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その日の池はなんとも色とりどりの華やかさだった。
ポカンとこちらを見て固まるタイシの淡い青の瞳が、その鮮やかさを反射してキラキラと光る。
「こんにちは、タイ──」
「わぁ! 結構いい男じゃない! ヒレが二本あるのはちょーっと気持ち悪いけど」
「あら、そんなこと言うなら魔王様に言いつけちゃうから」
「ちょっとやめてよ!」
「そうよぉ。やめたげなさいな。フレーディアは本気で魔王様に狙い定めてるんだから。邪魔しちゃ可哀想よ」
「あんた本気? 競争率たっかいのによくやるわねぇ」
「いいでしょ、別に。ほっといてよ!」
人魚でも女性が集まればやはり姦しい。
池の淵に手をついてタイシにいつもの挨拶しようとしていたフェリシアがついに爆発した。
「もうっ! うるさい!」
途端に複数の反論が飛んでくる。頰を膨らませて追い返そうとするフェリシアを宥めるようにタイシが声をかけた。
「『君の友達?』」
「そう。タイシが見たいんだって。……あんなに誘った時は来なかったくせに、みんな現金なんだから……」
昨日、タイシとの出来事を洗いざらい吐かされたあと、友人達はみんな、タイシが見たいと言い出した。
いつもなら友達に友達を紹介するなんて、友達が増えて嬉しいと思うはずなのに、なぜだかタイシは紹介したくない気持ちだった。
しかしフェリシアの抵抗虚しく、現在、池はかつてない賑やかさに包まれている。
「急にごめんなさい、タイシ。あっ でもね! 髪は死守したのよ! 守り切ったの!」
頭を押さえて歴戦の勇士のように胸を張るフェリシア。
『髪? 守るって……なんの話?』と言うタイシにはフェリシアの奮闘が全く伝わっていないが、フェリシアは達成感でいっぱいだった。
そんな得意げなフェリシアにタイシは少し笑って、言ったのだ。
「『こっち、来てくれる?』」
目をパチクリと瞬いても素直に池の淵に上がったフェリシアだが、背中を向けてとジェスチャーされて、これまた素直に言うことを聞いて──。
「あっ」
タイシの手に、昨日からフェリシアの髪を纏めていた糸があった。
無残にも髪が肩にかかる質量も増す。
しかしそれもすぐに大きな手によって掬い上げられて、テキパキと髪が結い上げられていくのが頭皮から伝わってくる。
「『はい、できた。これでどうかな?』」
少し弾んだタイシの声に、恐る恐るフェリシアは池に自らの姿を映して──綺麗に纏められた髪になんとも言えない気持ちになった。
「…………」
半眼で池に映る自らの姿を見つめるフェリシアに、本当に不思議そうにタイシが『どうかした?』と聞いてくる。
あんなにも騒がしかったフェリシアの友人達は二人のやりとりにすっかり静まり返り、フェリシアに多大なる同情と、タイシへの非難、そして幾分かの哀れみの目を向けていた。
「フェル……その人、やめたほうがいいんじゃない」
「それはさすがに早計でしょう。その……いい人そうではあるわ」
「うん……フェルにはあのくらいで丁度いいわよ。ね?」
僅かながらにも魔族語が分かるタイシだが、彼女達の言う意味はまったくもって分からないらしい。フェリシアと友人達を交互に見て、きょとんとしている。
「『彼女達は、なんて言ってるの?』」
などと言うことを呑気に、フェリシアに聞いてくるのだから。
よく膨らむハリセンボンのように、フェリシアの頬は見事な丸みを帯びたのだ。
「知らない!!」
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