エピローグ 夢とざまぁ
ようやく完結まで書き上げました。私のざまぁはこれが精一杯ですが、楽しんで頂ければ幸いです。
さて、『馬鹿王子』こと元公子ファン君のざまぁについて語ろう。
亡国の元首の血縁など基本は生かしておいても良い事はないので、処分が基本だ。
帝国では例外なくそうしているらしい。だから、亡国の姫を側室に迎えるなんて御伽噺だ。
後に問題となりうる種を残しておくわけがない。例えば、その種を残すような事をする王が居れば、次に自国を滅ぼす王はそいつだ。
「という訳で、サックリと処刑しようと思ったのですが、問題が起きました。バラン兄上」
「アルベルト。突然何の話かは分からないが、婚約おめでとう。おまえのおかげで王国は平和になった」
「ありがとうございます。兄上。結局、父の掌で転がされてました。悔しいですが、私の力ではありません」
父に、次兄と私は黒いと言われていたが、父の方が真っ黒じゃないか!
という事で、被害者同盟の次兄に元公子ファン君たちの処分で相談しようとやって来たわけだ。
「いや、今回の騒動で一番の手柄は、皇帝の妹を口説き落としたところだろう?」
事実は、リコリス様に私が口説き落とされたのだが、なぜか私が口説き落とした事になっている。
帝国内にいたっては姫を誘拐して口説き落とした『誘拐王子』の方であだ名が定着してしまった。
「それについては、王位から逃れられる為に侯爵令嬢を口説き落としたバラン兄上に………と反論したいところですが、不毛なのでやめておきます」
「………そうだな」
私は次兄とはお互いを理解している分、余計な争いをしない。この辺は兄弟だけあって似ている。
「それで、サックリ処刑しようとしているのは大公の一族か?」
「そうです」
「そんなもの、国を滅ぼすきっかけを作ったんだ。今回は運が良かっただけで、本来なら国民にも相当な被害が出てもおかしくない状況を作ったんだ。処刑で構わないだろう?」
次兄のいう事はもっともだ。私も最初はそのつもりだったのだが、問題が出てしまった。
「我が国へ帰順した元公国の貴族たちから助命の嘆願が上がっています」
「なるほど。無視して処刑すれば統治に差し支えるという訳だな?」
「はい。助命の嘆願している貴族たちについても、今後の憂いの為に処分してしまいたいのですが、理由なく処分する事は出来ません」
今回問題となっている貴族たちは、ラテスウィート王国としても要らない貴族たちだ。
必要だと判断した貴族たちは事前に圧力という形で接触があっただけに、自身の立場をよく理解していた。
「では、こういう案はどうだ?」
さすがは次兄だ。こんな短時間で基本方針くらいは提示してくれるらしい。
どんな話が聞けるか楽しみだ。
「本当にそれで良いのか? アルベルトよ」
「はい。陛下」
次兄から提案された案は、まさしく目から鱗だった。
そんな素晴らしい案を使わない手はないと即座に決断した私は、次兄の住む侯爵家の屋敷を後にしてすぐに父へと相談した。
「この場は公の場ではない。父と呼ぶ事を許す」
………………急ぎの面会だったので、謁見は叶わなかったが執務室での面会は出来たのだ。
何時になったら子離れ出来るのだろうか?
「かしこまりました。父上」
まあ、こちらはお願いをする立場だ。この程度のご機嫌取りは何でもない。
「うむ。それで、大公の方は処刑で構わぬのだな」
「国が滅んだにも関わらず、その滅んだ国の元首が生き残るなど恥以外にございますまい、その死は新しい国に移る民の為に使われるべきです」
「分かった。大公は元公国の民の恨みの的となって貰ってから、民が望んだ結果の処刑とする手回しをしよう」
「ありがとうございます。父上」
大公の処遇の話し合いについては、出来レースだ。
父も、この処遇は元から考えていただろうと、私も次兄もそう予想していた。
「それにしても、他の貴族がしていた横領の罪も全て大公のせいにして公表するなど、私でも思いつかないぞ」
あれ?
「確かに、助命の嘆願してきた者たちはこの事で嘆願を取り下げて、この件に進んで協力するようになるだろう」
感心するように言う父の顔には嘘偽りがないように見える。
「この案はバランのものか?」
「はい。バラン兄上に相談いたしましたところ、この案をご提示頂きました」
「うむ。さすがだな。バランが謀略で、アルベルトが行動力で、次期国王である兄を支えてくれれば、国の未来を憂う事はなくなった」
そう言って、うっすらと涙を見せる父の姿に、腹黒と思っていてすみませんと心の中で謝った。
まあ、話している内容は黒いので、間違いではないのだが………。
「残りの案については、アルベルトに一任する。好きにするが良い。もう未来を作っていくのはおまえ達だ」
こうして後ろめたい気持ちを抱える結果にあってしまったが、父からの許可も貰えた。
これで残す問題は夢のマイホームのみ!
クックック。待っていろ。元公子ファン君よ。文字通り国の礎となるが良い!
それから1年後………。
元ティーグラッセ公国の首都があった一帯の土地を治めるビターオレ公爵として、妻となったリコリスと共に統治に明け暮れていた。
「あー。ファン君。無駄な足掻きはやめて投降しなさい。悪いようにはしないから」
「うるさい! 私はもう誰も信じない!! この国は私の力で取り戻してやる!!」
現在、我がビターオレ領では、貴族が企てた反乱の鎮圧作戦中である。
そして、今回の反乱の首謀者が驚いた事に元公子ファン君であった。
「いや、普通に働いてくれれば、助命はするよ? 現にこれまでしっかりと働いてくれたじゃないか? 私は君の働き振りを評価しているよ」
「うるさい! なんで私がおまえの住む屋敷の建設に従事しなくてはいけなかったんだ!? ここは私の城だ!!」
そうです。夢のマイホーム計画は、お屋敷からお城へと変更になりました。
財政的な理由ではなく、土地的な問題で………。
腐っても首都の中心部に立てられていたお城が領主として政務を行なうのに最も適した土地であったからだ。
本来であれば、お城など壊してお屋敷に変えてしまいたいのだが、何の理由もなく壊す事が出来なかった為、仕方がなく改築する事にした訳だ。
「私では説得は難しいようです。棟梁お願い致します!」
我が領は信用できる人材が少ない為、人手不足が生じて、罪人を労働者として使う事になり、現在は罪人として庶民になっている元公子ファン君を監視を兼ねて雇っていたという流れだ。
「ファンよ! おまえは筋が良い!! まだ半年も経たないのに、おまえの技は素晴らしい! 10年後には棟梁になれる器だ!!」
「お、親方! でも、私は………もう誰にも裏切られたくありません!!」
ちなみに、現在のこの状況は予定外の事ではない。敢えていうなら、計画通りという奴だ。
「女に振られたくらいで錬金術師の道を諦めるのか!!」
「ア、アリアは私が大公になれないからと捨てて行った! 私には大公になるしか国を再興するしか道はないのです!!」
元公子ファン君の予想外のアホさに、一度は完全敗北を喫したが、今回は完勝できそうだ。
「アルベルト様。申し訳ございません。あいつは自暴自棄になってしまって、私でも説得できそうにありません」
「棟梁良いのです。悪いのは反乱に失敗しても最後まで足掻いて、一生懸命働いていたファン君を担ぎあげた反乱貴族たちが悪いのです」
元々こうなる予定だったとはいえ、棟梁が元公子ファン君を目にかけて一生懸命働く姿を見たときは、このまま棟梁の下で錬金術師として生きるなら慈悲を与えようとさえ思っていた。
だが、やつはその最後の機会を自ら手で突き放した。
「私の父を殺したお前には従わない! この城の事は改築した私の手の内にある!! 簡単に攻め落とせると思うなよ!!」
次兄が提案してくれた基本方針を元に私が行なった計画の全容をお知らせしましょう!
「なるほど、元公子を囮にして嘆願していた貴族たちが反乱を起こすように誘導すれば良いのですね」
「あぁ、そうだ。今まで美味しい思いをしてきた愚かな貴族たちが、今の状況に我慢が出来るわけはない。必ず何かをやらかす」
「私は数年掛けて、横領などの証拠を集めて断罪しなければいけないと思っていましたが、確かにこの手ならまとめて始末できますね」
次兄が提案してくれた素案は、素晴らしいものだった。
そこら中に沸いている腐敗貴族という名の害虫を、元公子ファン君を使って一網打尽にする事が出来るのだから。
「問題は、その元公子を誘導する事だが、アルベルトが読み違えるほどの馬鹿なのだろ? それは何とか出来るのか?」
「えぇ。可能です。前回は相手の国だった事で遅れをとりましたが、今回は私の領地内になります。それに丁度、元公子を誘導出来る人材もいるので問題ありません」
「そうか。あの一帯を安定させる事が出来れば、一気に筆頭公爵になれるだろうからな。そうすれば私も国王の兄を持ち、筆頭公爵の弟を持って安泰だ。頑張ってくれ」
利害関係を匂わすような発言をした次兄だが、これは本音じゃない。
何かあった時に手を貸す為の言い訳をしてくれただけだ。この辺は王族と言えど、互いに争わずに兄弟としての絆を大切にした甲斐があった思う。
「お前がアリアか? 会場で見た様子とは随分違うが、まあ良いだろう」
元公子を誘導出来る人材といえば、こいつしか居ないだろう。
「ア、アルベルト様。ど、どうかお命だけはお助け下さい」
タイミングが悪い事に正式な書類手続きはしていないとはいえ、国が滅ぶ前に元公子と婚約宣言をしてしまったのだ。
それだけでも国がなくなってしまえば、立派な罪人の扱いだ。
元公子を誑かしていた事は、学園に在学していた者たちから証言は取れる。
妹のオーフェリアとの婚約破棄がなされていたら、それはそれで立派な反逆罪にも問える。
そんなアリアが、どのような刑を言い渡される事になるのか。どうやらちゃんと自身で理解しているようだ。
「自分の立場は分かっているか?」
「は、はい。しょ、処刑だけはお許し下さい。何でも致します。どうか命だけはお助け下さい」
しばらく牢屋に入れられていたせいで、完全に化粧が落ち、風呂にも入っていない状態のアリアは、平たく言えば村娘だ。
そんなアリアが美人好きっぽい元公子ファン君を誑かしたのなら、そこそこ頭が回るという事だろう。
現に、自分の立場が良く分かっている。
「なら、私の為に働け。そうすれば命の保障はしてやる。考えてやるではない。保障してやる」
私がしっかりと理解出来るようにそう告げてやると、アリアの強張っていた表情が軟化した。
「あ、ありがとうございます。誠心誠意お仕え致します!」
う~む。こんな事で表情が変わる程度の追い込みじゃ裏切る可能性があるな。
「別に私は誠心誠意など求めてはいない」
そう冷たく言い放つ。その私の様子にアリアはまた表情を強張らせていく。
「ただ、裏切れば殺すだけだ」
その言葉を聞いたアリアの表情は、しっかりと意味を理解したようだ。
だが、一度よからぬ事を企んだ輩を簡単に使ったりはしない。ここはきっちりと釘を刺しておく。
私は妻のリコリスには、とても聞かせる事の出来ないような死に方をいくつもアリアに提案した。
裏切ったら、その中のひとつを選ばせてあげると………。
最後まで話を聞き終えたアリアは、完全に私の言葉ひとつに怯えるようになっていた。
あとは簡単だ。
大公の助命の嘆願をしてきた貴族たちの願いを聞くという体裁で、元公子ファン君を庶民へと落とし解放した。
解放した直後に接触するようなアホな貴族はさすがにおらず、いきなり庶民になった元公子ファン君が生活できる訳もなく、あっさりと野垂れ死にそうになった。
ここで登場するのがアリアだ。
表向きは、元公子ファン君と同じように嘆願による助命の一端として庶民と生活させていた。
アリアは捨てられた子犬を拾うように、上手く元公子ファン君を飼いならしていた。
その様子はこのまま子孫を作らずに、2人で生活するなら監視付きの一生を過ごさせるのもよいかと思わせるほどの仲の良さだった。
アリアはしっかりと定期的に接触してきた人物を報告していたし、さすがに仕事がないと困るだろうという事で紹介した錬金術の仕事を元公子ファン君は一生懸命こなしていた。
まあ、元公子ファン君が従事していた元お城の改築工事だが、1つ勘違いがある。
あれは別に住む為に改築していた訳ではない。
まあ、話を戻そう。
そんな生活をしていたアリアと元公子ファン君の生活を壊したのは反乱を起こす予定の貴族たちだった。
アリアを使って、反乱を起こす貴族たちが元公子ファン君を利用しようして反乱決行間近の報告を受け、計画は最終段階へと移っていった。
この段階にくれば、反乱が成功した後に、貴族たちが自分の娘を元公子ファン君にあてがう為にアリアは邪魔になる。反乱のどさくさに命を奪われるのは明白である。
命の保障をした手前、見捨てるのは気が引けたので助けた。別に元公子ファン君を捨てて出て行った訳ではない。
まあ、アリアは元公子ファン君を別に愛している訳でもなかったので、あまり結果は変わらないか………。
「さあ! いつでも掛かって来い!! 死ぬならお前たちも道連れにしてやる!!」
結果として、貴族たちの反乱は失敗。こちらの計画通り追い詰められて、残党をたちは元ティーグラッセ公国のお城へ逃げ込んだわけだ。
元公子ファン君も十分に騒いでくれた。
この物語と共に終わりを迎えて貰わなくてはならない。
その日、ティーグラッセ公国がそこに存在したと証明する城が大きな音と共に崩れ去った。
元ティーグラッセ公国の元首の血を引く者と貴族たちを飲み込んで………。
その後、その跡地には街から訪れる事が出来る石碑が建てられた。
その跡地は広く、全体から見れば小さく見えるその石碑には、新しい国の国民となった者たちへの教訓が記されていた。
元公子ファン君はその名を持って、この国の礎となったのでした。めでたし。めでたし。
「棟梁! 次はどこの作業をしやすか?」
「ア、アルベルト様!? そのような作業は私たちがやります!!」
「いや、自分の家を自分で建てるのが夢だったんだ。そのために家出までした程だからね!!」
全てが片付いた私は、転生して、家出をして、帝位継承争いに巻き込まれ、お家に連れ戻され、婚約破棄騒動に巻き込まれ、国を1つ滅亡させて、先に結婚をして、ようやく念願のマイホームの建設に着手できた。
夢を追うのって大変だろ?
-後書き-
2万文字で纏める目標を掲げていたのに、結局3万字を超えてしまいました。
前作が少し間延びしたようなテンポの悪い作品だったので、今回はテンポを良く終わらせたかった………。
この作品も、自身の未熟さを知った意味で、良い作品になりました。
お付き合い頂いた皆様、ありがとうございました。