第426話 創成魔法によるカイベルとクリューの違い
「ところでさ、クリューの義体を作った時には何も見なくても生体機能に問題無かったんだけど……何でカイベルはここまでいい加減な構造をしているのかしら?」
「これは私見でしかありませんが、作り出す時のアルトラ様の気の持ちようの違いだったのではないかと思います」
「…………それって私があなたをいい加減に作ったということ?」
そんないい加減な気持ちで作ったわけではなかったんだけどなぁ……
きちんと顔も体も綺麗に整えたし。あ、これは全部外側に関することか。
まあ、あの時は『内臓も排泄器官も無いなら汚れなくて良いか』程度に考えてたし (第97話参照)、結果を見る限り内臓の方は相当疎かにしていたんだろうなぁ……
「いえ、そうではなく、私を作る時には『人形を作るつもりで』作り、クリュー様の義体を作る時には『生物の身体を作るつもりで』作るという心持ちだったのではないかと。人形として作る場合なら見えない部分は多少いい加減でも通ります。人形は内臓が無かろうと、軟骨が無かろうと痛みを感じませんから死にもしません。しかし、こと生物の身体の場合、いい加減では生存機能に関わりますから」
「ああ、確かに生物だと内臓一個無いだけでも大ごとだものね」
なるほど! そういう理由なら、私が疎かにした結果ではないと言えるかもしれない!
「それと、アルトラ様の前世が人間だったのと、前々世でベルゼビュートだった頃の『暴食』の大罪の能力が大きく関係しているようです」
「『暴食』の能力って言うと……食べた相手の姿をコピーできるとかっていうアレ?」
「はい、アルトラ様が前々世のベルゼビュートの生を終わらせて人間に変換される際と、人間から現在の身体に変換される際の二回、幽体・霊体が現在の身体の構成素材として使われています。その影響で前々世との繋がりが残っているのでしょう」
「えっ!? つまり私は前々世の魔王だった頃の身体 (霊体)と人間だった頃の自分の身体 (幽体)を取り込んだ扱いってこと!?」
「はい」
「ちょっと待って、私、人間だった頃に『暴食』の能力なんて使えなかったけど……?」
「地球には魔力がほとんど無いので使えなかったのでしょう」
魔法に当たる能力は、魔力を使う関係上、地球では発動できなかったってわけか。
「それって大罪そのものを取り込んでなくても影響があるってことなの?」
「ベルゼビュートだった頃に、死した直後に人間に転生したので、大罪の能力がまだ色濃く残っていたのでしょう」
「死した直後に転生? あの世で審判とか受けずに?」
「はい」
「何でそんな特別措置を?」
「禁則事項に抵触するため、現在はお答えできません」
おお……また情報のロックか……
「ですので『魔王だった頃の大罪のデータの一部』と『人間の“女性”としてのデータ』がアルトラ様の中に蓄積されており、人体の細部が分からなくてもある程度の補間が為されていたのではと考えます」
つまり前々世の『暴食』の能力の一部を取り込んでいるために、【スキルドレイン】のような能力が使えると。更に人間だった頃のデータも私の中に内在してるってわけか。
そうすると疑問が出てくる。
「じゃあさ、前々世からの『暴食』の影響っていつまで残るの?」
「私の見立てでは、かなり薄くなっていると思います。もうそれほど時間が経たずに消失するでしょう。既にその兆候が表れていますので」
「え? そうなの、それはちょっと残念だな……」
【スキルドレイン】は便利な能力なんだけど……でもだとすると、それでコピーした能力も消失するってことかしら?
エコーロケーションとか消失したら超音波は聞こえなくなるってことよね……
「ん? そういえば人間の“女性”としてのデータ? 女性だけなの?」
「もちろん、アルトラ様の前世は男性ではありませんでしたので」
「え? ってことは、男性として作ったクリューの体内構造はもしかしたらおかしいかもしれないってこと? 骨とか内臓とか血管とか、もしかしたらきちんとした位置に無いかもしれないってことなんじゃないの!? じゃあ、クリューも調べておかないとまずいんじゃないの!?」
実際、尿道が通ってなくておしっこ出せなかったことあったし……あれは私の中に女性のデータしか無かったから、その男女の違いが起こしたものだったのか…… (【EX】第260.5話参照)
生殖機能とかはどうなんだろう?
………………まああの義体はクリューが魔界で活動するための仮の身体だし無くても問題無いか。
それにしても、この町に医者が来たことによる私の秘密を脅かす爆弾は二つあったのね……
「いえ、男女で共通する臓器は特別問題無いようです。クリュー様は人形の私とは違い、自身の霊体と義体が歪に繋がりながらも生物として成立していますので、検査されても些細な差として見逃される可能性は高いと思います」
ああ、確かに。人間界でだって心臓が左右逆に付いてる人がいたり、骨が常人より何個も多い人がいる。血管だって異常発達している人はたまに存在する。
少しくらい内臓や骨の位置・形が違っていたっておかしく思われないかもしれない。
「それにこの魔界の生物の様態は多種多様。人間界ではおかしいと思われていても、ここでは大した違いではないということもあり得ます」
「それもそうか。じゃあクリューは召集しなくていっか。そのままでも特に問題無さそうだ。カイベルから見てどうなの? クリューの内臓の位置がおかしかったり、内臓の一部が無かったりする?」
「いえ、位置のズレや重大な欠損も特に問題無いようです」
「でも……この間倒れたけど、本当に大丈夫?」
倒れたのついこの間だからな……
「あれは義体だけが成長して霊体との整合性が取れなくなったために、クリュー様の霊体が抜けやすくなっただけですので、義体を霊体に合わせた現在は問題無いでしょう」
「じゃあそのままで良いか」
倒れた後は不具合が無いかと多少心配だったが、私の都合からすると、アスク先生が町に来る前に倒れてくれて良かったように思う……
もし身体検査する前に倒れていたら、検査前と後で身長が五センチも小さくなって、心配されていたか、もしくは何があったのかと大ごとになっていたかもしれない。
現在問題無いなら特に調べる必要も無いだろう。ことに彼は男性だから詳しく調べるとなると、こちらも照れが出てしまう。
「あ、でも、肉体を作るのに身体的なデータの蓄積が必要ってことは、それってつまりは人間とは別の生物、例えばトロルの身体を作ろうとしても、上手く作れるかどうか分からないってことなんじゃないの?」
「はい」
やっぱりか。作ってみないと分からないってことかな?
でも、“人間の男性のデータ”が無いのにクリューの身体を作れたということは、カイベルから修正ポイントを教えてもらいながら、誤りを修正していけばそれなりに正常な身体を作れるってことなのかしら?
まあ、仮にトロルの肉体を作り出せるとしても、中に入って操れる魂が存在しないからこんな想定してても全く意味が無いけど……
と言うか、人間の身体でも問題無いんだな、クリュー。
さっきカイベルが「歪に繋がりながらも」って言ってたから、きっと霊体と義体が完全に合致してはいないってことなんだろうけど。
少々疑問を残しながらも時は進み、私たちが診察を受ける日が来た――
年末になり、年賀状のイラストを書かなければならないため、次回の投稿は少し開いて来週の木曜日になります。
次回は12月21日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第427話【身体検査とフリアマギアの詰問】
次話は来週の木曜日投稿予定です。




