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新訳・エジルと愉快な仲間  作者: ロッシ
第一章・第一部【始まりの冒険】
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いい日旅立ち①

「うりゃっ!」




俺は魔物に向かって剣を振り下ろした。


「ぴぎぃー!」


どういう原理かは知らないが、ドロドロの水分みたいなのが固まってそこら辺を這いずり回っている。


そんな魔物がこの辺りにはたまに出没する。

動きも鈍いし、大体において思考回路があるのか自体が怪しいこいつらの攻撃方法は意外とバカにできない。

音もなく人間の近くまで這い寄ると、その姿からは想像もつかないジャンプ力で飛び上がり、人間の顔にへばりつく。

顔面を水で覆われたみたいになった人間は呼吸を遮られ、そのまま窒息死してしまうんだ。

油断さえしなければまぁそこまで危険な魔物じゃないが、かと言って戦闘訓練を受けてない一般庶民からしたら驚異には違いない。



俺がやっつけたドロドロは、まるで水風船が割れる時のように地面に飛散するとそのまま動かなくなった。

ドロドロの死骸の中に何かの金属が鈍い光を放っていた。

それは俺達人間が使う1G銀貨だった。

地面を這いずり回る時に体に巻き込んだんだろう。

俺はそれを拾い上げ、腰から垂らしている手拭いでよく拭いてから、懐の財布に放り込んだ。

時折、魔物はこうやって金目の物を落としていく。

それが俺達みたいな旅人の資金源になるわけだ。

アカデミーでもその事は教えてくれるし、だから旅人は皆、俺みたいに手拭いを腰から垂らしているんだ。




そんな俺を尻目に、そのドロドロの側にしゃがみ込むと、ルイーダはポーチから取り出した小瓶にネバついた粘膜みたいなのを小枝ですくって流し込み始めた。


「なにしてんだ?」


俺はルイーダの正面に回り込むと、その様子を思い切り冷ややかな視線を作って見下ろした。


「んー。これを売るんだよ。」


「は?」


「このドロドロは、元々は魔族が水に魔力で生命を吹き込んだものなのね。

生命が断ち切られると元の水に戻るんだけど、一旦魔力を吹き込まれた水はこうやって変質すんのよ。

これね、あんま知られてないけど、洗剤に混ぜるとすっごい綺麗になるんだよねぇ。

貴族御用達の高級洗剤ってやつ?」


「マジ?」


「マジ。だから洗剤業者に持ち込むと高く買い取ってくれんの。普通の人はこんな簡単に魔物をやっつけたりできないからね。」


「この小瓶でどのくらいになるんだ?」


「こんくらい。」


俺の問い掛けに、ルイーダは指を4本立てて見せた。


「4Gもすんのか?」


「まるが足りない。」


「よんじゅう!?」


「まだ足りない。」


「よ、よんひゃく?」


「そうよ。」


「マジかよ!?そんな汚なそうなドロドロがか!?」


「そう。

てかさ、魔物が持ってるかどうかも分からないお金を資金源にするなんて、効率悪いと思わないの?大体なんで魔物が人間の貨幣なんて持ってんのよ。

そりゃたまには今みたいにたまたま持ってるかもしんないけど必ずじゃないでしょ。

そしたらこうやって必ずお金になるもん採取した方が賢いでしょうよ。」


「賢いもなにも、そんなん知らなかったしな。」


「でっへっへぇ。だからおねーさんを仲間にすると、すっごい良いよ!って言ったんだよ♪」


ルイーダはえらくだらしない表情で笑みを浮かべてみせた。

俺は頭を掻いた。




俺達がいるのは城下町から西に向かって半日ほど歩いた平原だった。

遥か昔の時代は、この島の西側にある小さな港町から大陸との往復定期船が出ていたらしいんだが、このご時世だし、今は危なくてそんなこと出来やしない。

十分な武装をした商船が最低限の本数で運行してるだけだ。

俺達の目的はその商船に乗ること。

国から授かった勇者の証を見せれば乗せてくれるんだそうだ。

そっから大陸に渡り、魔物の根城のことを探って攻め落とすのが勇者の仕事ってわけ。


「まぁいいんだけど、何か、洗剤の材料を売って資金源にする勇者ってのもちょっと変じゃねぇか?」


「洗剤だけじゃないよぉ。例えばこの辺に棲んでるでっかい烏の羽根は強い撥水効果があるから傘の材料になるし、アナグマみたいな奴の脂はよく燃えるから燃料になるしぃ。」


「なんでもいいが、昔の有名な勇者がそんなことしてたとは思えねぇけどな。」


「昔のって、例えば?」


「うーん、獅子王フランツ5世とか、大勇者メッシとか、不死鳥の騎士団のミュラー団長とかさ。」


「その子達、みんな王族か貴族の出自じゃん。そもそも資金集めなんてしてないんじゃないのぉ?」


「え!?そうなのか!?」


「そーだよぉ。

そんなのと一緒だって考えても意味ないし。

エジルはまだ旅のことを知らないからピンとこないかもしんないけど、先立つものは潤沢な資金だよぉー。

集めといて損はないよぉー。」


「そんなもんか?俺はいらねぇと思うけどな。」


「いいのいいの!エジルが要らないんなら私が貰うだけだしぃ♪」


「お前、よだれ垂れてるぞ。」




西の港町はここから更に徒歩で2日ほど歩いた場所だ。


この島は国王陛下の方針のお陰で魔物退治の意識が高いっつーこともあってか、比較的魔物の数も少ないし、凶悪な奴も多くないから、割りと簡単に往来を行き来できるんだ。

一般人のルイーダを連れて歩いてもさほど苦ではない。

ピクニック気分のこいつを港町まで連れて行けば、その辺で満足して帰ってくれるだろう。

自力で帰れるこの島で別れられるなら、送り返す手間も省けるし、港町に着いたらそこまでで稼いだ物を持たせて返そうと、俺は密かに心に決めていた。





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