海賊大運動会
どぉーん!!
どどぉーん!!
着岸しようとするエミレーツ号に向かって、ホワイトハートレーン号から容赦ない砲撃が浴びせかけられる。
クルー達は忙しなく甲板を走り回っていた。
全体の指揮を執りながらロシツキーの怒号が飛んだ。
「野郎共!早いところ岸につけやがれ!★」
「おかしらぁー!!
それが、河の流れが乱れてて上手いこと船を寄せられないんでさぁ!!」
「くそぉ♥️なんだって奴ら、こんなとこにいきなり現れやがったんだ♣️」
エミレーツ号が着岸にもたついている間に、ホワイトハートレーンはみるみるうちに距離を詰めてくる。
大きな白い船体が目の前まで迫っていた。
ごごぉん!
船体と船体が衝突し、エミレーツ号は岸に抑え込まれる形となった。
エミレーツ号に半分乗り上げるような格好のホワイトハートレーン号の船首から、女が顔を出した。
「にゃははぁ♪
本当に洞窟がありましたのね。道案内、ご苦労様。」
同時に白き海賊団のクルーが一斉にエミレーツ号に乗り移ってくる。
「野郎共ぉ!迎え撃てぇ!!♦️」
両海賊団のクルーが入り乱れての戦闘が始まった。
赤き海賊団は劣勢だった。
いくら奇襲を掛けられたと言えど、赤き海賊団は歴戦の猛者の集まり。
すぐに戦闘体勢は整えられるし、ちょっとやそっとの奇襲に動じるような玉ではない。
が、それも二流の相手であれば、の話しだ。
元より白き海賊団は戦闘に特化した凶悪な組織。
言わば戦闘のプロフェッショナル。
そんな連中に奇襲を掛けられて、劣勢で済んでいること自体が奇跡に近いだろう。
「おかしらぁー!!ここはあっしらに任せて、宝を獲ってきてくれっす!」
コッシーが敵の剣を受け止めながら声を張り上げた。
「バカ言え!♠️」
同じく敵クルーを軽くいなしながら、ロシツキーがそれに答えた。
「先にお宝さえ見つけりゃあ、あっしらの勝ちってレースっす!だから早く!早く行ってくれっす!!」
「てめぇらを置いていけるかぁ!!★」
サーベルを片手に走り来る敵クルーをエストックであしらいながら、ロシツキーは怒声を上げた。
「せんちょー。コッシーの言う通りだよぉ。」
ロシツキーの背後に隠れ、敵の剣をヒラヒラと避けるルイーダだ。
「お頭!早く行くんだど!!」
舵を守るようにロングソードを振り上げるメルテザッカー。
クルー全員の声が、視線が、ロシツキーの背を押した。
「ちくしょうめ!♥️
ルイーダ、リオ!行くぞ!!♣️」
ロシツキーは自分の周囲で戦っていた二人を伴い、船から飛び降りた。
「にゃは♪」
しかし、ゲルダがそれを見逃すはずはなかった。
「行きますわよ。船長。」
ロリスを伴い、すかさず戦場を後にすると、3人の後を追い掛けた。
海賊オリンピックでは実現することのなかった陸上レースが、図らずもこの洞窟を舞台に繰り広げられることとなった。
目指すは洞窟の奥。
キャプテン・ベックスの財宝だ。
洞窟の入り口はとても広く、大人5人が連なっても余りあるほどだった。
スタートから頭ひとつ飛び出したのはリオだった。
続き、ルイーダ、ゲルダが後を追い、最後尾にロシツキーとロリスが追随する。
ほんの数秒で一同は洞窟へと突入した。
乾燥しきった灼熱の赤い大地とは一変、洞窟内はひんやりとした空気が立ち込めている。
依然としてトップは僅差でリオ。
同じく二番手にルイーダとゲルダがそれを追っていた。
徐々にロシツキーとロリスが遅れ始める。
洞窟の幅が次第に狭くなってきていた。
リオが走っているもう少し先の辺りから、人ひとりがやっと通れる位に狭くなり始める。
それが確認できるほどの距離に到達した時だった。
ゲルダの分身が突如としてルイーダに襲いかかったのだ。
「あぁー!
また汚いことしてぇ!!」
「ルイーダさん!!」
全速力で走っていたリオはそれを察知すると、膝を伸ばして急速に足を止めた。
激しく滑りながらも地面を蹴り付けると、ゲルダの精心術とルイーダの間に割って入った。
「姉さん!やめて!!」
「邪魔ですわ!!」
リオは勢いをつけてゲルダに飛びかかると、女の体を地面に組み伏せた。
「ルイーダさん!ここは僕に任せて、早く奥に!!」
「ぐっじょぶ弟!!」
ルイーダは走った。
後方から、リオの呻き声が聞こえる。
ルイーダは振り向かずに走った。
更に数秒だろうか。
すっかり狭くなった洞窟の奥にルイーダが目にしたのは、白く浮き上がる壁のようなものだった。
「おっ?あそこがお宝の部屋かなぁ?」
徐々に減速し、壁の前に立ち止まった。
壁は金属製だろうか?
隙間も繋ぎ目も確認できない、完全なる一枚板。
周囲の剥き出しの岩と凹凸のないのっぺりとした壁の対比は、その異様さを殊更に際立たせていた。
ルイーダはその異様さに気圧され、この女にしては珍しく少し後ずさった。
この壁に触れてはいけない。
直感でそう悟ったらしい。
もう一歩。
距離をとりたくなったその時、
「にゃははぁ♪」
ゲルダの笑い声が洞窟内に響き渡った。
ビクンっ!
普段ならばそんなことに驚く女ではない。
それほどまでに今、ルイーダの神経は緊張し、研ぎ澄まされていた。
体が伸び上がった反動でバランスを崩し、ルイーダは壁にもたれ掛かって両手をついた。
サァァァ・・・・
ルイーダの手をついた場所が、白い光を放つ。
光は何かをなぞるように四方八方に伸びて行き、それはまるで絵を描いているかのようだった。
光が板の隅々まで行き渡ると、
それは、竜のように見える絵になった。
竜の心臓の辺りから上下に光が伸びる。
重い音を立て、壁は左右に動き始めた。
ゴゴゴゴゴ・・・・
金属の壁が、岩の隙間に吸い込まれきった頃、
ルイーダの眼前に広がっていたのは、
部屋中を埋め尽くす金銀財宝。
まるで明かりが灯るかのごとく、眩い煌めきを放つ宝石の数々。
大海賊キャプテン・ベックスがその生涯を掛けて世界中から集めた、大秘宝。
ではなかった。
「こ、これは?」
床、天井、壁、全てが無機質な金属で覆われた部屋。
無数の小さな太陽が、部屋を灰暗く照らしている。
20人ほどが入れる食堂程度の広さのその部屋には、整然と机が置かれていた。
その上に、沢山のボタンが並べられた板。
黒くのっぺりとした板。
大小様々な透明の小瓶やら器やらが無造作に置かれている。
それは、
何かの研究室。
としか思えない様相だった。
「うぅ・・・・。」
突然の目眩に、ルイーダはその場に膝をついた。
「ここは・・・ここは・・・・」
「ご苦労様でしたわね。ルイーダさん。」
頭を押さえてしゃがみこんだルイーダの背後で、ゲルダの声がした。
カツ・・カツ・・カツ・・
ブーツが地面を叩く音が、ルイーダの傍らを通りすぎて行くのが分かった。
「遂に、遂に見付けましたわ。」
「い、一体、ここは、なに?」
「にゃは・・・。
にゃはは・・・。
にゃはははは♪
にゃはーっはっはっー♪
ここですわ!
ここ!
ここをずっと探し求めていたのよ!!
貴女なら、必ずやここに導いてくれると思っていましたわ!!
本当によい働きですこと!!」
「なに?なんなの?
一体、何を言ってるの?」
「まだ分からないのかしら?
始めから、貴女をここに来させるのが目的でしたのよ。
貴女をその気にさせるのはかなり骨が折れましたけどね。」
「始めから?」
「そうですわ。
貴女がここに来るには赤き海賊団の船が必要でしたからね。
あのロシツキーとかいう船長のことだから、ただ焚き付けただけでは貴女を危険に巻き込まないよう計らうと踏んで、わざわざ2度に分けて仕掛けないとならなかったのよ。
寺院で貴女に接触して海賊団から離れないようにし、海賊の楽園で挑発して貴女をここへ連れてこさせる。
私にここまでの手間をかけさせたなんて、大したものよ。
光栄に思うことね。」
「・・・やっぱあんた、ムカつく。」
「にゃは♪
お誉め頂き感激ですわ。
見なさい、この部屋を。
貴女の功績よ。」
「もったいぶってないでさぁ、いい加減教えなよぉ。何なの?ここは。」
「ここはね、世界中に点在する人智を超える物体を生み出した場所。
勇者エジルの乗った空飛ぶ船。
貴女が所持している情報を操る装置。
全て、この場所で生み出された。
ここの技術を使えば、我が軍は最強の兵器を作り出せる。
世界中のどんな国も、どんな勇者も、魔王でさえも、我が祖国にひれ伏さざるを得ない、最強の軍隊を作り出せる。
それが我が軍の野望!
この部屋こそが、栄光への出発点になるのですわ!!」
「なにそれ。世界征服でもしたいの?
下らね。」
「・・・・・・にゃは♪」
吐き捨てるように放ったルイーダの一言。
その言葉でゲルダの顔色が変わった。
「ねぇ、ルイーダさん。
貴女、なぜ私が貴女がここに導いて下さるって思ったのか、お分かりになって?」
「はぁ?」
「私にはね、魔族の血が流れているの。
そしてその血が持つ古い記憶が、貴女がこの場所に至るための鍵だと、私に教えてくれたのですわ。
世間は私のことを魔界から来た軍師と呼ぶそうね。
皮肉なものよ。
侮蔑の為につけた二つ名のつもりが、まさか真実を語っているとは誰も思わないでしょうからね♪
そう、私には、忌まわしき魔族の血が流れている。
邪悪で、下賤で、蛇蝎の如く忌み嫌われる血が。
どうして流れているか、お分かりになります?」
ゲルダはそっと、机に置かれている小瓶を手に取ると、部屋を照らす小さな太陽に透かすように覗きこんだ。
ルイーダの背後から、複数の誰かの息遣いが近付いて来るのが分かった。
「私に投与された薬品にはね、
様々な動植物から抽出された成分が混合されているのはご存知でしょう?
その中にはね、魔族の血も含まれていたの。」
「お前、記憶が戻ったのか!?」
ルイーダの背後から、突然ロリスが声を上げる。
ゲルダが振り返った。
そしてニッコリと微笑んでみせた。
「記憶?」
「お前、記憶を塗り替えられたんだろう?」
「にゃは♪にゃはは♪
にゃはははは♪
記憶を塗り替える?
そんなこと、本当に出来るとお思いになって?」
パリーン!
ゲルダの手から滑り落ちた小瓶は、固い金属の床にぶつかると、無数の破片と変わり、
細い悲鳴を響かせた。
つづく。




