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人外達の歩み  作者: 葛城 大河
第二章 帝国陰謀編
12/13

第八話 魔獣と魔人

クロウ・ウィーティアは、アルバートと共に敵を蹴散らしながら、徐々に王城に近付いていた。だが、そんな彼等は、違和感を覚えていた。



(これは? 王城に近付いている筈なのに、先に進めない?)



クロウは何かが可笑しいと疑問に思う。もう王城付近に近付いてる。その筈だ。しかし、何故かそれ以上先に進めないのだ。進んでも進んでも見えるのは、同じ景色のみ。如何なっている。



「これはいよいよ持って可笑しいのぅ」



進むのを一旦辞めて、アルバートが口を開く。と、また違和感を感じた。



「ッ⁉︎ 人が居ない」



先に言葉を発したのはクロウだった。周りに居た敵が一人も居なくなり、その場にクロウとアルバートだけの二人しか居ない。何だ? 何が起きている? 疑問を思う二人だが、分かる事は一つあった。



「如何やら儂等は、敵の術中にハマったようじゃな」



この現象が敵による物だという事。それを理解しているのか、クロウは魔力を、アルバートは武威を迸らせ、周りを警戒した。何時でも何処から来ても対処出来るように。しかし、そんな警戒が無駄という風に、透き通る声が聞こえた。



「人払いの結界。これで誰も私達に気付かないわ」


「流石ね。クナリスの結界魔法は」



現れたのは異質な本を持つ妖艶な女性と、黒い獣を肩に乗せる少女だった。突如現れた二人の女性に、警戒心を露わにするクロウ達だ。只者ではないと、彼等は直感する。そして、アルバートは聞いた。



「お主達は、まさか『十三死団』か」



それはもしかしたらと言う思いが強かった。はっきり言って『貴族派』で一番危険な敵は、『十三死団』だけである。故に、このような現象を生み出している者が、唯の女性とは思えない。そんなアルバートの質問に、彼女達は笑みを浮かべた。男ならば見惚れる程の微笑。それらを浮かべると姿勢を正して、口を開く。



「はい。私は『十三死団』がメンバー。クナリスと申します」


「そして私が『十三死団』メンバーの一人。ネリアよ」


「ガウッ‼︎」



クロウ達に対して、彼女達は自分の名を名乗った。それが『十三死団』のルールであるからだ。彼女達の名を聞いた二人の動きは迅速であった。クロウは魔力強化で、身体能力を上げて彼女達に肉薄し、アルバートは最上級炎魔法『バニシングバースト』を放つ。もう彼等には、目の前の女性達がか弱い者とは思っていない。『十三死団』と言う単語を聞いて、そのような考えなど即座に切り捨てた。奴等は強力な敵だ。



炎の奔流をしかし、ネリアの側に居た黒い獣が、口を開けた事によって、飲み込まれた。その光景に驚くも、クロウは攻撃が最優先と判断し、魔力を手に込めてクナリスに放った。が、見えない何かに阻まれたように、クロウの拳が弾かれた。



「くっ⁉︎ これは………結界魔法か」



弾かれた事に眉を寄せて、改めて確認すると、クロウは理解した。クナリスの周りを覆うように紫の結界が張られていたのだ。アルバートも彼の横に並ぶように立つ。



「クスクス、酷いわね。行き成り攻撃を仕掛けてくるなんて」



妖艶に笑い、クナリスは二人に視線を向ける。



「何を言ってるのクナリス。彼等は敵なのだなら、当然でしょ」


「ふふ、確かにそうね」


「笑ってる場合じゃないわよ。攻撃をされたのよ。此方も反撃をしましょうクナリス」


「分かっているわ。ネリア」



そうして彼女等は視線を鋭くさせた。それに構えを取るのクロウ達である。クナリスは異質な本を開き、ネリアは「出番よ。ガウル」と黒い獣に言った。瞬間ーーーガウルと呼ばれた黒い獣の体が膨れ上がった。五メートル、六メートルと尚も巨大化し始める獣に眼を見開く。そして遂には二十メートル超程の大きさまで巨大化した。次にクナリスが右手を前に差し出すと、淡い光が覆い尽くし、彼女の背後に青い結界で造られた硝子のような剣が五つ浮遊していた。



「行きなさい。結界剣」



開戦の合図はクナリスの言葉だった。彼女の言葉に従うように結界の剣が射出される。物凄い速さで迫る剣群に、クロウは最上級闇魔法の『ダークネス・レイブン』で迎撃するも、結界の剣は意に返さずに闇を斬り裂いた。驚くクロウだが、なんとか避けようと体を動かす。ギリギリに彼は避ける事に成功した。次いで、避けた先には二十メートルの黒い獣が待ち受けていた。ウガァァァァァァァァァッッッ‼︎ と大きな雄叫びを上げて、前足をクロウに振るった。しかし、彼に当たるよりもアルバートが獣に拳を叩き込んで、前足の軌道をズラして事なきを得た。



「ありがとうございます。アルバート様」


「よい、儂も助けて貰ったからのぅ」



礼を言うクロウに、アルバートは苦笑する。が、すぐに眼を真剣な物にして、女性達を見据えた。一歩もその場所から動かずに、微笑を浮かべるが美女達は、それぞれが腕を前に出し、指を弾く動作をした。それにより起きる現象は二つだ。結界によって作られた剣群が、弾丸の如く射出され、黒き獣が咆哮を上げて悍ましい闇の異形達が出現する。



「ッ⁉︎ これは、益々ヤバいのぅ」



魔力強化した肉体で、迫り来る剣群をクロウと共に避けていたアルバートは、現れた化け物を見て背筋に寒気が奔った。あの化け物は駄目だ。彼等の本能が、そう告げる。



「闇よ。我は汝に命ずる。我が眼前に存在する敵を滅せよ」



クロウは詠唱を口にしていた。化け物を眼にした瞬間に、出し惜しみをせず、全力でアレ等を滅ぼす事を考えたのだ。詠唱するのは、クロウの持ち得る広範囲に対して、有効打を持つ魔法。



「誰も前に立つ事は赦さぬ。汝らは、ただ後ろで怯えて控えるが良い」



前に誰かが居る事が我慢出来ず、自分以外は背後で跪いていろと傲慢に告げる詠唱。膨大な魔力が放出され、それが形をなす。その魔法の名はーーー



「『ダークレイ・パニッシュ』」



最上級闇魔法の頂点とされる魔法が発動した。クロウの周りを数百を超える小石程度の闇の球体が現れ、遅い動きで雪のように下に落ちる。その漆黒の雪に化け物が触れた途端、雪が体を浸透したと思いきや、破裂した。次々と雪に触れた化け物が破裂して行き、次に漆黒の雪が向かう先は黒き獣の方だ。眼で捉える程に遅く振り落ちるソレは、しかし広範囲に降り続けているが故に避ける事は難しい。



一気に決める。と、クロウは新たに魔力を放出して固有魔法『闇影魔法』を発動して、獣を影の鎖で縛り付けた。これで動く事は出来ない。勝機を見た彼等だが、しかしそれは生温かった。



ーーー◾︎◾︎◾︎◾︎■■■■■■■■ッッッ



それは何の言葉だったのか。雄叫びとは違く、悍ましいナニカの言葉は彼等に聞き取れない。だが、そのナニカの言葉の所為で『ダークレイ・パニッシュ』と『闇影魔法』が消し飛んだのは確かだ。



「無駄な抵抗ね。………ガウル」



無意味だと言う風に目の前に居る獣に、そう告げた。ガウルと呼ばれた獣は命令に従うかのように、驚異的な速度で動き一瞬にしてクロウに迫った。



「…………くっ」



反応すら出来ず、唯一出来たのは防御の構えだ。そして次に訪れるのは、防御に構えた腕からの凄まじい衝撃だ。耐える事が出来ずに空中に投げ出され、ガウルはそれを追う形で飛び上がる。



「ッ⁉︎ クロウ殿⁉︎」


「あら、行かせませんよ」


「ぐっ…………⁉︎」



宙に飛ぶクロウを見て、助けに行こうとするアルバートに対してクナリスは結界剣で進行を防ぎ、剣群を放つ。放たれた剣群を避ける為に、一旦動きを止めて後退しながら身を捩り避けた。助けに行けない事に歯噛みしながら、クナリスを睨み付けた。そんな剣呑な空気の二人とは別に、宙に無防備な状態で投げ出されたクロウは、焦りながらも闇で体を覆う防御魔法の『ダークアーマー』を使用する。そこに漆黒の影が迫った。振るわれる前足は、容易に闇の鎧を砕き、クロウの腹部にめり込み、バキバキと音を鳴らして地面に向けて吹き飛ばす。



「か……はぁ……⁉︎」



轟音を響かせ、地面に衝突した彼は、肺に溜まった空気を吐く。少し呼吸困難に陥りながら、殺気を感じたクロウは横に逃げる。次いで、彼が立っていた場所が盛大に爆ぜた。息苦しさを我慢しながら視線を向けると、そこに居たのは黒い獣だ。



「くっ…………その獣は一体なんですか」


「さて、なんでしょうね」



魔物よりも禍々しく、魔獣以上に凶暴なこの生物。激痛に顔を歪めながら、思考を重ねるが、やはり自分の知識の中に該当する物は何一つなかった。脂汗を掻き睨むクロウに、微笑で返すネリアは、ガウルを元のサイズにへと戻した。



「…………?」


「見せてあげるわ。この子と私のもう一つの戦い方を」



元のサイズに戻った獣に訝しむクロウに、聞かせるように彼女は呟いた。そして蠱惑的な笑みを浮かべて言った。



「ーーー部分融合」



すると、彼女の右手が黒く染まり歪に変わる。次の瞬間には、そこには人の手は無く、異形の右手があった。鉤爪よりも鋭いソレは彼女の身長を超す程に肥大化しており、漆黒に染まっている。近くには黒き獣ガウルは居なく、彼女一人だけが立っていた。突然の変化に眼を見開いたクロウだが、冷静に状況を分析していた。



(なんですかアレは。それより、あの獣は何処に行ったのですか?)



頭を回しながら彼は脳内で整理して行く。突如、変わった彼女の右手、何時の間にか消えた獣、そして最後に言った一言。それらを合わせると、答えが見えてきた。



「獣との融合。それによって力を何倍にも膨れ上がった?」


「正解よ」



声に出した答えに肯定として彼女は返す。そうこれは彼女とガウルの融合。お互いの力を打ち消さずに、何倍にも膨れ上げさせる業。彼女達だけにある力だ。



「さぁ、戦いを始めましょう」



そして戦闘の再開を上げる。異形の右手を開き、頭上に持って行きネリアは、そのまま地面にへと振り下ろした。音速を超えた右手は地面を捉えると、凄まじい振動を起こし地面が蜘蛛の巣状に罅が入る。余りの一撃に絶句する彼だ。そんなクロウの事など気にせずに、ネリアは地面すれすれで駆けた。自分の身長よりも大きな右手を持つにしては、あり得ない速度で肉薄する。



「くっ…………闇よ、進行を阻め‼︎」



手を眼前に突き出すと、闇色の靄が発生して、クロウを守るかのように獣の前に出現した。だが、そんな事など気にせずに彼女は異形の手で靄を切り裂いた。そしてクロウに狙いを定めようと前を見ると、彼の姿は無かった。動きを止めて、周りを見渡すが、何処にもクロウの姿が見当たらない。すると、ネリアの影から腕が現れて右足を掴むと、そのまま物凄い勢いで投げ飛ばす。突然の出来事に体を動かすのが遅れ、彼女はその手により前方に飛ばされた。



その中、視線を先程の手に向けると、またもやそこには手はなく、何もない地面だけがあった。意味も分からずに思考を走らせると、水平に飛んでいながら地面に出来ている影から、クロウは現れた。その手に持つのは影で出来た剣だ。その剣を上段から振り下ろす。それを咄嗟に異形の手で防ごうとするが、しかしほんの少しだけ、クロウの方が速かった。



ネリアの頭めがけて振り下ろされた剣は、吸い込まれるように頭に接触する。だが、クロウの手に伝わったのは肉を斬る感触ではなく、何か硬い物を斬った感触だ。気になった彼は視線を剣の方に向けて、そのまま絶句して硬直する。



「ふぅ、少し冷や冷やしたわね」


「貴方は何なんですか」



存在を確かめる風に聞くクロウに対して、彼女はただ笑みを浮かべるだけ。しかし、その笑みは妖艶で美しかった先程とは違く、今は悍ましい。彼女の頭は、いや頭から首までが、ついさっきとは変貌していた。ネリアの右手同様に、それは異形と化し頭から漆黒の角が二つ程天に向けて生え、その瞳は鮮血の如く染まり、笑みを浮かべる彼女の口の中は鋭利な刃物のようなギザギザとした物がある。さっきまで美女だった彼女と打って変わった悍ましい姿に彼は戦慄する。



「何をそんなに驚いているの?」



差して自分の現在の姿など気にせず、陽気に彼女は言う。それに危機感を感じたのか、クロウは自分の影の中に潜り込んだ。これが、先程まで彼が使っていた物だ。『闇影魔法』の移動方の一つであり、自分や他者の影の中に文字通り潜る影移動である。それを見てネリアは、さっきの種を理解したと同時に、より一層に凄絶な笑みを深める。瞬間。ズゾゾゾゾゾッと嫌悪感を感じさせる音を響かせ、左手が右手同様に肥大化して異形と化した。そして次の瞬間。



「もう同じ手は飽きたわよ」



左右の異形を同時に地面に振り下ろした。轟音を鳴らして地面を陥没させる。彼女の周りが凹み直径十メートル深さ五メートルものクレーターを作り出した。影に潜り込んだクロウは、影ごと吹き飛ばされた事により、影から出る事を余儀無くされた。それを見逃さずに、ネリアは鮮血の瞳を向けた。



「ふふ、み〜つけた」


「くっ⁉︎ 闇よ。全てを包む深き闇よ。我が敵を汝らの力を持って封じ込めよ『黒夜の牢獄』」



発動するのは最上級闇魔法による封印結界だ。敵を結界の中に閉じ込め、魔法やあらゆる身体機能を封じる。とはいえ、彼は一時凌ぎでしかない事を理解していた。ただそれで良い。少し考えるだけの時間がクロウには必要だった。結界内にネリアを封じ込めるのを確認すると、大きく後退して、駄目押しとばかりに新たな魔法の詠唱を行う。それも古代魔法のだ。



「あぁ、何故だ。何故、彼の者は嫌う。あらゆるモノを包み込む、この漆黒の光を」



祈るように唄うように、静かにクロウは言葉を紡ぐ。全神経を、この魔法の為に注ぎ込む。



「破壊を齎し、終末を連想させるその光は、まるで人を表しているようだ。あぁ、美しい。何故、彼の者は理解しようとはしない」



まるで、神に敬うように手を空に突き出す。意味が不明の言葉の羅列。



「私は愛そう。私は信じよう。その光こそ、私が望むモノであり、私自信の心象そのものであると。あぁ、なんと美しく儚いのだ。この儚さが永遠にへと、続けば良いのに」



膨大な魔力が天に上り、空を黒く染める。一筋に差し込む光は、まるで悲しんでいるよう。そして終わりを迎えた。



「さぁ、一緒に落ちよう。『堕ちる闇光の嘶き』」



瞬間ーーー天から闇が落ちた。這いずるように蠢き、悲しさを覚える儚さを持つ破壊が下りてくる。ネリアは勢い良く空を見上げた。いや、彼女だけではなく、今まで近くで戦っていたアルバートやクナリスも見上げて絶句する。何処か儚くも切ない、破壊を齎す闇。それは六つの柱となってネリアに降り注ていでいく。



「ーーーーッッッッッ⁉︎」



それにネリアは体全体が震えるのを自覚した。その儚さにか、漂う悲しさにか、その全てにか。彼女は自分の死を幻視した。すると、彼女の全身が異形に歪んだ。両腕や頭だけではなく、腹が足が、体全てが異形に変わる。完全融合。ネリアが黒き獣と、完全に融合した姿だ。そこにはもう女性との特徴はなく、三メートルを超える身長をしたモノが居るだけ。鮮血の瞳を落ち行く闇に向けて口を開く。



「ーーーー■■■■■■■■■ッ」



聞き取れない言葉、いや聞くのすら悍ましく感じる程の全く別の言語を告げる。それは黒き獣が闇の鎖を砕いた時と同じだった。言語を発せられると同時に、闇の進行は何かに阻まれているのか、その場で静止してナニカと拮抗している。恐らくはそのナニカが、ネリアの発した言語の正体なのだろう。しかし、クロウは慌てる事はしない。この古代闇魔法は、終わりを齎す魔法(・・・・・・・・)なのだ。



ーーー神代魔法。



その魔法は、神の時代。即ち神話に確かに存在した魔法だ。神世の怪物か、はたまた天使か、神のみが使える事を許された魔法の頂点とされる魔法。クロウが使用した魔法は、古代魔法ではあるが、最も神代魔法に近しいと言われる代物である。それがこの程度な訳が無い。



拮抗しているナニカと闇だが、少しずつ闇が進み始める、六つの闇光は、一つに束ねられ巨大な一つの大柱に変わる。次の瞬間ーーー崩壊が始まった。



「ーーーーーッ」



ボロボロとナニカが崩れるのを感じ取れ、それと同時に周りに展開される人払いの結界すらも闇光の影響で崩壊を始める。阻む物が無くなった大柱は、より巨大に膨れ上がり周囲を包み込むように広がっていく。その様は、まるで終末のよう。終わりを告げる悲しき光は、そのままネリアに殺到する。彼女は自分の力が効かなかった事に硬直して、動きを止めていた。そして神代魔法に最も近き魔法が激突した。そこに音は無く、静かな終焉があった。



崩れる。己の体が崩れるのを自覚した。右手を見ると、そこには手などはなく、肩まで崩れていた。それに彼女は理解した。自分は恐らく後数秒で死ぬだろう、と。何故か死ぬのは怖くない。闇の光に包まれていながら、そこにあったのは如何しようもない安らぎだ。これがこの魔法の力か。その安らぎに身を委ねようとする彼女は、だがそこで踏み止まった。自分は死ぬ。それはもう覆らない決定事項だ。



しかしただでは死なない。右手から左手へと崩壊が始まる、己の体を見てネリアは叫んだ。



「ーーーー■■■■■■■■■■■■ッッッ‼︎」



また告げる別の言語。しかし、それは先程の力とは違うモノだ。口を大きく開けて、クロウに向けてそのまま“喰らう”。



「ッッッ⁉︎」



瞬間。彼の左腕から肩までが、消失した。激痛に表情を歪めるが、ネリアを見て呆然とした。彼女の口は何かを咥えていた。その咥えている物をぺっと吐き出す。それはクロウの左腕だ。確認すると戦慄が彼に奔る。一体何が起きた。あの距離から何をした、と疑問が頭に幾つも浮かぶ。



「ふふふふふ、私はもうすぐ死ぬ。それが手に取るように分かるわ。だけど、そう簡単に死ねないの。私は『十三死団』の人間。一人でも多く殺すわッ‼︎」



『十三死団』の誇りを掛けた独白。己を鼓舞するかのように一人で呟く言葉。別に返事が返ってくるとは思っていない呟き。



「………それが貴女方の矜恃ですか」



敵ながら見事、と答えるクロウに彼女は再度口を大きく開けた。それを見るや否や彼は動いていた。未だに闇光の柱は発動されている。彼女が完全に崩壊するのは時間の問題だろう。ならば、自分がする事は、その時間を稼ぐ事だけ。そうすれば、此方の勝利なのだから。



「貴方の考えは分かるわ。だけど、そうはさせない。絶対に貴方だけでもここで殺す」



ネリアもまた、同じ事を考えていた。時間が来る間に早く殺す。開けた口を閉じた。瞬間に、クロウの横にあった地面が抉れる。そして彼女の口には、その抉れた地面が咀嚼されていた。一体どの用な力かは分からないが、これが彼女と黒き獣の本当の力だと理解する。



黒き獣ガウルーーーまたの名は古代生物ガリアンド・ムスペイル。古代に存在した怪物。凄まじい治癒能力と、肉体能力、巨大化能力、破壊能力を持った化け物。しかし、それはあくまで序でに過ぎない。()の獣が真に持つ能力は、『喰う』力だ。ガリアンド・ムスペイルには、胃袋などなく、独自の異空間を持っていた。それにより、この獣が喰らった物は、どんな物でも異空間に保存される。それだけではなく、ガリアンドには喰らう際の距離などなく、眼で捉えていれば如何に離れていても喰らう事が可能であった。



その為、常に空腹なこの獣は自らの空腹で餓死して、滅亡すると言う余りに巫山戯た理由で居なくなるのだが、その唯一の生き残りがガウルである。そして異空間に保存した物を、自分の力として使役出来る力を持つ。例え“喰らう”力を持っていようと、彼女はこの闇光を喰らえる事を出来ないのを理解している。彼女は、再度口を開き、己の異空間からソレを取り出した。



変わる。周りの風景が、全てが変質した。荒れ果てた戦場。『十三死団』の仲間が所持していた固有魔法『暴虐の戦場』。随分昔に喰らった事により保存していた魔法を解き放った。彼女の体には漆黒の痣が浮かび上がる。



「さぁ、行きなさないっ‼︎」



その痣を幾つもの大剣に変えてクロウめがけて放つ。飛んでいく大剣を躱していく彼にネリアは狙いを定める。次に異空間から引き出すのは、高火力を誇る一撃。口を開いた口内には、紅蓮の炎が渦巻く。嘗て喰らった古代龍(エンシェントドラゴン)の大火炎。それを解き放った。炎の奔流は空間すら焼失させる勢いで津波の如く執事の魔人に迫る。眼を見開き彼は、今自分が使える最大の防御魔法を展開した。闇の障壁が、未だに降り注ぐ大剣と、次に衝突した大火炎を受け止めた。



「…………ぐぅぅぅぅぅぅぅぅッッッ⁉︎」



大火炎の威力に脂汗を流す。片腕が無くなった所為で上手く魔法を制御出来ない。だが、意地で受け止め続ける。それを見据えていたネリアは最後だと言う風に新たな物を異空間から引き摺り出した。それは槍だ。深い緑の長大な槍。仲間の男が自らの固有魔法で創り上げた強大な力を持つ槍。未だに彼女でも使いこなせていないが、今の状況に持ってこいだ。深緑の光を放ちながら、口から覗かせた槍の穂先をクロウに向ける。そのまま射出した。音を置き去りにし、大小が如何あれ傷付けた者(・・・・・)に死を与える(・・・・・・)絶対の槍。



それが迫るのをクロウは眼の端で捉えていた。しかし、大火炎を受けるので精一杯で動けない。万事休すか。そう思った時に、呆気ない幕切れが起きた。その槍と大火炎、そして降り注ぐ大剣が消えたのだ。



「こ、これは」



それに呆然としながらも、ネリアの方を見て納得した。そこには体の八割が崩壊した彼女が居た。限界。その一言が脳裏を過る。クロウは最後の最後で時間に勝利したのだ。



「あ〜あ、惜しかったわね」



自分の崩壊する体を他人事のように見て渇いた笑みを浮かべる。そしてーーー彼女は完全に崩壊した。







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇







ネリアが消えるのを確認するとクロウは、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。それにアルバートが反応する。



「ッ⁉︎ クロウ殿っ‼︎」



横たわる執事に駆け寄り、状態を確認する。そして気絶しているだけだと分かると、安堵の息を吐いた。と、同時に先程の魔法を見て益々クロウに対して疑問が膨れ上がった。



(全くとんでもない奴じゃな。お主は本当に何者なのじゃ)



恐らく陛下は全てを知っているのだろう。じゃなければ、これ程までの力を持つ者を自分の側近などにはしない。



「あら、まさかネリアが倒されちゃうなんて。それにあの魔法は凄いわね」



離れた場所に居るクナリスが、自分の仲間と先程の魔法に軽い言葉を放ちながら視線を鋭くさせた。その手に持つのは結界で生成された片手剣。ゆっくりとした動作で、歩を進める。しかしその視線は気絶するクロウから離さずに。彼女の視線の先に気付いたアルバートは、クロウを庇うように立つ。



「何をする気じゃお主」


「いえ、あれ程の力を持つ者を生かしておいたら、危険だから始末しようかと」


「させると思うのか? この儂が」



相変わらずの微笑を浮かべる美女に、全身から武威を迸らせるアルバート。お互いに見合いながら、立ち止まる。そして先に動いたのは、アルバートだった。魔力強化した身体能力で、近付き顔に拳を叩き込む。が、それは顔の前に展開された紫紺の結界に防がれる。舌打ちを鳴らしながら、拳を引いて蹴りを腹部に放つ。しかし、紫紺の結界は移動して蹴りも受け止める。それでも次々に攻撃を仕掛けるアルバートだが、悉く結界に受け止められた。



「流石は元凄腕の冒険者ですね。ですが、私の結界はその程度では壊せない」


「………なにっ⁉︎」



結界で防ぎながら、彼女は持っている異質な本を開いた。開かれた本に手を置き、振り払う動作をすると、アルバートの周りに多種多様な結界が展開された。彼は囲うように現れた結界に驚くが、何が来ても対処出来るように身構える。すると、クナリスは指を鳴らした。パチンッと合図が鳴ると、全ての結界が光を放ち明滅する。



「ま、まさかっ⁉︎」



次の瞬間ーーー大爆発が発生した。結界内に居る者と共に結界を爆破する。だが、なんとか耐え抜いたのかアルバートが立っていた。



「くっ……かはっ⁉︎……はぁ……はぁ」



今の一撃で満身創痍。昔は名を馳せた冒険者だったが、如何せん老いには勝てない。体力が低下し、少し動けば息を荒げてしまう。昔の己なら、先程の攻撃も避けられたであろう。両膝がガクガクと笑う。どんなにも意地を張っても人には限界が存在する。全身に血を流す彼を一瞥した後、クナリスは視線をクロウに向けた。腕を頭上に上げる。すると、本が光りそこに数百を超す結界剣が造られた。



「くぅっ、させぬ」



再度、クロウを守ろうとするアルバートだが、思うように体が動かない。クロウはこの国では必要な存在だ。こんな所で死んで良い者ではない。帝王陛下の為にも。だが、現実は余りに非情。このまま行けば、一人の魔人の命が尽きるだろう。そうーーーこのまま行けば。



「…………ッ⁉︎」



最初に気付いたのはクナリスだった。その次にアルバートが気付き空を見上げた。そこには一つの黒い点が、徐々に大きくなって此方に迫ってきていた。そして彼等から少し離れた場所に落ちた。耳を劈くような轟音を鳴らし、土煙を巻き上げる。二人は硬直して、落ちてきた場所に注視した。煙が晴れて来て、そこから現れたのは紅い外套を羽織った青年だった。



「お、お主は⁉︎」



アルバートはその青年に見覚えがあった。いや、そもそも彼に依頼を頼んだのだから当たり前と言えるが。それより、何故その者がここに居るのかだ。彼等には王女の護衛を頼んだ筈だ。その一人がここに居る事はあり得ない。



「な、何故お主がここにおる。お主にはシャルロット様を任せた筈じゃろっ‼︎」


「ん? あぁ、あんたは宰相の爺さんか」



声を荒げる老人に対して、青年の反応は軽い物だった。まるで事の重大さが分かって居ないように。それに声を上げようと口を開くが、それより先に青年が言った。



「心配するなよ爺さん。シャルの所にはコハクが居る。生半可な敵には負けねぇ。それよりもあんたの方が絶体絶命何じゃねぇか?」



青年ーーーマークの言葉に口を噤む。確かにその通りだ。今、彼は絶体絶命の状況に陥っている。口を閉じたアルバートを視界に収めて、マークは状況を確認した。執事服を着た魔人が倒れている。離れている位置に居る美女と、宙に浮かぶ数百の剣群。それを見て敵が誰なのかを理解し、クナリスの方に体を向けた。



「で? お前が敵で良いのか」


「……………」



確認するように言葉を告げる彼に、クナリスは何も言わない。いや、何も言えない。あの青年が来た時から、自身が持つ異質の本が恐れるように震えていた。警告するかのように。



「なんか言えよ」


「…………ッ⁉︎」



何も言わない美女に、痺れを切らしてマークは一歩進んだ。それにクナリスは反射的に背後に控える数百の剣群を一斉に射出させる。迫り来る結界の剣群。後ろからアルバートが何か叫ぶが、マークは避ける動作すら見せずに「はぁ」とため息を吐くと、右腕を横に振った。瞬間ーーー訪れるのは圧倒的な拳圧。ソレは飛来する全ての(・・・)結界剣を、破砕し、砕き、破壊し尽くした。それだけでは止まらず、地面に罅が生え、建物が瓦解する。



「……………」



絶句。その馬鹿げた光景に、アルバートもクナリスも開いた口が塞がらない。ただ軽く振っただけで齎された現象。余りに規格外。余りに圧倒的、余りに理解不能。その力は理解すら出来ない。そしてアルバートは、ここに来る前に見た人工林の出来事を思い出した。国全体を揺るがす衝撃と、消滅しま林の半分。それを行ったナニカ。それがこの青年なのだと、理解した。してしまった。



「行き成り攻撃か。分かり易くて良いな」



驚愕する二人を無視して言葉を放つ。クナリスは一つの間違いを犯してしまった。あのまま、攻撃をせずに恐怖していれば、助かっていた。しかし、恐怖に負けて攻撃をしてしまった、それが間違え。その所為で、最もこの世界で敵対しては成らない理解不能の化け物に敵と判断されたのだから。全ての存在の枠から外れた埒外な青年。彼は一歩ずつ前を進んでいく。一歩進む度に重圧が増し、地面に亀裂が入り、体に重くのし掛かる。



「お前は敵で良いって事だな?」



彼女は言葉を発する事は出来ない。もう手遅れなのだ。この空間の支配者は自分や、彼処にいる宰相でもない。紛れもなく目の前の青年だ。自分の失敗を嘆く前に、恐怖が募って行く。そんなクナリスの心境など梅雨知らずに一人の人外は、手を広げた。



「さぁて、覚悟は出来てるか」



こうして戦場に人外たる青年が参戦した。彼の参戦により、戦況は大きく変動する。




















主人公参戦‼︎ まぁ、一瞬で終わるんだけどね。

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