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戦う幼女(二十五歳)

 

「魔法を使わなければ元の姿に戻るらしい」


 中山は、今回の離島関係のことを任されている野上詩頼に魅影から言われたことを話した。

 離島は特殊な結界で覆われていて、電波などがシャットダウンされて通信が出来ない。

 なので、中山、千尋、八千代は離島で一泊後、すぐにホームである埼玉に帰って直接伝えた。


「それは、永久に魔法を使うなということです?」


「違う。朱通茉莉は魔力を一定量消費すると身体が縮むように変質してしまっただけ」


「つまり、元の姿に戻っても魔力を消費すればまた身体が縮むということです?」


「そう」


「なるほどです。美姫様には私が連絡しとくです。今日はゆっくりと休むですよ」


 詩頼はそういうと、千尋と八千代を自宅に帰るよう促した。

 そして、中山と詩頼の二人だけになり、更に報告が続く。


「あの二人、心を壊されたかも」


「症状はどうです?」


「時野谷千尋は深刻。恐らく戦闘に支障をきたす。巽八千代は軽度。もしかしたら接近戦が出来なくなる」


「巽八千代は近接特化の魔法少女なのです。症状は軽度でも魔法少女的には重症だと思うですよ」


「……」


 中山は目の前で見ていただけに、何か責任を感じているような、少し暗い顔をして黙っている。


「現状、負傷している魔法少女が増えてきているです。ナイトメアが活発になった今、トラウマを抱えているからといって戦場から遠ざけることは出来ないですよ」


「わかってる。でも……」


「万が一命を落としたら、それは自己責任なのですよ。魔法少女になる人は皆、一度は命を助けられているものです。魔法少女になった時から、いえ、魔力を持った時からこの運命には逆らえないということですよ」



 中山の報告が終わって少し時間が経った頃、ダボダボの服を着た幼女茉莉を抱えた美姫が屋敷に帰ってきた。


「おかえり、美姫様」

「おかえりなさいです、美姫様」


 中山と詩頼は同時に頭を下げて出迎えた。

 幼女茉莉をベッドに寝かすと、美姫は中山と詩頼から茉莉の症状を詳細に聞いた。


「やっぱり、そんな事だろうと思ったわ」


 美姫は片手で顔を抑えると、やっぱりと顔をしかめた。


「やっぱりとは?」


「あれは昨日の夕方だったわ……」


 ――――――――



 昨日、茉莉の部屋でお世話をしていた美姫は、幼女茉莉を自分好みに育てようとあれやこれやとやっていた。

 しかし、突如幼女茉莉が頭痛を訴えだしたのだ。


「う……ぅぅぅ……痛い、頭が……痛い」


「茉莉ちゃん大丈夫?お水飲む?」


 大方お酒の飲み過ぎによる頭痛だろうとたかをくくっていた美姫は、自分の膝に茉莉の頭をのせて膝枕をして見守っていた。


 ビリビリビリッ!

 布が破ける音が部屋に響いた。

 それと同時に膝の上の重みが増した。

 美姫は音のした方向、茉莉を見ると驚愕した。

 身体が、元の姿に戻っていたのだ、服を破って。


「は、裸……茉莉ちゃんの大人ボディ……ゴクリ」


 ところどころが破けて色々見えちゃっている茉莉の大人ボディを舐め回すようにじっくりと観察する美姫。


「おい、ゴクリじゃないだろ」


 美姫に膝枕された状態で意識が覚醒した茉莉は、美姫の頭を腕で遠ざけて起きる。


「なんで私、ボロボロに破けたパツパツの服着てるの?」


 茉莉は破けた部分をぴらぴらといじりながら、美姫に聞いた。

 どうやら、幼女茉莉の記憶がないようだ。もしかしたら、酔って記憶が飛んでいるだけかもしれないが。


「茉莉ちゃん!おかえりなさい!」


 状況が飲み込めていない茉莉を、美姫は抱きついて帰りを祝った。そしてそのあと事情を説明をした。


「そうか、なんか迷惑かけたね。ありがとう美姫」


 茉莉はビリビリに破れた服を着替た。


「私、東京に行くわ。魔法少女の応援を頼みに」


 美姫は立ち上がり、茉莉にそう告げた。


「東京って、不知火にでも頼むのか?大丈夫なのか?」


「流石に埼玉の戦線崩壊の危機にイジワルはしないと思うわ。多分……」


「まあもし無理でも美姫がいるからなんとかなるでしょ。頼りにしてるから」


「あんまり期待してもらっても困るわ。現に一回、危ない状況になったでしょう」


「そうそう起こることじゃないよ、A級ナイトメアが姿を現すなんて」


「そうね、じゃあ行ってくるわ。お酒の飲み過ぎには気をつけるのよ」


「はいはい」


 美姫と久我が東京へ向かい、茉莉は一人考えていた。A級ナイトメアとの戦いを。

 自分が本気を出しても敵わなかったことは覚えている。

 そして、自分の中で何か不思議なものが湧いてくるような、それからはぼんやりと覚えている。


「……チッ」


 舌打ちが聞こえて顔を上げると、真桜が目の前に立っていた。

 考え事に意識を持っていかれていて目の前に真桜が立っていることに気が付かなかった。


「真桜、用があるなら舌打ちじゃなくて普通に話しかけて」


「私だって……あと何年かで大きくなるし」


 真桜は小声でブツブツと何かを呟いた。


「え?なにか言った?」


「……魔力反応。ナイトメア。交戦中」


「交戦中って、私が感知出来る範囲にはなにも……」


「鈍感」


「真桜は広範囲で魔力の反応が分かるの?機械も使わずに」


「そう。今結構危ない」


「私は病み上がりだ」


「行かなかったら怪我人が増える。もしかしたら死人も」


「あーはいはい。わかった、行くから」


 ナイトメアが最近活発になっているのは聞いていたが、一年間サボっていた茉莉が必要な今の戦線は、かなり危ない状況なのかもしれない。



「真桜も空飛べるのか」


「当たり前」


 魔力が感知出来る、いや、それ以前に國本真姫の娘なんだ、魔力が使えて当然か。


「どこまで行くんだ?」


 下に見える景色は住宅よりも畑や林が多い。


「あそこ」


 真桜が指さしたのは前回茉莉が交戦した公園だった。


「確かに魔力を感じるな」


 茉莉は、というか通常魔法少女はそんなに遠くの魔力を感知しない。せいぜい半径五百メートルが限界だろうか。まあ魔法少女は魔力探知機を持たされているので関係無いが。

 茉莉は休養明けから魔力探知機を持っていないので身近な魔力しかわからない。というか茉莉はわからない方が良いのだろう。魔法少女を引退したいのだから。


 公園に降り立つと、当たりは魔力が充満しているだけで、人影は見当たらなかった。もちろんナイトメアも。


「一足遅かった?」


「…………」


 茉莉と真桜は辺りを散策していると、あるものを見つけた。


「これ、ステッキだ」


 茉莉は傷ついた魔法少女のステッキを拾い上げた。

 近くに魔法少女がいる気配はない。


「忘れもの……は無いか。傷ついたステッキから推測するとナイトメアから逃げる時に落としたとかか」


「茉莉後ろ!」


 ガキンッ。

 茉莉は咄嗟に抜刀して不意打ちを凌いだ。

 しかし何もない。見えない何かということか。


「はあっ……はあ……」


 今の一撃を退けるだけで茉莉はかなり体力を消耗していた。


「なに、今の……」


「ただの攻撃。見えないだけ」


「見えないならそれはもうただの攻撃じゃないって」


 そうは言っても確かに攻撃の重さなどは別に普通だった。

 つまり、普段の茉莉なら簡単に弾けていたはずの攻撃ということだ。


「囲まれた」


 真桜が言うが、茉莉は敵が何処にいるか把握出来ていなかった。


「よく分かるな。気配すらわからないけど」


「敵はステルス。普通わからない」


「そうか。なんで真桜が分かるのか気になるところだけど、呑気に聞いていられそうな感じじゃないか」


 落ち着きを取り戻した茉莉は、微かな殺気を感じ取っていた。


「チッ!」


 キンッ。耳が痛くなるような高音の衝突音が公園に響き渡る。


「見えないんじゃあ……はぁ……はぁ……攻められない」


 茉莉は今、自分への殺気だけを頼りに攻撃を弾いていた。

 しかし、弾くだけで敵にダメージは一切入っていない。

 消耗しきる前になにか手を打つしかないが……。


「茉莉、魔法」


「魔法?見えないのにどうするんだ?まさか公園全体に雷魔法で攻撃しろってこと?」


「そう」


 茉莉は冗談で言ったつもりだが、それが正解のようだ。


「公園を焼失させる気か」


「火力は必要無い。魔力を空間に通す事が重要」


「空間?」


「敵のステルスは魔力によるもの。全体に魔力を通せば違和感が生まれる」


「わかった」


 真桜は上空へ避難し、茉莉は準備に入る。

 魔法は空間全体に薄く広げるイメージだ。

 日本刀の刀身に魔力を込める。


「これで……どう!」


 地面に日本刀を突き立て一気に雷魔法を放電させた。

 するといくつか空間に歪みが見えた。

 その空間へ茉莉は日本刀を振り下ろした。

 ザシュッ。

 手応えはある。


「ん!?」


 振り下ろした日本刀がまるでコンクリートで固められたかのようにびくともしない。


 刹那、背後の殺気を感じた茉莉は、無意識に魔法で防御した。


「黒い……炎?」




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