四十話 (視点クィム)
マルケスと魔法使いと思われる男を椅子に座らせ、逃げられないように裏口と表口をふさいだ。
ガブリエル殿にも事情を説明したら、「なるほどな、つまりこいつらから話を聞こうってわけだ。」と頷き協力を得られた。
「それで、バプタイズ殿の追放後……突然失踪したあなたがなぜこんなところにいるのでしょう?」私がそう切り出せば、マルケスは口ごもって話そうとしない。
マルケスは椅子の背に深くもたれ、縄で縛られた手元だけをじっと見つめていた。
一方、魔法使いの男は背筋を伸ばしたまま、まるで客人のように周囲を観察している。
「話してはくれないか……では今から城へ連行するしかないな、反逆者として。」と壁にもたれていたイゴールが歩き出そうとした、その動きを見て、マルケスは慌てて床へ膝をつき、「申し訳ありません!!!!」と叫んだ。
「ならば、早くすべてを話せ。」イゴールはマルケスの前に立った。
「……元はといえば、全てわたくしの責任なのです。」マルケスが話し始めると、もう一人の男も居心地が悪そうに肩を丸めた。
「バプタイズにスパイ容疑がかけられていたことは知っています……そのせいで彼が追放され、壁の街に姿を消したことも……。
彼が追放されたのは、わたくしのせいなんです!」マルケスは震えながら答えた。
「……どういうことだ?さっさと話せ!」私は丸まったマルケスの背中に向かって声をかける。
「ひぃっ……わ、わたくしが、本当のスパイは、わたくしなのです。
帝国にいた魔法使い、ここにいる彼をスパイとして雇いました……、わたくしは……城に必要とされなくなるのが、怖かったのです。
技術も、地位も、すべて若い者に取って代わられる。
王家は忠義を求めますが、不要になった者を守ってはくれない……。
最初は……ほんの一言、でした。
それだけで終わると思った……。
ですが、一度口を開けば、もう後戻りはできなかった……。」
震えながら話すマルケスに、ナサン殿は拳を振り上げる。
どうにか押さえつけようとするガブリエル殿と私に、ナサン殿はもがきながら「……っ!放せ!こいつのせいで、こいつのせいでじいさんは!
じいさんがスパイって言われたのはこいつのせいってことだろ!?
でも、でもこいつがいないと、俺はじいさんに会えずにとっくに野垂れ死んでた、それが何よりもむかつくんだ!!」ナサン殿の叫びは、怒りでも復讐でもなかった。
行き場を失った感情が、ただ音になって溢れただけだった。
「はぁ……それで、向こうには何を売った?」イゴールの声は重く響いた。
「……要塞の警備体制……それから、技術職の配置と、誰がどの工房を預かっているか……、ですが!彼は関係ありません、私が雇って、それから情報を運んだだけです!」マルケスは助けを乞うようにイゴールを見る。
その声は、罪の告白というより、命乞いに近かった。
「……俺は、帝国から王国へ戦火を逃れてきた妻と子供を帝国へ情報を運ぶ代わりに、マルケスが探す――その条件で、マルケスに雇われました。」ずっと黙っていた魔法使いの男が口を開いた。
全員が驚いた顔で彼を見る。一方でマルケスは俯いてしゃがみ込んだ。
「でも、でも妻も子供も……、もうこの世界にはいない……。それがわかったのは、マルケスが失踪することを決めた前の日だった……。」彼は、首に下がっていたペンダントのロケット部分を開き、こちらに向けた。
「……。そうです、それがわかって……。わたくしはもう、城に仕える理由も、帝国に情報を流す理由も、何もかもがどうでもよくなった……。」マルケスが床に座ると、魔法使いは少しだけ顔を上げてこちらを見た。
「今は、彼と一緒に直し屋をしながら、ただ妻と子供の元へ行くのを待つ日々で……。
近くのカフェ・オガルの店主二人が魔法使いだというのは、気付いていました。
魔法使いに、同族に見つかれば、過去の罪を咎められるかもしれない……、そう思って近寄らないようにしていました……。」彼の目は、何も写していない……きっともう、ずっと前から生きる理由も何もかもを失っている、そんな人の目だった。




