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16匹目:叶わぬ初恋にほろ苦いオランジェットと余計なアドバイスを添えて 7

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「あら、先客がこんなに。今日はお茶会の日かしら。飛び入り参加はできまして?」


「シェリー! おいでおいで。大歓迎だぜ!」


「せめて同席者にちょっと伺うくらいしなさいよ」


「あらあら良いのよ。ね、アンジェリカ様」


「ええ、どうぞ座ってシェリー」



女子が5人も揃うと姦しい。それは貴族令嬢でも変わらないようで、ジェマはちょっとほっこりした。


大きめの膝掛けでも3人で入るには狭く、もう1枚継ぎ足して1年生組3人で横並びで座った。シェリーの手土産の焼き菓子を並べ、またダイエットを忘れて頬張る。



「今日はどうしたの? ジェマパーティー?」


「んーん。なんとなくやっただけ。今日はねぇ、ランズベリー嬢とアンジェリカ様の婚約者殿をぶん殴ろうぜっていう作戦会議の日」


「仲間に入れて!」


「シェリーはそう言ってくれると思ったぜ!」



ハイタッチを交わしてシェリーに抱き着いた。すぐにクロエに首根っこを掴まれて引き戻される。


おそらくこの学園内で1番リリアンに迷惑して怒りを貯めているのがシェリーである。話を聞いてと飛び込んできたときもわーっと勢いよく怒りを吐き出すタイプで、静かに涙を流すとか湖に飛び込みそうなほど落ち込んだりは絶対にない。


だいぶ前から「一発ぶん殴ってやりたい」と言っていたのはシェリーの方だった。


これまでのジェマは一応止めていたが、実際のところ、伯爵令嬢のシェリーが男爵令嬢のリリアンをパーで引っぱたく分にはたいした問題にはならない。ジェマが止めていたのは、シェリーがしっかり拳を握ってグーでいこうとしていたからである。治癒科の学級委員のくせに、女子生徒の顔面を拳で殴ろうとしていた。さすがのジェマでも止めるくらいに本気の構えだったのだ。



驚きすぎて目をまん丸に見開いたクロエに背後から抱きしめられ、ノリでジェマを奪い返そうとするシェリーに頬を掴まれる。



「ひぇ待って待って冷たい! 手ぇ温めてからにして!」


「もっとやってちょうだいシェリー。この子何も反省してないわ」


「なんでよ! わたしはパーで引っぱたくつもりだけど、シェリーはグーで顔面いこうとしてるんだぞ!」


「それはそれ!」


「もー!! ママじゃないんだから!!」



ごふっと誰かが咳き込む音がした。これでアンジェリカが笑っていたら面白いなと思いながら頬を膨らませる。


ぱたぱたと手と尻尾を暴れさせてひとしきり抗議したあと、諦めて体の力を抜いた。




人のほっぺですっかり手を温めたシェリーが満足して、ジェマは解放された。


クリスティーナが机に突っ伏すくらいの勢いで笑っているのを見ても不貞腐れる元気もない。冷えたほっぺにまだ温かい手を当てて、逆立った尻尾を振って隣の2人にわざと当てる。



「ほら、あーん」



花弁の砂糖漬けを口に入れてもらうと、ジェマの尻尾はすぐに機嫌を直した。



全員がふぅと息を吐いたところで、やる気満々のシェリーが話を戻す。あからさまに嫌そうな顔をするクロエも本気で引き留めようとしない辺り、おそらくリリアンのみを殴る計画になると思っている。


ジェマだけがアンジェリカも結構本気で検討していたことを知っている。



改めて考えるとだいぶ酷い不敬だなと思いつつ、ジェマは他人事のように黙って紅茶を啜った。



「ランズベリー嬢はわかるのですけれど、婚約者様も殴れますの? それとも決闘でも?」


「ふふ。あなたもエリオットを殴るのに前向きなのね」


「笑いごとではありませんわ、アンジェリカ様」


「シェリーはもうランズベリー嬢のことを1回くらいは引っぱたいていそうよね」


「殴りそうになったことは何度もありましたね。まだやっていませんけれど」



公爵令嬢(アンジェリカ)侯爵令嬢(クリスティーナ)が止めないせいでこれ以上否定することもできない真面目令嬢クロエが、頭を抱えることもできずドーナツを頬張った。


ノリノリなシェリーも「あれ、本気でやっていいの?」みたいな顔でジェマの袖を引く。今日のダイエットを諦めてドーナツを齧っていたジェマは、「良いんじゃね?」と適当に首を傾げて答えておいた。なお責任は一切取る気がない。



「そうねぇ。ジェマちゃんにも言われたのだけれど、やっぱり1度ちゃんとエリオットと話す機会は作らなければいけないとは思ったわ」


「……え? そこからどうして殴る殴らないって話になったんです?」



さぁと首を傾げたアンジェリカからバトンタッチされ、全員の視線がジェマに集まる。ドーナツを紅茶で飲み込んで、ジェマは堂々と胸を張った。



「いやあの人たち他人(ひと)の話聞かないし、もう殴るしかなくね?」


「言い方!」



スパンっとシェリーに後頭部を引っぱたかれて、そこをクロエに撫でられた。


先ほどのトラブルのせいかちょっとだけクロエが甘い。シェリーとのじゃれ合いはいつもこんな感じで、叩かれても音が良いだけでまったく痛くはない。なんなら髪型が乱れないように気を付けてくれているので、ジェマは全く気にしていない。


執拗にジェマの頭を撫でるクロエにシェリーが少し戸惑っているのが面白い。


シェリーの肩をポンポンと叩いて、話を続ける。



「でもほら、これまで何年もちゃんと話ができなかった人と会話したいならそれ相応のきっかけが必要だよねって話でね。これまで恨みが溜まってたのはこっちもじゃないのってことよ」


「殴る以外に方法は思いつかなかったの?」


「奴らは1回思い切り恥をかかせてプライドをへし折った方が良いと思う」


「他に方法はなかったの?」


「だってもう自分が自分がって感じでまず話を聞くって土台が出来てないから、お前言うほど立場上じゃねぇぞってこっちもかますしかないかなって」


「他の方法は?」


「知らんよそんなもん。わたしはもうあれと会話をすることは諦めたんだ」





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