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七夕の夜に  作者: ささ
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エメスとカルロは神官達と合流すると、現時点でわかっていることを話しあい、紙に書き連ねていった。


神殿側からは


ひとつ、祝福日の天ノ川流域は儀式を行う二人しか立ち入りを許可されない。


ひとつ、儀式は二人の男女が心から愛し合い幸せを神に報告することである。


ひとつ、儀式は見届ける役目を持つ者が現れる。それは神の御使いである。


ひとつ、神の御使いは儀式を見届けた後、光と共に消え行く。


ひとつ、神の御使いは何処から来て何処に消えるかはわからない。


ひとつ、過去に儀式を行うものが不正を行い、神に幸せを示せなかったことがあり、その際、世界から神力が消えたことがある。


ひとつ、儀式を行うものが御使いの怒りをかい世界の半分が燃やされたことがある。その後、御使いは世界の何処かに紛れたという。


ひとつ、今回の儀式では真から愛し合う者たちが選ばれたこと。


ひとつ、儀式は滞りなく進んでいたこと。


ひとつ、儀式終盤で天ノ川に異常な大波が現れたこと。


ひとつ、異常な大波に空イルカと人影が四つ見られたこと。


ひとつ、異常な大波が去った後、御使いがいなくなっていたこと。



護衛部からは


ひとつ、儀式中にいるはずのない馬鹿共が天ノ川を巡回したこと。巡回時間を守っていないこと。


ひとつ、馬鹿共は儀式のことを知らない。


ひとつ、馬鹿共は儀式の邪魔をしたこと。


ひとつ、馬鹿共は女を捕まえたこと。


ひとつ、馬鹿共は女を暴行したこと。


ひとつ、女は御使いかもしれないこと。




(悪いことばかりだな)


エメスは舌打ちしたいのを我慢した。自然と眉間に皺は寄り、厳しい顔を作り上げる。

カルロは神官と、関係者である女について

どのような処遇にするか話し合っている。

神官達が危惧する内容は世界の存続に関わる。下手に刺激すると良くないことは明白だが、どのようなことが下手に当たるのかがわからない。

まずは女の素性を探る必要がある。一つ一つ不安要素は潰していくしかない。


(まずは謝るしかないだろう。罪人だと思ったからと簡単に暴行して良いわけあるか)


エメスは当日のことを思い返した。





祝福日に不審者を捉えたと報告を受けたエメスはカルロと共に現場に向かっていた。

場所は空ノ島ではなく、天ノ川が流れ落ちた先。神聖都市にある空広場と呼ばれる場所だった。空イルカが過ごしやすい場所である。


エメスが乗ってきた空イルカは薄紅色をしていた。目つきが鋭く好戦的な性格と言われるメウ種である。エメスは広場に降り立つと自分の空イルカを放した。呼べば戻ってくるくらいの信頼関係は構築してある。カルロは薄黄色の空イルカを操り厩舎に繋いでいた。薄黄色はカミン種で丸い目と頬紅をさした様な色素沈着、穏やかに見られる外見と異なり触れる者皆破壊し尽くしたい荒ぶる性質を持つ。


エメスは見る度に思う。そして溜息は尽きない。


(何故野生のカミンを選んだのか。付き合わされた俺が何度死にそうになったか)



カルロが追いつきエメスに並ぶ。


「先の話を聞くばかりでは大罪人を捕まえたと騒ぎ立てているようです」

「叶え星でも捕まえたのか?」

「それはあながち外れではない様ですが……」

「ほぉ。それで?」


カルロは困った様に眉根を寄せて話す。

エメスは叶え星を捕まえたかもしれないと聞いて目を瞬かせた。アレは早々捕まえられるものではないから、捕まえたのだとしたら相当な手練れだろうに。そんな者が捕まるとは何があったのだか興味がそそられた。



「問題は捕まえた場所……天ノ川なんですよね」

「……どういう事だ」

「それはこれから楽しく尋問しましょう」


カルロはちっとも楽しくなさそうに言い足を早めた。


今日この日は天ノ川に護衛部隊は侵入しないはずである。それが天ノ川で捕まえたとなると、護衛自ら儀式を穢したことになるのではないか。天ノ川で捕まえたと言うのなら、それは儀式を行っていた者の可能性もある。第三者が侵入出来ないわけではないが。

どちらにしろ護衛部隊があってはならない行動をしたか、事実を知らねばならない。



広場の南側一角に人集りが出来ていた。自慢げな声が聞こえる。幾人かが近付いたエメス達に気付き道を開けた。


「不審者を捕まえた、とのことですが詳しく話を聞かせてください」


カルロの声は響き、その場は静かになった。騒ぎの中心にいた者達はエメスとカルロの前から退き、不審者を捕まえた者達と地に転がる土に汚れた塊が二人の前に姿を現した。


カルロは再度言葉を発する。


「不審者を捕まえた者よ、詳細を偽りなく報告なさい」


先程より声は硬く聞こえる。男達は姿勢を正すと我先にと喋り出す。

エメスはカルロが口を開く前に右手を上げた。その仕草に男達は口を閉ざす。


「報告しろと言ったはずだが。報告の仕方もわからないのか」


エメスは男達を睨みつけた。男達は体をビクリと震わせる。カルロはエメスの隣で溜息を吐いた。


「此方は任せてください。エメスは彼方を」

「あぁ」

「あなた達は私が聞いたことだけ答えなさい。全部聴き終わったら言いたいことを言わせてあげましょう」


カルロは勤めて優しく声を出すと、質問を重ねていった。その間、エメスは土に汚れた塊を前に膝をつく。その塊を見て顔が険しくなるのがわかった。

息はしている。荒く時々弱くなる。正常ではないだろう。土に塗れてわからなかったが、細い両手足は縛られていた。見たことがない意匠の貫頭衣のような物を着て、下には膝丈のズボンを穿いている。小柄だ。土塗れの髪は暖色系の濃い色だと思われる。年端も行かぬ少年のようだ。


(この様な子供に暴行するとは。しかし、叶え星を捕まえたというなら訓練された者なのか?それにしては力弱そうな体つきだ)


治療術を使えるエメスは、散々殴られたのであろう少年の最初に頭、次に両手足、そして体幹に手をかざし力を送り診始めた。



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