33話 鉄壁の巨蟹
『巨蟹』リーダーのソウテツは関西人にすることにしました。
さっき思いついたので、突然の変更申し訳ありません。
――――銀匙亭。それがこの酒場兼宿屋の名前だ。
そこの酒場の一角に【眠る白羊】【鉄壁の巨蟹】そして俺達【はねる双魚】の全てのパーティーメンバー16人がいる。
さて、初めて会う【鉄壁の巨蟹】の連中を一言で評すなら、『ゴツイ』だ。
男三人女二人のパーティーなのだが、最初は全員男だと思ってしまったくらいだ。それくらい全員が見事な筋肉のボディを誇っており、ライデン以外の俺達は子供になったような気さえしてくる。
そして酒場のひとすみ。そこには各々の武器や荷物がパーティーごとにまとめてあるのだが、【鉄壁の巨蟹】の荷物のある場所の武器(?)。それは巨大な剣や弓の形をした塊であった。
「コーン……これ、本当に武器なんですか? とても人が使うものとは思えないんですが」
「いやいや、きっとこれはお店のオブジェだよ。飾って店の雰囲気を盛り上げるんだね。冒険者の酒場らしくていいわね!」
「そ、そうですよ! これを使って戦うなんて、まさかねぇ」
ウチの女達が巨大な武器のような塊を見ながらそんな話をしていると、【鉄壁の巨蟹】の女メンバーが彼女らの後ろに立った。
彼女も女ながら見事な筋骨隆々。正に女ゴリラだ。
「なんだい、お嬢ちゃんたち。ウチらの得物に興味あるのかい?」
「えっ、ええええええ!? やっぱり、これって使われているんですか!? 信じられません!」
女はジロジロカルマーリアらを見下ろして言った。
「信じられないのはアンタらだよ。よくそんな細っこいナリでゴブリン殺しなんてやろうと考えるねぇ。もしかして現代日本に帰る気はなくて、この異世界に骨をうずめる気かい?」
「……………いえ、キャラクターメイキングのとき、深く考えなかっただけです。グスン」
「へぇ? 何考えてこんなに可愛くキャラメイしちまったんだい? 可愛い女になって男にチヤホヤされたかった?」
そいつは本来チヤホヤする側だったが、トチ狂ってされる側になってしまったんだよな。それはともかく、そろそろ助け船を出すか。
そう思い立ち上がったが、彼女の仲間の男が先に声をかけた。
「よしなミヤジマ。絵面が子供をいじめているようにしか見えないぜ。アスリートたる者、イメージは大事にしなきゃな。あまりこっちの流儀になじみ過ぎると、日本に帰ったとき苦労するぜ」
彼女の名前は宮島ゴリ子か。半分適当だが、とりあえずこれで覚えておこう。
彼女は「フンッ」と鼻を鳴らすと、カルマーリアから離れた。
しかし”アスリート”?
この言葉が気になった俺は、さっきの助け船を出してくれた兄ちゃんに話しかけた。
「どうも、助かりました。俺は【はねる双魚】のリーダー、ヒロト。ところで彼女をアスリートといいましたが、何らかの選手なんですか?」
「ああ、俺はスドウだ。質問の答えだが、ミヤジマだけじゃない。俺達みんなそうさ」
人の良さそうなゴリラ(みたいな人間)のスドウは説明してくれた。
「俺達は出会った時はみんな初対面だったんだがな。みんなサッカーだの野球だのスポーツチームに所属していて、スポーツに入れ込んでる者同士で意気投合して組んだんだよ」
「みんな良い体格してますね。やはり肉体強化は相当やったんでしょうね?」
「ああ。魔法だの有象無象の才能などは一切取っていない。武器の才能一つ以外は、身体能力を伸ばすことだけにポイントは全て使った」
「それは………極端ですね。それで良いのですか?」
「他に必要か? こんなわけのわからん状況、一刻も早く終わらせることが重要だ。なら、戦闘力のみを伸ばしてクリアとやらを早めるべきだ。
いつまでもこの世界にいることや、帰った後のことを考えて余計な才能などを取ったら帰る日が遠のくだけだ」
…………確かに。
俺もなまじゲーム知識などがあったために、あまり効果の期待できない魔法や、その他の才能に目を奪われてしまった。
さすがスポーツ集団。典型的な脳筋な考え方だが、それが正解だったかもしれん。
「肉体強化一点突破………ですか」
俺の肩にいるマユがポツリと言った。
考えてみれば彼女は彼らとは真逆。
魔力特化のキャラメイをしたんだよな。
「マユ、君も自分のキャラメイを失敗したと思っているのか?」
「………いえ、ちょっと気にかかっただけです。まぁ、ここで言うべきことでもないので聞かないでください」
「そうか。ならいい。そろそろ話し合いが始まるし、そっちに集中しよう」
説明によると第二ゲームの開始は明日、この銀匙亭から始まる。
早朝にこの宿屋にゲーム開始の合図が来るそうだ。
そこからスタート。郊外にある『マウリッサダンジョン』と呼ばれる迷宮へ行き、それを攻略する。
この中で最弱の俺達はどのような立ち位置になり、どのような役割を担うのか。
『迷宮の隅っこで立っているだけ』なんて役割だけは回避せねば。
いきなり【鉄壁の巨蟹】リーダーのソウテツは「パン!」と手をたたいた。
「さて、顔合わせもすんだの。ワイらはこれで戻らせてもらうで」
関西人ぽいリーダーは突然にそんなことを言った。
アレ? 話し合いは? まだ何も決めてないぞ。
この衝撃発言にいち早く反応したのは【眠る白羊】のユリアさん。
「ソウテツ? まだ、明日のダンジョン探索をどのようにやるか決めてませんが」
「ワイらはワイらで速攻でダンジョンをクリアしたる。よく知らん奴と連携なんざ時間がかかるだけやし、【はねる双魚】にいたっては足手まといの雑魚もぎょうさんや。生き延びたきゃ、せいぜい遅れんようワイらについてくることやな」
本当のことなだけにザックリくるな。
うちの女達もヘコんだ顔をしている。
「それは………私達の中に最下層にたどり着いた者がいなくても、ダンジョン核の破壊を待つことなく行う、という意味ですか?」
「ああ、そや。ワイらはノンビリこんな異世界に留まっている時間はありゃしませんのや。アスリートの寿命はごっつう短いさかいな。これを宣言したのは、ワイらの”やさしさ”ってヤツやな」
【鉄壁の巨蟹】リーダーのソウテツは傲慢にも思える発言をキッパリ言い切った。
女ゴリラの宮島ゴリ子は『当然だ。文句があるなら言ってみろ』みたいな顔をして笑っている。
ゴリラの良さそうなゴリラなスドウも、『すまんな』という顔はしていたが、特にリーダーに文句を言う様子はない。承認か!
「ほな、サイナラ」
そう言って、彼らは自分の荷物や武器を抱えると、その場を去っていった。
「仕方ないわね。不確定な彼らの動きも予想して、私達だけで決めましょうか、ヒロト」
「了解だ、ユリアさん。迷惑かけると思うがよろしく頼む」
「かけないでちょうだい。そちらが足を引っ張ると判断したなら、あなた達を切り捨てて私達だけでいくわ」
「し、失礼いたしました! 決して足手まといにはなりませんので、どうか置いていかないでくださいませ」
立場弱えな、俺ら。
なんかこの立場、既視感があるような……………。
ハッ! これは大手のプロジェクトに、頭下げてどうにか入れてもらった木っ端会社のチーム主任か!?




