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冷宝  作者: 霧宮 夢華
報告書2~稜鏡~
23/78

11部目

 会議室。

 2階の突き当りに存在する、重厚な両開き扉で閉ざされた教室。


 同じ2階にあるDクラスとは真逆の位置にあるため、パソコン室を突っ切ってさらに進まなければならない。


「D以外の教室ってないんですね」


「特別教室は全部2階か1階にしかないんだよね。ほら、下位クラスは上位クラスの教室に行っちゃいけないって決まりがあるから」

「そんなの初耳なんですけど……」


 クラスメイトが口癖のように「Dは騒いでも平気」と言っていた理由がようやく理解できた。確かにそんな造りをしていたら、Dがどんなに騒いでも近所迷惑にはならない。特別教室に人がいれば、話は別だが。

 よって、Dクラスは2階のより上の教室に行ったことがない。階級意識の激しい、面倒臭い規則だ。


 会議室の中に入ると、まず大きなスクリーンが目に飛び込んできた。床より1段高くなっているスペースには教壇まで設置されている。

 反対側に目を向けると、一言で言ってしまえば、そんなに多くはないものの席が沢山あった。扇状に広がっており、後ろにいくにつれて階段状に高くなっていくという構造。最上階から上位クラスの面々が出入りしていることから、2階分の高さを使って造られたのだと推測がつく。

 一番分かりやすいイメージは、よくある大学の講義室、あるいは映画館。床や天井、壁の装飾が少し青みを帯び、清潔感と落ち着きのある空間となっている。


 瑠璃達は、前方の扉に近い側に4人一列で座った。

 最後に、2階の扉から梅崎が入ってきて、その重厚な扉がガッシリと閉められた。


「諸君、いきなり集められて困惑していると思うが、これから詳細について説明しようと思う。だが、その前に周りを見てくれ」


 一応、梅崎の言葉に従い4人も周りを見渡す。人少なすぎ。


「Bクラスはよく使っているから分かると思うが、ここに全校生徒が入っていることがまずおかしい。ここの席数は三十そこらのはずだ」


 東志波の全校生徒数は61人。会議室に全員が入らないから、全体課題の説明は無駄に広い体育館でやっているわけであって、元々会議室はクラス単位で使用することを前提に造られた教室である。

 特にクラス人数が一番多いBクラスは、クラスが3つに分かれており、一クラスあたり10人の計30人。クラス課題の説明は一斉にしなくてはならないが、東志波の狭い一教室に30人を押し込むのには無理がある。Bクラスがよく会議室を使う理由はそんなところだが、Bだけでなく同様にクラスが2つに分かれているCクラスもお世話になっている。


 したがって、1クラスだけで済むDクラスにとっては、同じ階にあるのに滅多に行かない場所という認識でしかない。


「各担任に出欠確認してもらったところ、Bー2で3人、Bー3で6人、Dで5人、Cは16人全員が欠席だ。しかも、現時点において欠席連絡を入れてくれた者は、ゼロだ」


 会議室にいない人達で欠席理由が把握できているのは、遠征中のSクラス2人のみ。そんな多い人数が欠席連絡を忘れるなどという事態が、あってたまるものか。


「これはどう考えても異常事態だ。確実に偶然ではない。そこで、諸君にはこの原因究明に当たってほしい。欠席しているのに連絡がないのには、何かしらの理由があるはずだ。それを突き止めてもらいたい」


 数分前の忠の予言が的中した。

 ただ違うのは、同じ緊急案件でもこれは警察づてのものではない。それだけ。


「これより、副校長権限の下独自捜査を行う。各自、行動開始!」


***


「……って言われてもな〜」


 両肘をつき、両手の拳を自分の頬に当てている智佳が、ボソッと呟きを漏らす。

 教室に戻ったDクラスの面子は、1つの机を4人で囲み、相変わらず返信待ち。


 行動を開始したくとも、連絡がとれない以上は身動きがとれない。外に出て聞き込み調査という手もあるが、先生からの指示がまだ出されていないため勝手もできない。

 一応手帳だけが手渡されたが、最下位クラスが持ってたところで権限などほとんどない。


「みんな、お待たせ」


 紙切れ片手に、冥奈が教室に戻ってきた。

 目で教卓に集まるように合図され、全員がそれに従う。


「今携帯持ってるんだよね? これ全員の連絡表だから、これ見て欠席者の家に電話かけてみて。私も入れてちょうど5人だから、分担してやるよ」


 プリントの上に「教員管理用」と書かれていたが、緊急事態ゆえの判断だろう。とはいえ、このクラスに連絡表を悪用する人などいないが。


「んじゃあたし礼羅ん家に電話するね」

「俺は仁だな」

「じゃ俺は悌二ん家か。了解!」


 3人は早速スマートフォンを取りに行き、手早く電話をかけた。


「鈴川さん、携帯は?」


「……持ってません」

「そっかゴメン」


 瑠璃の支給品事情の詳細は梅崎より把握済みだが、持っていることが当たり前の時代となると、そのことを忘れてついつい聞いてしまうのも仕方がない。


「じゃ、職員室の電話貸すから一緒に来て。私は佐土原家に連絡するから、孝子のところお願い」


「分かりました」


 瑠璃と冥奈は一旦教室を出て、職員室へ向かった。


***


「どうだった?」


「今礼羅ママいないみたいだったから、留守電入れときました」


「悌二んとこは姉ちゃんが出てくれたけど、朝学校に行く姿を見たって言ってました」


「ヨッシーは?」


「家には誰もいなかったので今仁のお父さんの店に電話して、出た。もしもし……」


「結果待ちね」


 冥奈が指揮をとって状況報告を進めていく。


「鈴川さんもそうだったけど、あと2人の親御さんもジャージ着て学校に行く姿を見たって言ってた。なのに、学校には来てない」


「サボり説が強くなってきたな」


「学校行くフリしてどこでサボんのって電話きた。もしもし……」


「不審なところはなかったと言ってましたから、サボりだとしても私服は持ってってないですね」


「だな。俺達基本手ぶらだし」


「仁のお父さん曰く、いつも通り仁と一緒に家を出たと言ってた。ちゃんとジャージも着てたと」


「手掛かりなし、か」


 最後にそう冥奈が締め括ると、各々会話を止め考え込んでしまった。あとは智佳待ちだが、途中で全員に顔を向けて小さく首を横に振ったので、収穫なしを全員で悟った。


「……はい、ありがとうございます。では失礼します」


 智佳が電話を着ると、いよいよ空気が重くなった。手掛かりと呼べるものがほとんどないからだ。


「全員注目。整理するよ」


 冥奈が手を叩き、生徒の注目をホワイトボードに集める。


「親御さん達は全員、子供は学校に行ったと証言している」


 三角と四角を上下に組み合わせた簡略的な家から、棒人間が出ていく絵が描かれた。

 大小比がおかしいが一旦無視。


「でも、肝心の子供達は学校に来ていない」


 棒人間から、四角を3つ横に組み合わせ図形同士の境界線を消した簡略的な学校に矢印が伸ばされ、その矢印の上にバツが描かれる。


「つまり、みんなの家から学校までの間の道のりで何かがあったってことになるよね。そこまではいい?」

「その言い方だと拉致されたみたいになってません?」


「ヨッシー茶々入れない。他のクラスがどうなっているかは分からないけど、多分みんな一緒だと思う。だから、Dはこの方針で捜査を進めようと思うけど、どう?」


 冥奈から意見を求められたが、誰も一言も発さなかった。

 つまり、異議なし。


「ではこれから、Dクラス担任権限の下、さっき言った場所に絞って聞き込みを行います」


 やっと下った正式な捜査命令。

 言うまでもなく気が引き締まる。これぞ、東志波だと。


「各自、行動開始!」

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