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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第三部【魔なる者】
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決着

「クリスティアーノ!?」


俺はその名を口にした。


「久しぶりだな、エジル。」


そうだ。

その顔は間違いなくクリスティアーノ。

かつて共に旅をした、同郷の仲間。

ちょっと間抜けだけど、勇敢で、正義感に溢れる、俺と同じ勇者だ。


「お前、なんでこんなところに!?」


俺は思わず構えを解いた。


「なんで?なんでだと?」


その顔に笑みが浮かんだ。


「知りたいなら教えてやるよ。

なんで俺がここにいるのか。

俺が、魔王だからだ。」


自分の耳を疑ったりはしない。

きちんと聞こえた。

一言一句、間違いなく聞き取れた。

どちらかと言えば、その言葉の意味を理解できなかった。


「何を?お前が魔王?魔王はそこに座ってるだろう。」


俺は目の前に座る巨大な魔物を指差した。


「はーっはっはっはっ!!」


クリスティアーノが笑い声を上げた。


「この不細工なワニが魔王?

そうだ。魔王だ。間違いない。

魔王だった、だがな。」


長身の男は玉座に鎮座する魔物の膝に肘をかけると、体重を乗せて寄りかかった。


「こんなチンケな魔物が魔王とは笑わせる。

喜べ、エジル。

新たなる魔王の誕生だ。」


俺は眉をひそめた。

どうしても何を言っているのか分からない。

理解できないんだ。


「どういうことだよ。て言うか、なんでここにいられるんだよ。ここは、ここは不死鳥でしか来られない場所だぞ。」


「そうだ!」


俺の言葉を受け、クリスティアーノが声を張り上げた。


「その通りだ。

俺は不死鳥を甦らせることができなかった。

お前と、そこの女が神器を持ち逃げしたお陰でなぁ!!」


ルイーダを示したクリスティアーノの指先から光線が放たれた。


「いでっ!」


再びルイーダが苦悶の声を発した。


「やめろっ!」

「だからさ、

俺がここに辿り着くには、辿り着くにはさ、

魔族の軍門に下る以外に方法が無かったんだぜ?分かるか?」


俺の言葉を遮って、クリスティアーノが続けた。


「俺は魔族の配下となり、

魔王を倒す機会を伺っていたんだ。

だがよぉ、いざ配下になってみたら、下らない。下らないんだよ。

こんなクソみたいな魔物が王気取りで君臨し、世界を恐怖に陥れてるんだぜ?

俺は思ったね。

俺なら、

もっと上手く恐怖で世界を支配してやれるってよぉ!!!!」


「バカ言ってんじゃあねーぞ!!!」


俺は叫んだ。


「エジル。ダメ。その子、完全に瘴気に侵されてる。」


ルイーダの声に力が無かった。

幸いにも即致命傷って場所をやられたわけではないが、痛みは相当なものだろう。


「そして今、

俺は魔王を殺した。

目的は果たされた。

後はもうひとつの目的を果たすだけだ。」


「もうひとつの?目的?」


「そうだ。

俺を裏切って、俺をこんな目に合わせた、

お前達に復讐するって目的をなぁ!!!

ありがたく思えよ。

わざわざお前達が生きてここに辿り着けるよう手配してやったんだぜ?

お前を半殺しにしたあとよぉ、

目の前でその女を八つ裂きにして、お前の胃袋にその肉を詰め込んでやるためによぉ。

お前が腹一杯にその女を味わって、糞になって出てきたら、そいつをまた食わしてやる。

お前が死ぬまで、何度でも、何度でもなぁ!!!」


「てめぇ。」


「お前達で楽しんだあと、

そしたら世界で楽しむんだ。

俺は魔王の力を手に入れたんだからな。

面白いだろ?魔王を倒すと、魔王の力が乗り移るんだぜ?

すこぶる気分がいい。

魔王を倒すほどに強かった俺にだ、更に魔王の力が加わったんだ!

これ以上のことが他にあるか!?

俺が最強だ!俺が世界の王だ!

ひれ伏せ!命を乞え!

ひとり残らず、根絶やしにしてくれるわ!!」


「もういい。もう分かった。

始めは謝ってやろうかとも思ったけど、もういい。

お前が瘴気に侵されてようと、本気で言ってようと関係ねぇ。俺が直々に引導をくれてやる。

話しはたくさんだ。

さっさと掛かってこい。」


「ムカつく野郎だ!」





俺の体は派手に吹っ飛ぶと、壁に叩き付けられた。

やっぱりそうだ。

全く自覚がねぇ。

だが、クリスティアーノが部屋の中央に移動している。

さっき俺が立ってた場所辺りだ。

だから、何かしらされてはいる。

俺がそれを認識できていないってだけだ。


何故、認識できないのか。


まずはそこを考えろ。

そこからだ。


「威勢が良い割りには何もできてないな。」


「うるせぇ。」


俺は仰向けに倒れながら毒づいた。


気が付くと、今度は体が石の床にめり込んでいた。

腹がものすごい痛い。

内蔵が破裂するみたいだ。

今度は目の前にクリスティアーノがいて、俺の腹に拳を叩き込んでいる姿が目に入った。

ちっくしょう。

何故なんだ。

クリスティアーノが動いてるとか、攻撃されてるとか、全くもって覚えがないぞ。

いや、クリスティアーノが、じゃねぇな。

俺自身が移動してるのも覚えがない。

走って移動したり、吹っ飛ばされたり、ワニに攻撃を当てたり、そんなんも全く覚えてねぇ。

でも、ルイーダに言われた。

「何してんの!」って。

ルイーダは俺が何かをしてたり、何かが起こってるのが分かってる。

そこだ。

そこが問題なんだ。

起こってはいるのに、俺だけが覚えてねぇ。

ってーことはだ、

俺の記憶の問題だってことじゃねぇか?


「早いな。

分かったって顔しやがって。」


俺は口から血を吐き出した。


「てめぇ、俺の記憶を飛ばしてんな?」


「誉めてやる。」


次に気が付いた時には、俺はクリスティアーノに頭を掴まれ、頭蓋骨が潰れる勢いで握られて吊し上げられていた。



さて。

原因が分かったところで、次は対策だ。

俺の手持ちカードは風の精霊術と他人を回復させる精心術だ。

記憶を飛ばされようと、俺の行動が実際に発動している以上は、奴を攻撃することも可能ってことだ。

事実、ワニには攻撃できたしな。

となると、どうやって当てるか。

と、当てたあと、どう行動するか。

が肝になる。

恐らく、俺の記憶が飛ぶのは数秒間ってところだ。

記憶が飛んだと自覚した瞬間に一番の隙ができる。

攻撃を当てたとして、カウンターを食らった場合、その隙が仇となってこっちも攻撃を受ける。

絶対不可避の攻撃を当てて、なおかつこちらが絶対に攻撃を食らわない状況を作らなければ、永遠にこっちの不利は変わらねぇ。

ならばあれしかねぇな。


「アイギス。」


俺は力ある言葉を発した。

瞬間的に空気が集まってくる。

俺の周りに空気の壁を張る術だ。

そしてその派生であるエクスプロージォで吹き飛ばす。

これなら絶対に当たるだろうし、吹っ飛ばせばそう簡単に反撃もできまい。


空気の壁がクリスティアーノを押し出した。


ここから記憶がない。

しかし、恐らくエクスプロージォまでは発動しきっているはずだ。


気が付いた瞬間、周囲を目で探った。

クリスティアーノの姿が見えない。

吹っ飛ばしたか!?


「残念だったな。」


足元から声がした。

俺の目の前に、クリスティアーノが屈んでこちらを見上げていた。

若干ながら衣服が破けているのが見て取れたが、ダメージはほとんどないようだ。


「爆風は、上に向かうもんだぜ?」


魔王の拳に聖なる光が集中しているのが見える。

ただでさえすげぇパンチ力に、更に聖なる力まで上乗せする気だ。

そんなん食らったら、生身の肉体はひとたまりもねぇぞ。

クリスティアーノは無情にも拳を打ち出した。




「エジルを、いじめんなぁー!!!」




ルイーダの声が部屋中に響き渡った。



俺は腹を押さえた。

クリスティアーノの腕が、俺の腹を貫いた。




と、思った。


「はーっはっはっは!!

だが、まだ殺さんからな!宣言通り、お前は半殺しだ!!」


俺の足元で。

拳を突き出したまま。

しかし、俺に背を向けて、だが。


「なに!?どこに行った!?」


「ここだよ。」


俺の声に驚いたようにクリスティアーノは即座に立ち上がると、距離を取るため背後に飛ぼうとした。

が、そっちは壁だ。

背中を壁に押し付ける格好になった。


「何をした!?

いつの間に背後に!?」


「・・・・・・。」


俺は答えなかった。


「いや、偶然だ!

俺の攻撃を避けられるはずがない!

今度こそ死ね!!」


またもや光を帯びた拳を突き出した。




「エジルをいじめんなって言ってんでしょぉがぁー!!!」




始めは俺も意味が分からなかった。

クリスティアーノがパンチを打とうとして、

ルイーダが叫んだ。

そしたら、クリスティアーノの動きが止まった。

だから、俺は歩いて後ろに回り込んだんだ。



そして今また、クリスティアーノがパンチを打とうとした。

ルイーダの声と共に、クリスティアーノは固まったみたいに動かなくなった。


ルイーダがクリスティアーノの頭の上に浮かんでいた。

まるでコウモリかドラゴンみたいな大きな羽根を背中から生やし、クリスティアーノを両手とその羽根で優しく包み込むようにして、浮かんでいた。

俺はルイーダが吊るされていた方へと振り返った。

しかしそこには、ぶら下がったまま、前後左右に揺れているルイーダの姿がある。

なのに、クリスティアーノの上にも、ルイーダがいるんだ。

まるで、寺院で見た神様の像みたいに目を閉じて、でも優しげで、それでいて力強くて、慈愛に満ち溢れた穏やかな表情を浮かべて。


俺はクリスティアーノから数歩、距離を取った。


羽根の生えたルイーダが空間に溶け込むようにして消えていなくなった。

その途端、クリスティアーノが拳を突き出した。


「どこに行った!?」


間抜けな台詞を発していた。


「ここにいるじゃねぇか。」


ハッとした表情をしたあと、すぐに俺を睨み付けた。


「貴様、何をした?」


「知らねぇ。知ってても教えねぇ。」


クリスティアーノは構えを取った。


「何をしたのか分からないなら、何かをされる前に潰しかないな。」


クリスティアーノの姿が二重にブレて見えた。

いや、ブレたんじゃない。

本当に二重なんだ。

まるで脱皮をするみてぇだ。

クリスティアーノの体からもうひとりのクリスティアーノが剥がれるように現れた。


「見たか!

これが精心術の真骨頂だ!

強い精心を持つ者のみが到達できる、精心術の極み!

己の心を、もうひとりの己として具現化した時、その力はただの精心術の数倍の力を持つ!」


もうひとりのクリスティアーノが俺に襲い掛かってきた。


「もはや遊びは終わりだ!

次に気が付いた時には、貴様は既に地獄の釜の底だ!!」




気が付いた時に始めに見たのは、

やはりルイーダの姿だった。

先程と同じように羽根を生やし、クリスティアーノを包み込んでいる。

そしてクリスティアーノも動きを止めている。

それから少しして、もうひとりのクリスティアーノが消えていなくなった。


ルイーダが現れたのを見てはいない。


気が付いたら、いた。


つまり俺の記憶は飛んでいたってこと。

そして、俺の記憶が飛んだ時間よりも、長い時間をクリスティアーノは静止していたってこと。

俺は確信した。

ルイーダがクリスティアーノの動きを止めたんだ。

ただ動きを止めただけじゃねぇ。

クリスティアーノは自分が俺にしたみてぇに、何をされてるのかも自覚はない。

だけど俺みたいに、自分は動いてるのに記憶が無いってだけじゃねぇんだ。

動きも、認識も、全てが止まっている。

それは、ルイーダがクリスティアーノの【時間】を止めたってことなんじゃねぇのか?


ルイーダの精心術で。


クリスティアーノの言葉を拝借すれば、己の分身を生み出す精心術の極み。


しかもよぉ、あれが分身だって?

見ろよ、あの姿。

まるで、まるでさ、あぁ、恥ずかしいわ。

恥ずかしいけどよぉ、まるで、

女神じゃねぇかよ。



ルイーダが消えた。


「死ねぇ!エジル!!」


クリスティアーノが吠えた。

吠えたあと、俺と目が合った。

クリスティアーノは地面を蹴ると、俺に向かって拳を突き出した。

俺はそれを半身でかわすと、カウンターで膝蹴りを魔王の腹に叩き込んでやった。


「なにぃ!?

何故だ!?何故、反応できた!?」


膝を突き、涎を垂らしながら、クリスティアーノが唸るような声で言った。


「さぁな。分かるまでやってみろ。

と言いたいところだが、面倒だからここまでだ。」


俺は胸の前で手を合わせ、力ある言葉を発した。


「マリオネット。」


部屋の真ん中で落とした剣が舞い上がり、俺の側に近寄ってくる。

そして俺の拳を風が包み込んだ。

俺は腰を落とし、構えを取った。



「もう小細工は抜きだ。決着つけんぞ。」




つづく。


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