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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第二章【海賊大運動会】
43/84

赤と白②

「お前達こそ、なんで寺院なんかにいるんだ!?★」


「あん?知りたいのか?ならば教えてやろう。」


「いや、やっぱいいや♥️」


「俺達はな、海賊オリンピックに出るんだ。

世界一の海賊団の称号を得る為に、鈍足野郎共を超神速のスプリンターにさせるため、まずは精神修行させに来たんだぜ。」


「お頭ぁ。完全にシカトされちまったっすね。やっぱ要らないこと言ったのがまずかったっす。」


「黙れ♣️コッシー♦️」


「ところでお前ら、なんだ?そのメンバー。

ひょっとしてお前ら。海賊オリンピックに出るつもりか?」


「そ、そんなことないよ?♠️」


「なんでっすかぁ!お頭ぁ!

なんでそこで嘘つくんすかぁ!?」


「うるせぇコッシー★ちょっと黙ってろ♥️」


「だはは!

そうだよなぁ?俺達と同じ競技に出るなんて、口が裂けても言えねぇよなぁ?

なんせお前、前回のオリンピックでも俺達に惨敗して泣いて帰ったもんなぁ!

同じ商船を襲った時も、あっさり俺達に出し抜かれたもんなぁ!

伝説の大海賊キャプテンキャンベルの秘宝を探しに行った時も、お前は途中で尻尾を巻いて逃げたよなぁ!

お前と俺の勝負は小さいものも合わせて俺の50勝0敗0引き分けだもんなぁ!

もう俺と勝負なんかしたくねぇよなぁ!!

お前は、バカで、腑抜けで、海賊団の頭を張る資格のねぇ、ボンクラだもんなぁ!!!

それに比べてどうだ!?

見ろ!!俺のチームを!!


世界最速の海賊!ケイン!

東方最速の海賊!ソン!

南方最速の海賊!モウラ!

北方最速の海賊!アリ!

西方最速の海賊!ラメラ!


素晴らしいだろう!!

実に美しい!!

そして、こいつらを仕切るのは、


若き天才!

俺達白き海賊団の期待のエース!

エリクセンだ!!


見ろ!!

この最強のメンバーを!!


そして!!

メンバーだけじゃねぇ!!

参謀には、魔界の軍師ゲルダを迎え入れた!!

このチームを率い、俺は最強の海賊へと登り詰めるのだ!!

誰も俺の邪魔はさせねぇ!!

がーっはっはっはぁ!!!!」




ロリスが反り返り、両腕を広げて笑い声をあげた。


「なーっがい話しっしたね!

僕、眠くなっちゃいましたよ!


「おぉーっとぉリオ♣️

めちゃめちゃ都合悪いとこに口出してきたな♦️

何言い出すか分からねぇから、お前ちょっとあっち行っとけ♠️」


「船長!

なんであんなこと言われて黙ってるんですか!

うちら赤き海賊団なら、あんな奴らちょちょいのちょいじゃないですかぁ!」


「いいから黙ってろって★」


「だってですよ?

どこどこ最速とか、意味が分からないじゃないですか。東西南北最速がいて、更に世界最速がいるとか、最速の意味を分かって使ってるとは思えないっすよ?

あの人、きっとバカですよ!」


「バカはおめーだ!♪余計なこと言わなくていいんだ♥️」


「ほう。小僧。良いことを教えてくれたな。」


「やい!お前ら!

赤き海賊団は勇者エジルと共に魔王退治にも参加した、最強の海賊団なんだぞ!

そして僕は勇者エジルの弟子なんだぞ!

だから、お前らなんて眼中に無いし、ぜぇーったいに負けやしないんだ!」


「バカバカバカ!!バカリオ!!♣️

なんてこと言うんだ!!♦️おう、ロリス!♠️

こいつぁー新入りで、まだ右も左も分からねぇんだ★ちょっと格好いいこと言ってみたいお年頃なんだ♥️

だから気にすんなって!♣️」


「なんでですかぁ!船長!!

なんでそんな卑屈になるんですかぁ!」


「そうっす!ここばっかりはリオの言うとおりっす!」


リオもコッシーもいきり立っている。

頭に血が登りきってるといった様相だ。

そこに割って入ったのは年長のメルテザッカーだった。


「皆、ちょっと待つんだど!

お頭の態度には理由があるんだど!!」


「理由ってなんなんですか!?」


「そりゃあ、そりゃあ・・・・・♦️」


「こいつらは、まともな勝負なんてしやがらないんだど。

過去、負け続けた勝負のどれも、こいつらは全て暴力に訴えてきたんだど。

常にラフプレーでおで達の仲間を潰してきたんだど。そんでもってお頭は、もうおで達が傷付く姿を見たくないから、こいつらと関わるのを辞めたんだど!

それに加えて、あのゲルダって女。

魔界の軍師って聞いたことあるんだど。」


「ほう。よく知ってるな。木偶の坊。」


「魔界の軍師?ポドルスキさん、知ってますか?」


「おっ!ミスター情報通の出番が来たな!

確か数年前、北の帝国が隣国である草原の王国に侵攻し、その首都を占拠した時に広まった名だな。

首都の中央を流れる大河に猛毒を流し、10万は下らない市民を死に至らしめた大量虐殺事件の指揮を執り、その度の過ぎた邪悪さから国を追われたって言う話だ。

その人外とも思える悪魔の所業をして、魔界から来た軍師という二つ名で呼ばれるようになったんだが、まさかあんな小娘だったとは、流石のポドルスキさんも知らなかったぜ!」


「模範的な説明台詞あざっす!!」


「ただでさえヤバい奴らだどに、更にそんな凶悪な奴がチームの指揮を執ってるのが分かった以上、おで達はあいつらと関わっちゃならねーんだど!」


メルテザッカーが赤き海賊団の前に立ちはだかった。


「だーはっはっは。

おう、木偶の坊。もう遅いぜ。

俺は気分を害しちまった。

そこの小僧のせいでな。

お前ら、海賊オリンピックには必ず来い。

安心しろ。今回はラフプレー無しで相手してやる。それでも俺達の方がお前らより圧倒的に上だということを、思い知らせてやるぜ。」


しかし、もはや手遅れ。

ロリスの闘争心に火はついてしまっていた。


「嘘つけ!♠️信用できるか!★」


ロシツキーが抗議の声をあげるも、とりつく島はない。


「おい、ロシツキー。

もしもお前が海賊オリンピックに来なければ、その時は、」


ロリスが酷く邪悪な笑みを浮かべた。

そして、それに続けてゲルダが口を開いた。


「大切なお仲間はぜぇーんいん皆殺し♪ですわよ♪」


ロリスなど足元にも及ばない程に邪悪で、猟奇的としか形容のしようがない、狂ったような笑みを浮かべながら。


「ねぇねぇ、せんちょぅー。

私ねぇ、今回の旅では色々と頭に来ること多いんだけどさぁ、今この瞬間が一番かなぁ。

頭、爆発しちゃうよぉーん。」


その笑みを見てなのか、それとも仲間意識としてなのかは分からない。

ルイーダがロシツキーの方へと首を向けて言い放った。


「僕、あそこまで言われたら引き下がるわけにはいかないです!」


リオがそれに続く。


「そっす、お頭ぁ。

あいつら、目にものを見せてやらねぇと、あっしも気が済まねぇっす!」


コッシーも。


「お頭。おでもおんなじ気持ちだぁ。

今度ばっかりは目をつぶれないんだど。

皆も同じだど!?」


止めに入っていたはずの、メルテザッカーすらも。

もはや全員、我慢の限界だったのだ。

メルテザッカーの問いかけに、赤き海賊団全員が大声を張りあげた。



「がっはっはっは!話しは決まりだ!

時は海賊オリンピックの日。

場所は海賊の楽園。

せいぜい練習しておくんだな。」


「私達の前にひれ伏す練習をねぇ!にゃはは!!」


こうして、白き海賊団との決戦は不可避となった。



「なんでこーなっちゃうのかなぁー♥️」



船長の意向は全く無視されたままに。







エミレーツ号に戻った赤き海賊団は、船長室に集まっていた。


「一体全体、なんであいつらとやり合わないといけないんだ★」


「そりゃあ船長。あそこまで言われたら引くに引けないじゃないですかぁ!」


「大体な、お前がしゃしゃり出て来なければあんな流れにはならなかったんだぞ♥️

分かってんのか!?♣️」


「はい!!」


「勢いよく良い返事してんじゃねー!!♦️」


「でも、師匠から、『返事はでかい声で、はい!と言え。』って教わりましたから!!」


「・・・・。

意外にもまともな事教えてんじゃねーよ、あの勇者野郎め♠️

にしても参ったぜ★俺ぁちょっと風に当たってくらぁ♥️」


気だるい足取りで部屋を後にするロシツキー。

それを見送ると、残された船員達は顔を付き合わせて話し合いを始めた。





「確かに少しまずったかもだよな。

実質、俺達クルーが人質も同然になってしまったわけだし。」


ポドルスキが頭を掻いた。


「え?人質ってなんですか?」


「バカだなリオ。あのゲルダって女が、

『ぜぇーんいん皆殺し♪』って言ってただろうが。」


「え?あんなの冗談に決まってるじゃないですか!」


「と、思うだろ?

気になって、俺とコッシーであの女の事を寺院の図書室で調べてきたんだ。」


「あの女は本物の悪魔っす。」


「そんなヤバいんですか?」


「結論から言うと、奴の所業は首都大虐殺ばかりが有名でやんすが、それ以外にも身の毛もよだつような悪行ばっかりっす。

奴は軍略にかけては天才の名を欲しいままにしてきてやすが、奇襲の類いを得意としていて、相手に降伏を許さず全滅させるのが常だったようなんす。

草原の王国侵攻では、首都に到達する以前の全ての地区で敵部隊の殲滅は当たり前。市民にも過剰な暴力で服従を強いておりやしたようで。

人を人と思わねぇ、自らに少しでも歯向かった者は全て拷問にかけられ、なぶり殺しにするのを趣味にしてるような女っす。」


「おいおい、とんでもねぇ大悪党なんだど。

よくそんなのが国外追放で済んだんだぁ。」


「寒冷な気候のあの国は、長年他国への侵攻や略奪でしか国力を保てなかったんす。

温暖で豊かな草原の王国の占領が悲願だった事に間違いはねぇし、それを実現したのがゲルダってわけで。

あの女は大犯罪者でありながら、英雄の側面も持ち合わせている。

恩赦。ってことなんだと思うんすよ。」


「奴が皆殺しと言った以上、そうなった場合はやる。って事なんだ。分かったか?リオ。」


「ZZZzzz・・・。」


「エジルの野郎。なんでこんな奴を弟子になんかしやがったんだ。」




海賊オリンピックまで残りひと月と迫っていた。



「とりあえず、今のままで白き海賊団に挑んだところで勝てる保証はねぇっす。

まず、あっしらはあっしらを鍛えないとならねぇっす。」


「そうですね!僕ももっともっと速くなりたいです!!

音速よりも速くなりたいです!!

もう光の速さくらい速くなりたいです!!」


「うるせぇ野郎だなぁ。

そんな簡単に速くなれたら世話ねぇんだよ。」


「いつもは専らツッこまれ専門のポドルスキさんにツッこまれるなんて光栄です!!」


「お前、そんなに笑顔で言ってる事が嫌みなんだと気付いてるんだど?」


「え?今、僕、誉められました!?」


「もういいだど。」


「とりあえず、手っ取り早く修行しないといけねぇんだが、どーしやすかね?」


「地道な修行あるのみですよ!走り込みですよ!」


「うーん。そりゃそうなんだけど、そんな普通な練習してたんじゃ期限に間に合わねぇっす。姐さん、何かアイディアありゃーせんか?」


「んー?そーだねぇ。

すんげぇ速い魔物いるじゃん。ピッカピカなのにドロドロのやつ。

あいつでも追っかけたらいいんじゃん?」


「うおぉ!流石は姐さんっす!

ナイスアイディア!!

んで、その魔物はどこに出るんすか!?」


「んっとねぇ。魔王の城の近く。」


「・・・・・魔王の城?ってどうやって行くんすか?」


「えー?ヴァンデルンの術で行けばいいじゃん。」


「そうっす!姐さんなら、ヴァンデルンでひとっ飛びっす!」


「ん?そーだねぇ。

多分、レベル5くらいで覚えたかなぁ?そんな気がする。」


「おおっ!流石だど!

じゃあ、早速ヴァンデルンで魔王の城に行くんだどぉ!」


「うん。レベル5になったらねぇ。」


「は?」


「何言ってるんすか?」


「え?何か変なこと言った?私。」




ルイーダ・ノーバディ

レベル1

ちから:3

みのまもり:3

まりょく:25

すばやさ:22

たいりょく:5

ちせい:255

とくぎ:盗む、目利き、計算、時間を止める精心術

つぎのレベルにひつようなけいけんち :2986540



第1話以来の登場だが、この世界の人々にはステータス票が標準装備されている。

パーティーマッチングなどの際には必ず必要になるデータだからである。

海賊達はルイーダのステータス票を囲みながら驚きの声をあげていた。



「なんでレベル1なんすか!?」


「なんで。って、別に私、魔物と戦ったことないしぃ。」


「この人、レベル1で魔王を足止めしたのかよ。」


ポドルスキが口をあんぐりと開けていた。


「じゃあいいっす。分かりやした。

魔王の城以外でそのドロドロピカピカが出るところはないんすかね?」


気を取り直し、コッシーはルイーダに尋ねたが、返ってきたのはにべもない答えだった。


「え?ないよぉ。」


「どうあってもヴァンデルンじゃないと行けないんだど。それか飛空挺じゃないと。」


「確か飛空挺はルイーダ達の国の国王軍に接収されて、国の管理下にあるはずだったよな?

俺達海賊が貸して下さいって言って、はいどうぞってなる相手じゃないな。」


「ポドルスキさん、ほんとに説明台詞だけは得意ですよね!!すごいです!!」


「さっきからお前、誉めすぎだぞ!」


「なるほど。言葉のまま捉えていたからさっきから全然怒らなかったんすか。

おめでたくて何よりっすわ。」


「それでそれで!

僕達、ドロドロ相手に修行ですか!?」


「相変わらず全然話し聞いてねぇでやんすな。さてどうしたもんか。」



結局、赤き海賊団は地道に走り込みで修行することになった。

このくだりは何の意味があったのだろうか。

無駄な時間を使ってしまった。




つづく。

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