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竜眼でゴブリンゲーム  作者: 空也真朋
第4章 ダンジョンに潜む 悪しきゴブリン
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32話 君の後ろ姿を

 ◇        ◇


 その夜、ギルド職員のレイオルは営業を終了した酒場のあとかたずけをしていた。

 酒場の裏手に処分するものを出しにきたときだ。

 そこで剣の稽古をしている者を見かけた。

 その姿は華奢で頼りなく、力強いとはとてもいえないものだった。だが暗闇の中で薄く光る亜麻色の髪は美しく、整った造形の女性的なシルエットはレイオルの目を止めさせるものだった。


 「えっ………カルマーリアさん?」


 それは短い間にすっかり恋に落ちてしまった愛しのカルマーリア。

 彼女は一心不乱に小剣(レイピア)を振っており、その姿に目を奪われてしまった。


 「あら、こんばんわレイオル君」


 息を切らし、汗をかいて笑うカルマーリアの顔はとても可愛く可憐で、そして蠱惑的なものだった。この顔を見れただけでも、レイオルは最高だった。


 「こ、こんばんわカルマーリアさん。剣の稽古ですか?」


 「ええ。みんなと待ち合わせの間に少し振ってみたの。どう? 様になっているかしら」


 前に見たカルマーリアの剣技は素人を少し踏み出したレベル。とても実戦に出られるものではなかった。 今はあのときより格段に上達しており、美しい体躯を十二分に伸ばして小剣(レイピア)を振り回している。

 それでも…………


 「上達しましたね。さすが狼討伐を成し遂げただけはあります。でも、ダンジョンに挑めるレベルかというと…………」


 「…………そう。でも、これでやるしかないわね。これは前衛が敵を通してしまったときの保険。しばらく身を守れるだけの腕があればいいしね」


 (やはりこの人は迷宮(ダンジョン)に挑むつもりか! 相当の熟練パーティーでも、全滅することだってあるというのに!)


 「カルマーリアさん! たしかに【はねる双魚】は強くなりました。それでも迷宮ダンジョン攻略に出るのは早いです。それに、あなた自身はやはり冒険者は無理です。僕は歌って踊って笑うあなたが好きです! 壊れそうになって戦う姿なんて見たくない! どうして冒険者をやめてくれないんです?」


 カルマーリアは皮肉そうに笑い、小剣(レイピア)をかかげた。


 「…………冒険者はやめるわけにいかない。魔法武具(これ)があれば私も戦える。だからやるわ。迷宮(ダンジョン)にも行く。悪いけど止めないで」


 レイオルは彼女の意外な頑固さにとまどった。

 そしてどうしても決心は翻らないことに絶望した。


 「そんな………どうして…………」


 その時、彼女の仲間の【はねる双魚】が迎えにきた。


 「ゴメンね。帰ってきたら、また歌うわね」


 カルマーリアは眩しいくらいの微笑みを彼に残すと、背を向けて迎えの方へ歩いていった。

 レイオルは去っていく彼女の背中をいつまでも見送っていた―――





 ◇    ◇


 「…………と、いうことがあったのよ。他にも大勢ファンに引き留められて大変だったわ」


 揺られる馬車の中で、カルマーリアはそんな話をした。


 レイオン君か。まぁ、彼もそう言うだろうな。

 ギルマスにもカルマーリアだけは置いていくよう言われまくったし。曖昧にごまかしたが、無論そんなことをするわけにはいかない。

 他にも彼女のファンはかなりヤバイ奴もいるし、どんな妨害をしてくるかわからない。

 なので向かう先を秘密にして、明け方から出発した。

そして待たせてある馬車に乗って出た。


 「カルマーリアさんにもしものことがあったら、私達帰れませんね。がんばって守りますね」


 「ありがとう、ノリミちゃん! ううっ、妹キャラだったのに、すっかり成長して……」


 「あははっ。上の兄弟とかはいなくて、妹のいるお姉ちゃんなんですけどね。あの、あんまり手をニギニギしないでくれます?」


 「さて、みんな。これからの予定をざっと説明しておく。まず現地に着いたら、そこにある宿屋に宿泊。そこに【眠る白羊】と【鉄壁の巨蟹】のパーティーもいるはずだから、連携をもちかける。【鉄壁の巨蟹】はどういうパーティーかわからないが、ヤバイ連中なら無理に手を組まなくていい」


 「でも、【眠る白羊】の人達とは組めるんですよね。相当に優秀なパーティーらしいし、安心ですね」


 「だが油断は禁物だ。狼退治の時の陣形を守って、安全重視でいくぞ」




 一昼夜馬車に揺られ、やがて目的地の村に着いた。

 そこから事前情報で知った宿屋を目指して歩いていく。

 やがてたどり着いたそこは、田舎町には似合わない酒場つきの大きな宿屋であった。


 「ここですか。小さな村なのに立派な宿屋ですね」


 「郊外にあるダンジョン攻略に向かう冒険者のための宿屋さ。もっとも、現在は領主様が命令を出してダンジョンは立ち入り禁止。泊まっているのはゴブリンゲームに参加する者だけだろう」


 「ダンジョンはこの村の産業になっておるんか。では、そいつをつぶすのは気が引けるのう」


 ライデンはすまなそうにつぶやいた。いいヤツだな。


 「『危険な魔物が出るようになったので本格的に潰すことにした』と領主様が決定したことになっている。気にしてもしょうがないし、中に入ろう」


 宿屋の中に入り、受け付けの婆さんに泊まるための旨を伝えた。

 その手続きを終えた時だ。

 【眠る白羊】のリーダーのユリアさんが来た。

 そして傍らには見知らぬ大男がいた。

 短く刈り込んだ黒髪に引き締まった肉体。その筋肉は一目で実戦向きとわかるシロモノだ。

 ふてぶてしく俺達を見下ろすその顔は、どこかライデンと同じ匂いがする気がする。


 「来たわね。ようこそ【はねる双魚】のみなさん。まず、こちらを紹介するわね。【鉄壁の巨蟹】のリーダーのソウテツよ」


 ――――――!?


 すでにユリアさんは【鉄壁の巨蟹】と顔を合わせていたのか。

 ソウテツという大男はニヤリと笑った。

新たな転移者パーティー【鉄壁の巨蟹】。

敵となるか味方となるか。

この出会いは何をもたらす?

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