35話 【鉄壁の巨蟹】はアビスレインと出会う
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【鉄壁の巨蟹】は迷宮を、おそるべき戦闘力での力業で突破していく。
そして現在、最下層にもっとも近い場所で巨大なニワトリのような魔物と戦っていた。バジリスクと呼ばれる恐るべきその魔物も、【鉄壁の巨蟹】は難なく圧倒していく。
「まいどおおきに!」
そのかけ声とともにソウテツは大剣をふりおろし、バジリスクの首を狩った。
「ふいいい。喰いもせんニワトリちゃん殺すのは胸が痛むわ。サイズはともかく、けっこうめんこい面しとるしなぁ」
「とんでもない。この怪物はバジリスクといって、爪には猛毒。噛まれれば石になってしまうという相当にやっかいな魔物ですよ。これが出現したときは高額の賞金がかけられます」
パーティーの情報役のスドウはそう説明した。クエストの事前の情報収集などは、大抵彼が中心になってやっているのだ。
「で、スドウ。いまどの辺りや。一昼夜も下へ下へとおりたが、まだたどり着かんのか?」
「バジリスクは一応、このマウリッサダンジョン最強の魔物ということになっています。つまり、それがいるここが、過去の冒険者が到達した最深部です。ここから先は地図はアテにならず、我々自身でダンジョン核なり下へおりる道なり、探さなくてはなりません」
「かぁっ。こっからが本番かい。なら、ここをとりあえずの拠点にするわい。こっから東西南北中央大きく調べて探索じゃ」
ミヤジマはソウテツの指示に引っかかりを覚えた。
『あ、ボケだ』と気がついたが、あえて乗ってやる。
無意味でもスルーはあまりに無慈悲だ。
「中央ってのはなんだい。ここに穴でも掘るってのかい?」
「そやそや。ここを掘ってみたら、あら不思議。さらに下へおりる階段ありましたぁ~♡ ………って、あるかい、そないなモン!」
ソウテツは大きなリアクションでゲシゲシ床を蹴りつける。
無駄すぎる大きい動きは本場の匂いがする。
「ほほう、これが関西のお笑い。初めて見ましたが、なかなか感慨深いものがありますなぁ」
「そやろ! ワイが本気になりゃ、満員御礼の甲子園やろがドッカンドッカンわかせて………って誰や!?」
あまりに親しく話しかけられたため、一瞬気がつくのが遅れた。
だが妙に丁寧なその声は仲間のうちの誰の声でもなかった。
声のあった場所。そこには、いつの間にか見知らぬ小男がいた。
身なりは迷宮に来るとは思えないほど正しい紳士の格好。だが中身はチビでハゲのさえないおっさん。それがいつの間にかそこにいたのだ。
「あなた方はゲームスタート時には疾風のように出て行ってしまわれたので、自己紹介すらできませんでしたなぁ。では改めて。『ゴブリンゲーム』進行役のアビスレインと申します」
「そういや、宿を出るときチラと見たな。アンタがワイらをラノベみたいな目にあわせた張本人で間違いないな?」
「知らなかったのですか。【はねる双魚】のみなさんにでも聞いていれば、とっくに知り得た情報ですがね」
「そうかい! なら、とっととワイらを元の世界に返さんかい!……………ってアレ?」
ソウテツはアビスレインの胸元をつかもうとした。だが、アビスレインはいつの間にかソウテツの背後に回り込んでいた。端で見ていた【鉄壁の巨蟹】のメンバーさえも、いつくぐり抜けたのかわからない早業であった。
「はっはっは。私は『ゲームの進行役』と言ったでしょう。当然、手癖の悪いプレイヤーのあしらい方にも精通しておりますよ。さて、私がここに居るのはこの先のゲームの進め方を説明するためですが、聞く気はありますかな?」
ソウテツはゆっくりアビスレインに向き直る。
今の一瞬で、この小男が侮れない恐るべき実力者だと本能的に理解したのだ。
故にこの小男を締め上げて情報を得る道は早々に放棄した。
「フン。アンタを相手するより、さっさとゲームをクリアした方が早そうやな。聞いたる。とっとと説明せんかい」
「ふむ、見切りが早いのはさすがですなあ。では、私についてきてもらいましょう。おっと、後続のパーティーも迷わないよう矢印でもつけておきますか」
アビスレインは所々矢印を残しながら進んでいく。
【鉄壁の巨蟹】は油断せずそれについていった。
やがて少しばかり開けた場所へと案内された。そこは周囲が明るく光っており、ランプなどの光源がなくても周囲が見回せた。
そしてそこで真っ先に目につくのは、立派な施しがされている門であった。
その門は不気味なゴブリンの意匠が彫られており、人が一人通れるほどの大きさしかなかった。
ソウテツはこの場所の主役であろうその門をジロジロ眺め回した。
「えらい趣味の悪い門やなぁ。で、これをくぐれっちゅうんか?」
「『凶羅ゴブリン廻廊』。そう名がついております。ここが最下層へ続く入り口。当然、ここには生き残りを賭けた試練があります」
「えらいごっつい名前やなぁ。少年の心を持っとるワイはドキドキしてきたわ。この先にダンジョンの大将も核もあるんやな?」
「ええ。ですがここは適当な広さもありますし、魔物も入ってこない結界もあって休憩できるつくりになっております。ここで待って、後続の他のチームが来るまで休むのもよろしいのですよ」
「いらんいらん。さっさとクリアして茶番は終わらせたる。名前と彫刻から見て、どうせ中の敵はゴブリンなんやろ?」
「さよう。イキのいいゴブリンが二百匹控えております」
「なら楽勝や! お前ら。さっさと行くで」
「おや、この先の説明は聞かないので?」
「いらんわ。ワイら、ゴブリンなんぞもう片手で倒せるようになったさかいな。ボスも核もサクッと始末してくるわ」
【鉄壁の巨蟹】はまるで臆せず意気揚々と回廊の門をくぐった。だが、四番目の位置にいたソウテツが潜ろうとしたときだ。
――――――ドンッ!
「ぐぇ?!」「きゃっ?」
ふいに門に不可視の壁ができ、列の後ろにいたソウテツ、ミヤジマは阻まれた。
「おいおい何やねんこれは? 入れんぞオッサン。お陰でミヤジマちゃんの可愛い声なんか聞いてまったやないか」
ミヤジマがソウテツの尻に勢いよく蹴りをくらわせているのを、微笑ましく見ながらアビスレインは説明した。
「この門に一度に入れるのは三人まで。次に入れるのは先行のチームが回廊を出るか、全滅した時だけなのですよ」
「な、なんやて!? テメェ………!」
「おっと、恨み言は聞きませんよ。説明を拒んだのはあなた方ですからな」
「ちっ。三人でゴブリン二百か。少しキツイのう。ま、それでもウチの連中なら何とかするやろ。ゴブリンは冒険はじめの頃からさんざ殺りまくったさかいな」
「フフフ。だとよろしいのですがね」
アビスレインはいかにもおかしそうに笑った。
◇ ◇ ◇
俺達【はねる双魚】は相変わらず退屈なくらい簡単なダンジョンを進んでいた。
だが、初めて驚愕すべき事態が起こった。
正確には俺達ではなく、俺達のはるか前にいるはずの腕利きパーティーに。
「ユリアさん。大変だ。ヤバイ。何があったかまるでわからないが、くそヤバイ」
俺は先行する【眠る白羊】のユリアさんを大声をあげて呼び止めた。
「どうしたのよ、ヒロト。何か竜眼で見えたの?」
「いや、竜眼の方じゃない。ウチのメンバーがタブレットの『全プレイヤーゲーム過程』の欄を見て発見したんだがな」
「あきれた。進行中よ。気を抜きすぎじゃない?」
「まぁ、【はねる双魚】のゆるみは置いといてくれ。とにかくタブレットを見てくれ。その方が早い。先行している【鉄壁の巨蟹】】に何かあったようだ」
【眠る白羊】も一旦その場に留まり、ユリアさんはタブレットを確認する。
そして俺達が見たものと同じものを見て驚愕した。
「これは………いったいどういうこと? 何故、三人も?」
それは『全プレイヤーゲーム過程』の名簿。
その名前の後ろにある『ノークリア』の赤い文字。
だが【鉄壁の巨蟹】メンバーの三名もの名前の後ろが、『消滅』の灰色の文字へと変わっていたのだ。




