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魔法少女協会の長

 

「血の匂いがすると思ったら、死体が転がっているじゃないか」


 空間が歪み、そこから一人の幼女が現れた。

 幼女は彩芽を見ると、うんざりといった表情で、右手広げて彩芽の方へ向けると、握るようにして手を閉じた。


「んあぁーん!」


 彩芽の手首などについていた鎖が幼女の行為に呼応して、彩芽を縛り上げる。


「あと一人だけ良いでしょう?殺させて?」


 彩芽は鎖で全身が縛られ地面に転がっていながら、まだ殺したりないというように幼女に懇願をした。


「アホか、消えろ変態」


 幼女がそう言い捨てると、幼女が現れた時のように空間が歪み、彩芽が消えた。


「まったく、人を生き返らせるのは禁忌なんだがな」


 幼女は血みどろの八千代と千尋に手をかざすと、その空間を真っ黒な球体が覆い尽くし、球体が消えると二人の身体が戦う前の状態に戻っていた。


「会長、四反田彩芽の管理は徹底してください」


 中山はリボルバーをしまうと、幼女を会長と呼んだ。

 身体が元に戻った八千代と千尋は、まるで寝起きのような軽い感じで起き上がった。


「あれ、私、後ろから攻撃されて、気を失って……あれ?」


「腕、ある?夢……だった?」


「夢ではない。今回はこちらの不手際で迷惑をかけた」


 幼女は腕を組み、嫌々な態度で口だけの詫びを入れた。

 その幼女の姿を見た千尋は、驚いたように指をさして名前を呼んだ。


「あれ?魅影(みかげ)ちゃん!?魅影ちゃんだよね?こんな所で何してるの?」


 千尋は魅影に近寄ると頭に手をポンとおいて、子どもをあやすように撫でた。

 魅影は嫌そうな顔をしながらも、千尋の行為を受け入れていた。


「え、その子時野谷の知り合いなの?」


 八千代も魅影に近寄ると、魅影の正面に立ち、顔を覗き込むようにかがんで頭を撫でる。


「へー、なんか時野谷に顔似てるね。もしかして妹とか?」


「ちっ!」


 魅影が舌打ちをすると、八千代は元の場所に立っていた。


「おい、私は魔法少女協会の会長だぞ。むやみに触れるなこのたわけ」


「え?なんかワープした?てか魔法少女協会の会長?こんなちっこいのが?」


 八千代は信じられないといった感じで指をさして聞いた。


「魅影ちゃんって魔法少女だったの!?毎年新年に親戚同士の集まりで会ってたけど初めて知ったよ!?」


 魅影のことを知っている風だった千尋も、魅影の発言に驚いていた。


「隠していたからな。しかし、千尋をよこすとは、埼玉のお嬢様は何を考えているのか……」


 魅影は考える素振りを見せると、登場した時と同様に空間が歪んだ。


「まあいい、協会で待っている」


 魅影はそう言い捨てると空間の歪みの中に消えていった。


「魅影ちゃん、消えちゃった……」


「あの幼女が会長やってる魔法少女って、大丈夫なのか?」


 八千代の呟きに、中山が答えた。


「時野谷魅影、幼い容姿ながらその年齢は百を超える。使用魔法は特殊で、時間操作と空間干渉を合わせたもので、自身の容姿はそれで維持をしている」


「え!?魅影ちゃんって年上だったの!?そういえば確かにずっとちびっこだったかも……」


「なるほど、魔法少女の高齢化は会長が原因だったのか……」


 八千代が普段茉莉たちをどう思っているかがよく分かる呟きである。


 再び中山の先導で協会へ向かう三人。


「もうさっきの四反田彩芽みたいな変人は出てこないよね?」


「四反田彩芽は協会でも異端の存在。大丈夫」


「なんか中山さんって協会に詳しいよね」


「確かに、私なんて魔法少女始めてから会長なんて一回も見たことなかったよ」


 中山への謎と会長への興味が湧いたところで目的の建物に到着した。


「ついた」


 外観は西洋風の教会っぽい建物と、昔の日本の建物がくっついた、なんとも不思議な建物だった。


「入る」


 西洋風の扉を開くと、豪華な内装のエントランスホールが広がっていた。

 そこに立つ女性が一人。


「ようこそ」


 含み笑いで出迎えてくれた女性は、なんと、四反田彩芽だった。しかし、その姿は先ほどの綺麗な装いとは違い、鎖の痕やあざなど、痛々しい肌が破けたドレスから覗いていた。


「うっ……」


 死の直前のことをぼやっと覚えていた八千代と千尋は、本能的に後ずさった。


「先ほどは失礼しました。その、ムラムラしていたもので、つい」


 彩芽は顔を赤らめて、両手で顔を隠すようにして言った。


「なんなのこの人……」


「あ、危ない人……じゃないか?」


 彩芽の性癖暴露を無視して中山が聞く。


「会長のところへ案内して」


「言われなくても案内するわ、こっちよ」


 彩芽は正面の大きな扉を開け、更に奥へと進んだ。

 すると、個室がいくつかあるエリアに着く。

 更に奥へ進むと、一つだけ離れた場所に扉があった。


「こっちよ」


 彩芽が扉を開けると、中には一人の眼鏡をかけた妙齢の女性が、何かの書類に目を通している最中だった。

 彩芽が中に入るように促すので、三人は室内へと足を進めた。

 すると、千尋は女性が目を通している書類の近くに見覚えのある封筒があることに気が付いた。


「あれ、その封筒って……」


「お前達が持ってきていた封筒だ。先ほど回収したので目を通していた」


 妙齢の女性は、眼鏡を片手でクイッと上げると、書類を机の上に置いてこちらを向いた。


「あの……私たち、あのちっこい会長さんに用があって……」


 八千代が恐る恐る言うと、妙齢の女性は優しく微笑んでこう答えた。


「私が会長の時野谷魅影。さっきの姿だと、巽八千代に舐められるようでな。大人の姿で出迎えてやった。これなら会長に相応しいだろ?フフフ……」


 どうやらこの時野谷魅影、先ほどの八千代の態度が気に入らず、大人の姿で威張りたいらしい。


「で、この書類を読んだ限りだと、朱通茉莉の身体が縮んだらしいな」


「そうなの!茉莉さんが新人を庇って小さくなったって!……あっ!そうか、魅影ちゃんなら茉莉さんを治せるかも!」


「千尋、私を魅影ちゃんと呼ぶな、会長と呼べ」


「魅影ちゃんは大きくなっても魅影ちゃんだから、魅影ちゃんでしょ?」


 千尋の返答に、困惑顔の魅影は、眼鏡を外してため息をすると、まあいいと言って言葉を続けた。


「その朱通茉莉だが、おそらく魔力が変質している。原因はおそらく……いや、それはいい。ともかく、朱通茉莉が現状、自分の意思で元の姿に戻るのは無理だ。そして、私の魔法でも無理だろう」


「なんで、なの?」


「それはお前達が知らなくていいことだ。まあ心配することも無い。朱通茉莉が縮んだ直接的な原因は一つ、魔力を使い過ぎたことだ。それにより身体に流れる魔力が一時的に変質したと考えられる。つまり、魔法を使わなければ、元の姿に戻るということだ」


「それが原因なら、私たちも魔力を使い過ぎると小さくなるの?」


「それは無い。朱通茉莉は特殊な奴なんだ。あれは何年前だったか、國本真姫がやたらと入れ込んでいた教え子がいたんだ。それが朱通茉莉だった」


「國本真姫?時野谷、知ってる?」


「いや、知らない」


 二人は頭にはてなを浮かべていたが、魅影は続ける。


「まあ國本真姫を知らないのは無理ない。あいつは十年前に表舞台から姿を消した奴だ。しかし、そうだな、今関東のトップの水無瀬真咲がいるだろう。あれよりかは強かった」


「あの水無瀬より強いって、相当やばいやつだよ」


「そんなに凄い人が茉莉さんの師匠だったなんで、やっぱり茉莉さんは凄い」


 千尋が茉莉を褒めると、美姫ラブ勢の八千代が少しムッとした顔をして噛み付く。


「でも本人はBランクに落ちた魔法少女だし、師匠が凄いだけで元々大したことなかったんじゃない?新人守るのにそんな身体が小さくなるとか、ダメダメじゃん」


「巽、遺言はそれでいいんだな?」


 茉莉を馬鹿にされた千尋は、青筋をたてて八千代を威嚇する。


「あは!二人って仲悪いんだぁー。さっき内蔵を目の前で潰してあげた時は狂ったように飛びかかってきたのにー」


 先ほどからずっと沈黙を続けていた彩芽が、下衆な笑みを浮かべて二人の会話に割って入った。


「内……蔵?」


 千尋は八千代の抉られたものを思い出したのか、口を手で覆う。


「うっ……ぅぇぇ……ぉぇぇ……ゲボッ、ゲボッ」


 千尋は我慢出来ずに嘔吐をしてしまった。


「うっはー、きもーい」


 彩芽は笑顔で千尋の嘔吐姿を眺めていた。



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