理起こされた……
「フレアハルト様もどうぞ」
「悪いな。しかし、これほど炎を吐いたことはなかったが、結構疲れるな。我の方が痩せてしまいそうだ」
「じゃあ、これで終わりってことにしとこうか」
「残念だけど、休憩した後は私の出番だよ」
くっ……まだ万全な相手がもう一人居たか!
「ところで、フレアハルトって顔だけドラゴンにすることとかできたのね」
「顔だけでなく、手足の一部をドラゴン化したり、尻尾や翼だけ出すこともできるぞ。この姿は我らドラゴンが人型になる前に一度は通る半端者の状態だ。今まではこんな半端者の姿で戦闘するなど考えもしなかったが、アスクに『喉が潰れる』と聞いて試してみた。完全にドラゴン化するより小回りが利くから戦術の一つとしても使えるな」
そういえば砂の精霊との戦闘でも左手をドラゴン化してそこからウロコ取って槍に成形してたっけな。 (第400話参照)
それにさっき無人島来る時にドラゴン形態じゃないのに空飛んでた気がする……
太ると周りの挙動にも気が回らなくなるのかな……
「十五分休憩としますので、甘味でもどうぞ。お茶も煎れました」
あれって、さっき私から取り上げたおつまみじゃ……?
ああ……“私の”おつまみが食べられてしまう……
「では、このケーキをいただこうか。…………我が食べるところをそんなにマジマジ見ててもやらんぞ?」
言われて気付いたが、フレアハルトの方をガン見してたらしい……
「じゃあ私もケーキをいただこうかな。…………見ててもあげないよ?」
クリューはまだ何もやってないくせに!
「全く糖分を摂取しないとエネルギー不足になるかもしれませんので、ケーキを一つだけ食べておいてください」
やった!
「一つだけだぞ?」
「一つだけだよ?」
「分かってるよ……」
とは言えケーキ一つ食べられた。
◇
十五分休憩が終わり、次の相手はクリュー。
「さて、私は今回のダイエット作戦では、手を離れる魔法を使いません」
「手を離れる魔法ってことは飛び道具を使わないってこと?」
「飛び道具? アルトラは面白い言い方しますね」
格闘ゲーム経験者なら離れたところを攻撃する技を『飛び道具』と呼ぶのは常識だが、クリューにはゲームの経験が無いから分からないらしい。
「ってことは接近戦?」
「はい。死神の鎌による攻撃なので、ちゃんと避けてください。でないと……本当に死にますから……その際、あなたは地獄に転送されますので、その後は地獄での生活が待ってますよ?」
と言いながら、見た目がつるはしのような両刃の鎌を出現させた。
ゾッとした。あの時必死に避けた鎌の攻撃をまたやられるのか……
しかも、外部申告で太ってるらしいこの状態で。
(※この期に及んでも、アルトラはまだ太ったと認めたくない)
あれ? でもあの時の鎌は片刃だった気がするけど……何で|ダブルハーケン《こんなつるはしのような鎌》なのかしら?
「では、ダイエット開始!」
カイベルのその声の直後に横に薙ぎ払う一閃――
咄嗟に身体を後ろに反らして避けた。
あと一瞬遅かったら首が無くなってたかもしれない。
その後縦に振り下ろした時にそれは起こった。
「え!? 影が!?」
闇魔法で作られた複数の影が少しズレたタイミングでクリュー同じ動きをする。
いくつもの残像がクリューの後を追って動き、さながら格闘ゲームのスーパーコンボのような動きに見える。
「金剛盾」
沢山の影の動きに一瞬驚いたが、右手に土魔法でダイヤモンドの盾を作って防いだ――
――かに思えたが、
ガガッガッガガガガガッガッガガガガ
と流れるように盾の全く同じ場所に寸分の狂いもなく攻撃が当たるため、共振現象を起こしてダメージが蓄積、あっという間にボロボロに砕かれていく。
「嘘でしょ!? いくら私の甘いイメージって言ったって、ダイヤモンドをイメージしたのにこんな簡単に!?」
ダイヤモンドすら壊されてしまうガード不能の攻撃ということで、以降は回避に徹することに。
ただ、ここまでは影が流れるようにクリューと同じ動きをトレースするため対処はそれほど難しくなかった。
要は、クリューの攻撃した場所に留まらなければ済む話。クリューの攻撃を避けてすぐにその場を離れればそれ以降の影たちの攻撃は全て空を切る。
「慣れてきたかな? じゃあここからは鎌に闇魔法を纏わせるね」
これ以降、クリューの攻撃が“飛ばない”闇魔法を纏わせた攻撃に変化した。
振り下ろされる鎌を避けたところ、ブォッ!という風の音と共に、闇のつぶてのようなものが飛んでくる。
「痛たたたっ!」
この闇痛い! 鎌は当たってもいないのに痛い!
「ちょ、ちょっとタイム!」
鎌を振りかぶっていたクリューに待ったをかける。
「何でしょう?」
「飛び道具系使わないんじゃなかったの!? その鎌を振る度に細かい闇が飛んできて痛いんだけど!?」
「ああ、すみません。あれは闇を付与した鎌を振ったことによる副産物なので……それにちょっと痛いことがあった方が必死に避けようとするから運動量が上がるのでは? じゃあ質問は以上ですね? 再開しましょうか」
「え!? そのまま使い続けるの!?」
結局闇のつぶてはそのままに戦闘再開。
痛みに耐えながらも、鎌の直撃だけは喰らわないように避け、闇のつぶても可能なら避ける。
が、小さい粒のような闇が広範囲に散らばるため、避けるのも難しく……
避けてる間も、一振りごとに大量の砂粒を投げられたかのような痛みが身体中の広範囲を襲う。
小さな闇が身体にぶつかりまくって痛い。
「痛たたたたっ!」
それでも必死に避けると、攻撃の手が緩んだ。
「はぁ、はぁ……お、終わり……?」
しかし次に放った言葉に耳を疑った。
「じゃあ次の段階かな? ここからは少し違う動きを混ぜるね」
えぇっ!? まだやるの!?
も、もう機敏な動きなんてできないよ?
それに今ですら痛いのに、別の動きが混ざる!?
その言葉の直後から、影が全く違う動きに変化した。
今まではクリューの後をただ付いて来ただけだった影が、それぞれ意思を持ってるかのように、違う動きをしだしたのだ。
「ひっ! ひゃっ!」
それを必死に避ける私!
もう息も絶え絶え……避けられてるのが不思議なくらい疲れが来ている。
疲れから少しの油断が生じ、地形に足を取られてつまづいてしまった!
その一瞬のミスにより影の集団に囲まれてしまい――
『ちゃんと避けてください。でないと……本当に死にますから……』
――模擬戦開始前にそう言い放ったクリューの言葉を思い出し、死を覚悟する。
直後に複数の斬撃が私の身体をコマ切れに切り裂いた!――
――と思ったのだが、全く痛みが無い。いや、正確には飛び散ってくる闇による痛みはあるけど、鎌が当たった時の痛みが無かった。
「あれ? 死んだと思ったのに……」
「緊張感持って避けられたかい?」
「どういうこと? 死神の鎌で斬られたら死ぬんじゃなかったの?」
「実はこの死神の鎌は私物じゃないんだ。片方の刃は本物に近い硬さだけど切れ味は無し、もう片方もわざわざそれに似せてカイベルが作った模造の刃だから切れ味どころか硬さすら皆無だよ。私の影は武器の性質もトレースするから影の武器も模造鎌と同じなんだ」
刃の部分を曲げてみせる。
ゴムかプラスチックか、そんなようなのを混ぜた物質で出来ている。多分私以外がこれで斬られたとしても大して痛くない。
つまり金剛盾を壊したのは硬い方の刃で、最後に私に当てたのは柔らかい方の刃だったわけか。
あ、さっきの内緒話ってこれだったのか。本物に見せかけておいて、私が油断しないようにしてたってところかな?
「最初から模造鎌だと分かっていると、アルトラ様も必死に避けようとしないと思いましたので、秘密にしていました」
ふぅ……焦った……鎌が当たる寸前、完全に『あ、死んだ』って思ったわ……
「クリュー、戦ってみてわかったけど、随分嫌らしい攻撃ね……」
「え!? そうかな?」
「攻撃が掠ってすらいないのに、持続的に小さい痛みがあるって……これ、長時間の戦いなら相手は直撃喰らってなくても相当ダメージ喰らうね。当たってもいないのに痛みがあるから多分ストレスとか焦燥感とか凄いと思う」
「中々面白い攻撃だろ?」
「敵にはしたくないわ……」
魔王より強いかもしれないってのはホントのことらしい。全力で戦ってたらあっという間に敗れてたと思う。
ホントに……味方になってくれて良かった……
◇
そしてまた十五分の休憩。
「あ~、何か赤く腫れてるわ……」
ジャージの袖を捲ってみると前腕が真っ赤っか。この赤味は上の方まで続いているから多分二の腕も。狙われてたのが主に上半身だけど、太ももとか膝、脛にもまばらに赤味がある。
あれだけ闇のつぶてを喰らっていたにも関わらず、不思議なことにジャージはほとんど破れていない。ほつれと言えば、この前のフレアハルトとの特訓で負った焼け焦げた跡くらい。
ただ、腕や脚がこの様子だとジャージを貫通して胸とかお腹も腫れてるかもしれない。
自分では見えないけど、多分顔も……
物質魔法で手鏡を作って顔を見てみると――
「ああ……まだ腫れまではいかないけど赤味がかってる……ヒリヒリするわ」
小さな痛みだと思っていたが、その実腫れに発展しそうなくらいの攻撃を持続的に喰らってたらしい。
全身に回復魔法をかけて癒す。
これ、私相手だから多分手加減してくれたんだろうけど、もし出力最大で使ってたら、かなり短い時間で相手に大ダメージを与えられそうだわ……
少し戦っただけでこの腫れなのだからもし最大出力で戦ってた場合、多分私は生きていない。と言うか早い段階で真っ二つかな。
◇
そして休憩時間も終わり、最後のカイベルの番が来た。
「最後は私がお相手致します。このダイエットで大分細くなられましたね。あとは私がお相手して元の体型に戻るまで十五分というところでしょうか」
確かにジャージを着ているのが苦しくなくなってきた。
必死で炎やら死の鎌やらを避けまくったからね……
「ここからは私の放った魔法を避けるか相殺してください。フレアハルト様とクリュー様の時には回避に徹することで身体を動かしてカロリーを消費しましたが、私の番では魔法の使用によってカロリーの消費を促します」
今度は魔法使用イベントか。
カイベルは、私が作った自動人形で、一年以上一緒に居るとは言え、こうやって対峙するのは初めてだ。私が作った彼女がどんな性能なのか、どの程度の戦闘力なのか少し興味はある。
……が、Lv11の攻撃を持たないカイベルの攻撃は私に一切通じないから、適当に避ければ良いか。どうせ痛みは無いし。適当に流して、『ノーダメージの私、高見の見物』をさせてもらおう。
「アルトラ様、『カイベルの攻撃は私に一切通じないから、適当に避ければ良いか。どうせ痛みは無いし』というようなことを考えていませんか?」
ギクッ!!
か、完全に心の中を読まれた!?
ま、まさか態度が顔に出てた!?
「ソ、ソンナコトナイヨ……」
「…………まあ良いでしょう。それが出来ないルールも考えましたので」
「えっ!? どうやって!?」
「私の放った魔法が命中したら、アルトラ様のお召し上がりになる料理を一食分作りません。一発命中するごとに一食分作らない回数が増えます」
「えっ!? それってリディアやネッココも食べられないってこと?」
「いえ、お二人のものは通常通りお作りします。魔法に当たった回数分はアルトラ様自らご用意ください」
ええぇ~~……
な、何てことを考えるんだ……料理を人質に取られた……太ってるらしい今の私には効果てきめんの大威力……
ま、まあカイベルの能力は私より多少弱めに作ってあるはずだから、必死に相殺すれば問題無い。
目指せ! 一発も当たらない完全勝利!
「でも、命中したかどうかなんて誰がカウントするの?」
「それは私がカウントします。どれだけの数が命中したかも全部見えていますので。ちなみに先程クリュー様とのトレーニングで闇のつぶてを浴びた数は千二百六十七発。避けた、または当たらなかった数は二万六千百十九発です。なお、当たらなかった闇は霧散して魔素に戻りました」
「へぇ~、凄いですね。あの細かい闇が当たった数と当たらなかった数が全部分かるなんて」
「ちょ、フレアハルトがいる前でそれ言っちゃって良いの?」
「問題ありません。炎を吐き疲れたのか今はお昼寝の最中ですので」
フレアハルトの方を見ると確かに寝ている……高いびきまでかいて……
くっそー、私がこんなに動いてるってのに! いい気なもんだ! (※自業自得)
それにしても千二百発以上喰らってたのか……身体中痛いはずだよ。
「でも、それってちょっと公正な判定とは言えないんじゃない? 対戦相手が審判まで兼ねるって普通はあり得ないよ? カイベルなら絶対に不正しないのは分かってるけど、私が気付かないところで命中してたら、納得行かないってこともあるし……」
「……それもそうですね。ではクリュー様にカウントしていただきましょう」
「私がカウントするのかい? 正確に測れるかな?」
「正確でなくても結構です。クリュー様の申告された数字を命中した回数とします。カウント対象とする部位も限定しておきましょう。頭と胴体以外に当たった場合はノーカウントとしてください。また、肩や脚の付け根は境界も曖昧ですので迷った場合もノーカウントでOKです。当たった数が多過ぎて数え切れない場合もクリュー様の判断にお任せします。アルトラ様は腕や脚を使って攻撃を防御したり受け流したり、魔法を叩いて破壊したり、相殺したり、何とかして頭と胴体を守ってください」
腕や脚がノーカウントって……それだけ胴体と頭に当てられる自信があるってことか。
……私、超舐められてない?
ここは完全勝利して主人としての威厳を誇示しなければ!
「準備は良いですか、アルトラ様?」
「待って、制限時間を決めようか。いつまで避けてれば良いのか分からないから」
「そうですね。では先程お話した通り十五分で終了と致しましょう。私の見立てではちょうど十五分ほどで元々の体型に戻ると考えます」
「……わかった、それで良いよ。クリュー! 私のご飯がかかってるからお願いね!」
『甘めに判定してね』と心の中で思いながら、クリューの両手を握って目を見て威圧感を与……可愛く媚びを売る。
「……アルトラ、ちょっと圧が強いです……」
双方間合いを開けて、クリューからの開始の合図を待つ。
さて、カイベルはアルトラより大分弱く作られたはずですが、本当にアルトラより弱いのでしょうか?
次回は1月22日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第436話【アルトラの身体に異変!? その4(カイベルのハイパースペック その3)】
次話は来週の月曜日投稿予定です。




