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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第二章【海賊大運動会】
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ゲルダ

「日没までは2時間だ★

それまでに必ず戻れ♥️」



そう言って船長はリオを送り出した。

ルイーダ、コッシーを伴って、リオが向かったのは、例の集合住宅だった。


内部は特に変わったところのないアパートの一室。

そこに2名の軍人が身を潜めていた。


奇襲は簡単だった。

ルイーダがゲルダの声色を真似て扉を開けさせると、すぐに2名を縛り上げた。

リオが片っ端から資料や書類を漁るものの、それは私掠船や軍事兵器に関するものばかり。

探していたのは、生体実験についてだった。



「おい!貴様ら!

こんなことをして、ただで済むと思うなよ!?」


軍人が喚いていたが、リオはそんなこと意にも介さずに無心で資料を探し続けていた。


「ない!ない!どこにもない!!

おい、お前ら!

生体実験って、生体実験って何なんだ!?」


リオは軍人の元に歩みより、肩を激しく揺さぶった。


「おいおい、まさかお前、そんなもんの資料がこんな場所にあると思ってるのか?

おめでたいな!」


「・・・・・!?」


「何だかよく知らないが、ここは単に海賊を軍部に引き込む為だけに置かれてるただの詰所にすぎん。

残念だがお前らの探してるような重要情報なんて置いてあるわけがない。

無論、俺達もただの一兵卒だ。何も知らんぞ。」


「ちくしょう!!」



リオに突き飛ばされ、軍人のひとりが床に這いつくばった。



「それよりも、お前ら。

俺達にこんなことして、本当に只で済むと思うなよ。

すぐに本国から討伐隊を送り込ませるからな。」


寝転んだままの軍人のそばに歩み寄ったルイーダが、おもむろにその背後にしゃがみこんだ。



「ねぇねぇ、おじさんさぁ。

もしここが見付かったらさぁ、海賊の楽園のど真ん中で見付かったらさぁ、ごーもんとか、そーゆーの、いっぱいされちゃうよねぇ。

でもさぁ、ただのペーペーがこんなとこでそんな目にあったら、きっとすぐに根を上げちゃうんじゃないかなぁ。

それにさぁ、ただの詰所にゲルダみたいなのが寄るかなぁ。

私が親玉だったらさぁ、こぉーんな危なくて重要なとこに、信用ならない人は置かないよねぇ。

おじさんさぁ、将校だよねぇ?」


「バカ言え。俺はただの一兵卒だと言ったろう。」


「そうかなぁ?

んじゃーさ、ちょっと痛い目、みるぅ?」


「ふん!俺は何も知らん!

やるだけ無駄だ。

それに、拷問や死が怖くて軍人などやっていられるか!」


「そっかそっかぁ。

じゃあさぁ、私がおじさんの頭をパカーンって割ってさぁ、ノーミソをクチュクチュやってさぁ、知ってること、ぜぇんぶ喋らせちゃおうかなぁ。

本当はさぁ、生体実験のことだけ知りたいんだけどぉ、他のこともいっぱい知っちゃうかもねぇ。」


「な!?

そんなこと出来るわけないだろう!」


「あー、リオにコッシー。ちょっとあっち向いててねぇ。」


そう言ってから軍人に振り返る一瞬。

リオは見てしまった。

ルイーダの瞳に、真っ黒な光が宿るのを。


「出来るかなぁ?出来ないかなぁ?


やってみないとぉ、


分からないよねぇ。


もしやってみてさぁ、


出来たらさぁ、」



そこまで言った後、ルイーダはおもむろに男の背から覆い被さるようにして、その顔を覗き込んだ。

そして一言。

こう続けた。



「どーする?」



ルイーダの想像通り、この男は帝国の将校だった。

しかもただの将校ではない。

ゲルダの腹心であり、共に戦場を駆け抜けた歴戦の英雄。

と同時に、この世の誰よりも人をなぶり、誰よりも人を殺めてきた殺戮者。

それ故に男の言葉に嘘偽りはなく、死を身近なものとし、死は誰にでも訪れるものとして受け入れているような男。



「・・・分かった。話す。」



そんな男が、あっさりとルイーダの脅しに降伏をした。

ルイーダが顔を上げると、男の顔は、まるで生きる気力の全てを失ってしまったかのように枯れ果てていた。

一体何が起こったのだろうか。

分かることは、ルイーダが男に見せたその表情が、男を一瞬にして老いさせるほどに恐怖を与えたということだけ。

どんな顔をして見せたのか。

それは男にしか分からない。




「そぉそぉ。

別に私達ぃ、国家転覆とか企んでるのわけじゃないんでぇ、余計な情報とか要らないんだよねぇ。」


ルイーダの演技力の前に、とうとう屈した軍人は、生体実験について語り始めた。



「貴様らが知っての通り、ゲルダは科学技術部が生み出した強化人間だ。

人買いに子供を集めさせ、薬品を投与し、身体能力や知能を高める為の実験台としていた。

様々な動植物から抽出した成分を掛け合わせ、人間の細胞との同化を試みていたが、大概は適合せず精神崩壊を引き起こしたそうだ。

完成までに1000人を越える子供が失敗例として処分されていったと聞く。

ゲルダは遂に現れた、唯一の成功例だ。

人類を超える知能を備えるに至った。

しかし、得られた知能と引き替えに、精神は著しく不安定になり、狂暴性が格段に増したと言う。

8歳から実験が始まり、5年かけて適合者となり、その後は実験の存在を隠す為、施術前から施術後、士官学校入学までの全ての記憶を消去され、新たな記憶を刷り込まれた。

13歳で士官学校に入学し、過去最高の成績で卒業するとそのまま憲兵として入隊、というのが表向きの経歴だが、その裏で、ゲルダと関わったほとんどの学友や教師が自殺や失踪などで姿を消したそうだ。

話すべきことは話した。

早く俺達を解放しろ。」


「オッケー。ごくろーさま。

疲れたでしょー?ちょっとおネンネしときなよぉ。」



ゴンっ!


ルイーダが言い終わる前に、コッシーがこん棒を振り下ろすと、軍人はあっけかく失神してしまった。



「だから、だから姉さんは僕のことを忘れてしまっていたのか!!」


「まぁー、話しを総合すると、やっぱゲルダはリオのおねーちゃんで間違いないみたいだねぇ。」


「問題はどうやって奴に記憶を取り戻させるか、っすね。」


「僕は、僕は必ず姉さんの記憶を取り戻させてみせます!!」


「いや、相変わらず気合いだけだな、お前さん。

とりあえず船に戻りやしょう。

そろそろ日没っす。

っと、こいつらどうしやす?」


「えー?ほっとけばいいんじゃん?

このままドア開けておけば、誰かが見付けるでしょぉー。

海賊の誰かがさぁ。」


「強化実験されてもいねーのにあんな悪どい脅しを考えつくとか、姐さんが一番恐ろしいっす。」


「誉めんなよぉー♪」









日没。


エミレーツ号は大海原に漕ぎ出した。




「おい、お前ら♣️

あの流れだと、ギリギリで間に合ったってのがセオリーだろうが♦️

なに普通に帰って来てんだ♠️」


「お頭ぁ。

その展開はストーリーにそぐわねぇんすわ。」


「え?そうか?★

格好いいと思うんだけどなぁ♥️」


「そりゃー、爆発しそうな敵のアジトから逃げる時とか、別の機会にしやしょうや。」


「ちぇー♣️まぁいいや、んで、どこに向かえばいいんだ?♦️」


「んっとねぇー、赤い岩山に囲まれた土地の洞窟って言ってたよねぇー。」


「そうだったど。」


「姐さん、心当たりでも?」


「んー。

なぁんかよく分からないけどさぁ、その場所にある洞窟、なぁんか分かる気がするんだよねぇ。」


「ほう♠️

まぁどうせ手掛かりもありゃしねぇんだ★

行ってみるか♥️」


というわけで、

ルイーダの勘だけを頼りに目的地を探すことになった一行。


海賊の楽園から開拓者の街を目指し、大陸に突き当たったら海岸沿いを北上。

そのままぐるりと大陸を回り込んだ先に、赤い岩山に囲まれた土地は広がっていた。



「船長。」


舵の隣で望遠鏡を覗き込んでいたポドルスキがロシツキーを呼んだ。


「どーした?ポドルスキ♣️」


「河口からいきなり3本に別れてます。

どこに進みますか?」


ちなみに忘れがちだがポドルスキは航海士だ。

忘れがちと言うか、そういうシーンが出たのもほぼ初めてだ。

ロシツキーは操舵室に入ると、椅子に座りながら羅針盤を眺めていたルイーダに問いかけた。


「ルイーダ、分かるか?♦️」


ポドルスキから望遠鏡を受けとると、ルイーダも同じく前方の確認を始めた。


「ん?んー。

んんー?んんーん。

分かりませぇーん。」


ひとしきり周囲を眺めたあと、気の抜けた声でこう言った。


「分からねぇのかよ!♠️」


「ちょっと地図見せてぇ。」


ロシツキーから受け取った東の大陸の地図を羅針盤の隣に広げると、その前でしばらく仁王立ちしていたが、


「んー。ここかな?」


そう言って、とある地点に印をつけた。


「おい!★

地図に鼻くそ付けるなよ!!♥️」


「どぅえっへっへぇー。」


「ったくよぉ♣️おい!ポドルスキ!♦️

この場所へ向かえ!♠️」


「アイアイサー!」



河口から数ヵ所の分岐点を経由し、船は河上へと登っていった。

頭上には、切り立った赤い崖が遥か上空までそびえ立つ。

そんな単調な景色が延々と続いていた。


河を登り始めてから丸一日ほど経った頃だった。

切り立った崖ばかりの景色の中に、大きく平らな岩盤が水面すれすれに突き出している場所を見付けた。


その岩盤と、崖が交差する場所。


ルイーダが指し示した場所。


その場所に、ポッカリと穴が開いていた。




「おっ★マジで洞窟がありやがった♥️」


「うわぁ、すっごぉーい♪本当にあったねぇー。」


「どういうこと!?♣️

まぁ、いいか♦️

野郎共!!船を着けろぉー!!♠️」


エミレーツ号が岩盤に着岸しようと近付き始めた時だった。



どぉーん!!



爆音が響き渡り、またもや船体が揺れた。



遥か河下から、

ホワイトハートレーン号が現れた。



つづく。

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