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第二十六話 持っていなかった凶器

 ヨシツネのおかげでホームズは脱獄に成功した。

 そのまま順調に看守を制圧していき、一階に着いた。

 だが一階は守りが固く補給もされ続け、出口にうまくたどり着けなかった。

 このまま足止めを食らったら上で制圧した看守が目を覚まし、挟み撃ちにあうのも時間の問題だ。


「やばいな。上の奴から弾を拝借していったが弾がつきそうだ」

「もう少しなのに……!」


 魔術を使おうにも周囲にある魔抗石のせいでうまく起動しない。

 ホームズは仕事でここに来たことがあるので、他に出口がないことを知っている。

 もはやこれまでかと思ったら竜の咆哮が外から聞こえてきた。

 目を凝らして出口の向こうを見ると、黒い巨体が迫ってくるのが見えた。


「あの馬鹿が! 足を確保しろとは言ったがあんなの借りてくるか普通! こっちだホームズ!」


 突然焦った顔をするヨシツネにホームズは首根っこを掴まれる。そのまま近くの壁に隠れた瞬間、轟音と悲鳴が響き、あたりは土煙に包まれる。ホームズは慌ててリボンを結ぶ。


「足捕まえてきたで将軍。そっちの救出はどうや?」

「無事終わったけど、これはやりすぎだ」

「大丈夫や。鎧も着とるしここ突っ込む前にしっかり忠告したわ。ほら、はよ乗り」


 無茶な登場をしたのはムサシ奉行所与力のゼニガタだ。彼は大きな黒竜にまたがり手綱を握っている。

 ホームズが黒竜の後ろを見れば、出入口は破壊され看守たちが転がっていた。

 仮に事件を解決できても始末書は確実だろう。

 助けたいという気持ちはあるが、増援が向かってきているのが見えるので、ホームズは黒竜の二人掛けの鞍に乗る。その横にヨシツネが乗った。前には黒竜の手綱を握るゼニガタがいる。


「出せ」

「はいよ。頼んだでクロスケ!」


 ヨシツネの指示でゼニガタが黒竜の手綱を振るう。そして収容所から黒竜は飛び出る。

 増援がもう到着し、逃がさぬよう前方に展開しているが、黒竜は止まる気配はない。


「そこどかな轢くぞおまえらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ゼニガタが忠告しながら、黒竜はバリケードを角で破壊して突き進む。

 ゼニガタは笑顔だが、ホームズは乾いた笑みを浮かべる。ヨシツネに至っては顔色を悪くして胃のあたりをおさえている。

 それから追撃を振り切り、ホームズたちはまっすぐと大通りを進み城に向かう。その道は普段は竜車の通り道だが、宝剣祭では人が大勢いる道だ。しかしなぜか人通りが少ない。

 道のわきの方を見るとゼニガタやヨシツネの部下が交通規制をしていた。


「ここまで急ぐってことは何か理由があるんですか?」

「ああ、あの城には今俺を罠にはめた奴がいる可能性がある」

「罠? それってあなたを撃った奴ですか? でもそれはセンシじゃ」

「確かに罠にはめたのはセンシや。でもあそこにはもう一人おったらしいんや。センシはそいつを使って将軍を呼び出したんや」

「フードをかぶっていて見えなかったが左肩を負傷していた。盗まれた妖刀を持っていて問答無用で斬ろうとしたら後ろから撃たれたんだ」


 襲撃の夜、左肩を負傷する理由はカルマに撃たれたこと以外考えられない。どうやら彼の撃った銃弾はしっかり当たっていたようだ。

 そして左肩を負傷していた人に一人心当たりがあった。だがその人は前から撃たれた痕跡があり、摘出した弾丸も白面のものだと結論が出たはずだ。


「目覚ました将軍から話聞いて、急いで診断書確認したら一人だけ該当の患者おったわ。ホームズちゃん、お前が一回見逃した奴や」

「でも彼は摘出した弾丸の線条痕が僕のものと一致しなかった」

「そう。わしらもそれは確認した。でもあいつだけなんや犯行が起きた夜に銃で撃たれて治療した奴は。それにセンシの死亡時の持ち物や遺品を検査したら、あいつは持ってなあかんものを持ってなかったんや。なんやと思う? あいつの最期の戦闘見てればわかるはずや」


  ホームズはカルマとセンシとの戦いを思い出す。互いに三回斬られれば死ぬ妖刀なのに彼らは全力で戦っていた。

  するとゼニガタが携帯しているリボルバーがホームズの視界に入る。


「銃……。そうだ、銃だ! あいつは最期まで銃を持ってなかった!」

「そうや。銃は将軍を撃った何よりの証拠になるのにあいつは持ってなかった。自分が犯人やいう証拠になるのに持ってないっておかしいやろ」


  センシはカルマとの戦いで銃を使っていなかった。もし持っていれば、妖刀を折られてカルマが背を向けたときに撃つこともできたのに。


「それにセンシは犯行で刀を使うことに固執していた。そんな奴がいきなり銃を使うっていうのも今考えればおかしい」


  センシが事件終結まで殺した数は二十九人だ。その犠牲者すべてが妖刀で殺されている。

  カルマとの会話から彼が先祖が作った妖刀に心酔していたのは確実だ。彼なりに刀で誰かを殺すという犯行美学があったのだろう。

 今思えばそんな彼が銃で人を撃つなどおかしい。そうホームズは気づくべきだった。

  そんな彼が将軍だけは背中から撃ち抜いた。しかも死ぬ危険がある急所を狙ってだ。


「せやから、その銃を見つけるために令状とってあらゆるとこ捜索しとる。でも一昨日から探して今んとこ見つかっとらん。もしかしたら……」

「犯人が今も持っている」


  センシは隠さなければいけない銃を持っていなかった。これから考えられるのはもう別の場所に隠してあるか、誰かが持っているかだ。


「なぁ、さっきから聞いてれば彼とかあいつなどいったい誰のことを言ってるんだ? 名前を教えろ」


 今まで名前を出さなかったのはヨシツネを気遣ってだ。

 話していいものかとホームズは迷い、ゼニガタの方を見る。

 前で竜の手綱を握る彼は横目でホームズを見てうなずいた。

 話していいということだろう。

 ホームズもまだ彼が犯人だと信じられないが、覚悟を決める。


「ミツヒデだ」


 周囲の雑音にまぎれぬようホームズははっきりと名前を言う。

 話してしまった緊張感で周囲がやけに静かに感じる。

 事実を教えられたヨシツネの横顔は悲しそうだった。

 ミツヒデはムサシ武士団棟梁だ。ホームズたちが知らないヨシツネとミツヒデの関係があるのだろう。

 彼は左手で目元を覆う。


「馬鹿野郎が……!」


 肩がわずかに震えていてやはりショックだったのだろう。


「将軍、情はかけたらあかんで。あいつはあんたやその家族を殺そうとしたんやからな」

「わかっている。それで奴を犯人だと断定する証拠はあるのか?」

「それは……」


 少し困ったようにゼニガタは眉を下げる。

 ホームズも考えるが彼が犯人だと断定する証拠は現状なかった。

 だがこれは両親や村の人を殺した白面を逮捕するチャンスだ。ホームズは必死に思考を巡らせる。

 彼と会った時のことや会話内容、動き方などすべてを。

 そこでふとホームズは診療所の出来事を思い出す。


「尋問は僕にやらせてほしい。事件後彼と一番かかわったのは僕だ」

「ええけどあいつが犯人やいう証拠はあるんか?」

「ない。でも不審な点があるからそこを問いただす。あとは僕がいない間に動いてくれてた助手くん次第かな」

「ほぅ、責任重大だな」


 今はカルマを信じることしかできない。

 ゼニガタは竜車のスピードを上げて城に向かう。城門は彼の部下が働いてくれていたのか、スムーズに開きホームズたちは城の中を進む。

 だが足音が一つ遅れ出したので後ろを向けば、ヨシツネが苦しそうに胸をおさえて壁にもたれていた。やはりまだ病み上がりできついのだろう。


「俺のことはいい。先に行け! カルマたちを頼んだぜ」

「いやおいていけるわけないやろ。ホームズちゃん、将軍はわしが守るから行ってくれ。それとこれは推理に役立ててくれ。急いで撮ってきたものや」

「写真ですか。ありがとうございます。将軍に無理させないよう見張っててくださいよ」


 ゼニガタが渡したのは捜査のために撮ったと思われる写真だ。彼の自宅で見つけたものや怪しいと思ったものの写真がある。

 それを受け取ったホームズは先に進む。

 カルマの無事を祈りながら晩餐会場の扉を開くと、彼がゼロに刀を抜こうとしていた。


「そこまでだ!」


 現場を抑えるためにホームズは声を張り上げる。周囲から注目されカルマも驚いた眼で彼女を見て刀を抜くのを止める。


「なぜ戻ってきたホームズ!」

「なに? どういうことだ」


 唯一ゼロだけがホームズの登場に悲痛な面持ちになる。


「やっぱり僕を事件現場から遠ざけるために眠らせたんですね」

「そうだ。まぁそのせいでカルマ様に見事に疑われていたがな」

「そういうことだカルマ。レグルスさんは悪くないよ。あくまで僕のためにしてくれたんだ。だから刀から手を離すんだ」


 ここには大勢の人がいるため彼の名前を呼び優しく声をかける。

 ホームズが無事だったカルマはほっと息をつくと刀から手を離す。


「全部俺の勘違いかよ。謝罪ではすまされないことだが謝らせてほしい。疑ってすまなかったレグルス」


 勘違いとはいえ他国の要人を疑ってしまった事実は変わりない。カルマはレグルスに向けて深く頭を下げる。

 その謝罪を受けレグルスは首を横に振った。


「いえ、もとはといえば私の行動が招いた結果です。それでホームズ、お前は何をしにここにきたんだ?」

「謎を解きに来ただけです。まぁ謎といっても今回の脅迫状についてではなく、ムサシの将軍家暗殺未遂事件についてですが」


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