四十二話 (視点クィム)
「なるほど、ではバプタイズ様の遺された設計図をもとに、錬成器という機械を作って川をきれいにしたいから……我々を……」テントで説明を受けたディエゴ殿はすんなりと状況を理解していた。
帝国では魔法使いの素質のあるものは高水準の教育が受けられると、ロドリゴ殿とエンリケス殿との話で知っていたが、あっさりと理解するほどとはさすがだと感じた。
「ところで、ディエゴの魔石ってどういうことに使えるんだ?魔法使いによって、色々違うみたいだが。」そうナサン殿が聞けばディエゴ殿はポケットから澄んだ水色の石を取り出した。
その石をテーブルに置いたかと思うと、花瓶の水をかけた。
全員が驚いて立ち上がる。ただ一人マルケスが落ち着いて見ていた。
水をかけられた石は濃い青色に変わった。
「私の魔石は、水流を調節するときの促進剤、もしくはこの水は飲めるかどうかの判断材料になります。
先ほどの花瓶の水は、飲むのをやめた方がいいということです。
飲んだら死んでしまうほどの毒性を持った水……あの国境沿いの川の水では、この魔石は真っ黒になり、安全な水は澄んだ水色に変わる。
街ではこうして飲み水を確保してきました。
……なにより魔法は、人を傷つけるためにあるものではありませんからね。」
その言葉に、ナサン殿は拳を強く握りしめ、絞り出すような声で聴いた。
「……俺には魔法使いの素質があるらしい、それはお前も気付いたのか?」
ディエゴ殿は静かに頷いた。「えぇ、一目見たときから。」
ナサン殿は俯いた「……バプタイズは、俺の育ての親だ。じいさんは俺に読み書きを教えなかった、魔法使いには必須の読み書きを、だ。
……もしかしたらじいさんは、俺が魔法使いになったら、人を傷つけるんじゃないかと思って、そう思って教えなかったんじゃねぇかって……」
ナサン殿は言いたいことがまとまらないようで、徐々に声が小さくなっていく。
静かに聞いていたディエゴ殿は、立ち上がってナサン殿に近づきナサン殿の肩に手を置いた。
「王国では、勘違いされているが……帝国では、いや少なくとも、俺の学んだ学院では人を傷つける魔法を教わることはない。」その言葉に、全員の視線がディエゴ殿に集中する。
ロドリゴ殿もエンリケス殿も頷いて、見守るように座った。
「魔法使いというのは……力があるからこそ、弱き者の立場に立って、彼らを守るために常に学び、そして考えなくてはならない。それが、学院の教師になった魔法使い全員の口癖だ。
俺は、王国へ来る前は彼らの教師をしていたんだ。」そう言って、ロドリゴ殿とエンリケス殿に目を向ける。
「弱き者のためを思って動く、それは力を持っている者が行って然るべきことだ。
その持っている力というのが、機械技師としての技能であっても、貴族としての力であっても、魔法使いの素質であっても、変わらないことだ。」
その言葉にナサン殿は顔を上げる。何かに気付いたような、驚いたような表情だった。
「これは俺の想像だし、バプタイズ様のことは大魔法使いとしての一面しか知らないが……バプタイズ様が、君に読み書きを教えなかったのはきっと、彼は力を持つ者としての苦労を知っている、それに王国は魔法使いは迫害対象だ……。
そんな魔法使いにとって針の筵のような国で、君を大魔法使いの弟子として生かしてしまったら、君はきっと自分以上に苦労してしまうし、身を守る術を身につけさせる前に想像を絶するほどの恐ろしい目に合わせてしまうと思ったんだろう……。
だから、君を機械技師として生かすことを決めた。読み書きを教えれば、必ず魔法使いとしての才能を開花させてしまうから、だから読み書きを教えることはしなかった……。
何より、大事な弟子のためだ……もし俺が同じ立場だったとしてもそうするさ……まあ、俺はちゃんと言葉にして伝えたうえでだけどね。」そう言って、ディエゴ殿はいたずらっぽく笑う。
緊張が解けたのか、ナサン殿も「……たしかに、じいさんはいつも何も言わなかったや。」と吹き出した。その様子を見て、私は少し安心を覚えた。




