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第三十四話 闇に棲む魔なる存在(モノ)

ブックマークをして頂き、誠に有難う御座います。

「この雰囲気、普通の人間じゃないな」


「アンデッド?」


「恐らくな」


「これだけの数、一体何処からか来たのでしょう?」


 麻莉奈さんは、虚空(マジック・カーセット)から湖底神殿で手に入れた、七つのアーティファクトの一つ、祝福の杖(ベネディカンナ)を取り出して構えた。


「考えたくないな」


「……まさか!」


「……斬」


 スズタクの静かな呟きと共に、鍔鳴りが室内に鳴り響く。


「ミルク!」


「はいニャ!」


 いつの間にか起きて、戦闘態勢に入っていたミルクさんが、ドスコイとばかりに壁に張り手をすると、不可思議な衝撃波によって壁が壁のまま、外に居る何者かを巻き込み、生々しい音を立てながら、部屋から離れていった。


「行くぞ!」


「光よ! 我が意に従い闇を打ち払え!」


 群れの只中に躍り出て空に光を解き放つ。空に輝く月よりも遥かに明るいその光によって、闇で蠢くモノ達の正体が明らかになった。その姿に、私はギリリと奥歯を噛み締める。


「麻莉奈、頼む」


「……はい」


 スズタクも麻莉奈さんも、私と同じ気持ちだというのが手に取る様に分かった。


「総てを生み出せし、創造の女神リーヴィアよ――」


 麻莉奈さんは地面に杖を突き立て、静かに祈りを捧げ始めた。


「――死してなお彷徨い歩き、現世(うつしよ)に縛られ続けるこの者達を――」


 突き立てた杖から青白く仄かに輝く魔方陣が、円を描きながら広範囲に広がってゆく。


「――その広き(かいな)に迎い入れ、苦痛より解き放ち下さい。……死者葬斂(ししゃそうれん)


 仄かに輝いていた青白い光が、一瞬だけ強く輝くと、町の人達(・・・・)は一人また一人と青白い炎に包まれ消滅していった。


「まったく……趣味の悪い事をしてくれるな。おお!?」


 スズタクの怒号が、闇に向かって放たれた。普段、何があっても表に出さないスズタクの怒りが、この時ばかりは全身から(ほとばし)っているように感じられる。


「クフフ……イイ感情デスネ。ワタシノ可愛イイ下僕達ヲ、ケシカケタ甲斐ガアッタトイウモノデス」


 スズタクが睨みつける闇の中から片言の言葉が発せられ、ゆっくりと私が放った光の下にソイツが姿を見せる。シルクハットに燕尾服を着込み、左目にモノクルを付けた貴族紳士風の男。着ている服はまるで闇の様に真っ黒に染まる。


「気を付けて下さい。あの者、魔族です」


「マゾッ?!」


 麻莉奈さんからの囁く様な言葉に、私は振り返って麻莉奈さんの目を見る。


「奴等は闇に身を置く魔の存在です。私達生きる者の負の感情が好物で、その為には残虐非道の限りを尽くす邪悪な存在なのです」


 麻莉奈さんはそう説明してくれた。


「まさか、そんな奴が一体どこに潜んでいたというの?」


「奴等はあちこちに潜んでいます。前に美希さんが戦っていたドラキュラも、奴等の下僕に過ぎません」


「ドラキュラがコイツの手下!? ――もしかして、塔の封印もコイツが?」


「いえ、それは考え難いです。塔の封印は非常に強力なモノ、しかも神聖魔法で封印が施されていました。よほど高位の魔族でなければ、封印を打ち破る事は不可能です。あの程度の下級魔族では、触れるだけで逆に浄化されるでしょう」


「何ヲコソコソト話ヲシテイルノデスカ? ワタシノ下僕ハマダマダ居マスヨ?」


 かなりの広範囲で浄化の魔法を放ったというのに、私達の周りは、再びアンデットで埋め尽くされた。


「ソレニシテモ、コノ町ノ人間ハ全テ下僕ニシタ筈ナノデスガ。……マア、イイデス。オ前達もワタシノ仲間ニシテ差シ上ゲマショウ。サア、オ前達! 奴等ヲ捕ラエルノデス!」


 魔族が号令を下すと、アンデッドの町人が一斉に躍り掛かってくる。


「スズタク、魔石頂戴」


「何すんだ?」


 スズタクは、腰の袋からゴルフボール程の魔石を投げて寄越す。それを受け取った私は手の平の上に乗せてチカラある言葉を紡いだ。


「雷よ。我が意に従い筒と成りて其を撃て!」


 言葉の解放と共に音が轟き、宙に浮いていた魔石が瞬時に消える。直後、私の前方に居たアンデッド町人を蹴散らし、呑気に構えていた魔族を貫通して闇に消えた。


「オオ! チョット意表ヲ突カレマシタ。スゴーイ威力デス」


「へ?」


 あれ? 直撃したハズなんだけど……


「魔族は第三層の住人です。私達とは住む層が違うので、物理攻撃は効果無いですよ」


 ……ソレ、先に言ってよ。魔石ムダにしちゃたじゃん。道理でスズタクは怪訝そうな顔で石を寄越した訳だ。


「じゃあ、どうやって倒すのよ!」


「こうやんのさ」


 スズタクは中腰になり刀の柄を握る。居合い抜き……か?


「居合い……有明月!」


 キィィン! カン高い金属音が響き、ドドドドッという重い音と共に、アンデッド町人が上下に分かれて飛ぶ。それは黒ひげ危機一発のリアル版だった。


「強力な魔法を撃ち込むか、魔力を介した武器でなければ奴等には傷一つつけられません」


 麻莉奈さんはそう教えてくれ、そして再び祈りの準備に入る。成る程ね。


「おおおおっ!」


 放った技で出来た道をスズタクは咆哮を上げて駆けて抜け、あっという間に魔族との差が縮まった。


「フン! ソンナ鈍ラナド、ワタシニハ……ギャアアア!」


 白い弧を描いたスズタクの剣尖は魔族の腹部を捉え、鈍らと舐めてかかっていたその魔族は絶叫を上げて後ろに大きく退がる。パックリと割れた腹部には、普通の人ならば見えている筈のモノは無く、ただ抉れているだけだ。


「ナ、ナンダソノ武器ハ!」


「ん? コイツか? コイツは特別製でね、お前如き苦もなく斬れるゼ?」


死者葬斂(ししゃそうれん)


 私達に殺到していたアンデッド町人は、麻莉奈さんから放たれた浄化の祈りによって消えてゆく。


「ワタシノ下僕ガ! オノレ! ニンゲン風情ガッ!」


「人間、舐めすぎだよ?」


 私から発した言葉を聞いて、魔族は振り返って(・・・・・)視線を移し、更に振りかぶった私の武器に移して、口角を吊り上げた。まあ確かに、私が手にしている武器は、銀貨二十枚で買えるなんの変哲も無いただの剣だけどさ。


「光よ。我が剣に纏てチカラと成せ!」


 チカラある言葉を解き放つ。そして、ニヤケていた魔族は輝きだした剣を見て、その表情が驚愕へと変わりかけ、それを成せずに真っ二つに斬り裂かれた。


「だから、人間ナメ過ぎだっての」


 断末魔の咆哮もあげられずに、霧散して消えてゆく魔族。それを待っていたかの様に陽の光が差し込み、主人を失ったアンデッド町人は、陽の光に抱かれながら霧散していった。


 願わくば、彼等の魂が女神の許に導かれる事を祈って。私は両手を合わせ静かに祈りを捧げた。




「見えたぞ! アルスネルだ!」


 岩だらけの山頂で、スズタクは振り返って声をあげる。

 魔族を撃退し、町を出発して三日。小さな戦いは幾つかあったものの、山と谷を三つ越え四つ目の山の頂きから、アルスネル王都南部に広がる大草原を一望していた。


 今はまだ時期尚早だが、青々とした草原は秋が深まると共に金色に染まり、私達が居るような山からだけではなく、王都の第四城壁からもこの幻想的な景色を一望する事が出来る。王都と草原の形状から鮮黄綬聖十字(エフィス・サンタクロス)と、勲章に例えて吟遊詩人達に歌われている、絶景のデートスポットだった(・・・)


「にしても酷いな」


「ええ、戦闘の跡のようですね」


 麻莉奈さんの言う通り、この地でも戦闘が行われたようで、地面は抉れて草は焦げ付き、まるで勲章についたリボンが虫に食われたように、無残な姿を晒していた。そしてまた、あちこちから黒煙が上がる。軍と魔物との戦いが、今まさに行われている最中であった。


「どうやら、アルスネルが優勢の様だな」


「そりゃそうよ。あそこの兵力はハンパないから」


「そうだな。だけど、そう長くも保たないぞ」


「どういう事?」


「兵が餓えてしまいます」


「そういう事だ。いかな強大な軍事力を持っていようが、メシが無ければ士気は下がる。元の世界の戦乱の時代でも、兵糧攻めをやられて敗北をした例が沢山ある」


 確かに、食事を摂れなければ戦う気力が失われ、それが続けば立ち上がる力が奪われる。


「王都にどれだけの備蓄がされているか分からんが、他からの補給が期待出来ない以上、アルスネルも長くは保たないだろう」


「楽しい未来図だニャ」


 ミルクさんが落胆しながら、ため息交じりで発した言葉に皆が頷く。アルスネルが壊滅した姿なぞ想像もしたくはないが、今それが着実に現実になろうとしている。


「お、戦闘が終わった様だ」


 見れば、軍と切り結んでいた魔物達が、散り散りになって戦場から離脱を始めていた。騎馬隊もそれを見ているだけで、追おうともしない。それとも、追うだけの余力が無い!?


「私達で掃討する?」


「無茶言うな。方々に散ったあれだけの魔物をいちいち相手にしてられるか。それにアイツ等をやった所で焼け石に水さ。臭いを絶つなら――」


「元から。ですね」


 麻莉奈さんの横入りに、スズタクは口角を吊り上げる。


「そういう事だ。今はまず王城に急ごう。美希、城内で知己の宛てはあるのか?」


「あるわ。近衛隊隊長ラスティン=アレクサード。それか傭兵団隊長フィリアン=オルフェノのどっちか」


「よりにもよってナンバーワンとスリーかよ。お前、随分高名な人物と接してんだな」


「スズタクだって、リリアナ王女と深い仲でしょ?」


「まだそれ言うか……」


 リリアナという名前が出た途端、麻莉奈さんの目が厳しいモノに変わった。私が言い出した事とはいえ、またこの突っ込むのが面倒臭いコントに付き合わねばならないか。


「良いカンジでバラけたニャ。今ならスンナリ行けそうだニャ」


 ずっと魔物の動向を見ていたミルクさんが、私達のやり取りを知ってか知らずか、良いタイミングで言ってくれた。このお陰で、面倒なコントに付き合わずに済んだ。私は心の中でサムズアップする。グッジョブミルクさん!

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