第424話 カイベル補完計画 その1(内臓、骨編)
急いで我が家に帰って来た。
「カイベル! あなた検査何日後!?」
「アルトラ様と同じ日のはずですが……」
そ、そうか……ちょっとパニックになって同じ日だということを忘れてた。
「どうかしましたか?」
一応リディアとネッココが居ないか周囲を確認。
居ないな、よし!
「あなたの身体を作り替えないといけない時が来た!」
「少々お待ちを、直前のデータを取得します………………お医者様が来て……ああ、私の内臓が無いことに言及されそうなイベントってわけですか。しかし臨時会談の時、アスタロト様がご提案なされた時にアルトラ様はそれに気付いててお医者様の派遣をお願いしたのでは?」 (第292話参照)
「あ、あの時はそんなの頭の中になかったよ!」
私はカイベルのいる生活に慣れ切って、カイベルのことを本当の人間のように思って生活していたのかもしれない。
『カイベルを検査されたらまずい』ということがすっかり頭から抜け落ちていた。
「どうしたら良いと思う!?」
今はリアルに『内臓がないぞう』状態だからね……
「どうもこうも、創成魔法に関連するものでは私にはどうすることもできませんので、アルトラ様ご自身で解決してもらう他無いのですが……しかし私の考えでは、今回は簡易検査ですので内臓まで見られる可能性は皆無に近いと思いますが……?」
「それでも何かのきっかけで万が一、億が一検査される可能性はあると思うの! もしそうなった場合には、現場で修正なんてできないから、そうなっても良いことも想定して、先に手を打っておこうと思う」
「分かりました」
「じゃあ形の上だけでも内臓を作っておこう。直接開腹して見られなければ偽物とはバレないだろうし。X線で見られても大丈夫な程度には形を形成しておこうと思う。内臓の形が分かる画像を印刷してもらえる? それを参考にしながらとりあえずそれに似せて内臓らしきものを作ってみるから」
以前、オルシンジテンから再形成した時に、カイベルのAIが創成魔法発動に補助を加えて『人工肉もどき』とかいう謎の物質を勝手に作り出したらしいから、今回も内臓を作り出そうと考えればカイベルの中で補助して形成してくれるかもしれない。『人工内臓もどき』とか『疑似内臓』とか。
印刷された画像を元にカイベルの体内に、脳、食道、気管、横隔膜、心臓、肺、胃、すい臓、肝臓、脾臓、胆のう、腎臓、十二指腸、小腸、大腸、直腸、膀胱、尿管、子宮、卵巣に似せた器官を創成魔法で作り出し、その上で食道と口腔、直腸と肛門で繋げる。
今まで魔力貯蔵庫を担っていた脳と心臓に当たる部分に二つある魔力器官を、疑似内臓の脳と心臓へと変換する。
「どう? カイベル? 足りない内臓はある? 一応お腹開いて見ておいた方が良い?」
「いえ、問題ありません。が、心配なら開腹して見ておきますか?」
「いやまあ、今回のは形さえまともなら、お腹開きさえしなければおかしいとは思われないからわざわざ開かなくても良いか」
以前調べたアノ部分は、おかしい状態で他人に見られたら誤魔化しが利かないから私の目で確認して納得する必要があったけど…… (第166話または【EX】第166話参照)
今回は体内のことだから直接見られることはないし。
「少し場所がズレていたり、形が違ったりしていても大部分を作っていただけたのなら、細かい部分はこちらで修正しておきます。ただ、今作られた内臓は全く動いてませんので拍動・蠕動する機能を付けてください。それも魔力で動くようにしていただければこちらで補助して、内臓として問題無いように動かします」
内臓をカイベルの身体同様、魔力で動くように調整。
調整後、カイベルのみぞおち辺りに手を当ててみる。
心音が聞こえるようになった!
一応手首で脈を取ってみたが……
「こっちは拍動してないな……」
脈が全く無い。
血流が無いのだから当然か。
「まあ、心音聞こえるのにわざわざ手首で脈取ることはないか。とりあえず手首を触られなければ問題無さそうだね。そこは注意を払って」
「はい」
「次は骨を整えるから全身骨格の画像を印刷してもらえる?」
骨格も“それっぽく”作ってあるだけで、きっと人間の骨格とは大分違っているはず。
これをきちんと人間としておかしくない見た目に形成し直さなければX線検査などで“異常な生物”の烙印を押されてしまう。
いざ、骨格の画像を見てみると――
「あれ? 肋骨ってこんなに沢山あるの?」
子供の頃は『ろっこつ』って名前から六本だと思っていたことがある。
大人になってみると流石にそんな訳ないことは知っていたが、正確な数までは把握していなかった。
一、二、三、四…………片方に十二本ずつだから全部で二十四本もあったのか。
もしかしてカイベルの骨には子供の頃のイメージがそのまま反映されてたりとか……流石に成人を大分過ぎてから彼女を作ったのだからそんな訳無いとは思うけど、一応聞いておこう。
「カイベル、あなたの肋骨何本ある?」
「左右併せて六本ですね」
嘘でしょ!? やっぱり子供の頃のイメージがそのまま反映されてた!!
六本って……四分の一しかないじゃないか!
「スッカスカじゃないの!?」
「いえ、一本一本が分厚いので問題ありません。今まではそもそも守るべき内臓もありませんでしたし、更に言うなら私は内臓を壊されても死ぬことはありませんし」
確かにそうだけども……
体内のことで表面上は見えてないから適当にイメージしてたのかな?
あっぶねぇ……そのままX線検査でもされようものなら、異常な骨格だとバレてしまうところだった。
亜人と人間ではもしかしたらかなり差異があるかもしれないが、相手は医療先進国の医者だ。亡者 (人間)の身体だって既に研究して調べてる可能性は高い、もしアスク先生が人間の構造を知っているならカイベルが人間でないことは一発でバレる。
いずれにせよ肋骨が六本しかないのは生物として異常としか言えない!
他に間違えそうなのは背骨か。一、二、三、四…………二十七個ある。
「実際の人間の背骨って二十七個の骨で合ってる?」
「おおよそは合ってます。詳しくは頚椎が七個、胸椎が十二個、腰椎が四から六個、仙骨が一個、尾骨が二から三個です」
聞いた上で改めて手元の骨格画像を元に数えてみる。
え~と、頚椎が七個で………… (中略) …………尾骨が二から三個か、数えてみたらこの画像の骨は確かに二十七個ある。何で腰椎が四から六個で、尾骨が二から三個なのかは分からないが……まあそれは多分個人差ってやつだろう。些細なことだからこの際どうでもいい。
実際の人間の背骨を構成する椎骨の数が二十六から二十九個ってことは、カイベルにもこれに近い数の骨はあるとは思うんだけど……今までの私の失態を考えるとこれも数が合ってない可能性が濃厚かな。さて、どうだろう?
「カイベル、あなたの背骨は何個で構成されてる?」
「頚椎が一個、胸椎が三個、腰椎が二個、仙骨が一個、尾骨が一個ですね」
うわ……全然足りない……たった八個しかないじゃないか。二十個くらい足りてない!
生物として成り立ってないような骨の数だ……
胸椎が三個あるのは、多分肋骨が左右六個なのと関連があると思う。腰椎が二個なのも多分脚が生えるところとその土台ってところだろう。
多少多かったり少なかったりするかなと思ってたけど、ここまで決定的に足りないとは……一個二個足りない程度なら個人差で何とか流せるかと思ったけど、八個は少な過ぎて言い訳するにも無理がある。
あの当時の私、きっと3DCGで使うボーン(※)をイメージして作ったんだな……だから極端に骨の数が少ないんだ。
(※ボーン:コンピューター上で3Dモデルを動かす前に入れる骨組みです。モデルとボーンを関連付けることでポーズを自在に変えられるようになります)
フワッとイメージし過ぎたな、と思うと同時にどんな骨格をしているのかちょっと興味が湧いた。
「骨格がどうなってるか見てみたい! あなたの骨格標本を印刷してもらえる?」
そして、印刷されたカイベルの骨格画像を見て思った。
骨の数が少な過ぎて何だかのっぺりしてるな……と。骨格標本特有のゴツゴツしたカッコよさが無い。
頭蓋骨が最もきちんとしている。これはきっと漫画やアニメにも髑髏が登場する機会が多いためイメージし易かったのだろう。
次いで骨盤。これも特徴的な形だからほぼきちんした形で創成できている。少し修正を加える程度で済みそうだ。
ここまでは良かったのだが、他の骨はまあ酷い。
肋骨や背骨の数が全く合わないのはもう判明した通りだが、腕、脚共に数は揃っているが凹凸がほぼ無くのっぺりしている。指とか肘、膝の関節とかも曖昧。
それに加えて、人間には本来無ければならないはずの軟骨が全く創成できていない。元々存在してないんじゃコラーゲンとかグルコサミン使っても復活できないよ! 人間がもしこの状態なら硬骨 (※)同士が擦り合って、痛くて動くどころじゃないかもしれない。
何でこれで痛み無く動けてるのか不思議な状態だ。
(※硬骨:軟骨以外の骨)
「軟骨が全く無いみたいだけど痛くないの?」
「私に痛覚はありませんので」
「それもそうか。で、もう一つ疑問なんだけど、何でその骨の数の少なさで人間と同じ動きができてるの?」
「私の疑似骨格はある程度伸縮自在ですので、骨が捻じれたりしても折れません。そこへ私に搭載されているAIの処理能力で人と同じような動きになるように補正をかけています。例えば私の右腕には前腕骨 (橈骨と尺骨)と上腕骨の二本しか骨がありませんが、別の補正をかけることで人体ではできないような動きをさせることもできます」
「人体ではできない動き……?」
「実演して見せましょう。あそこのコップをここから一歩も動かず取ってみせます」
「えっ!? いやいやいや!! 無理でしょ!」
カイベルの位置からテーブルに置かれたコップまでの距離は目算で二メートルくらいはある。
カイベルの身長が百六十二センチほどだったはずだから、腕の長さは五十から六十センチの間くらいのはず。ギリギリまで腰を曲げて近寄ろうとしても絶対に届かない距離。動かずに二メートルなんて届くはずがない!
そんな考えをよそに、カイベルが後方へ勢いよく腕を引き、更に勢い良く前方に振ると――
「……!!?」
――ゴム人間のように腕が伸びた!?
そのままコップを掴んで戻って来る。
「大体二メートル程度が限界ですが、このように、ある程度なら腕を伸ばすことも可能です。アルトラ様に人間として振る舞うよう命じられてますので普段はやりませんが」
突然の出来事に絶句……
新たなカイベルの性能。骨が足りない部分は自身のAIによる補正で補っていたのか……
私の想像力で足りなかった骨に対し、カイベルの補正が相当仕事をしていると思われる。
流石カイベル……
今まで生活する分には問題無かったものの、このまま検査に行って異常な生物扱いされても困るので、骨の数と並びを修正した。なお、骨の柔らかさは特に問題無さそうだったのでそのままにすることにする。
また、内臓と骨格を印刷した画像は燃やして証拠隠滅した。
カイベルの体質にかなりビックリしたが、次のステップへ進めよう。
内臓も骨も足りなかったカイベル。表面上は見えてないからっていい加減に作り過ぎでしたね(笑)
二日連続で投稿と宣言してましたが、筆が乗り過ぎて三日連続になりそうです。
次回は12月15日の20時から21時頃の投稿を予定しています。
第424話【カイベル補完計画 その2(体液編)】
次話は明日投稿予定です。




