12話 謎の公爵閣下
翌日朝はやく、俺たちは予定通り武器の販売店へと来た。
かなり大きな店で、ここは冒険者ギルドと提携している武器屋だそうだ。
「ちゃんとした武器を使えば私たちでもゴブリンと戦えるようになるかな」
店を見上げ、カルマーリアはポツリと言った。
「魔法の武器なんてものがあったらのう」
「だめですか? ちゃんととした武器を使っても」
「武器というのは基本、鉄やら銅やら鉱物の塊じゃ。それを自分が振り回せるか否かを考えてみい」
「コーン………否です。振り回せません」
「ま、実物見る前にゴチャゴチャ考えてもはじまらん。入るぞ」
カルマーリアとりっちゃんをおもいっきり不安にさせて、ライデンはさっさと店に入っていった。
俺たちもあとに続いた。
つくづく思うが、やっぱりライデンの方がリーダーっぽいな。
「………重い。こんなの持って冒険とか行けない」
カルマーリアが小ぶりの剣を持った感想だ。
俺やりっちゃんもいくつか持ってみたが、大体似たような感想だ。
カルマーリアやりっちゃんでも持てる武器といえば短剣か小剣。短剣は相当ゴブリンに接近しなければならないので小剣一択だが、やはり非力さが問題になってしまう。
二人が攻撃したところで大したダメージは与えられず、反撃をくらえば大ケガだ。
「アンタらじゃあ、『お前らには売らん』とか言う店も多そうだねぇ。ウチはギルドと契約があるから、ギルド証があるなら誰にでも売らにゃならんがね」
店の主人が笑って言った。
まあ、俺としてもここまでは予想通り。問題は、このどうしようもなく非力な俺たちでも戦えるようなアイテムがあるか否かだ。
「店主。聞きたいんだが、非力さを補うことの出来るような魔法のついた武器なんてのはないのか? ただの女子供でもそれなりに戦えるような」
「あるよ。それは魔法武具っていうんだがね」
魔法武具。
それは武器に魔法の術式が組まれた特殊な武器であり、斬撃の威力や武器を振り回すスピードに補正を与えてくれるものだそうだ。
小型の魔法武具を使えば、女子供でも相当に鋭い一撃をはなてるという。
「ただ、おそろしく高いねぇ。ウチにも一応あるけど、用途は貴族様の護身用とかだよ。あとは高レベルモンスターの討伐用だね。こっちは大型の武器に組まれている」
「それだ! そういったのを俺たちは欲しいんだよ! いくらだ!? これで足りないか?」
俺は昨日もらった報酬の全額を出して聞いた。
だが、店主は笑って絶望を突きつける。
「いやぁまだ足りないね。値段は………」
店主の示した値段はとんでもない額だった。俺たちは失意のままに店を出ようとした。、
先頭のカルマーリアが店を出た瞬間だ。
「え!? カ、カルマーリアさん!?」
「あら、どうもこんにちは」
出会い頭に誰かへ挨拶をした。
それは昨日、俺たちのサポートメンバーをしたギルド職員のレイオル君だった。
彼はカルマーリアを見て、恋する少年そのものに歓喜している。
昨日のたった一日ですっかりカルマーリアにぞっこんだ。
カルマーリアの正体が『一馬』と知っている俺としては罪悪感チクチク。
「ど、どうもこんにちは! カルマーリアさん、どうしてこんな所へ……ああ、武器を選びに? よかったらぼくが見てあげましょうか?」
「それはもう終わりました。やはり私に扱える武器はないようですね」
「それはまぁ………」
恋する少年の浮かれまくった目でさえ、無理は隠せないか。
それはともかく、店の出入り口で立ち話なんかされちゃ迷惑だ。
「レイオル君。俺たちはもう店から出る所だ。君はここに用があるんだろう? 俺たちは行くから」
「え? あ、待って下さい! あなた達に少し話があるんです!」
レイオル君は店に入るのをやめて、立ち去ろうとした俺たちについてきた。
俺たちとレイオル君は、レイオル君の案内で街の広場にやって来た。
そこは大道芸やら歌をうたって披露している人やらがいる、ちょっとしたストリートのような賑わった場所だった。
「レイオルさん。昨日、私たちのクエストに介入したのはまずかったのでしょう? あのあと大丈夫でしたか?」
「は、はい! マスターからは罰で色々やらされていますが、後悔していません! カルマーリアさんを助けられたんですから!」
うんうん、レイオル君、男だねぇ。けなげだねぇ。
それはともかく、いつまでカルマーリアと話しているつもりだ。
俺はため息をついて言った。
「カルマーリア、しばらく離れててくれ。りっちゃんもついててやってくれ」
”話”とやらが本当にあるのかカルマーリアと話すための与太なのか。
ともかくそれだけでも確認しないといけないので、仕方なく俺はカルマーリアを離すことにした。
「ええ。じゃあ、ちょうどいいし歌を試してみるわ。歌ってくるわね」
「コーン! あたしも聞いてみたいです」
そういや、カルマーリアは【歌唱力】だの【音楽才能】だの芸事の才能を持っていたんだったな。
そんなもん取らないで、その分戦闘力上げてくれれば少しは楽になったのに。
「え? カルマーリアさんの歌? ぼくも聞いて見たい………」
「あとでな。それより話とは?」
一気に男くさくなってレイオル君もクールダウン。(マユはいるが)
冷静になって話をはじめた。(本当にあった)
「みなさん。あなた方は【ナジス公爵閣下】とどういうお関係ですか?」
「―――はっ?」
いきなり知らない名前が出た。どこの誰だそれは?
「いや、それはいったい………痛ェ!?」
いきなりマユに耳を引っ張られた。
「おい、何を………」
「シッ! これは情報ボーナスですよ! ゲームならセーブしておかなきゃならない分岐点です。上手く会話を進めて引き出せる情報はみんな手に入れなければなりません」
「え?………あ!」
確かにここは大事なポイントかもしれない。
しかしいきなりすぎて、上手く情報を引き出す会話をする自信がない。
「私がヒロトさんの声マネで会話します。ヒロトさんは口パクをお願いします」
マユがやる気満々だ。しかし俺の声マネとか大丈夫か?
「その質問に答える前に、何故我々がその公爵閣下と関係があると? その経緯をお聞かせ願いたい」
マユは声を低くして始めてしまった。仕方なく俺は声に合わせて口をパクパク。
「あれ、声が変わりました? それに口の動きが声とずれていたような?」
「俺は緊張すると声が変わるんだよ。それより聞かせてくれないか? 俺たちと公爵閣下がつながった理由を」
「あ、はい。昨日さんざん叱られた後、【はねる双魚】のみなさんをどうするのかギルマスに聞いてみたんです。そしたら次のような答えでした」
『アタシもあんなバカヅキだけのパーティーがいつまでも生き残れるとは思っちゃいない。だが、奴らは結果を出した。小物の討伐くらいはやらせるしかないだろうよ。
それに奴らに推薦を出した奴を調べてみたんだがねぇ。なんとここの領主様だったんだよ』
「…………それがナジス公爵閣下だったと?」
「正確には閣下の代理人の【アビスレイン】というお方ですね。この方は公爵閣下の元で雑用のようなことをされているそうですが」
そのナジス公爵とやら。このゴブリンゲームに何か関係があるのか?
それにしても黒幕っぽいやつの名前がいきなり出たな。
ライデンの顔も真剣。普段の行動では信じられないくらい静かだ。
「なるほど。ギルドマスターは他に何か?」
「あとは【はねる双魚】のことについてですね。ええっと、みなさんには言いにくいことなんですが………」
「かまわない。聞かせてくれ」
「………はい。ではギルマスの言葉をそのまま言いますね。
『確かにギルドは、たまに来るああいう勘違い連中の目を覚まさせるのも仕事さ。だが、全ての勘違いどもを救えるわけじゃない。
奴らの場合、途中で自分で気がついて引き返すか、痛い目見て引き返すか、骸になるまで逝っちまうか』」
「…………すみません。聞くんじゃありませんでした」
マユが小声であやまった。たしかに不快になるだけだったな。
「あと『アンタ、あのエルフ娘にトチ狂っているようだが、ギルド職員として過ぎた肩入れはするんじゃないよ』なんて………ハッ! いえ決してぼくはカルマーリアさんに邪な想いを抱いているわけではなくてですね」
どうでもいい! この坊や。本当にこれ以上は何も知らなそうだ。
突然に浮かんだ『ナジス公爵』の名。
それはゴブリンゲームの背後に潜む黒幕か?




