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元暴走族の50歳海将、異世界で非正規農夫に。最強スキル『酒保』の酒と煙草で、伝説の暗殺者やバケモノ達と一服する無双スローライフ  作者: 月神世一


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第一章 ポポロ村・非正規雇用編

出雲艦隊総司令官、異世界の窓口でシルバー枠を断られる

「――やはり、金曜日はこれに限るな」

海上自衛隊、出雲艦隊打撃軍・総司令官室。

海将である坂上真一さかがみ・しんいちは、萩焼の深い皿に盛られたカレーライスを平らげ、満足げに息をついた。

海自の伝統である金曜カレー。こればかりは、どれだけ階級が上がろうと欠かすことのできないルーティンだ。

食後にブラックコーヒーを喉に流し込み、胸ポケットから取り出したコーヒーキャンディを一つ、口に放り込む。

スパイスの余韻と、コーヒーの苦味、そしてキャンディのほのかな甘味。

激務の合間に訪れる、至福のひとときだった。

「少し、目を瞑るか……」

艦の微かな振動を背中に感じながら、真一は革張りのソファに深く体を沈め、仮眠をとることにした。

それが、彼が地球で過ごす最後の時間になるとは知らずに。

 ◆ ◆ ◆

――カツン、カツン、カツン。

耳障りな足音と、得体の知れない喧騒で真一は目を覚ました。

鼻を突くのは、潮の香りではない。土と、得体の知れない香辛料、そして獣の匂いだ。

「む……」

ゆっくりと目を開ける。

そこは、見慣れた無機質な総司令官室ではなかった。

レンガ造りのような古めかしい建物と、その合間を縫うように走る近代的な……いや、どこか歪な『魔導車』なるものが通り過ぎていく不思議な街並みだった。

「……坂上、ここは……何処だ?」

誰に問うわけでもなく、真一は低い声で呟いた。

普通ならパニックになるところだろう。だが、元暴走族総長であり、修羅場を潜り抜けてイージス艦の艦長、そして打撃軍の総司令官にまで上り詰めた50歳の男の胆力は、常軌を逸していた。

(夢か、幻覚か。……いや、空気が違う。重力が僅かに軽い気もするな)

真一はゆっくりと立ち上がり、自身の状況を確認する。

純白の海将の制服は乱れていない。胸ポケットには、芋焼酎を入れた銀のスキットルが入っている。

そして何より――左腰に、確かな重みがあった。

名刀『正宗』。

有事に備え、彼が常に手元に置いている愛刀だ。

「刀があるなら、どうとでもなるか」

真一は静かに息を吐き、周囲を見渡した。

目の前に、大きな看板を掲げた建物がある。ひっきりなしに様々な人間――中には獣の耳が生えた者や、尖った耳の者まで――が出入りしていた。

看板の文字は読めないはずなのだが、なぜか脳内に『人材ギルド』という言葉が浮かび上がった。

(まずは情報収集だな。ハローワークのようなものか)

堂々とした足取りで、真一はギルドの扉を押し開けた。

中は冒険者や労働者らしき者たちでごった返していたが、真一の纏う『覇気』のせいか、自然とモーゼの十戒のように道が割れた。

「次の方~」

カウンターの奥から、事務的な声が響く。

「私かな? すまないが、ここは何処かな?」

真一が尋ねると、書類から顔を上げた受付嬢は、怪訝な顔で真一を上から下までジロリと眺めた。

「は? ルナミス帝国ですけど。はい、忙しいのでこれに記入して下さい」

「ふむ」

雑な対応だったが、真一は腹を立てることもなく、渡された羽ペンでサラサラと羊皮紙に書き込んでいく。

『名前:坂上真一』『前職:海上自衛隊 出雲艦隊打撃軍 総司令官』。

書き終えて、用紙を提出する。

それを見た受付嬢の眉間が、盛大にシワ寄った。

「イズモカンタイ ダゲキ ソウシレイカン?……何ですかコレ」

「ありのままを書いたのだが」

真一が淡々と答えると、受付嬢はため息を一つ吐き、用紙をバンッとカウンターに叩きつけた。

「こちとら暇じゃないんですよ。シルバー枠はないので」

「手厳しいな」

真一はフッと口角を上げた。

どうやら、50歳の白髪交じりのオッサンが書く『痛い妄想』だと思われたらしい。

(まあ、仕方あるまい。郷に入っては郷に従え、だ)

窓口を離れた真一は、ギルドのロビーの隅にある待合席に腰を下ろした。

とりあえず、一服したかった。

胸ポケットから、愛用の『ハイライト』を取り出す。

そして、一緒に忍ばせていた紙製のマッチブックを指先で開いた。

シュボッ。

赤い頭薬を擦り、小さな炎を立ち上げる。

真一はゆっくりとハイライトを咥え、マッチブックの火を近づけた。紫煙が肺を満たし、ふう、と深く息を吐き出す。

騒がしい異世界のギルドの片隅で、彼だけが切り取られたような静寂と、大人の渋みを纏っていた。

「――もし……お困りでしたら」

不意に、横から声をかけられた。

真一が視線を向けると、そこには仕立ての良い執事服を着た男が立っていた。

丁寧な物腰。だが、頭にはピンと立った『狼の耳』が生えている。

「ポポロ農場の、非正規雇用を募集しておりますが」

人狼族の執事、リバロンだった。

相手の微細な筋肉の動きや、隠しきれない異常な闘気。ただの農場のスカウトではないことなど、真一の目には明らかだった。

真一はタバコを指に挟んだまま、面白そうに目を細めた。

「……非正規の農夫、か。悪くない響きだ」

出雲艦隊打撃軍・総司令官。

異世界での第一歩は、まさかの日雇い農夫からのスタートとなった。

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