第20話 様変わりしたトロル集落
翌日――
早速潤いの木の苗を片手にトロルの集落へ赴く。
集落へ着くと先日来た時と全く違っていてビックリしてしまった!
集落全体が様変わりしてる!
四日前は土か藁のようなもので出来た家しかなかったが、小さい木の家がいくつか完成していて、大きめの木の家が何棟か建築中だ。
「どうやって木を運んだんだ? 切り倒すにしたってノコリギとか斧とかが必要なのに……」
周囲を見回すと木材と一緒に石斧が置いてあった。
「まさか削って斧にしたのか?」
切れ味はそれほど鋭くはなさそうだけど、あれで切り倒してきたらしい。四日前はあの手の道具は一切無かったのに……凄い進歩だ。
一緒にソリのようなものがいくつかある。どうやらアレを作って運んできたようだ。
家の軒下には、四日前に私が狩ってきた狼の肉が干してある。保存用に干し肉にしているみたいだ。保存する方法も考えたらしい。でも塩はどうしてるんだろう?
服装にも改善が見える。
四日前はほぼ裸のような感じで、女性と思われる個体ですら、乳ボロン寸前くらいまでずり落ちていた。酷いのになると片方出てるのまで居たのに、今日はきちんとした身なりをしている。
顔つきまで変わっていて、アホみたいに締まりの無い顔の村人はもはや皆無と言っても良いくらい。
「まさか、四日前私が知性上昇の強化魔法をかけたから? 知性上げる魔法をかけただけで、たった数日でこんなに変わるもんなの!?」
思いつきで使った知性上昇の強化魔法だったが、ここまで影響があるとは思わなかった。
少し観察を続けた後、集落に降り立つ。
「あ、魔王様いらっしゃい!」
魔王様? それは私のことか?
「いらっしゃい魔王様!」
「魔王様~!」
「ちょ、ちょちょっと待ってください! 魔王様って誰のことですか!?」
村人が集まってきた。騒ぎを聞きつけて統括者らしいトロルがやってくる。
「四日振りのご訪問ありがとうございます、魔王様」
「その魔王様って何なの? と言うかあなたは誰?」
「四日前にあなたにリーダーを任されたリーヴァントですが……お忘れですか?」
リーヴァント!? 見た目変わり過ぎてない?
あなたこの間まで口半開きで、ちょっと涎垂らしてたじゃない!
「申し訳ありません、お名前を聞いていなかったので、何とお呼びしたら良いかわからず、昨日初めて村で会合を開いてみたところ、凄い力をお持ちなのでとりあえず何か呼び方を考えようということになり、頭上に輪っかがあるので『天使様』、何でも出来そうなので『神様』、魔界にいるから魔界の凄い人ということで『魔王様』が候補に挙がりました」
『天使様』に『神様』に『魔王様』って……
「この中で多数決を採ったところ『魔王様』が良いんじゃないかということになったので、魔王様とお呼びしました」
そういえば名乗らずに帰ったっけ。
魔王様は恐れ多いな。他二つの候補はもっと恐れ多いから、そっちにならなかったのは幸いだけど……
「魔帝様の方が良かったですか?」
それはもっと恐れ多いね……
「………………いや、とりあえず今から名乗るので、今後はその名前で呼んでください」
そうと決まったら村人全員集め……なくても良いか。
別に集めなくてもこの場にいる人たちだけで良いや。あとは伝聞なり、勝手に伝播なりしてくれれば。
「改めましてわたくし――」
「あ、お待ちください、全員呼んできますので!」
遮られ、リーヴァントは真っ先に村人を集めに行ってしまった……
「いや! 別にそんな仰々しくしなくて良いから! 別に全員集める必要無いから!」
などと言ってみたものの、もう遅い。みんなそれぞれ他の村人呼びに散ってしまった……
待ちぼうけ……
村人全員集まるのに時間がかかりそうだ。
◇
大分経ってぞろぞろと集まって来た。
「魔王様こんにちは!!」
「ごきげんいかがですか?」
「魔王様、一体何が始まるんですか?」
「魔王様! 魔王様!」
魔王様じゃないって……
しかし、先日の恐怖心が一転して、凄い歓迎ムードね。襲い掛かってきた初日や、恐れられた二回目とは大違い。
四日前と比べると、みんな身なりが整っていてまるで別の村を訪れたかのようだ。
村人が横切る時、全員が挨拶してくれる。子供も寄って来た。
◇
また少ししたら村人の大部分が集まったようだ。
村人が多く集まるとガヤガヤと姦しい。
「申し訳ありません、手が離せない者も居りまして……」
「あ、お構いなく」
別に集める必要も無かったから来ている人だけで良い。
とは言え……結構集まったな。先日知性上昇魔法かける時に全員集まったのを目にしているから、どのくらい集まってるかわかる。村全体の五分の四くらいはここにいる。
「え~、静粛に静粛に! 静粛に!! そこちゃんと黙りなさい!!」
ガヤガヤガヤガヤ
……ガヤ……
…………
「え~、みんなが静かになるまで大分かかりました」
何だか校長先生みたいね。これ人間界以外でも言うんだ。時間の概念がまだあまり無いからなのか『五分かかりました』とは言わなかったけど。
小学生の頃を思い出す。
「これから魔王様のご挨拶があります」
「さ、魔王様、こちらへ上がってお話しください」
木の台みたいなのを持って来てくれた。
遠慮なく使わせてもらおう、この転生した身体小さいし。台に上らないと後ろのヒトたちには見えないかもしれない。
「え~……ただ今ご紹介に預かりました魔王です」
「「「おおぉ~!!」」」
いや、いちいち反応しなくて良いから!
「改めまして、魔王ことアルトラと申します。今後は、魔王ではなく、アルトラと呼んでください」
「アルトラ様~!」
「アルトラ様!」
「「「アルトラ! アルトラ! アルトラ! アルトラ!」」」
名乗っただけで、この盛り上がり……
何か気持ち良い~!
「今日は水を持って来ました」
「水?」
「どこに?」
私はジャジャーンという感じに『潤いの木の苗』を掲げて見せる。
「あれが水……なのか?」
「あれ飲めるのか?」
「どう見ても……草?……にしか見えないが……?」
「あんなに小さくて良いのか?」
ここに集まった全村民の五分の四が騒然とする。
まあ、そういう反応よね。だってどう見たって植物だし。
「これは私が作った木の苗で、これを地面に植えることで水が湧き出します」
「水が湧き出す?」
「そんなの見たことも聞いたこともないぞ?」
「でも魔王様が言うんだからそうなんだろ」
「おかあさ~ん、水浴び出来るようになるかなぁ?」
「出来たら良いわね」
みな口々に疑問の声や歓声が上がる。
「え~と、それじゃあこれどこに植えようか? リーヴァント、どこか候補はある?」
「そうですね……やはりみんなが水汲みし易い場所、村の中央などはどうでしょうか?」
「じゃあそこに植えるようにしよう」
というわけで村の中央に潤いの木を植え、樹魔法で成長促進、成木に成長させた。
「おお~! 凄い速さで成長したぞ!」
「さすが魔王様だ!」
「「「魔王様! 魔王様! 魔王様! 魔王様!」」」
魔王様じゃないっての!
これで水問題は一応解決したはずだ。
「おお~水だ! 水が湧き出した!」
「みんな水汲んでいけ!」
「「「キャッキャ!」」」
歓声で溢れる。
喜んでもらえたようで良かった。




