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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第三部【魔なる者】
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甦る不死鳥②

巫女に案内され、俺達は神殿の中を進んでいった。

神殿はどこもかしこも同じような通路で構成されており、たまに壁に扉のようなものも見えた。

しかし、巫女達は扉には目もくれずに奥へと歩を進める。

淀みなく進むその感じからして、こいつらが本当に神殿の巫女だってのは間違いないみたいだ。

しばらく通路を進むと、何度か曲がり角を通り過ぎてから、大きめな扉の前で立ち止まった。


「ここが神器を祀る祭壇の間です。」

「ここが神器を祀る祭壇の間です。」


俺が扉に手を触れて、開けるための仕掛けを探っていると、背後でルイーダが笑いを堪えている声が聞こえたから無視だ。

ここで構うとまたペースが乱されちまうからな。

いいか?

これは真面目でシリアスな勇者の冒険物語だ。

こんな緊迫した場面で笑ってなんかいられないんだ。

扉を探っていると、その右手にまた黒い板を見付けた。

この感じからすると、入り口と同じでまたパスワードかなんかを打ち込むんだろうな。


「おい、笑ってんな。お前の出番だぞ。」


口を押さえて震えているルイーダの二の腕を引っ張った。


「どぅへっ。くくっ。えっと、なになに?今度はなんだってぇ?」


「いい加減にしろって言ったろ?分かれよ?な?」


「あーあ!はいはい!分かったよぉ!うるさいなぁ。」


「うるさいって言うな!」


「えー、なになに?ふーん。


舞台は自分への試練です。舞台って難しいし、お芝居って難しい。今までやってこなかったから、必死でやっている感じです。とても勉強になりますね。


ダビドが生を受けた時に書かれた一節だねぇ。人生をお芝居に例えて、自分のこれからを想いながら呟いた言葉。

そしてこの後、ダビドが初めて出会ったもの。それが【希望】。

ダビドシルバ叙事詩第1章1節。」


ルイーダの指が希望の文字をなぞった。

しかし、今度は何も起こらなかった。


「はにゃ?」


「珍しいな。お前が間違えるなんて。」


「むぅー。希望だと思ったんだけどなぁ。」


「例えばさ、違う文字ってことはないか?その叙情詩に関わる何か違う民族の言葉とか。」


「えー?そんなんあったかなぁー?」


「【希望】か。そうだな。これなんかどうだ?」


俺は思いついた【希望】の文字をなぞったみた。

俺の指の動きに合わせて文字が光っては消え、最後の光が消えた時、扉は静かに道を開けた。


「・・・・。」


ルイーダは何も言わなかった。

ただただ俺の顔を見ているだけだった。

きっとバカにしてるんだろうな。

当てずっぽが珍しく当たったから。

たまには俺だって頭の方でも頑張れるんだぜ。


「お前の名前の由来だろ?」


俺はルイーダに片目を瞑って見せると、部屋の中へと足を踏み入れた。




そこは不思議な部屋だった。

かなり広い、この神殿の中で一番広い部屋で、天井もとても高い。

床には一面、妙な管みたいなものが等間隔に張り巡らされていて、その全てが部屋の中央に集まっていた。

床から天井まで貫くように、太い木の幹みたいな、でも金属で作られた物が生えていた。


「これが祭壇なのか?とてもそんな崇高なもんには見えねぇけどな。」


正直な感想だ。

俺達の文化圏にある教会でも、山脈の寺院でも、砂漠の教会でも、どこも祭壇はその施設の中心だし、それ相応に神秘的で荘厳な様相で造られてるもんだと思ってる。

人の信仰心を集める場所だからな。

なのに、この神殿はどうだ?

何て言うか、無機質で、どちらかと言えば居心地の悪さを感じるような場所だった。


「さぁ、祭壇に神器を捧げるのです。」

「さぁ、祭壇に神器を捧げるのです。」


巫女達が声を揃えた。

それに後押しされるように、俺達は床の管を跨ぎながらゆっくりと祭壇に近付いた。

目の前まで歩み寄ると、ちょうど俺の胸元辺りの高さのところに、ギヤマンの窓みたいなものがあることに気が付いた。

触れてみるとどうやら開けられるらしい。

中を覗き込んでみた。

拳ひとつくらいが収まりそうな空間が開いていた。


「この穴に神器を納めるのか。」


「多分そうだねぇ。」


俺はルイーダから4つの輪っかを受け取ると、穴の中に並べてみた。


「・・・・・。」


「・・・・・。」


しばらく眺めてみるものの、何かが起こるような様子はなく、神器はそこに転がったままだった。


「置き方?」


「じゃあこんなんはどうだ?」


今度は重ねて置いてみた。


「・・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・・違うか。」


ルイーダは神器を集めると、掌に乗せてまじまじと見つめ始めた。

ひとつずつ指で持ち上げ、色々な角度から観察している。

ひとしきり眺めると、おもむろに穴に遊環を差し入れた。

1番大きな錫杖の神器。

それを中に入れると、手首を返して遊環を縦に向けた。


「浮いた。」


俺は思わず声を漏らした。

言葉通り。

穴の中で、遊環が宙に浮いたのだ。

続けて2番目に大きな国印の根付けを手に取ると、遊環の内側に差し入れた。

すると、遊環の中心とぴったりと重なる様にして、同じく浮き上がった。


「そういうことか。」


俺の言葉に応えるように、次に大きなオルゴールの飾りを根付けの内側へ。

最後に最も小さいマントの石座を根付けの中に差し込んだ。


4つの環は、祭壇の穴の中で美しく重なり、微動だにせず浮かんでいた。


「どういう仕組みだろうな?」


「不思議だねぇ。」


それでもそこから先は特に変化が起こらない。

ここまでくれば、何かが起こるのはほとんど確定なんだろうが。


「エジル。蓋を閉じてみて。」


ルイーダに促され、俺はギヤマンの扉を丁寧に閉じてみた。

その瞬間だった。

神器に異変が起こった。


ゆっくりと回り始めたんだ。


遊環と飾りが横方向に。

根付けと石座が縦方向に。


ゆっくりと回っていたかと思うと徐々にスピードを上げていく。

それに合わせて淡い光を放ち始め、それはどんどんと強く大きくなっていき、遂には神器達は猛スピードで回りだして、ひとつの球体にしか見えなくなった。


「うわっ!」


神器が凄まじい光を放ち、あまりの眩しさに俺達は咄嗟に顔を逸らした。

その光はまるで稲妻みたいな激しさだった。



ゴゴゴゴゴ・・・・



神殿が大きく揺れ始めた。

しがみついてくるルイーダの肩を抱えると、俺は周囲を見回した。


「なんだ、この揺れは。地震じゃねぇよな。」


答えは分かっている。

神器に呼応してるんだ。

そうだ。

不死鳥が甦るんだ。




「長かったね。」


「そうね。」


巫女達の声が聞こえてきた。


「おい!これで正解なんだろ!?」


俺はふたりに向けて声を張りあげた。

揺れはかなり大きくなり、神殿中が悲鳴をあげているみたいに軋んでいる。

それに俺達の背後の祭壇が、まるで巨大な猛獣が怒りを示すかのような唸り声をあげ始めたんだ。

かなり声を大きくしなければふたりまで届かない程に、様々な音が入り乱れていた。


特大の縦揺れが俺達を襲った。

あまりの揺れ幅に、立っていられないくらいの縦揺れだ。

俺はルイーダを支えながらも膝をついた。


「不死鳥が蘇ったのか!?どこにいる!?」


俺の問いにふたりは頷いて見せると、踵を返して扉へと歩き出した。

ついてこいってことか。


揺れが収まり始めようやく立ち上がれるようになった俺達は、ふたりを追って部屋の外へと走っていった。


通路に出るとふたりの姿は既に無かった。

しかし、来る途中で通り過ぎた扉が開いていることに気付き、そこへ向かうべきだと理解した。

扉の先には階段があり、その上にもまた扉が見える。

きっとあそこだ。

俺達は階段を登ると、扉の前に立った。

今度は黒い板は無い。

代わりに扉の右手には、指先くらいの小さな突起が見えた。

それに触れると、扉は音もなく道を開けた。



「こ、これは!?」


「すんごぉい!」




俺達の目の前には、真っ青な空が広がっていた。


空を背景に、巫女達が佇んでいた。


「感謝するわ。エジル、ルイーダ。」


母親の男がそう言った。


「君達のお陰で、不死鳥は復活を遂げたんだ。」


子供がそれに続けた。


「不死鳥?どこにいる?」


「分からない?」


俺の言葉に母親の男が微笑んだ。


「僕達は今、不死鳥の背に乗っているんだよ。」


同じく子供も微笑んだ。


「そう。不死鳥の神殿は不死鳥そのもの。」


「4つの神器はエンジンの核。」


「核を取り戻したエンジンは、不死鳥を再び大空に羽ばたかせる。」


「長い時を神殿として地上で過ごしていたけれど、その真の姿は天翔る飛空挺。」


「不死鳥の騎士団を乗せ、空を翔る飛空挺。」



ふたりの体から紺色コートが剥ぎ取られた。

コートの下から、白銀に輝く鎧に包まれた姿が顕になった。


「我が名はミュラー。不死鳥の騎士団の団長。」


「我が名はロイス。不死鳥の騎士団の参謀。」



「今ここに、不死鳥の騎士団の復活を宣言する!」


ミュラーの声が高々と響き渡った。






「か・・・・」


俺は言葉を失った。


「どしたー?エジルぅー。」


ルイーダが俺の袖を引っ張った。


「・・・・かっこいい。」


「そぉ?」





つづく。

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