10話 ゴブリンの穴にて無双する二人
ライデンは本当に強い。巣の中のゴブリンはあっという間だった。
ライデンは俺たちが後を追って巣穴に入るころには、ほぼ終わらせていた。
最後の一匹を倒すところだけはかろうじて見たが、それ以外の戦闘は見ることすらできなかった。
「ライデン、お前という奴は!」
「ゴブリンの強さまではからねば、わざわざ来た甲斐はないじゃろう。慎重なのはよいが、課題の期間もある。日数を早めることも考えるべきじゃ」
「……わかった。とりあえずお前のタブレットを見てみろ。どうなっている?」
タブレットには『ゲーム達成率』という欄があって、そこに『第一ゲーム進行中』という文字の下に『○○匹達成。あと○○匹』と書かれた文章があるのだ。
これが俺たちのゲーム進行状況を示しているらしい。
「『22匹達成。あと58匹』となっとるな。そっちはどうじゃ」
「0匹だ。やはりだが、俺たちもちゃんと自分で倒さねばカウントされないようだ」
「ライデン、直接戦ったあなたに聞きたい。私たちでもゴブリンは倒せる?」
カルマーリアが不安そうに聞く。一番この課題がヤバイのが彼女だ。
「ヒロトは竜眼で動きを読めばなんとかなるじゃろ。リッカは………少し厳しい。カルマーリア、お前さんは全然ダメじゃ。とても戦わせられん」
マユについての意見はなかったな。まぁ、彼女の武器は魔法になるし、それについては意見など出せないだろう。
「りっちゃん以下…………」
忘れかけていたが、カルマーリアは俺の同僚の一馬。
中二の女の子以下とか言われりゃ、そりゃショックだろう。
もっとも、それは無理もない。
種族的に脆弱なエルフな上に女になるという、元の体より弱くなる逆方向チート転生してしまったのだから。
それはともかく、俺はこの結果を見てこれからのことを考えた。
リーダーになった以上、メンバー全員を元の世界へ帰還させることを目標とすることに決めた。
だが、はっきり言ってライデン以外はこの第一ゲームの課題は相当厳しい。
「だったら、今日は出来るだけ考える材料を持って帰るべきか。ライデンの強さは圧倒的だし、いけるか?」
「ヒロトさん?」
言うつもりはなかったが、実は竜眼でこの先にここより大きめのゴブリンの巣があるのを発見している。そこでライデン以外にも戦わせてみよう。
「みんな、聞いてくれ。実はこの先の森の奥に、もう一つゴブリンの巣があるのを見つけてある。今日はそこへも行くことにする」
「もう一つ? まだあったんですか」
「ああ。ここより規模は大きいようだ。こっちの方は支城みたいなもので、向こうの方が本丸みたいだ」
だから危険の少ないこちらに来た。
「ふむ、それで? そこもワシがみんな殺っていいのか?」
「いや、今度は俺たちも戦ってみる。カルマーリア、りっちゃん。俺がタイミングを教えるから、その通りに木槍で突くんだ。マユ、君は魔法をためしてくれ」
「わ、私たちが? できるでしょうか?」
「コーン………」
「二ヶ月以内に80。となると、たしかに今日感覚だけでも掴んでおかないと厳しいか」
「ゴブリンは見たし、万一のときはライデンにまかせられるともわかった。だったらためらっていてもしょうがない。今日は三人ともまず一匹を倒すことを目標にやってみるんだ」
「わかったよヒロト。お前、リーダーらしくなったじゃないか」
俺は巣穴の途中で待っているサポートメンバーにこれからの予定を話すことにした。討伐は一応終わったので、話をすることはできるはずだ。
「討伐達成おめでとうございます。ですがこの規模の巣では、報告にあったゴブリン被害にしては小さすぎますね。他にもっと大きな巣があると予想されます。ですがこの成果で一応の達成と評価されます」
「さすがですね。この巣穴を調べてその可能性があることがわかりました。位置も予測できるので、これから行ってみるつもりです」
「これから!? 一日に二カ所というのは、相当に熟練のパーティーでないとこなせないことですよ?」
「まだ日も高いし、こちらはケガ人もない。それに依頼は完全に達成すべきでしょう?」
「ルーキーにそこまで厳しくするわけではありませんが…………わかりました。私たちはあくまで見守る役。そちらの方針にまで口を出すことはできません。ご随意に」
というわけで、またまたゴブリンの巣に行くことにした。
「………またあっという間に見つけた。本当にどうやって探索しているの?」
第二の場所の、ゴブリンの巣になっている洞窟につくとブランナさんのそんな呟きが聞こえた。
探索に関してだけは本当にチートだな。さすがポイント100の竜眼。
さて、では始めよう。
まず最初にマユの土魔法を試してみる。
「『響け地の竜。割れよ岩盤! 大地に眠る大いなる盤古を起こし揺らせ!』」
マユが謎の厨二呪文で体内の極大魔力を起動させてみた結果。
土砂がメチャクチャに巻き上がったり、石礫があちこちに飛んだり、洞窟が崩れそうになったり。
武器としてはまるで安定せず、ゴブリンより危ないので早々にやめさせた。
次にカルマーリアとりっちゃん。
彼女らに木槍を持たせて戦わせてみたのだが、結果はやはり散々だった。
どれだけ俺が絶好の機会を教えて突かせても、二人とも力がまるで足りない。
ゴブリンに簡単にはじかれてしまう。
そしてさらに予想外のことが起こった。
カルマーリアが木槍を砕かれ、「きゃぁ!」と可愛く叫んでゴブリンに突き飛ばされたときだ。
フォローにはいるライデンより速く突入した者がいた。
「カルマーリアさぁぁぁん! 今助けまぁす!」
――――サポートメンバーのレイオル君!?
ええええ!! 君、それやっちゃっていいの?――――
「レイオル君やめなさい! まだ介入のときじゃないわ!」
「やめませんブランナさん! カルマーリアさんはぼくが守るんだぁぁぁ!」
姫の危機を前にした騎士の如く、勇敢にゴブリンに斬りかかっていく。
この兄ちゃん、今日会ったばかりなのにカルマーリアにゾッコン惚れている!
本当に【魅力UP】ヤベェな。俺も元の姿を知らなきゃどうなっていたか。
レイオル君はライデンと一緒になって、次々ゴブリンを倒していく。
俺たちはその無双っぷりを呆気にとられて見ているだけだった。
ふと、近くにブランナさんが来たので聞いてみた。
「さすがギルドのサポートメンバー。実にお強いですね。しかしどうなるんです? 見届け対象のパーティーの仕事を、サポートメンバーが協力した場合」
「とりあえず、レイオル君にはギルマスからの悲惨な運命が待ちうけています!
あとは………帰ってからの連絡をお待ちください」
ブランナさんはひどく疲れたように言った。
強敵ゴブリンにヒロトたちの刃は届かず!(ライデン以外)
ゴブリンの壁は厚く高く立ち塞がる(ライデン以外)
はたしてヒロトたちは、ゴブリンとの絶望的な実力差を覆せるか?(ライデン以外)




