話
「ユアン、こちらへ」
ぱたぱたと私のもとへ走ってきた時とは違い、物静かな彼を思い出させるような落ち着いた声だ。
「さあ、話って?」
どこかソワソワしているイアルに早速本題を述べた。
「私…あなたとの婚約を破棄するわ。」
きっぱりとイアルの目を見て宣言した。
「……え?」
理解出来ていないような顔が私の目に映る。
「イアルとの婚約を破棄します。親には了承を貰ったし、貴方がどうしても家との関係が欲しいのなら妹のセルビアと結婚をするといいわ。」
呆然とするイアルに伝えたいことは伝えた。
イアルは未だ口を開こうとしない。
「要件はそれだけよ。じゃあ、失礼するわね。」
立ち上がり帰ろうと扉の前へ向かう。
「君は…」
ドアノブを掴もうとしたら、彼が言った。
「君は、何かやりたい事でもあるのかい?」
やりたいこと…か。
「サリテルと旅行へ行くわ。」
ついこの間までは20歳のイアルに会いたいと思っていたけれど…
今はサリテルと旅行をしながら過去の人生について語りたいと思った。
「………そうか…」
悲しくて耳のたれた犬のように下を向く彼。
破棄をして嬉しくはないのだろうか。
「これで貴方も私も自由よ。セルビアの事くれぐれもよろしくね。」
出ていく間際彼が問う。
「君は僕のことが好きなのか?」
「ええ、大好きよ。」
本当の気持ちを彼に伝える。
だけど、今は何か違うことを楽しみたい。
彼を想う気持ちで何も見えなくなってしまうような未熟な私なら、今はまだこの言葉は発するべきではないのだろう。
「大好きだったわ。」
サリテルとの旅行を思い切り楽しもう。
それだけを考え、そそくさとイアルの屋敷を出た。




