十九話 (視点ナサン)
顔を上げると、狼狽えているクィムとマルセラ、腕を組んで鋭い目をイゴールに向けるガブリエル、そしてまっすぐこっちを見るイゴールが目に入る。
イゴールは首を振って「バプタイズが死んだのは王家に殺されたからではない。」と言った。その言葉を聞いて、ようやく息ができたような気がした。それでも、胸の奥に沈んだ重たいものが消えたわけじゃなかった。
すかさず「では、なぜバプタイズ殿は死んだのです?バプタイズ殿は急死したんですよ?」とクィムが聞いた。
「……寿命と引き換えに未来を見たからだ。」イゴールは視線を落としたまま、短く息を吐いた。
「なんだそれ、そんなの出来んのかよ?」とガブリエルも唖然とする。イゴールは俯いたまま頷いた。
「本人から聞いたんだ。先月、あの大雨の二日前の晩に、突然私の元を訪ねてきてね。」
先月の大雨……じいさんが死んだのは大雨の前の日だ。
「寿命と引き換えに未来を見る魔法を使った。このままだと設計図と弟子が危険な目に合う。だから設計図を預かってくれと、そう言われた。その時にすべてを聞いたんだ。」と答えた。
「……その設計図は、今どこにある?」手を強く握りしめて聞いた。
イゴールはこちらを見て「設計図を見て、君はどうするつもりだ?
バプタイズは君に読み書きを教えていない。それも、君を守るために。そんな君が、設計図を手にしたところで何ができる?」そう言ってきた。
するとガブリエルが「おい、こいつはそのバプタイズってやつの弟子なんだろ?知る権利があるじゃねぇか。」と割って入る。
マルセラも続けて「そうだよ団長!ここまで話しておいて、設計図は見せませんさようならっておかしいよ!」と立ち上がった。
クィムも「私は、ナサン殿の代わりに読み書きができます。
私が壁の街に向かった当初の目的、それは“伝説の機械技師が残した危険な設計図が壁の街にある”という噂を義兄の部下が話しているところを聞いたからです。つまり、義兄ジョアン・ミゲル・アルヴァレス・デ・アレンカールから設計図を守るために壁の街へ行きました。
義兄はきっと設計図のことを知れば、徹底的にあの街を探して回ります。そしてきっと、弟子であるナサン殿も危険にさらされる。
もし、設計図が今のこの国と帝国の状況を変える糸口になるのであれば、私がナサン殿の代わりに設計図を読み、ナサン殿と完成させます。
ですから、設計図をナサン殿と私に見せてください。」と続いた。
イゴールは驚いた顔をして、そして「この設計図……錬成器の正体を知って、後悔するなよ。」と一本の杖を手に取った。




