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「そうなの! お魚を食べに行くのよ」


「そこはお食事に行きますの、とでもした方が可愛らしいですよ、フェリシア嬢。その言い方では丸齧りしそうな雰囲気です」


「……同じ意味なのに、人間語は難しいのね?」


「人間語の問題でもないような気がしますけどね……?」


 苦笑いのライルの隣には慎ましく控える女性がいる。


 リディアは、初めて会った魔族の、人魚の少女を前に目を見張っていた。


 長い髪は飾りをつけて結い上げる。外に出ようが出まいが化粧は女の義務。常に身綺麗にしていることが当然の世界を生きるリディアが初めて見た人魚は、造形物のように美しかった。


 明るい陽光に輝く長い金の髪は結われずに緩く三つ編みにして腰へと流し、丸く大きな桜色の瞳が隣に立つライルを真っ直ぐに写している。

 化粧気のない肌は白く滑らかで、ふっくらとした頰に対して顎から首、肩は細い。


 身振り手振りを交えて話すたびに、ふわりとしたスカートが揺れる。

 肩から腰までを覆う光沢のある淡い銀のドレスは、女性らしい柔らかな曲線を描いていた。


 今日、リディアが着ているドレスはこの国の流行の最先端に、着る本人の好みを考慮した落ち着いた装いのものになっているが、それでもドレスには常識的な『形』というものがある。

 ここまで体の線がわかるドレスなど、リディアは着たことがなかった。はっきりと頰に熱が上るのを感じる。


 それでも、この人魚の少女に対して不潔であるとか、下品だとは全く思えない。


 自分とは住む世界の違う方、という感想が一番近かった。


「ライルも一緒に来る?」


「残念ですが遠慮しておきます。馬に蹴られたくはありませんので」


「蹴られたならライルが悪いわ。馬の後ろに立ったらいけないの。驚いてしまうのよ」


「貴女は相変わらずのようで、なんだか安心しますねぇ。──ところでフェリシア嬢。貴女のお友達候補をお連れしたのですが、ご紹介しても?」


 見目麗しい人魚に目を奪われていたリディアは、突然の言葉に我に返った。


「私の又従兄弟のリディア様です。貴女の人間のお友達第一号にぜひと思いまして」


 人魚の少女はきょとんと目を丸くして、リディアへと初めて目を向けた。


 透き通るような薄い桜色の瞳の奥に映る自分は、いつもの外行きの笑顔を浮かべられていない。

 なんだか全てを見透かされているような気持ちになって、騒ぐ心臓を誤魔化すようにして膝を折り、学んだばかりの魔族語で挨拶をした。


「『はじめまして、人魚のお客様。レストリド公爵の娘、リディア・レストリドと申します。よろしくお見知りおきくださいませ』」


 キースの婚約者になるなら魔族語の習得は必須だと考えて、ライルに教わったばかりだった。どうにか支えずに言えて安堵して、顔を上げる。

 いつのまにか目の前にいた人魚は頰を薔薇色に染めて、満面の笑顔でリディアの手を取った。


「はじめまして、リディア。わたしはフェリシア。仲良くしてね」


 手をブンブンと振られながらの挨拶は初めてで、リディアは咄嗟に返事ができない。どことなく言葉が拙いのは、やはり人間の言葉だからかしら、などと目を回しながら逃避のように考えていた。


 いつでも本家のお嬢様の考えはお見通しな分家の次男が「その方の言葉が不自由なのは、いつものことですよ」と囁いた。

ありがとうございました。

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