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25匹目:チーズケーキはあんまり好きじゃない 2

ちょっと短め!




元から大きな目をさらに大きく見開いてリリアンが固まった。


固く握りしめられたその拳を抑え込み、ジェマは首を傾げる。暴力を振るいそうなリリアンの手を抑えたのはこれが初めてではない。今更何をそんなに驚くことがあるのだろうか。リリアンの拳をぺしりと叩き、アンジェリカとエリオットの会話に耳を欹てる。



「あなたのことは許せませんわ。わたくしの顔を見るなり嫌そうな顔をして、わたくしの贈ったものはその場に置いていく。これ見よがしに別の令嬢をエスコートしてみせたり、根拠もなくわたくしのせいにして罵ったり」


「す、すまない……」


「ですからそんな軽い一言で許せるものではないと言っています。謝罪していただきたいわけでも理解していただきたいわけでもありません。それに、どうせあなたは何がどれだけわたくしを傷つけたか、覚えてすらいないのでしょう?」



ぎゅっと拳を握り込み、エリオットが押し黙る。婚約者の好みすら覚えていなかった男だ。過去に自分が何を言ったかなんて覚えているとは思えない。


実際に覚えていなかったのだろう。バツの悪そうな顔でアンジェリカから目を逸らし、反対を向いたらリリアンがいてまた慌てて顔を背けた。


しかしアンジェリカもまた諦めたような顔でため息を吐く。



「けれど、わたくしもあなたの悩みなんて理解できておりませんもの。あなただけを責め立てることなんてできませんわ。お互い様ですわね」


「アンジェリカ……」



だからそれを話し合えと言っているのに。ジェマもこっそりとため息を吐いた。今でもアンジェリカとエリオットの関係がどうなろうと興味はないけれど、まだまだ子どものジェマにはこれで和解できる2人の気持ちはわからない。


その光景を見て震えるリリアンの気持ちの方がまだ理解できる。自ら馬鹿みたいな理由で大公令息に近付いた男爵令嬢の自業自得ではある。しかしそれでもエリオットに対して怒りを抱く理由は十分にある。



「なんで……?」



聞き間違いかと疑うようなか細い声でリリアンが問いかけた。震える手を伸ばし、そしてなぜかジェマの腕を掴んだ。


てっきりエリオットに掴みかかるものだと思って伸ばした手を掴まれて、ぶわりと尻尾が逆立った。情けない鳴き声が漏れ、その腕を振り払おうと反対の手を上げる。


しかし続くリリアンの言葉に、ジェマは眉を顰めた。



「初めからそのつもりだったわけ? あたしのこと嵌めるつもりだったの? なんで? そんなにヒロインでいたかった? あたしのこと馬鹿にして嗤ってたわけ?」


「そこでわたしに怒るの? こっちの2人に怒った方がいいんじゃない?」


「なんでよ。なんであたしばっかり。なんで? あたしがヒロインじゃないから? だからうまくいかないの? だから邪魔ばっかり入って」


「話がブレるからちょっと黙って」



空いた手でリリアンの口を抑え強制的に黙らせる。せっかくアンジェリカがちょっとだけ喋り出したというのに台無しだ。むーっと頬を膨らませながらリリアンを見下ろす。



「あ、こちらはお気になさらず」


「いや気になるだろう。なんだそのヒロインだのなんだのと」


「そうやって余計なことばっかり考えてないで、婚約者へのお詫びのプレゼントでも考えておきなさいよ!」


「う、うるさい! それくらいわかっている!」


「いーやわかってないですね! さっきから『アンジェリカ……』と『すまない……』しか言ってないでしょ!」


「うるさい! お前も黙っておけ!!」



べしべしとエリオットの椅子を叩いていた尻尾を叩き落され、ジェマはさらにむくれた。リリアンの口元に当てた手も振り払われて、光の無いリリアンの水色の瞳を睨み返す。


これまで【幸運の猫】に縋りに来た令嬢たちは、言うなれば勝手に幸せをつかみ取っていっただけだ。ジェマがしたことは黙ってお菓子を食べていたことだけ。今回のように楽しくもないトラブルに積極的に首を突っ込めばこうなることは目に見えていた。


1番関係がないはずなのに1人標的にされている状況に、なんとも割に合わない仕事だとジェマはギリっと奥歯を噛んだ。



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