第7話 トラウマ
アスト(すごく居心地が悪い…こんな怖い場所に来るのは初めてだ…。)
シュート「ふぅ…ふぅ…大丈夫…怖くない…!」
そう小さく呟きながら、そのまま胸を抑えて深呼吸をする彼を見て、シュートも僕と同じ気持ちだということに気づいた。
ユキト「大丈夫だアスト。俺がついてるから。」
そう言ってユキトは僕とシュートの背中をさすった。ちょっと子供っぽい対応な感じがしたけど、でも、少し心臓の鼓動がおさまった気がした。
アスト「あ、ありがとう。ユキト。」
シュート「ちょっと…落ち着きました。」
ユキト「なら良かったぜ。動けるか?」
アスト「うん。もう大丈夫。」
シュート「俺もです。よし…!行きましょう!」
僕たちは覚悟を決めて、さらに下へと降りていった。ユキトが近くにいてくれたから頑張って降り続けられたが、もしユキトがいなければ途中で降りられないのではないかと思うほど、足が重かった。
アスト「こ、ここは…。」
降り始めてから数分経った頃、ようやく階段を降り切った僕たちに待っていたのは、たくさんの牢屋だった。
シュート「ひっ…!?ほ、骨…!?」
近くの牢屋の中には、何かの動物の骨が落ちていた。さすがにこれは気味が悪すぎる。
ユキト「な、なんだここ…不気味すぎるだろ…。」
さすがのユキトも恐怖を感じたようで、冷や汗がでていた。
トタ…トタ…
ユキト「っ!?止まれ…!」
ユキトが手を出して僕たちを静止させた。
シュート「い、今…俺たち以外の足音が聞こえませんでした?」
ユキト「あっ…!そこの曲がり角の裏に隠れよう!」
僕たちはすぐに廊下の影に隠れ、様子を伺うことにした。
アスト(はぁ…はぁ…。)
僕は大きく息を吸う。さっきから心臓の音が鳴り止まない。もし他に僕たち以外の誰かがいるなら、見つかってはいけないと感じた。
ユキト「やっぱり…人の気配を感じる…。シュート、今のうちに炎を消しててくれ。アストには悪いけど、俺たちは暗くても見えるからバレないように消しておいた方がいい。」
シュート「は、はい…。」
そう言ってシュートは尻尾の炎を消した。辺りが一瞬で暗くなる。
トタッ…トタッ…
少しずつ足音が近づいてきた。その度に心臓の鼓動も早くなるのを感じる。
シュート「えっ…。」
ユキト「どうした?」
シュート「う、嘘だ…な、何で…あいつらがここに…。」
アスト「や、やっぱり誰かいる?」
ユキト「あぁ…いるな。でも…何だあの服装…。まるで…研究員みたいな…。」
シュート「はぁっ…はぁっ…!」
その時、シュートの様子が少しずつおかしくなっていることに気づいた。明らかに過呼吸になっていて、発作のようなものを起こそうとしている。
アスト「シュ、シュート…!?だ、大丈夫…!?」
声をかけるが、シュートに僕の声は聞こえていないようだった。
シュート「い、いやだ…もう…あんな目にあうのは…!」
ユキト「ど、どうした…!?」
ユキトも様子が変なことに気づき、屈んでシュートの顔を伺った。シュートは恐怖な物を見たような顔をしていて、今にもパニックを起こしそうになっていた。
アスト(どうしよう…!?一体何が起きて…)
??「誰だ?」
アスト「っ!?」
ユキト「まずい…!」
僕たちの声が聞こえてしまったらしく、足音がこちらの方に近づいてきた。
アスト(このままじゃ見つかる!?ど、どうすれば…!)
ユキト「…やるしかないか。」
すると何やらユキトが覚悟を決めたような目で立ち上がった。
アスト「えっ…や、やるって何を…?」
ユキト「まだ正体はバレてねぇ…。悪いけど、アストは声が出ないようにシュートの口を塞いでいてくれないか?」
アスト「わ、分かった…!シュートごめんね…!」
何をするつもりかは分からないが、言われた通り僕はシュートの口を手で覆った。シュートは恐怖で体が動けないのか、ずっと小刻みに震えているだけだった。
アスト「シュート…大丈夫だよ。僕が…側にいるから。」
そう言って、僕はなるべくシュートが落ち着けるように頭を撫でて優しく抱きしめた。すると、徐々に落ち着いてきたのか、体の震えが少しずつ収まってきた。
トタッ…トタッ…
アスト(っ!?ち、近い!)
僕はすぐさま足音のする方を見た。あと5歩ほどで姿が見えるほど音が近い。どうやら想像以上に近づいていたようだ。
トタッ…トタッ…
アスト(くる…!)
??「ぐわっ!?」
その瞬間だった。曲がり角でしゃがんでいたユキトが、姿が見えた瞬間、凄い勢いで足を掴み、そのまま持ち上げると、相手を投げつけた。
ドガッ!
鈍い音が廊下に響き渡る。投げ飛ばされた相手は頭から地面にぶつかり、ピクリとも動かなくなっていた。
アスト「そんな力技!?」
いきなりの事に僕はついつっこんでしまった。
ユキト「し、仕方ないだろ…。これしか方法が思い浮かばなかったんだ。」
アスト「い、いや…でも、今のでその人が死んだりしたら…」
ユキト「手加減はしたし、生きてはいるから大丈夫だ。でも結構鈍い音がしたからな…。しばらくは目を覚さないはずだ。」
アスト「そ、そっか…。」
子供なのに大人を軽々と投げつけて、さらに手加減もしたユキトの力の強さに改めて僕は驚いた。でもここまで強いユキトもいるし、少し安心感がでてきた。
アスト「シュート、もう大丈夫だよ。」
僕はずっと怯えていたシュートに声をかける。少し安心したのか息も整ってきていている。
シュート「は、はい…。すみません。あ、あの…1つお願いしても良いですか…?」
ユキト「どうした?」
ユキトが聞くと、シュートは気絶している研究員のような人を指差す。
シュート「あの人が目を覚ましてもいいように、何かで縛って欲しいんです…。お願いします…!」
シュートはずっと怯えた目で気絶した彼を見ている。おそらく何か訳ありなのだろう。
アスト「わ、分かった。えっと…縛る物は…。」
ユキト「俺のベルトがあるから、これで両手を縛っておくぜ。アストのベルトも貸してくれるか?それで両足を縛ろう。」
僕は言われた通りにベルトを貸した。前のめりにして倒し、両手と両足を縛る。これで動くことはないはずだ。
シュート「あ、ありがとうございます…。」
ユキト「なぁ…シュートはこいつらのこと知ってるのか?」
ユキトが聞くと、シュートは少し躊躇っていたが…
シュート「…知ってます。」
一言そう言った。
アスト「やっぱりそうなんだね…。この人は一体何者なの?」
シュート「この人は…犯罪組織のオルドフェクスの研究員です。」
ユキト「オルドフェクス!?」
アスト「…って何?」
ユキトは驚いた反応をしているが、僕は聞き覚えのない組織に首を傾げた。
ユキト「し、知らないのか?オルドフェクスって言うのは、悪魔魔法を研究している組織で、世界的にも指名手配されている組織だ。」
アスト「あ、悪魔魔法!?それって禁断魔法の内の1つだよね!?」
魔法には禁断魔法と呼ばれる使ってはいけないとされる魔法が存在している。禁断魔法というのは、魔法の中でも特に危険とされているもので、使えば最悪世界を滅ぼしかねない程の威力をもつ魔法もある。例であげるなら、相手を確実に殺してしまう死の魔法、死んだ魂を操ったり、ゾンビにしてしまう死霊魔法などがこの禁断魔法に該当する。何故禁断魔法と呼ばれているかというと、力が強すぎたり、悪質性が高いものが多いからだ。さっきも言った通り、使えば最悪世界が滅んだり、大勢の人が亡くなる可能性がある。最悪魔法の反動で自身の体を壊す可能性もある。悪魔魔法も、使うと悪魔を召喚するのだが、悪魔は1体の力がとてつもなく強く、国をも滅ぼせる力があるのだ。このように、禁断魔法はあまりにもすぎるため、使うことは世界中で禁じられている。もし使ったことがバレれば、まず処刑は免れないと思う。
ユキト「なんでそんなやつらがこんなところに…。しかも何でライキもここにいるんだ…?」
シュート「そ、それは…。」
アスト「何か知ってるの?」
シュート「…はい。きっと…ライキはオルドフェクスに攫われたんだと思います…。」
アスト「えっ…!」
ユキト「ま、まじか…でも確かにそれならライキがここにいる説明もつくな…。」
僕たちは驚きを隠せなかった。どうやら、シュートとライキさんはオルドフェクスと何らかの関わりがあったみたいだ。だけど、どうしてオルドフェクスはライキを攫ったりしたのだろうか。疑問を聞こうと思った時、シュートの顔を見ると、涙が流れていた。
シュート「お願い…お願いです…!ライキを助けてください…!俺…ライキに何かあったら…俺は…俺は…!」
アスト(シュート…)
そう言うシュートの眼差しは、どこかで見覚えがあった。入学式の前日の夜。ユキトが心の奥で隠していた気持ち。誰かに助けを求めたいと本気で思っていたあの目。その目を、今シュートもしている。この数ヶ月、シュートと一緒に過ごしてきた。シュートは優しくて、真面目で、常に誰かのことを考えている人だ。僕にとっても、大切な友達。そんな彼が助けを求めてる。だから僕は迷わずに言った。
アスト「大丈夫だよ。絶対に見捨てたりとかそんなことしないよ。ライキさんはシュートにとって友達なんだよね?なら、僕もシュートの友達として、ライキさんを絶対助けたい。」
ユキト「だな!オルドフェクスのやつらがなんでライキを攫ったのかは知らないけど、友達に手をだしたやつには1発ぶん殴ってやろうぜ!」
ユキトはいかにも気合い十分だと言う感じに手をボキボキと鳴らす。
アスト「だからさ、シュート。何があったのか話してくれない?」
シュート「っ…!は、はい…!ありがとう…ございます…!」
シュートの顔にはまだ涙が溢れていたが、安心したような笑みをうかべていた。




