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第二十二話 死んだ彼との再会

 ベラミーとカルマの無益な戦いを止めるために、ホームズは封印を解き二人の間に割り込む。 

 銃でベラミーの大剣を受け止めて、剣でカルマの大太刀を受け止める。


「そこまでだ二人とも。これ以上やるというなら怒るよ」


 勇者の子孫とはいえ、宝剣と宝刀の一撃を止めたホームズにカルマとベラミーは驚く。

 これ以上争えばホームズを怒らせることになりそうなので、二人はそそくさと武器をしまう。

 そして怒られた子供のように気まずそうに顔をホームズからそらす。


「まったくやりすぎだよ。ほら治療するからこっち来て正座!」

「ここ石畳なんだが……。いやなんでもないです」


 血のように赤い瞳に気圧されたカルマはおとなしく石畳の上で正座する。

 二人ともこれから儀式があるというのにいたるところに擦り傷がある。

 封印を解いたホームズなら難なく魔術で治療できるので二人に治癒魔術をかける。


「まったくベラミーはなんでカルマを試そうとしたんだ。宝剣と宝刀同士がぶつかりあえば大惨事になるのは賢いきみならわかるだろ。しっかし反省しないとダメだよ」


 同じく石畳の上で正座で座らされるベラミーは、ホームズに叱られ肩をびくりと震わせる。顔は伏せられ表情はわからないが、雰囲気から反省しているのは伝わった。だが彼女の手に涙がこぼれ落ちる。

 それを見てホームズとその隣で正座させられているカルマはぎょっとする。


「あなたが遠くに行ってしまう気がして。私の立場とか関係なく対等に接してくれるのはあなただけなの……。ごめんなさい」


 王族という立場もあるがベラミーには無双の剣術がある。それゆえ畏れられ同年代の騎士たちは彼女に近づかなった。寄ってきても彼女の権力を求めてだ。

 だが剣の才能は彼女の努力によるものだ。決して剣聖の父の血を引くから、天賦の才能があるからではない。

 それを知っているホームズはベラミーにとって唯一心を許せる人なのだ。

 そんな人が遠くに行ってしまうかもしれないと思った彼女の悲しみは相当なものだろう。

 大切な人が遠くに行ってしまう悲しみをホームズは知っている。これ以上叱ることもできずホームズはどうしたものかと考える。そしてベラミーの肩に手を置く。


「泣かせるつもりはなかったんだけど……。でもこれだけは言うよ。僕はどこに行こうときみの友だし、きみが助けを求めればどこにいても助けにいくよ」


 ホームズは顔を伏せるベラミーの頬に手を添えて顔を上げさせる。まっすぐと彼女の目を見て自分の想いを伝えた。


「ホームズ大好き!」


 その言葉と行動がうれしかったのかベラミーはホームズに抱き着く。

 突然抱き着かれたホームズは戸惑うも、これぐらいは許すかとベラミーの頭をなでる。

 とりあえず落ち着きを取り戻したベラミーは、満面の笑みでホームズから離れる。

 やっと誤解が解けたことでほっとしつつ今度はカルマの方を見る。無事な彼を見てホームズの心に何かがこみあげる。


「助手くん、何も聞かず両腕を広げてくれ」

「ん? おう。……って、お前なにしてんだ!」

「んなっ! やっぱりあなたたちそういう関係だったの⁉」


 特に疑問も抱かずカルマは言われた通りに両腕を広げる。 

 そしてカルマの空いた胸にホームズは飛び込み彼を抱きしめた。突然抱きしめられたカルマは驚き、どうしていいかわからず、手の行き先を探るようにあたふたする。

 またベラミーから怒気がもれて一触即発の空気になる。

 だがホームズの肩が震えているのにカルマたちは気づいた。後ろに回した手は決して離さぬようぎゅっとカルマの服を掴んでいる。


「お前泣いてるのか?」


 ほんの数時間前にホームズはカルマの死をあじわった。少しずつ冷たくなり脈が弱っていく彼を見るのは心が張り裂けそうで、ずっと涙をこらえていた。

 今ここにいるカルマからは心臓の鼓動がしっかりと聞こえて、温もりもある。

 その安心感で不覚にも泣いてしまったのだ。


「俺はここにいるから大丈夫だ」


 引きはがそうともせずカルマはホームズを抱きしめる。

 ベラミーが悲鳴に近い驚いた声を出すがそんなことはどうでもよかった。カルマにとって泣いている彼女を見るのが辛かった。

 それからしばしホームズをあやしていると彼女が手を離してカルマから離れる。泣き顔を見られないように帽子を目深にかぶる。


「心配かけたね、もう大丈夫だ」

「何があったんだよ。急すぎて驚いたぞ」

「聞かないでくれると助かる。いいね?」


 真っ赤な瞳でホームズはカルマとベラミーをにらみ、圧をかける。涙跡があるのでいまいち迫力にかけるが二人は何も言わずうなずいた。


「それで二人はやっぱりこ、恋仲なの?」

「違う。俺とこいつの関係は助手と相方みたいなもんだ。なぁホームズ?」


 ベラミーの推測を否定しながらカルマはホームズに確認をとるよう彼女の方を見る。

 だがホームズはベラミーの言葉に顔を真っ赤にして、魚のように口をパクパクしている。

 恋する乙女のような予想外の反応に、カルマだけでなくベラミーもぎょっと驚く。


「その反応をするということはやはりあなたたち――」

「いやねぇよ! ……おい大丈夫か? 熱でもあるんじゃないのか」


 カルマはホームズの額に自身の手を当てる。

 それによりホームズの顔はさらに赤くなり、頭から湯気でもでそうな雰囲気だ。


「ただの知恵熱だよ。それよりも早くゼロを探そう」

「ゼロ? ていうか聞きそびれてたんだが何があったんだ?」

「脅迫文がベラミーのもとに届いたんだ。狙われているのは宝刀と宝剣、そしてカルマ、きみだよ」

「まじかよ……」


 簡単に説明しながら髪にリボンを結びなおし、ホームズはカルマから顔を逸らす。彼の顔をこれ以上見れば思考が乱れ、考えがまとまりそうにないからだ。

 とりあえずカルマたちを引き連れてホームズはゼロを探す。ベラミーに脅迫文が送られたことを伝えなければならないからだ

 だがこの広い城下町で一人を簡単に見つけるなど容易ではなく、時間だけが過ぎていく。


「ホームズ、そろそろ俺たちは城に戻らないとダメなんだが……」


 カルマに言われてホームズは時計を確認する。まだ儀式が始まるまで一時間半あるが二人には何か用事があるのだろう。

 このままゼロを探しても時間を無駄にするだけで、あきらめたホームズはため息をつく。


「城って僕も入れる?」

「私たちと一緒にいれば入れると思うわ」

「よし、じゃあすぐに向かおう。こうなれば城内で目を光らせておくしかない」


 幸いと言っては不謹慎だがスカーズの犯行内容はわかっている。毒殺なのでカルマに余計な飲食をさせなければいいだけだ。

 だが城内に入れば、潜伏するスカーズにホームズの存在がばれて殺人計画が変更される可能性がある。それが心配だったので容易に城には入りたくなかったのだ。

 自分の運の悪さにため息をついてホームズたちは城に向かう。

 

 ベラミーの言う通り、アカメのホームズは簡単に城に入ることができた。

 街から城へ入る城門をくぐれば、花や大理石の彫像で彩られた芸術のような庭がある。

 視線を上にあげれば幼いころから見ていた城がそびえたっている。

 近くでそれを見ることができたホームズは目を輝かせる。


「まさかこの城をこんな近くで見れるなんて。感動だよ」

「お前の権力を使えば簡単に入れるんじゃないのか?」

「そんな個人的な理由で権力を振りかざしたら怒られるよ。まぁ今は緊急事態だから仕方ない。そう仕方ないんだ」

 

 初めて見た風景を楽しむ子供のようにホームズはあちこち見ている。

 事件の捜査中とは思えない雰囲気だ。

 城内は大きなホールが最初に目に入り、赤い絨毯が床に敷かれ、天井にはシャンデリアがある。

 前の時間軸では喧噪な雰囲気だったが、この時間軸では平和そのものだ。給仕だけが慌ただしく動いているが。

 

「さてせっかく城内に入れたんだ。捜査を始めよう」


 気持ちを切り替えてホームズは緩んだ表情を引き締める。

 


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