36話 凶羅ゴブリン廻廊
いったい【鉄壁の巨蟹】に何があったのか、三人ものメンバーが消滅されてしまっている。
「消滅された者の中にスドウさんの名前もある。あの人、やられたのか」
出発前、少しだけ話した人の良さそうなマッチョマンの顔を思い出した。あの人も日本に帰りたかったろうに。
「予感があたってしまいましたね。やはりこのダンジョン、楽勝とはいかないようです」
「そうだなマユ。俺もこうして目の当たりにするまでは、まだ楽勝になる可能性の方が高いと思っていたよ」
「時間からみて、なにかあるのは最下層じゃろう。ともかくそこまで進むぞ」
この事態にもライデンは平常運転だ。こういう所は本当に頼もしい。
結局、何があろうと進む以外の道はない。警戒レベルを上げてダンジョンを進む。
やがて俺達はマウリッサダンジョンの地図にある最下層まで来た。おそらく【鉄壁の巨蟹】もここまでは難なく進んだはずだ。
さて、先にここへ来た【眠る白羊】はいち早くここを探索した。ここからは地図が役にたたないはずだが、簡単に進むべき道がわかったそうだ。
「矢印? そんなものがあったのか」
「コーンそうです。それがあって、地図のないここでも進む道がわかったそうです。ヒロトさんはより注意して竜眼で危険を察知してほしいそうです」
【眠る白羊】の連絡役をしているりっちゃんがそう報告してきた。
しかしまさか、矢印なんて親切なものがあるとは以外だ。アビスレインの性格とはまったく合わない。
「ふむ。どうやら探索ははぶいていただけるらしいの。おそらくアビスレインはワシらがメインの試練に挑むサマを見たいらしい」
ああ、納得だ。確かにアビスレインなら、俺達が探索でウロウロしているサマを見るより、もっとわかりやすい苦難に陥っているサマを見る方がお好みだろうよ。
「【鉄壁の巨蟹】三人を喰らった罠が近づいているってことか。本当に何があるやら」
注意をしながら白羊に続いて進んで行く。やがて一際開けた場所へと出た。
そこは何故か周囲の壁が薄明るく光っており、ランプがなくても周囲が見渡せるようになっていた。
そこにいたのは先行していた【眠る白羊】全員。
【鉄壁の巨蟹】のソウテツとミヤジマ。この二人は無事だったか。
ユリアさん達は彼らと話している。ここで何があったかの事情を聞いているのだろう。
だが、俺はそれよりも見逃せない奴に目を奪われていた。
――――アビスレイン。その人間形態。
奴はゴブリンの意匠のある不気味な門を背に、紳士然とした格好と姿勢でそこに立っていた。
『何故、ダンジョンの探索前には地上にいたはずの奴がここにいるのか?』
そんな疑問がふと浮かんだが、そんなことより奴を問いたださねばならないことを思い出し、奴に詰め寄った。
「アビスレイン。貴様、【鉄壁の巨蟹】のメンバー三人を殺ったのか?」
「はっはっは。私は誰も殺してなどおりませんよ。ただ、先ほど三名ほど試練に破れて消滅の洗礼をうけた模様ですがね」
俺はさらに問いかけようとしたが、アビスレインは機先を制して「パン!」と手をたたいた。
ここにいる冒険者全員が奴に注目する。
「さて、みなさん。めでたくダンジョン探索冒険者全員がそろったので、改めて説明をさせていただきます。試練の名は『凶羅ゴブリン廻廊』!」
アビスレインは仰々しく門を両手で指し示し、説明を始めた。
「この門の中には約半アルサングの廻廊があり、それはこのダンジョンの最下層へと続いています。つまりここの突破が生き残るための最低条件となります」
1アルサングは約5キロメートル。つまり2.5キロ程か。
わかりやすくていいな。もっとも【鉄壁の巨蟹】のメンバーを喰らったであろうことから、簡単ではないだろうが。
「門をくぐれるのは、一度に三名まで。中のチームが廻廊をくぐり抜けるか、全員死亡するまで次のチームは入れません」
三名までの制限。やはりこれが【鉄壁の巨蟹】3名を葬った罠で間違いないな。
「ただし、両脇に高い崖があり、その上にはゴブリン二百匹がおります。それが弓、魔法などを降らせてきますので、それをかわすなり防ぐなりしながら出口を目指していくという趣向です」
なんだと? 2.5キロもの道を進む間、矢と魔法にさらされながら進まなければならないのか?
「もう一つ言っておきましょう。この中にいるゴブリンはただのゴブリンではありません。戦闘力を特化した兵隊ゴブリン。そして私の趣向として特別に優秀ゴブリン一匹を加えさせていただきました」
「優秀ゴブリン? なんだそれは」
また聞き慣れないゴブリンが出てきた。ゴブリンについてはある程度詳しくなったが、そんなゴブリンは聞いたこともないぞ。兵隊なんてゴブリンも調べてもまるで出てこなかったし。
「兵隊をさらに進化させた上位種ですよ。もっとも、まともにヤツが道を塞いでは通れる者など誰もいなくなってしまいますからな。一人は逃すよう言ってあります。最低一人は確実に殺るようにも言ってありますがな。ククク………」
そのとき、【鉄壁の巨蟹】リーダーのソウテツが叫んだ。
「待てや! スドウらは全滅しとるぞ! だいたい兵隊やの優秀やのいうゴブリンなんぞ聞いたことないわ!」
「フフフ。あまりに雑な進み方をした報いですな。【鉄壁の巨蟹】のみなさんは、その力にまかせてあまりに楽な戦いしかしてこなかった。こういった未知の場所に必要な用心を怠った。故に全滅などという目にあったのですよ」
「きっ…貴様!」
ソウテツは激昂しながらもアビスレインに殴りかかろうとはしない。
その辺の格付けはすんでいるのか。
「さて、ソウテツさんからはもう一つ質問がありましたな。兵隊ゴブリン。聞いたことがないのも当然です。それは我らがゴブリンを戦闘用に強化と進化を施して作り上げた新種なのですよ。エリートはそれをさらに特殊能力を付与させた上位腫です」
「ゴブリンを強化やと? 何のためにそんなことしとるんや!」
「おや、おわかりにならない? あなた方に与えているその強化の力。その前段階の実験体としてゴブリンを使っていたのですよ。あなた方も実験体とするなら、実験体の先輩ですなぁ」
―――――?!!!
ゴブリンを実験体にして強化しているだと?
なら、いったいアビスレインは何なんだ?
こいつ自身もゴブリン。話の流れでいけば、その実験体自身のはずだ。
だが、ヤツはゴブリンでありながら研究をしている側のように聞こえる。
「アビスレイン。お前達はいったい………」
「おっと。この段階で答えられることはここまでです。これ以上が聞きたければ第二ゲームを勝ち抜いておいでなさい。さて、説明は以上です。あとは廻廊を突破する方法を考えることですな。ここにはダンジョンの魔物は入ってこれませんのでごゆっくり」
アビスレインはそう言うと、門の側へ佇んだ。
仕方ない。ヤツへの疑問は置いといて、ゲームのことを考えよう。
上空から弓や魔法の攻撃にさらされながら2500メートルの廻廊を突破か。
俺達は上空からの集中攻撃を防ぐ方法などまるでない。
それに『三名まで』という制限も、全員を生還させるにはネックだ。
ヤバイな。いったいどうやって廻廊を突破する?




