24匹目:幸運の猫とフェーヴ 8
予約投稿忘れました!今日も来てくれた方々感謝!!
「なんで。なんでよ!! なんなの!? あれだけ婚約者の悪口言って酷いことしてきておいて!? 頭イかれてんの!?」
リリアンの悲痛な叫びに、何人かが深く頷いた。そのうちの1人でもあるジェマも、このときばかりはリリアンの全面的な味方だった。
エリオットが初めて【幸運の猫】の噂を頼りにジェマの元を訪れた時点で、彼が何も考えていないことは明らかだった。かと言ってリリアンのことが完全に遊びだったのかと問えば、きっとそうではなかったのだと思う。
特別にリリアンを弄ぶつもりはなかった。ただアンジェリカがリリアンのことを排除し損ねたから、ずるずると関係が続いてしまっただけ。
そんなところだろうと予測を立て、だから馬鹿馬鹿しいのだとため息を吐く。
「今更寄りを戻そうって!? ばっかじゃないの!? これだけあたしと仲良いって噂になって、アンジェリカのこと捨てたとか捨てられたとかって言われてんのに元に戻れるわけないじゃん!!」
残念ながら、それが可能か否かで言えば可能である。
貴族の世界なんてそんなものだ。下々の者がどれだけ下世話な噂をしようが、上位者が公表したことが事実なのだ。個人的な考えや気持ち云々はさておき、大公令息と公爵令嬢の婚約は恙無く婚姻へ進めることができる。
リリアンはそれを本気でわかっていないのか、それとも自分だけが切り捨てられる危険性に今ようやく気が付いたのか。
どちらにしても阿呆だ。
そもそも彼らには自由恋愛など許されてはいない。リリアン物語が成立する可能性など初めからゼロに等しかったのだ。それがわかっていてアグレッシブに行動しているものだと思っていたが、どうやら買いかぶり過ぎていたらしい。
ギリギリと奥歯を噛み締める音がハッキリと聴こえてしまい、ジェマは逆立った自分の尻尾を撫ぜた。
「そ、それはわかっているが……」
「なんなのよ! はっきりしなさいよ!!」
リリアンが振り上げた手を掴み、反対の手でその頭を叩いた。ジェマが推奨していたのはアンジェリカがエリオットを引っぱたくことだけだ。リリアンには誰を殴る権利もない。
ため息を吐きながら見下ろして、目が合ったリリアンに舌を出す。
「そうやっていつもいつもあたしの邪魔して!! あんたは何がしたいわけ!?」
「そんな難しいこと聞かないでよ。もう後に引けなくなっただけなんだから。こっちだって飽きてるよ」
「は!? マジで何言ってんの!?」
だってもう今日の目的が滅茶苦茶になってしまっているのだ。お茶会を主催させられたジェマにだってどうすればいいのかさっぱりわからない。ちょっとだけ頑張って準備をしたお茶会が滅茶苦茶なまま終わるのが嫌で、それとなく収拾が付けられたらいいなと思いつつノリで言葉を発しているだけだ。
それもこれもアンジェリカが予定とまったく違うことをするのが悪い。後ろを振り向いたリリアンの顔をぐいと無理くりエリオットに向けさせる。
「アンジェリカだって今更許すわけないじゃん! あんなに好き勝手罵倒しておいて! アンジェリカだって馬鹿じゃないわよ!」
珍しくリリアンが正論を放っている。しかしそれが正論だとはわかっていても、人の心はそう単純にはいかない。アンジェリカがそんな素直な人間だったらここまで話がこじれていないし、リリアンなんてとっくのとうに排除されているはずなのだ。
「アンジェリカ……」
「エリオットは黙ってて!」
「いやエリオットがハッキリさせりゃいいのよ。お前とアンジェリカ様とで話し合ったって意味ないでしょ」
「あんたこそ黙ってなさいよ!」
「それはそう」
ジェマの尻尾よりも荒ぶるリリアンの腕を抑えながら、もうずっと子犬のように震えているエリオットを睨みつける。本当にエリオットがさっさと結論を出して2人に謝って今後こうしたいとハッキリ言ってくれたら良いだけなのに。
「アンジェリカはエリオットを許すわけ!?」
キンキンとした声を荒げるリリアンとは正反対に落ち着いたアンジェリカは、静かにリリアンを見つめていた。どちらも見ることができなくて、エリオットが肩身を狭くしているのが愉快だった。
もうなんでもいいから早くしてくれと、黙って睨み合う2人を見遣る。
「……許さないわ」
「え」
「許せるはずないでしょう。これまでわたくしが何年悩んだと思っているの? あなたではなくてわたくしを選んでくださったって、それくらいで許せるわけがないわ」
ティーカップに添えたエリオットの手が震える。かちゃかちゃと鳴るカップの音がそのまま内心の動揺を周囲に伝えていた。
その悲し気な音に、アンジェリカは眉を下げる。
「仕方のない人」とでも言いたげな諦めと慈愛の含んだ笑みを浮かべ、小さく息を吐いた。




