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建国のアルトラ ~魔界の天使 (?)の国造り奮闘譚~  作者: ヒロノF
第15章 火の国ルシファーランド強制招待編
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第406話 デザートソリドの実状

 デザートソリドという町並について。

 各家々は元々要塞の中にあった宿舎や詰め所などをそのまま民家として再利用しているらしい。造りも頑丈に出来ているが、砂で劣化してところどころ崩れかけているものも多数見受けられる。崩れて落下した瓦礫もそこかしこに。

 これもこの地にお金が無いためだろうか?

 電灯は辛うじて機能している感じ。ただ、今まで訪れた七大国のどこと比べても暗い。町全体を薄っすらと輝かせる程度。


 また、現在では危険な町に変貌したため、お金を潤沢に持っていて、隊商全体を賄えるような食料を十二分に持ち運べる商人はここを避けて通ると言われてはいるが、それ以外の商人にとっては近くに代替の拠点となりそうな町が無いため、今でも流通の要を担っているのは変わっておらず、多くの王都への物資は一旦ここに集まるらしい。

 ただ、物資が集まると言っても、ほぼ全てが王都行きのため、この町自体にお金が落ちるわけではない。お金が入るのはここを利用するための停泊料を取ったり、この町での販売許可を出す支配者階級だけで、それ以外にはせいぜい必要最低限の食糧が売買される程度だそうだ。

 そのため、それらの物資を狙った砂賊や強盗が発生し易いとか。訪れる商人たちはその対抗策として護衛を付けて行商をするのが常となった。


 サンドニオさんと別れて、食料の買い出しに来たが、来てみると大分酷いところだった……

 『金持ちと管理者、奴隷で二極化している』と聞いていたが、町で黙々と働いている奴隷のような見た目のヒトたちはガリガリに痩せこけている。まるで私が初めて旧トロル村に来た時のトロルたちのような感じ。

 対して支配者階級らしき人物は、綺麗に着飾って腹もでっぷりと出ている。いかにも良い物食べてそうな見た目。


 支配者階級の下に管理者階級がいるようだが、その管理者は筋骨隆々で痩せ細った奴隷らしき階級のヒトたちでは抵抗するのも難しいというところだろう。

 町中には甲冑で武装した兵士が多い。

 貧困層が裏に隠れておらず、社会の中に表出しているどころの話ではなく、貧乏人は明確に奴隷のような扱いで上に使われているようである。

 なお、兵士についても私の見立てでは管理者階級に属しているように見える。


「レドナルドさん、どこへ買い出しに行くんですか?」

「市場に行きます。この町で店舗を構えているのは支配者階級や管理者階級が利用する高級志向が強い食材屋ですので市場で安く仕入れます。二十数年前は今よりは随分安全で奴隷や庶民でも買えるような店舗も沢山ある町だったのですが、今は町全体が貧乏になってしまい見る影もないですね……」


 町で働く住人にはボロ切れのような薄汚れた服を着た者が多い。

 兵士以外はほとんどそんな感じに見える。


「きびきび働け! おいそこ! 何休んでるんだ!」


 何かを運んでいる奴隷らしきヒトがいる。

 初めて生で奴隷らしい奴隷を見る。

 まるで北斗の世紀末のようだ……


「強盗だーーー!!」

「あっちでは駱駝(らくだ)車が襲われたって!」

「駐留していた行商人の物資が盗まれたらしいぞ!」


 ………………二度言おう、まるで北斗の世紀末だ……

 武装している兵士がいるのはああいう輩を捕まえるためなのかもしれない。

 それにしても駱駝(らくだ)車が襲われたって……私たちの駱駝(らくだ)車は大丈夫なんでしょうね?

 一応アリサを見張りとして置いて来てるから大丈夫だと思うけど……


 ルシファーが代替わりしてから多分二十年から三十年の間くらいだと思うけど、いつからこんな状態なんだろう?

 数年かそこらでこんな状態になるとは思えない。

 七つの大罪を持っている者が王になると、国が潤う傾向が強いとは言っていたが、今はそうではないらしい。

 反乱が起きないのが不思議なくらいだ。いや、もしかしたら水面下では反政府組織(レジスタンス)が出来ているのかもしれないが……

 以前、七大国会談で火の国属国のファーイオがイナゴに襲われているからと減税を訴えていたが……それも握りつぶされかけたことを考えると、火の国各地でこんな様子なのではないかと想像に難くない。 (第228話参照)


 別の方向で何やら怒声が聞こえる。


「奴隷の分際で俺たちに逆らいやがって!」

「ぐあぁ!!」


 地面に突っ伏した亜人の少年を鞭で打つ光景が展開されている。

 管理者階級の兵士に対して、何か反抗的な態度を取ったのかもしれない。

 背中は服が破れ、赤い鞭の後が無数に……


「ちょっと……! やりすぎじゃ――」


 『――ないですか!?』と言葉を続けようとしたところ、横から手が出てきて制止された。

 そちらを見るとレドナルドさんが首をフルフルと横に振る。

 こちらに小声で話しかけてきた。


「……口を出せば、私たちがいなくなった後にあの少年は更に激しく鞭で打たれます。不快ですがここは無視してください。フレアハルト殿とレイア殿も良いですね……?」


 二人の方を見ると、今にも飛び掛かりそうな表情で睨んでいる。


「……この町にいる限りはああいったことは日常茶飯事なので、怒りたい気持ちは分かりますが無視してください。我々が少し介入したところで状況は何も変わりません……」

「……しかしな……レドナルド、あれを止めるくらいしても良いのではないか……?」

「……フレアハルト殿、あなたはこの町の性質が何も分かっていない。あれを止めれば今度は我々がマークされることになりますし、鞭打たれる彼も今よりも更に酷い目に遭わされることでしょう。介入したいのであれば人生を賭けてこの国を変えるという気持ちでなければなりません。相手は国の主ルシファー……様なのですから……あなたにその覚悟はありますか……?」

「ぬ……」

「……下手に介入して、少年を助けて『はい、それまでよ』というつもりなら口を出さないでいただきたい……」

「……わ、わかった、理解した……」


 今までに無いレドナルドさんの剣幕に、フレアハルトも何も言えなくなる。

 しかし、レドナルドさん、今『ルシファー様』と呼ぶのを少しだけ言い(よど)んだな。

 ルシファーの使いとして私を案内しているが、現体制に不満は持っているというところか。


「……それに……最近は希望の光も見えてきましたから……」

「……希望の光……?」


 更に小声になって、


「……ええ、彼らを正そうという集団が現れたと聞いています。話してるのを見つかると我々がその集団だと疑われかねないので、この話はここで終わりにしますが……」

「……でもあの少年はあのまま鞭に打たれると死んでしまうかもしれません。要は私たちが関係しているとバレなければ良いんですよね……?」

「……どうするのだ……? 我がドラゴン化して囮として引き付けて、最後は飛んで逃げるか……?」

「……それも中々良い手だね。大騒ぎになって色んな事がうやむやになりそうだ。でもその後どうやって私たちのところへ帰って来るの……? それに変身する時と変身を解いた時に誰かに見られる可能性はゼロではないし、そこでバレてしまえば騒ぎを起こした意味が無くなってしまう……」

「う、ぬ……」

「……もっと良い方法がある……」

「……何をするつもりですか……?」


 私は思わせぶりに手で合図のような動きをし、少し離れたところに『分身体』を発動。

 顔を覆面で覆い、外套(がいとう)を羽織った男性のような少し体格の良いシルエットに変形させて出現させた。

 この『分身体』の能力は、そもそも水分が多いスライムからコピーしたもので、構成要素の九九.九九パーセントが水なので、ある程度私の意思で自由に姿形を変えられる。


 突然現れた覆面の男性を模した分身体を見て――


「……誰だ……?」

「……誰ですかこの男性(ヒト)……?」

「……突然現れましたがアルトラ殿のお知り合いですか……?」


 示し合わせていなかったため、レドナルドさんだけでなく、フレアハルトとレイアにも疑問に思われるが――


「……私の使い魔です……」


 ――と、能力についてバレないように分身能力ということは伏せ、使い魔ということにしておく。魔力紋で私だと分からないように魔力も改竄(かいざん)した。魔力感知能力の高いフレアハルトとレイアが気付かないのがその証拠。


「……お主使い魔なんぞ飼っておったのか……? 聞いておらんし、アルトレリアでも見たことないぞ……?」

「……人型をした使い魔なんているんですね~……おとぎ話で猫とかカラスとかは聞いたことありますけど……」

「……まあそれはおいおい話すから。二人ともちょっと黙ってて……」


 二人に話をされるとややこしくなりそうだから牽制して黙らせる。

 覆面の男性の姿をした分身体に話しかける。


「……兵士の目をくぎ付けにして逃げつつ、良きところで姿をくらまして……」

「……わかった……」

「……その際になるべく沢山の兵士を引き付けて。多くの者は現在やっている行為を中断してしまえば戻って来てまで続きをしようとは思わないから、それだけ沢山の鞭打たれるヒトが減ると思う……」

「OKOKわかったよ」


 私の指示を聞いた分身体は兵士たちの撹乱に向かった。


「……何だか、随分と気さくな使い魔ですね。主人に対してあのような軽い口調とは……」

「……え、ええ……まあその辺りのことは私はあまり厳しくしてませんので……」


 奴隷身分のレドナルドさんからは無礼な態度の下僕と捉らえられてるのかもしれない。


「……しつけが足りておらんのではないか……? 使い魔なのだろう……? 流石に敬語ぐらい話させろ……」

「……はいはい……」


 フレアハルトは『使い魔』の話に食いつき過ぎだな。

 信じ込んでいるから、私の『分身体』の能力について知っている彼ら二人には町に帰った後にきちんと説明しておかないといけない。


「……でも敬語話させるようにしろって言うけど、そうすると、私アルトレリア国主だから一応あなたの上司だけど……あなた一応リーヴァントに雇われてここまで来てるでしょ……? 私には敬語使わなくて良いの……?」

「………………うむ……! そうだな……! 使い魔はそのままでも良いのかもしれんな……!」


 現金なヤツ。

 奴隷の少年一人助けたところで、制度ごと(=町とか国とかの制度ごと)変えないと意味は無いですよね。

 北斗のケンシロウのように圧倒的な力を持ってて、一人で町全体を相手に出来るならこの限りではないかもしれませんが。

 そういうことを考えると、後先考えずにぶん殴るワンピースのルフィとか、集団に追いかけられてもきちんと話を収める辺り、話の作り方が秀逸なんだなと思います。

 と言うか、アルトラの性格を考えるとぶん殴る方法は使えませんね。その行動に違和感があり過ぎて(^^;


 次回は10月16日の20時から21時頃の投稿を予定しています。

  第406話【レジスタンスの存在と買い出し】

 次話は来週の月曜日投稿予定です。

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