海賊②
幸いにも男の力はそれほど強いわけではなかった。
強かに殴られはしたが、一発で致命的とかそんなんじゃない。
ほとんどバランスも崩されなかったから、そのまま次の拳が飛んでこようと問題はなかった。
俺は男の拳を掌だけで受け止めて見せた。
逆の腕でもう一発打ち込んできたが、そちらも難なく受け止めた。
「どうやったかは分からねぇが、体術はもっと鍛えとくん、だな!」
言いながら、額の真ん中辺りを男の鼻筋めがけて叩きつけてやった。
「うっ!」
更に追い討ちをかける。
うめき声を上げながらよろめいた男の肩口を狙い、右足を軸に体を回転させ遠心力をたっぷりと乗せた回し蹴りをお見舞いだ。
まぁ俺、基本はスラムのゴロツキだからな。
剣術とか精霊術よりも徒手空拳での近接戦闘の方が慣れてたりする。
昔とった杵柄だな。
肩口に強烈な一撃を食らった男は、まるで独楽みたいにクルクルと回りながら宙を舞い、その回転のせいで受け身もまともに取れずに床に叩きつけられた。
床に這いつくばった男が寝転んだままの姿勢で腕を振った。
途端に俺は誰かに足をすくい取られたような感覚に襲われ、気が付いた時には仰向けに倒れ始めていた。
またあの妙な技だ。
腕を振ると対象を引き寄せる。もしくは自分が対象に引き寄せられる。
そんなところだろうな。
俺の足をとったわけか。
咄嗟に左手の剣を地面に突き立ててバランスを保つも、引き寄せられる力が異常に強く、俺は剣から引き剥がされてしまった。
「ほい、エジル。」
猛スピードで引き寄せられる俺の手に、ルイーダが先程のサーベルを握らせた。
俺はそれを正眼に構え直した。
「は!?」
男が驚きの声を上げた。
ルイーダの機転により、男は一気に窮地に陥ったのだ。
なんせ、サーベルが猛スピードで自分に突っ込んでくるんだからな。
男が再び腕を動かしたが、何をしようともはや間に合わない。
俺の体は勢い収まらず、男の体へと突っ込んでいった。
ドスッ!
鈍い音が洞窟中に響き渡った。
俺は両足を大きく広げて、寝そべる男の顔面と下腹部の辺りをしっかりと踏み込み、ギリギリで突っ込むのだけは回避してやった。
流石に人間を刺す気にはならねぇよ。
その衝撃で、男は気を失ったようだった。
俺は立ち上がると、ルイーダにサーベルを手渡した。
「何これ?」
ルイーダが受け取ったサーベルは刃の部分が途中から切り取られたように無くなっていた。
「さぁな。気がついたらこうだ。」
ルイーダに投げ捨てられたサーベルは、乾いた音を立てて岩肌の床に転がった。
俺はそいつに目を落とした。
さっき、あの男が少し腕を動かしたのがこれか。
どんな方法なのかは検討がつかねぇが、どうやらサーベルの刃をこ削ぎとったらしい。
だとすると、引き寄せられる現象も納得がいく。
恐らくは俺と自分の間にある空間を削ぎとって、間隔を詰めていたってことだな。
「精心術か。」
「だねぇ。精霊術では成し得ないんじゃないのぉ?てか、なめられてたんかねぇ。」
ルイーダが笑った。
精心術使い。
アカデミーの授業では何度となく習ったが、実際の使い手に会うのは初めてだった。
ルイーダの言う通り、まともに使えば俺達の頭や心臓くらいこ削ぎとるくらいは簡単だったろうに。
「厄介だな。こりゃ心してかからねぇと。」
俺は海賊の居住区に繋がる通路に目を向けた。
その小さな通路は、人がすれ違うのがやっとという程度の狭いものだった。
普通に歩けば簡単に見つかってしまうだろう。
俺達は入り口の脇に身を潜め、中を伺いながら策を練っていた。
「さて、どうするか?」
「どうって、入るんじゃないのぉ?」
「入るか?正面から?この狭い通路じゃ、さっきの術を食らったりしたら一発であの世行きだぞ。」
「いや、あんなんもう出ないでしょ。」
「なんで分かるんだよ。」
「精心術は人間の心を元に発現する術だよ。同じ術は2つと無い、特別なもんでしょ?」
「そうは言うが、他にもやばい術を使うような奴がいるかもしれねぇぞ。」
「アカデミーで習った、精心術が使える人間の確率は?」
「数万分の一だ。」
「ここの海賊が数万もいるとは思えないけどねぇ。」
「念には念をだよ。そういう術師を集めてるかもしんねぇだろ?」
「まぁねぇー。でもそんなこと言ってたら先には進めないじゃん。引き返す?」
「くそ。ラチが明かねぇな。」
「じゃあおねーさんが2パターン、考えてあげよぅ。
まずはおっきな音とかで海賊をおびきよせる。
①この通路にエジルがすんげぇ風の精霊術をぶっぱなす。
②この入り口に蓋をして永久に出られないようにする。
はいどっち?」
「大量虐殺の考え方じゃねぇか!」
「入るのがダメなら出すか閉じ込めるしかないでしょーが。」
「ちょっと待て。今考えてるから。」
まぁでも正味な話、見つからずに気合いで潜入するか、おびきよせて一網打尽のどっちかだよな。
前者はかなりリスク高いけど。
となるとやはり後者か。
「決まった?そこはエジル君が威力を調整すればいいもんよ。」
「おい、ルイーダ。お前、眠り薬みたいなの持ってないか?例えば、そういう効果のある薬とかを風で中に流し込むとかどうだ?」
「そんなん都合よく持ってるわけ・・・あー、あるわ。」
「あるのかよ!」
「これ。」
「これって、さっき食った米粒の塊を包んでた葉っぱじゃねぇか。」
「これはエビルメイプルの葉っぱでしてぇー、普通にしてたらただの殺菌効果の高い葉っぱですがぁー、燃やしたら眠気を誘う匂いを放つのでぇーす。」
「そんな魔物の葉っぱで飯をくるむなよ。」
というわけで、俺達はその手を使うことになった。
ルイーダが持っていたありったけの葉を地面に置くと、松明を拝借してそいつに火をつけた。
徐々に煙が立ち上ぼり始めた。
「吸わないようにねぇー。」
「ああ、分かってる。じゃあ行くぜ。
ブリーゼ。」
俺の力ある言葉と共に吹いてくるそよ風に乗り、煙は洞窟の奥へと流れていった。
とりあえずは葉が燃えきるまでは待つ。
生の状態だから火のつきが悪いんだ。
代わりに煙はよく出るが。
別にそんなに大量の葉ではないものの、そのせいで結構な時間を食っちまった。
俺は自分で直接操れる風なら、ある程度の感覚をリンクできる。
ブリーゼみたく、緩やかな風ならその感度も高い。
風が壁に当たったこととかが分かるから、それにかかった時間から割り出すと、大体の中の広さも把握できた。
「そこまで広くはないな。少なくともこの通路は20メートルくらいで終わりだ。
その先に扉があるとかだったら知らんけどな。」
「扉があるかないかはかなり重要なポイントだと思うんですけどねぇ。」
「大丈夫だ。なんか壁に隙間があるな。そこから風が流れてる。」
「ふーん。じゃあそれが扉と壁の隙間かな。」
「かもな。」
俺は鞄から黒い手拭いを取り出すと真ん中から切り裂いて、片方をルイーダに手渡してから、もう片方で自分の口を覆って後頭部で縛り合わせた。
「これ、魔物の血を拭くやつじゃん。」
「ちゃんと洗ってあるやつだ。」
「ばっちぃ!」
「魔物の葉で飯をくるむ奴が言うな!」
通路の中を進んでいくと、程なくしてから両脇に横穴が現れた。
穴の先には散らかった部屋が見える。
酒瓶やら汚れた皿やら、食い散らかした骨だとか、ま、海賊の部屋っぽいよな。
その部屋の中で数名の海賊らしき男達が寝転がっているのが確認できた。
皆、一様に大イビキをかいていた。
逆側の部屋も同じようなもんだった。
どうやら煙はしっかりと効いているようだな。
俺はルイーダに前に進むことを伝えるジェスチャーをして、再び歩き始めた。
突き当たりには木製の簡素な扉がある。
不揃いな木の板を適当に張り合わせただけの雑な代物で、扉のくせに至るところに空間が空いている。
これがさっき感じた隙間の正体だろうな。
俺はその隙間から中を伺った。
少し広い部屋だった。
中央に10人くらいで使いそうな大きなテーブルと椅子が置かれ、壁には海賊旗が飾られている。
海上ではよく見えなかったけど、普通はドクロマークの背後にはクロスボーンだが、代わりに二挺の大砲が描かれていた。
どうやらここは会議室みたいだな。
奥に更にみっつ、通路が見える。
中に人の気配はない。
俺は扉を開けた。
俺が中に足を踏み入れた直後だった。
背後に何かが落ちてくる気配を感じ、急いで振り返った。
俺とルイーダの間に割り込むように、男がしゃがみ込んでいた。
天井に貼り付いて隠れていたのか!?
見ると、既に抜刀している。
いきなりやる気らしい。
俺が身構えようとした瞬間、既に男は動いていた。
逆袈裟に細身の剣を振り上げた。
俺はすんでのところで剣をかわすも、その速さに心底驚いた。
こいつ、ただの海賊じゃねぇ!?
それは明らかに高い修練が積まれた者の太刀筋だった。
ひとまず距離を取らないと。
俺は背後に飛んだが、男はそれを読んでいたようにピッタリとへばりついてくる。
相当に戦い慣れている。まずいな。
剣の振りに隙は一切なく、凄まじい速さで何度も何度も切りかかってくる。
全てギリギリのところで避けてはいるが、このままでは確実にやられる。
背後に避けながら少しずつ移動していると、足に椅子が触れた。
俺は椅子の足に自分の足を絡ませると、男に向かって蹴り上げた。
男は難なく椅子を切り裂いた。
が、これで一瞬でも隙が生じる。
俺はそれを逃さず、背後のテーブルに飛び乗って男との距離をとった。
黒いロングコートには金糸で豪奢な装飾が施されている。コートの下は至ってシンプルな生成のシャツに黒いパンツ。
海賊らしくもなく茶色い髪を綺麗に中分けにしたおかっぱ頭の下には、大きなギョロ目。
俺よりは結構歳上だが、若い男だった。
俺は剣を抜くのを躊躇った。
俺の剣は所謂、ブロードソード型。厚みのある両刃の剣で、切ると同時に重量で叩くことが想定されている。
片や男の剣はエストック型。細身で軽量、主に刺すことを目的とされており、こういった接近戦ではその方が有利だ。
加えてお互いの技量は明らかにあちらが上。
俺が剣を抜いたところで、戦況は変わらないだろう。
小回りが利かなくなる分、むしろ悪化する可能性すらある。
距離をとって精霊術で対抗することも考えたが、それもまた有利にはならない。
十分な距離も保てないこの室内では、術式を行う時間はとれない。
「いきなり変なガスを流し込みやがって★許さねぇぞ♪ぶっ殺してやる!♥️」
くそ。
完全に狩りにきてるじゃねぇか。
圧倒的不利なこの状況を打開する策。
「だいぶ疲れるが、やるしかねぇか。」
剣を抜くと、だらりと垂らした無形の構えをとった。
「なに余裕見せてやがる♣️」
「余裕がねぇからこうなってんだよ。」
俺は自分の掌に意識を集中させた。
「マリオネット!」
風が集まってくるのを感じる。
厚く、厚く、風が圧縮され層になって俺の手を包み込む。
同時に剣を離した。
剣はフワリと宙に浮かび上がると、俺の背後にすっと回り込んだ。
「魔物相手でもまだ使ったことはねぇんだがな。まさか初お披露目が人間相手とは。」
男が剣を構えた。
俺も拳を握り締め、腰を落とした。
「行くぞ。」
男はテーブルに飛び乗ると、凄まじい勢いで切りかかってきた。
俺は風で浮かせた剣でそれを受け止め、両の拳で男のボディにワンツーを打ち込んだ。
風を纏い、強化されたパンチは通常の数倍にも強化されている。
たまらずかがみ込んだ男の頬めがけて左腕でフックを食らわせた。
あまりの力に男はぶっ飛んだ。
ぶっ飛んだにも関わらず、残された腕で剣を振りやがった。
俺は剣を操るとそいつを受け止めてやった。
追い討ちをかけるように、体勢を崩した男に前蹴りを繰り出す。
腹にクリーンヒットと思いきや、左腕と腹で蹴りを受け止めてられていた。
そのまま俺は足を引っ張られ、今度はこちらが体勢を崩す。
両腕をついて足を振りほどくと、逆の足で男の顎を目掛けて蹴りつける。
まともに顎に蹴りを食らえばひとたまりもない。流石に男も膝をついた。
俺はその隙に距離をとって構え直した。
「汚ねぇぞ♦️なんだその術は♠️」
「いや、お前の動きこそ反則だろ。」
「本気出させるなよ★」
「ここからがやっと本気だって?マジで反則だぜ。」
男が一足飛びに間合いを詰めてきた。
先程とは比べものにならないくらい速い。
剣速も半端じゃない。
俺が一太刀振るう間に三太刀は振ってくるような技量差だ。
しかし俺も引かねぇ。
真正面から飛び込んだ。
とてつもない速さの剣撃の全てをマリオネットで操作した剣で弾きつつ、その合間を縫って殴打を打ち込む。
しかし繰り出した剣撃が弾かれた途端に、切っ先は軌道を変えて俺の拳を受け止める。
受け止めてはすぐに次の一撃を放つ。
この繰り返しだ。
俺は空中を浮遊する剣で防御をし、徒手空拳で攻撃を行っている。
ほぼ2対1にも近い構図なのに、こいつはその全てに反応し、剣1本で互角に渡り合うんだ。
こうも戦闘センスって違うもんかね。
嫌になるぜ。
だが、勝機はある。
手数で勝ってる分、いつかはこいつも対応しきれなくなる。
その時が勝負だ。
俺の拳が止められた。
男の次の動きが鈍った。
剣撃が来ない。
もう一度俺は拳を叩きつけた。
男は剣を翻して再び受けに回った。
ここしかねぇ。
それまでは体と平行を保っていた剣を傾け、男に刃を向けた。
甲高い金属音が部屋中に響き、剣と剣のぶつかり合いで火花が散った。
それを皮切りに俺は全力でラッシュを繰り出した。
同時に剣でも男に斬りかかる。
男はもはや受けることしかできなくなった。
それでも俺の乱打と剣撃による豪雨のごとき猛攻を全て受けきっている。
本当、恐れ入るよ。
これ以上戦闘が長引けば、俺の方がスタミナ切れだ。
俺はある決断を下した。
男が剣を弾き返した瞬間を見計らい、一旦剣を翻すと、男の後方へと回り込ませた。
ここまで言えば分かるよな。
背後から切りつけたんだ。
汚いのは分かってんだよ。だけど、これしかねぇんだ。
しかし、男は極限まで体を捻ると、背面に飛んできた俺の剣を受け止めてみせたのだ。
これには痺れたね。
その代わり、正面は完全にガラ空きだ。
「時間切れだ。」
拳を纏っていた厚い風がかき消えた。
俺は、渾身の力をこめた左フックを男の肝臓に叩き込んだ。
「がはっ!♪」
呻き声を漏らし男は膝から崩れ落ちると、ばったりと倒れ伏した。
俺もその場にへたり込んだ。
同時に俺の剣も鈍い音を立ててテーブルの上に転がった。
「てめぇ・・・なんで最後・・・術を解きやがった?♥️」
寝そべったまま、こちらには振り返りもせずに男が呟いた。
「時間切れだって言っただろうが。解いたんじゃなくて解けたんだ。」
「お陰で命拾いしたぜ♣️」
「どういうことだ。アホか。」
こいつどうかしてんのか。
ま、気持ちは分かるがな。
誰かとやり合って、ここまで清々しい気持ちになったのは初めてだもんな。
何故だかすこぶる気分が良かった。
「あーあ、負けちやったんすか。お頭ぁー。」
突如として、部屋の入り口の方から声がした。
この声は聞き覚えがある。
「おーっと、動くなよ。」
振り返るとそこには、船のあった岩場でやり合った男。
そしてその前には、
「でっへっへぇー。」
喉元にサーベルをあてがわれながらもヘラヘラと笑うルイーダの姿があった。
「捕まってしまいましたぁー。」
いや、よくそれで笑ってられんな。
にしても、動きたくても動けねぇよ。
俺は仰向けに寝転がった。
「うるせぇぞ、アルシャビン♦️お前だって負けてんじゃねぇか♠️」
「まぁ、試合に負けて勝負に勝ったってことでさぁ。だっはっは。」
「笑い事じゃねぇんだ★さっさとこいつらをふんじばれ。」
「あーいあーいさー。」
「ねぇねぇ、さっきのすっごいねぇ。あんなんできんだねぇ。なんて術?風の精霊術?初めて見たよぉ。」
ルイーダが目をキラキラさせて話しかけてきた。
「だろうな。ありゃ俺のオリジナルだ。」
「っへぇー!すっごぉーい!でもあれだね、やっぱお人好しだねぇ。なんで止め刺さなかったんさ?」
「あの術はキツいんだよ。剣を操作しながら戦わなきゃならねぇからな。気力、体力、魔力全部をフルで使うから、短時間しかもたねぇんだ。止めを刺すとこまで間に合わなかった。」
「ふぅーん。でもお人好し。最初から背後を取っておけば楽勝だったのにさ。」
「魔物相手に使うときはそうするわ。悪いがちょっと寝る。もう限界だ。」
俺は目を瞑った。
「おめーら、普通に雑談決め込んでるが、状況分かってんのか?そして寝るな。」
俺達のことを縛り上げながらアルシャビンという奴が無感情な声を漏らした。
「ん?ああ、そうだったな。」
俺とルイーダは後ろ手を縛られ、会議室の端に仲良く並んで座らされた。
そんな二人の前に椅子を並べ、アルシャビン、そして頭と呼ばれた先程の男がどっかりと腰を下ろした。
「よし、ここからは慎重に答えろ♪事と次第によっちゃ、その場で殺す♥️
んで、お前らは何者だ?♣️」
「通りすがりの旅人Aだ。」
「Dでぇ~っす。」
「BとCはどこ行った?♦️まぁいい、じゃあその通りすがりの旅人達が何故いきなり襲ってきた?♠️」
「お前らがここらを荒らし回ってる海賊だからだ。」
「なるほどな★その話はどっから聞いた?♪」
「無論、ここらの漁村だ。」
「単純な連中だ♥️」
お頭は笑い声を上げた。
「おい、アルシャビン♣️弁解してやれよ♦️」
「あいさー。
まず始めに言っとくが、俺らは私掠船だ。」
「どこのぉー?」
「帝国だ。」
「私掠船って・・・・。どういうことだ?ルイーダ?」
「国に略奪を認められた海賊。というか、国の私兵に近いかねぇ。軍隊じゃ手が回らない時とかに、元から武力のある海賊とかを任命して、敵国にダメージを与えるのが目的だよぉ。」
「そうか。てことは、お前らは国のお墨付きで略奪をしていたから、悪くねぇって言いたいのか?」
「権力を笠に着るつもりはねぇんでさぁ。要は、あの辺の集落が帝国にとっての不利益だから、わざわざ私掠船が駆り出されてるってことでさぁ。」
「意味が分からねぇ。なんで普通の漁村が帝国の不利益なんだよ?」
「あの辺の連中、貧しいのを理由に領土を侵して密漁し放題ってこと。しかもとんでもねぇ量のな。そのせいで帝国の漁村は漁獲量が激減して飢えが出始めてる。俺らはその抑止力になり、尚且つ連中が不法に得た利益を奪い返して帝国に還元するのが目的ってことでさぁ。」
「マジかよ?」
「マジで♠️意外って顔してんな★」
「いや、意外だよ。」
「いつでも貧しい民が罪なき人々ってわけでもねぇーってこった♪
もちろん連中にも正義はあるだろうが、俺達にも正義がある♥️」
「確かに、あのおっさんなら無意識に不法行為しそうだもんねぇー。」
ルイーダが笑った。
確かに。俺達を襲ったきたおっさんの顔を思い出すと、妙に合点がいった。
「微妙な判定だな。どうしたもんか。どっちも悪いなら両方やっつけるか。」
「ははっ!♣️そりゃいいぜ♦️そしたら今度はお前がお尋ねもんだ♠️」
「なんかごちゃごちゃしてんな。」
頭の男が髪を掻き上げた。
「そこで俺がいい案を持ってる★」
「お、遂にあれですかい?」
「ああ、あれだ♪」
二人が顔を見合わせた。
「なんだよ?」
「別に俺らは元々、帝国の狗なんざしたくてやってるわけじゃねぇ♥️ちっとばかし訳ありでな♣️いつかはこの境遇から抜け出してぇと思ってる♦️」
「なんだ?辞めるからそれで手打ちにしろってことか?」
「まぁそういう見方もできるわな♠️ちょっと違ぇけど★」
頭は立ち上がると俺の前に歩みより、かがみ込んで俺の顔を覗き込んだ。
「俺はな、訳あって強い兵力を探している♪海賊稼業もその一端だ♥️
そこでだ、お前、俺の手下になれ♣️」
「は?俺が海賊の手下だと?バカ言うな。」
「てめー、この状況で自分に決定権があると思うなよ?♦️」
「でっへっへぇー。」
突然ルイーダが笑いだした。
俺はルイーダに目をやった。
「エジル。海賊になったら、財宝とかお宝とかガッポガポなんですけどぉー。」
「あ、そう。もうやる気なわけね。」
「それにさぁ、ここでぶっ殺されるよりマシじゃね?エジルにはやりたいことあるでしょーよ。」
俺は大きくため息をついた。
「しょーがねぇ。やるか。」
「よし、いいぞ♠️」
俺はキャプテン・ロシツキーだ★」
「俺はエジル。」
「エジルか♪よろしくな♥️」
こうして、俺は勇者から海賊に転職することになったんだ。
つづく。




