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その日の昼。食堂でキースはまたしても呆気に取られて前方を見つめる羽目になっていた。
「さぁ、召し上がれ!」
召し上がれと言われても。
キースの目の前には湯気の立つ料理が並べられ、テーブルを挟んで仁王立ちするフェリシアが可愛らしいフリルのエプロンに身を包んでいる。
つまり、今この場で何が起きているかと言うと……。
「……これはまさか……フェリシア嬢が料理したってこと、かな?」
得意満面に頷いたフェリシアだった。
キースは再び目を目の前のテーブルに並べられた料理へと移す。
大きな貝が貝殻ごと入ったクリーム煮に前菜らしい海藻のサラダ。鮮やかな赤身の映える魚介のテリーヌに丸く柔らかそうな白パンとメインディッシュだろうバジルとレモンが添えられた白身魚のムニエルが城の料理長にも劣らないほど見事に盛り付けられている。
あまりの驚きで二の句が告げなかった。
もしも何も言われずに出されていたら、キースはこれらは料理長が作ったものと疑わず食べただろう。そのくらいフェリシアが料理して盛り付けたという料理達は、漂う香りだけでなくその見た目でも人を楽しませられるだろう美しさだったのだ。
固まってしまったキースに対して、フェリシアがちょっと心配そうに言った。
「……食べないの?」
「えっ、あ、たっ食べるよ! い……いただきます」
勢いでスプーンを手に取り、スープをひと匙掬って口へと運ぶ。途端、目を見開いた。
「……美味しい!」
スープは濃厚な貝の旨味が溶け出して、鼻から抜ける海の香りが心地よいほどだし、続いて取り掛かったテリーヌは合わせられた野菜のシャキシャキ感が良いアクセントになってあっという間に胃袋に収まった。彼女が好きだと言っていた白身魚のフライもといムニエルは一口食べれば香ばしいバターと爽やかなレモンが口いっぱいに広がって肉厚の白身魚が舌の上でほろほろと解ける。
「すごい……本当に美味しいよ! 君は料理が得意だなんて知らなかったな」
意外性も相まって、つい声が大きくなったキースだった。
しかしそんなキースの失礼さにも気付かずフェリシアは得意げに胸を張った。
「当然よ。一番大きくて元気なのを獲ってきたんだから!」
「……ぶっ!」
フェリシアの返事に咽そうになって、慌てて堪える。
「…………獲っ……取ってきたん……だよね? 城の保冷庫から……?」
まさかと疑うキースの期待は残念なことに裏切られた。
「他の食材はそうだけど。その白身魚は魔王様にお願いして海に戻って獲ってきたわ。メインのお魚は自分の目で見て満足のいくものにしたかったから」
そんな名店の料理長みたいな台詞を……。
いや料理長でも自ら海には潜らないだろうが。
「ヤヤからね、ハーピーの里では自分で狩った獲物をプレゼントして求婚するって聞いたから参考にしたの。ね? わたしと結婚したくなったでしょう? とっても大きいのを獲ってきたのよ!」
料理ではなく狩ってきた獲物が求婚のメインだったらしい。
得意げに胸を張るフェリシアを前にして、激しい葛藤を続けること数分。
食事の手が緩むことはなかった。
「…………料理は美味しいんだけど……人間の奥さんに、その……狩りのスキルは必要ではない、かなぁ……?」
パチクリと目を瞬いたフェリシアの頰が再び丸くなったのは言うまでもない。
「……次よ!!」
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